推定犯罪者―私を愛したシリアルキラー(未遂)―   作:高田正人

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第7話:じゃあここでクイズ

 

 

 

 

「安心していいよ。この手紙を書いた人、実行する気はないから」

 

 突然ジョンが口を開いた。テーブルに完成したルービックキューブを置く。

 

「ジョン、どういう意味ですか?」

 

 私はジョンに尋ねる。ジョンは手紙を手に取ると言う。

 

「退屈な内容。誰かの真似事の脅迫。意味のない暴言。三流以下の思考が透けて見えるね」

 

 その目は実に退屈そうだ。

 

「こんなのに屈してコンサートを中止したら、それこそレイヤードの市民としての評価が下がるよ」

「でも……犯人を刺激することにならないでしょうか?」

 

 ガラテアがジョンに尋ねる。

 

「全然。この文章から読み取れるのは、主に自分の劣等感だ。自分の怒りを適当に書きなぐって、相手にぶつけているだけ。対象に殺意に至るほどの激情はない」

 

 私は寒気がした。ジョンの目は手紙を見ているのではない。これをせっせと一人で書いていた犯人を今ここで見ているのだ。

 

「この段階で、犯人の精神純度はあまり低下していない。実行には移さないからね。これを書いた臆病者は書いただけで満足して、実行する度胸は持ち合わせていないんだよ。何もしなくても勝手に自滅していくだろうね」

 

 ジョンは心底軽蔑したような様子で脅迫状をテーブルの上に置いた。このサイコパスからすれば、確かにこんなのは幼稚園児の落書き程度にしか見えないんだろうな。

 

「安心してコンサートを開きなよ、歌姫さん。でも……」

 

 しかし、ジョンの目に光がともった。同類の匂いを嗅ぎつけたのか、それとも犯罪という禁忌にわずかな興味がわいたのか。

 

「文面が変わった脅迫状が送られてきたら、またここに来てほしい。こんな下らない暴言じゃなくて、『一つになりましょう』とか『もうじき幸せになれます』とか『あなたは絶対に分かってくれます』なんて気色悪い内容の脅迫状が来たら、その時はメアリーに連絡してほしい。君に『腹黒い』という言葉の真偽を、実物でレクチャーしてあげるよ」

「え、ええ。分かりました。ありがとうございます」

 

 ガラテアは困惑しながらも礼を言う。

 

「何かありましたらいつでもご連絡ください。私たちアウトカムは、レイヤードの優良な市民のために昼夜を問わず駆け付けます」

 

 ジョンがろくなことを言いそうにないので、私は話を打ち切った。こいつ、わざとガラテアを脅したな。

 

 後で説教してやろう。ただでさえ推定犯罪者との接触は、個人の精神純度を低めるとレイヤードでは怖れられているんだ。ガラテアがジョンのせいで市民ランクが下がったら、私に文句が行くんだからな。有名人らしく変装してから事務所を出て行くガラテアを、私は見送った。さて、何から始めようか。

 

 

 

 

 ガラテアが帰ってから、私は自分の事務室に戻った。改めて、レイヤードではコンピュータ関連の技術があまり発達していない歪さを実感する。論理やその媒体がコンピュータの代わりになっているのもあるし、評議会の情報統制の結果もあるだろう。デスクで法律関連の紙の書類に目を通しつつ、ジョンに質問する。

 

「ジョン、なぜガラテアを脅したのですか?」

「え? 何の話?」

 

 私が仕事で忙しいのに、ジョンはソファに寝そべって料理の本を見ながら平然と答える。読書の時はジョンは眼鏡をかけている。ゲーム本編と同じく、ジョンの趣味は料理だ。頼まれなくても新作の料理を作ってくれるし、しかもレストラン顔負けの美味しさだ。……それはともかく。

 

「とぼけても無駄です。あなたに求められているのは犯罪者と推定犯罪者のプロファイリングです。捜査に必要なことだけ発言しなさい。ガラテアに不要な心労を与えることは、彼女の精神純度の低下を招きます。到底看過できません」

「まあ、普通の捜査官ならそう言うよね。じゃあここでクイズ。なぜ僕はガラテアを恐がらせたのでしょうか?」

 

 ジョンはにこにこ笑いながら問いかける。その目は昆虫の複眼のように空虚だ。私はため息をつく。こいつの思考回路はどうなっているんだ。喜怒哀楽が全部他人事だ。

 

「普通の捜査官でしたらこう答えるでしょうね。『ジョン・ドウは、自分がいかに危険な第一級推定犯罪者であるかを誇示し、恐がられて承認欲求を満たしたいから』と」

 

 わざと私はジョンの気に障るようなことを言う。要するに「お前は自分がイカれた人間だって精一杯他人にアピールして驚かれたいだけのみみっちい奴だ」と暗に言ってみたわけだ。自分がひとかどの者だと思い込んでいたり、サイコパスであることがちっぽけなアイデンティティである奴なら、図星を突かれて顔を真っ赤にするはずだ。

 

 しかしジョンはまったく表情を変えない。馬耳東風にもほどがある。

 

「うんうん。もちろんメアリーはそう思ってないよね?」

 

 ああ、そうだとも。こいつが殺人を犯したいのはトラウマやコンプレックス由来ではなく、ただの性癖だ。他人に誉められても怖れられても喜んだり悲しんだりはしない。他人の声なんて、こいつには雑音でしかないはずだ。

 

 

 

 

 

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