「こんな事があった訳だし、今日は手合わせは終わりにしようか?」
「ええ、そうですな」
ハクロウに手合わせを中止する事を伝え、ミリムと部屋に戻った。
「それで、あのフォビオとやらには何をやらせるのだ?」
「そうだねえ。ミリムは気付いてるでしょ?クレイマンが何者かの意思の元行動している事に」
「うむ。気付いているのだ」
「それで、ミリムは自分がクレイマンに操られる振りをする事でその何者かが誰かを掴もうとしている……違う?」
「い、いやー……それは……そのー……なのだ」
「フフッ、誤魔化さなくても良いよ。ミリムが自分で決めた事をボクは否定しない。けどね、それは嫌なんだ。いくら振りだからってボクはミリムがクレイマンに良いように使われることは納得出来ないんだ。だから、先にクレイマンに餌を与えた。
「ん?」
「このジュラの森に暴風大妖渦がいることは知っているでしょう?」
「うむ!」
「その暴風大妖渦を丁度クレイマンの仲間が見つけたようだからね。必ずクレイマンは暴風大妖渦に手を出すと考えた。だから、暴風大妖渦の魂をクレイマンに従うように改造して、さらに覚醒魔王の中でも中堅ほどの魔素と身体能力をプレゼントしておいた。ちなみに、暴風大妖渦が見聞きしたものはボクに伝わるようにしておいたよ」
暴風大妖渦の本来の力は魔王種以上覚醒魔王未満といったところだ。
「……覚醒魔王の力とは……やり過ぎではないか?」
「そうでも無いよ。というか、これぐらいクレイマンにとって圧倒的な力を持った奴を手に入れないと多分クレイマンは行動を起こさない」
「うーむ。まぁ、それもそうかもしれないのだ」
「という訳で、クレイマンの行動はこれから全てボクに筒抜けになる訳さ」
「分かったのだ。だから、クレイマンが従う者が誰か判明したらワタシにも教えるのだぞ?」
「うん。分かってるって」
「なら良いのだ。……そういえば、何でフォビオはワタシ達に気付かなかったのだ?フォビオはワタシ達と会ったことがある筈なのだが」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「ん?」
「ボクの『真理乃神』の『真理を書き換える』能力を応用してボクとミリムに認識阻害をかけてるんだよ。多分、今のボク達の正体を見破れるのはギィとラミリスとヴェルザードだけだと思うよ?」
「そうなのか?……なら、魔王としてリムルと会った時にワタシ達だと気付かない可能性もあるのか?」
「いや、そこはうまく調整してるよ」
「そっか、なら良いのだ」
〈フォビオside〉
2人の道化についていくと、とある洞窟に着いた。
「ここで御座います。フォビオ様」
「分かった」
道化に促され、中に入ると、儀式上のような場所が目に入った。
「ここで、フォビオ様には暴風大妖渦の力を手に入れて貰うね」
「力……だと?」
「そう、フォビオ様自身が暴風大妖渦となるのです」
「何!?そんなことは聞いていないぞ!?」
「ええ、話していませんから当然ですね」
「それじゃあ早速始めよー」
ティアと名乗った道化がそう言うと共に、地面が光だし、俺の中にナニカが入って来た。
「ガ……グァ……ガアアアアアア!!!!!」
自分が出しているとは思えないほどの絶叫が木霊する。
何だこれは何だこれは何だこれは!!!
意識が……自我が……俺が俺であるという証明が……塗り潰される。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!
こんな道化に利用されるなんて……カリオン様に申し訳が立たない!!!
「おおっ、すごいすごい!まだ抗ってるよ」
「流石は魔王の幹部と言ったところでしょうか?」
「うんうん、そうだねそうだね」
「ガ……アア……」
抵抗もむなしく、俺の意識は闇へと堕ちる。
ああ、カリオン様……申し訳……御座いません……。
〈三人称〉
フォビオから禍々しいオーラが吹き出し、フォビオの姿が変容する。
完全に変容する前に、ティアは持っていた支配の宝珠を首につけた。
そして、現れたのは鎧姿の1体の異形。
一見鎧に見えるそれは、暴風大妖渦の鱗そのもの。
頭にある暴風大妖渦の頭部に似た兜型の鱗には1つの目玉が付いており、ギョロギョロと周りを見渡し、ティアとフットマンを見ると、恭しく跪いた。
「成功……だよね」
「ええ、これで暴風大妖渦はクレイマンの物となりました」
「いやー、まさか本当に成功するとは思わなかったよ」
「ええ、全くです」
ティアとフットマンは少し話すと、暴風大妖渦を連れてクレイマンの元へと帰って行った。
〈カリオンside〉
フォビオをスライム達への使者として向かわせてから1ヶ月ほどの月日が流れた時、フォビオの部下2人が帰ってきた。
フォビオの姿は見えず、まだ帰っていないらしい。
何があったか知るべく、帰ってきた2人を謁見の間に呼び出した。
「それで、何故フォビオの奴は帰ってきていない?」
「お、恐れながら申し上げます」
2人は話し始めた。
スライムの街へと到着した後のフォビオの言動と行動、そして何者かについて行ってしまった事を。
「なるほどな……とりあえず、お前らは下がっていいぞ」
「「はっ」」
2人を下がらせる。
「はぁ」
ため息が出てくる。
何をやってるんだあの馬鹿は。
魔物の街に対して傲慢に振る舞った挙句、鬼人に両腕を奪われ、あまつさえ素性も分からない怪しい奴についていくとは……。
それにしても、フォビオが反応出来ないほどの手練の剣士か……。
マズいな。
そんな存在がいる魔国に、俺たちは敵対国だと認識されたかもしれない。
それはマズい。
「仕方ない。スフィアとアルビスを呼べ」
謁見の間の前の衛兵に2人を呼びに行かせた。
しばらくすると、2人がやって来た。
「悪いが、お前ら2人にはフォビオの尻拭いをして貰う」
開口一番、読んだ理由を言う。
フォビオのやらかしも含めて。
「全く……フォビオったら……」
呆れたようにアルビスが呟き、
「フォビオを簡単に倒す鬼人か……楽しみだな!」
スフィアが豪快に笑う。
「それでは、私たちは部下を数名連れて、早速旅立ちますわ」
「ああ、頼む。決して敵対するなよ?」
「分かってるぜカリオン様!!!」
この2人に任せておけば、おそらく大丈夫だろう。
……それにしても、フォビオは一体どこで何をしているんだか……。
帰って来たら一発殴ってやる。
この時の俺様は、変わり果てたフォビオとの邂逅が近いことに気付くことはなかった。