「それで、ミリムは魔王としてスライムに会いに行くの?」
「そのつもりだが?」
「その場合だと萎縮されてしまうかも知れない。配下になれと言いに行く訳じゃない以上、最初は正体を隠さない?」
「ふむ」
「それに、おそらくあのスライムは新たな魔王になる。その時に初めて正体を明かすってのも面白そうじゃん」
「おお!!!ありなのだ!!!」
というわけで、正体を隠すことにした。
これには当然理由がある。
現在竜の都は食文化が発展しているため、ミリムの舌は大分肥えている。
美食魔王と呼ばれていた時期があったほどだ。
そのため、リムルの蜂蜜に感動こそすれ、引き分けとすることも、ましてや負けを認めることもない。
あれは、ミリムが蜂蜜の様に極端に甘いものを食べたことが無かったからこそ有効だったものだ。
魔王として会いに行けば、鬼人たちは間違いなくリムルを守るために攻撃してくる。
攻撃されたら、こちらにも魔王としての面子があるため反撃しなければならない。
現在のリムル陣営の戦力では、『
そんな戦力ではボクたちに勝つことなど不可能だ。
だからこそ、力と正体を隠してリムルと接触することが1番良いのだ。
「さて、それじゃあ正体を隠してただの旅人として行こうか」
ボクたちは服装を旅人らしく変え、力も隠してジュラの森に入った。
主人公との出会い……楽しみだなー。
〈リムルside〉
ドワルゴンとの盟約が締結されて数日が経ったある日のこと。
その日、俺はいつもの様に街を見て回っていた。
「おおっ!この串焼きなかなか美味いのだ!」
聞き覚えのない声がして、そちらを見ると、
「ちゃんと噛めよ。喉に詰まるぞ?」
その隣には、長い黒髪を下の方でゆったりと束ねた少女がいた。
〈告、黒髪の者は男性です〉
突然『大賢者』が告げてくる。
え!?!?マジで!?!?!?
いや、まあ俺も姿は女性寄りだから何もおかしいことはないか?
そんなことを考えていた時、
「おっ?」
突然少女が俺の方を向いた。
「フィ!!!いたのだ!!!」
俺と目が合うと、少女は元気よく隣の少年に話しかけた。
「うん。そうだね」
フィと呼ばれた少年はゆっくりと俺に近づき、
「初めまして。ボクはフィでこっちはミィ。2人で旅をしているんだ。あなたがこの街のトップて合ってるかな?」
優しい口調で、そう尋ねて来た。
「あ、ああ。合ってるぞ?」
「そうか、それは良かった。実はこの街を気に入ってしまってね。滞在の許可を貰いたいんだ」
「良いぞ!!!自由に滞在してくれ」
嬉しいな。
自分の街を気に入ってもらうというのは。
「ミィ。良いってさ」
「イェーイ。なのだ!!!」
それにしても、2人とも随分若い……というかどう見てもまだ子供だよな?
どうして子供だけで旅してるんだろう?
〈告、おそらく長命種であると予測します〉
あ、そっか。
この世界では見た目と年齢は直結しないのか。
それにしても……どうも引っ掛かるんだよな、この2人。
何か違和感がある様な気がする。
「リムル様、どうかなさいましたかな?」
少し考えていると、突然ハクロウが現れ、話しかけて来た。
「いや、別に何でもないよ」
まあ、特に悪意は無さそうだし、問題ないだろう。
「この2人がこの街を気に入ってくれたらしくてね、しばらく滞在して良いか聞いて来たから許可を出したところだ」
「どうも」
「よろしくなのだ」
2人はハクロウに笑顔で挨拶する。
すると、ハクロウは目を細め、
「なかなかに腕が立つとお見受けする。一手手合わせして貰えませぬか?」
2人に向かって手合わせを申し出た。
え?
あのハクロウが腕が立つって言ったのか?
あの剣の達人であるハクロウが?
……いや、この2人はジュラの森を通って来たんだ。
腕に覚えがあっても不思議でない……よな?
「ミィはどうする?」
「ワタシは断るのだ。手加減は苦手なのだ」
「じゃあ、ボクが相手をしよう。それで良いだろ?」
「ええ。もちろんですじゃ」
こうして、『指南役』のハクロウと『旅人』のフィの手合わせが決定した。
それにしても、ミィの『手加減は苦手』という発言、ハクロウを舐めているのだろうか?
いや、あのハクロウの様子を見るに、本当に2人はハクロウより格上なのか?
そんなことを考えながら、いつもみんなが修行を行なっている広場に到着した。
道中、ベニマルとソウエイ、シオンが合流し、ハクロウの戦いを観戦するためについて来たのだが……
「どうせならそこの3人も纏めて相手にしようか?」
フィが突然、そう提案し、なぜかハクロウ&ベニマル&ソウエイ&シオンVSフィで戦いが始まった。
みんななら勝てる。
その確信は、すぐに壊れた。
ハクロウの剣撃は、いとも容易く避けられ、あるいは受け流され、シオンの大剣による一撃も指先だけで受け止めされ、そのままシオンは蹴り飛ばされる。
ベニマルとソウエイの攻撃も簡単に対処され、勝ち目なんてない。
そう思えた。
もうこのまま負けるかと思ったその時、
「ベニマル。あれを当てれば勝てるか?」
ソウエイがベニマルに尋ねる。
「五分五分だな。お前たちの魔素を貸して貰えば、あるいは……と言ったところだ。まあ、当たりそうにないがな」
その会話を聞いたフィは少し考えると、
「良いよ。この場から動かないであげる。だから遠慮なく最大火力の攻撃を当てて良いよ」
そう宣言した。
「本当に……良いんだな?」
恐る恐ると言った表情でベニマルが尋ねる。
「もちろん」
フィが笑顔で答えると、ベニマルは3人から魔素を受け取り、その術を発動させた。
「『
黒炎がフィを包む。
サイズはフィをギリギリ包むことが出来るほど。
しかし、その火力はおそらくオークロードを簡単に倒せるほどに高い。
まさか殺してしまったのでは?
と、焦り、ミィを見ると、呑気に串焼きを頬張っていた。
「これで……どうだ?」
ベニマルが肩で息をいながら結果を待つ。
パチパチ。
突如、拍手が聞こえて来た。
場所は、黒炎獄の中だ。
黒炎獄が徐々に晴れる。
そして、現れたのは無傷のフィだった。
「うん、良い攻撃だったよ」
無傷で何を言ってるのかと思ったが、その表情から本音であると分かった。
「降参だ」
ベニマルのその発言に全員が同意し、この手合わせはフィの圧勝で終わった。
フィが何者なのかは分からない。
しかし、俺たちを簡単に殺せるにも関わらず、それをしないってことは、とりあえず敵ではなさそうだ。