推定犯罪者―私を愛したシリアルキラー(未遂)―   作:高田正人

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第6話:この脅迫状の送り主に心あたりはありますか?

 

 

 

 

 ゲームのオルタナティブ・サイコは、当然だらだらと捜査官の日常をプレイさせることはない。適度にそういうところは省略され、プレイヤーはミッションを攻略していく感じだった記憶がある。私としてはテレパシー能力を持つエリー・ゴールドや、怪盗紳士を気取るアンドリュー・コリン・マクスウェルとかがプレイして面白かったキャラだ。

 

 エリーはなんといっても可愛いし、異能「マスターキー」が制御不能で軽い人間不信に陥っているだけで、依存度も低くこちらを溺愛の対象にはまずしてこない。推定犯罪者というパートナーを知るには初心者向けに近いけど、戦闘力が皆無で序盤が厳しい。彼女のシナリオは、オルタナティブ・サイコの中では一番清楚でこそばゆかった。

 

 マクスウェルは一見するとクールな伊達男だけど、実はレイヤードでは発禁の娯楽小説にはまった変態で、危険思想ということで推定犯罪者として扱われている。彼は理想の自分になれる異能「バルトアンデルス」を持っていて、おかげで物語の怪盗紳士になりきっている。変装も潜入もピッキングも自由自在だ。彼こそ初心者向けだろう。

 

 ジョン・ドウは地雷そのものだ。戦闘力は全キャラ一位。戦闘では異能「アグノスティック」が猛威を振るう。ゲーム上では歪曲空間の広範囲攻撃で表現されるこの異能があれば、平均より体力や防御力が低いなんて問題にならない。ただし、ジョンは殺人中毒者だ。このシリアルキラーは、自分の欲求を満たすために人を殺すことを少しも厭わない。

 

 プレイヤーが楽だからという理由でジョンを使いすぎると、あっという間に依存度がマックスになりバッドエンドだ。ノーマルエンドではジョンは死亡するものの、プレイヤーの精神を乗っ取ったことが暗示されるし、グッドエンドでもジョンは再び収監されるものの、レイヤードに模倣犯らしき存在が出現するというすっきりしない終わり方だ。

 

 私が思うに、ジョンの正体は人間から人間に渡り歩く独立した多重人格みたいなものじゃないだろうか。だから正体不明だし、評議会も彼の過去を追跡できないし、おまけに自分の生死に無頓着だ。ルートによってはジョンを射殺することもあるけれど、笑みを浮かべて「向こうでまた会おう。愛してるよ、僕のメアリー」と言って死んでいく。

 

 私はジョンを殺したくないし、できれば更生させたいと思っている。

 

「……どうすればいいのよ」

 

 朝、私はベッドの上で頭を抱えた。オルタナティブ・サイコのノーマルエンドみたいに、朝に鏡を見たら自分の顔がジョンに見えて悲鳴を上げるようなオチは避けたい。私はそう決意しつつ、捜査官のペルソナをつけてベッドから起きるのだった。

 

 

 

 

 犯罪抑止組織アウトカムの事務所。その応接室に一人の女性がいる。栗色の髪をしたやや小柄な女性だ。彼女の芸名はガラテア。レイヤード内でも有名な歌姫だ。そもそもレイヤード内では娯楽は厳しく検閲されている。確かに、娯楽は一番大衆の心が揺れ動くものだ。評議会としては娯楽なんかなるべく提供したくないだろう。

 

 だから、レイヤード内の娯楽である映画や小説は面白くない。教訓的で健全で笑えるところも感動することもなく、ただひたすら良き市民となるように教育するだけのものがほとんどだ。独裁政治のプロパガンダもかくやという思考の統制だ。面白いものもあるけど、都市内でおおっぴらに出回ってる娯楽は大抵が退屈だ。

 

 その中で、ガラテアの歌は珍しい。心が震える素晴らしい歌を歌う、本物の歌姫だ。評議会も彼女の歌には規制をかけないところから、彼らもガラテアのファンなのだろうか。それにしても、ステージの上の華やかな雰囲気と、今の彼女はまったく違う。

 

「……これが、先日あなたのところに送られてきたファンレターを装った脅迫状ですか」

 

 私、メアリー・ケリーは彼女から差し出された手紙を受け取った。隣でジョン・ドウがルービックキューブをいじっている。私と同じアウトカムの職員の制服を着ているが、これがまた似合っている。元々ジョンは人当たりの良い美青年だ。サイコパスとしての本心を完璧に隠して、今のジョンは人畜無害にしか見えない。でも仕事中に遊ぶな。

 

「はい。私は仕事柄ファンレターはたくさんいただくのですが、このようなものは……」

「確かに、精神純度の低下を感じる文面ですね」

 

 私は優秀な犯罪捜査官の顔でうなずく。手紙に書かれているのは分かりやすい脅迫だ。

 

『この淫売め! お前の汚らしい歌を聞くと吐き気がする! 舌を切り落として二度と歌えなくしてやる!』

 

 といった内容だ。

 

「あなたはこの脅迫状の送り主に心あたりはありますか?」

「いえ、ありません。私の事務所はこの脅迫状の一件で慎重になり、今度の劇場で行われるコンサートを中止もしくは延期する動きになっています。私としては……できれば楽しみにしているファンのためにも、予定通りに行いたいと考えています」

「なるほど。事情は理解しました」

 

 私は考え込むふりをする。この事件は既にプレイヤーとしてオルタナティブ・サイコで経験している。だから犯人も分かっている。アウトカムは建前は犯罪抑止組織となっているけれども、結局都市警察と同じように治安維持に従事している。そもそもレイヤードの警察は評議会が私的に運用しているせいで、権威主義的であまり役に立たない。

 

「私、嫌がらせを受けたことは何度かあるんですけど、こんな殺意を向けられたのは初めてで、すごく怖くて……」

 

 ガラテアが縮こまる。無理もない。私だってこんな手紙を送られたらぞっとする。今はメアリーだから冷静に対処できるけど、あるかもしれない前世だったら警察にすぐに駆け込み、その対応の遅さにイライラしていただろう。

 

 

 

 

 

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