〈三人称視点〉
アルによって転送されたハクロウは、気付くと何もない荒野に立っていた。
「伏兵に気付かぬとは……儂も耄碌したものじゃ……さて、憂いている暇はないのう……早々に帰らなければ」
ハクロウはそう呟くと、刀の柄に手を添えた。
「悪魔?」
「いや、鬼人だ」
「なんで鬼人がここに?」
「どうでもいい、それよりも……」
「ああ」
「「「「「肉だ!!!」」」」」
ハクロウを取り囲むように現れた大勢の異形の存在達が一気にハクロウに襲いかかった。
「普段であれば、多人数を相手にする良い訓練になると喜ぶところ……じゃが、国が危機に晒されている今、そんな暇も無い……故に……」
ハクロウの刀が静かに抜き放たれる。
「疾く死ぬが良い」
高速で繰り出される抵抗すら許さない絶対の斬撃が異形の存在達を斬り刻んだ。
斬り刻まれた異形の存在達は、霧散し消えていった。
「ふむ。魔素で構成された肉体、そしてあの邪悪な気配……悪魔かのう?となれば、ここは冥界……厄介なところに来てしまったようじゃのう」
ハクロウの考察は当たっていた。
現在ハクロウがいる場所は冥界だった。
「冥界から出る方法……強大な悪魔なら知っているかも知れぬのう。……ここから1番近い強大な気配を放つ悪魔は……こっちかのう」
ハクロウは気配を探知すると同時に駆け出した。
無駄にして良い時間はない。
出来るだけ早く帰還しなければと焦りながら。
豪華な部屋で、ソファに座る黄色の髪をした悪魔がいた。
その悪魔は、獰猛な笑みを浮かべた後、
「面白い奴が来る。丁重に出迎えろ」
配下の悪魔達にそう命じた。
「力は大したことはない。……が、それを補って余りある戦闘技術を持つ者だな……フフッ、楽しみだ」
「あの城かのう?」
ハクロウは、遠くに見えてきた城の中に強大な気配を確認すると、更に速く駆け出した。
「これは……歓迎ムード……ではないようじゃの」
城能力前に集結する悪魔達を見て、ハクロウは刀の柄に手を添えた。
「いいや、歓迎ムードだよ。これが我らの歓迎方法よ!!!」
1人の悪魔がそう叫ぶと共に、悪魔達は一気にハクロウに殺到する。
「歓迎されておるのなら、殺しはしないほうが良さそうじゃな」
ハクロウは殺到してきた全ての悪魔を峰打ちで気絶させた。
「これで良いのかの?」
ハクロウがそう尋ねると、
「良いだろう。
ハクロウの目の前に侍のような格好をした悪魔が現れ、着いてくるように促した。
その悪魔を見たハクロウは、
(この姿……この気配……まさかのう)
「どうした?」
「いえ、知っている人物に良く似ていたので、驚いただけですじゃ」
「そうか」
会話は続かず、2人は無言のまま歩いた。
そして、
「ここだ」
大きな門の前に到着し、その門を門の前に控えていた悪魔が開けた。
そこには、濃密な魔素が充満しており、そして、玉座とも言うべき豪華な椅子に黄色の髪をした悪魔……原初の黄が座っていた。
さながらそこは謁見の間のようだった。
「よく来たね。鬼人」
原初の黄のその言葉に、ハクロウは頭を下げ、
「お初にお目にかかります。儂はハクロウ。訳あってこの魔界に転送され、帰る方法を探しているところでございます」
下手なことを言えば殺される。
そう理解し、出来るだけ丁寧に言葉を返した。
「なるほど……帰る方法ねぇ」
原初の黄はニヤリと笑い、
「私は君を基軸世界に帰す方法を知っている。……でも、タダで帰すわけにはいかない。タダで帰してしまっては、悪魔の名折れだからな。だから、余興をしてみせろ」
「余興……でございますか?」
「ああ、そうだ。お前をここまで案内したそこの私の配下と戦え。その戦いに私が満足したら帰してやる」
「なるほど、承知いたしました」
帰る方法があると言うのなら、どんな理不尽な要求でも応えようと思っていた。
しかし、その条件は予想だにしなかった悪魔との決闘。
ハクロウは相手の悪魔が自分が知っている者と同一人物であるのか、刀を交えて確かめるのにも丁度良いと考え、それを了承した。
「よろしくお願いしますじゃ」
ハクロウが手を差し出すと、
「ワシも1人の武人として、貴殿と戦いたいと思っていた。よろしく頼む」
侍姿の悪魔ハクロウはそう言い、ハクロウの手を握った。
「それじゃあ、開けた場所に移動しようか」
原初の黄のその言葉で、2人は城の外に移動した。
「それじゃあ、始めろ」
原初の黄の合図で、2人は同時に抜刀する。
「「朧・流水斬」」
2人は、全く同じ技を繰り出した。
繰り出された剣撃は、激突し火花を散らす。
「何故……貴殿がそれを使える?」
侍姿の悪魔は、次の斬撃を警戒しながらもハクロウに問いかける。
「同門……なのでは?」
ハクロウは目の前の悪魔が自身が知る人物だと確信しながら、そう答えた。
「なるほど、この刀技は、ワシが悪魔として生まれ落ちた時から知っているもの……前世は貴殿と同門だったというなら納得だ」
2人は少し距離を取ると再度同時に斬りかかる。
幾千幾万もの剣撃が激突し、その度に空気が揺れた。
達人同士の本気の斬り合い。
その光景は、まるで舞を舞っているかのように美しく、原初の黄の脳裏に焼き付いた。