推定犯罪者―私を愛したシリアルキラー(未遂)―   作:高田正人

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第18話:いつだって君は犯罪者たちの中にあって気高く咲いている

 

 

 

 

 メイガス。異能「グランドオペラ」を有する「傀儡の魔術師」。オルタナティブ・サイコではプレイヤーに敵対するキャラクターで、最近異能をレイヤードにばらまいている黒幕の側にいる。シナリオによって立ち位置が変わるキャラで、熱心な信奉者だったり、単に利用しているだけだったり、それなりのビジネスパートナーだったりする。

 

 その異能は、木製の人形を人間に偽装して操るというものだ。しかも、人形だけでなく何人もの犯罪者と推定犯罪者が仲間にいるのが厄介だ。私としては、今自分がどのシナリオにいるのか分からない以上、極端にメイガスを刺激したくはない。そもそも、私が本当にオルタナティブ・サイコというゲームの世界にいるのか、それも怪しいのだが。

 

 拉致された私が乗っている車が止まった。ドアが開いたので外を見る。森の中にある屋敷だった。無駄に凝っている。

 

「降りろ」

 

 運転手の顔色の悪い男がそう言うので、私は立ち上がる。

 

「ええ。ちょうど脚を動かしたかったところです。何しろ窮屈でしたので」

 

 扉が開くと、クマのぬいぐるみを抱っこした少女がメイドを引き連れて待っていた。

 

「待ってたわ。アウトカムの飼い犬さん」

 

 典型的な上流階級の息女、といったデザインの服装の少女は、顔立ちに似合わない不敵な笑みを浮かべて私に挨拶する。私は努めて四角四面の態度で一礼した。怖がる必要はない。この場面はオルタナティブ・サイコで体験している。私はただの人質であり、危害は加えられない。そう信じるしかない。

 

「初めまして。アウトカム所属の犯罪捜査官、メアリー・ケリーと申します」

「まあ。自己紹介も型通りね。私はヴァイオレット。よろしくね」

「ええ。あなたが私に危害を加えないのならば、ですが」

 

 私がそう言うと、わずかに少女は不快そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻る。

 

「じゃあまずはお茶にしましょう? 私たち、お友だちになれそう」

 

 

 

 

 屋敷の一階。よく手入れされた庭が見える客間に私たちはいる。テーブルに置かれたチョコレートケーキを切り分ける壮年の男性がいる。彼はセーブルと名乗った。外見は人間だが、メイガスの操る人形だ。もっとも、そのことに私は言及しない。メイガスについて、今の私が知っているはずがないからだ。表面上、私は何も知らない振りをする。

 

 椅子に座った私の両脇にはあの少年と巨漢が立っている。明らかに威圧目的だ。少し離れたところにヴァイオレットが座り、その隣に先ほどやってきたジョンが座っている。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

 セーブルがケーキの乗った皿を私たちの前に置く。

 

「うん、いただきます」

 

 ちゅうちょなくフォークで口に運ぶジョンだが、私は手をつけない。

 

「あれ? 食べないの?」

 

 ジョンがいぶかしげな顔をし、セーブルが薄く笑う。

 

「心配しなくても、毒など入っていない」

「あなたがそう言っても説得力に欠けますね」

 

 セーブル――メイガスは私が怯えていると思っているのだろう。

 

「なら交換しよう。これで大丈夫」

 

 ジョンがそう言うと、私のケーキと自分の一口食べたケーキを交換する。

 

「ジョン、私に気遣いは無用です。そもそも、今回私は部外者です。どうぞ遠慮なく親交を深めて下さい。――無意味ですが」

 

 一言嫌味を付け加えると、両脇の少年と巨漢が顔を見合わせてから身じろぎする。軽い脅しだろう。

 

「二人とも、行儀良くしなさい。不作法よ」

 

 しかし、ヴァイオレットが一言そう言うと、すぐに二人は姿勢を正した。

 

「ほう、躾が行き届いていて結構ですね」

 

 私は目の前のケーキにも紅茶にも口をつけずに足を組みなおした。意図が不明のティーパーティにあっても冷静でいられるのは、一応これをゲームの中のイベントで体験しているからだ。

 

「ブラボー、メアリー・ケリー。いつだって君は犯罪者たちの中にあって気高く咲いている。僕は実に嬉しいよ」

 

 一方でジョンは、そんな私を見て嬉しそうに拍手する。けれどもすぐに笑みを消し、セーブルの方を向く。

 

「で? 僕に用なんだ。何? 一応聞いてあげるけど」

 

 ジョンの口調は明るく朗らかだがよそよそしい。一見するとこの状況を楽しんでいるようでいて、内心では無関心なのがよく分かる。彼はメイガスになんの価値も見出していない。

 

「率直に言おう。我々は君を受け入れる準備ができている。アウトカムを抜け、共に来る気はないだろうか?」

 

 セーブルが即座に本題に入った。明らかに彼はこの状況でイニシアチブを取ろうしている。

 

「魅力的なお誘いだね」

 

 ジョンはにっこりと笑ってテーブルに両肘を乗せる。

 

「でもほら、僕ってこんな首輪が付いてるんだ。困ったことにね」

 

 ジョンの指が自分の首をなぞる。そこには論理の施術の痕跡がチョーカーのようにして刻まれている。

 

「我々がそれを外せる、と言ったら?」

 

 すかさずセーブルが提案してきた。彼にとっては理想通りの展開だろう。私は口を挟む。

 

「その証拠は?」

 

 ヴァイオレットが合図すると、私の両手が少年と巨漢によってテーブルに押しつけられた。

 

 立ち上がったヴァイオレットがぬいぐるみを近づける。論理の媒体――装具か。

 

「典型的な官吏の使う構文ね。でも評議会直々のものではないわ。理学協会の教授陣が制作した論理ね」

 

 私の心臓に施術した論理を解読したらしいヴァイオレットが、勝ち誇った顔で笑う。私が無言でいると、さらに追い打ちしてくる。

 

「沈黙は肯定と見なすわよ?」

 

 先ほど私が少年と巨漢に対して言った言葉をそのまま返してくる。あの運転手がメイガスの操る人形だったのか、二人の服に通信機かその類の論理が施術してあるのか。

 

「おや、一本取られてしまったようですね」

 

 私はそっけなく言う。

 

「盛り上がっているところ悪いけど、僕はまだ君たちと一緒に行くなんて一言も言ってないけどなあ」

 

 

 

 

 

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