空間騙   作:ベンゼン

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 カフェを出た私は、人気の無い場所まで赴いてからスキマ空間に潜り込む。

 意識を自分の内側へ──この身に宿る八雲紫の能力を使うように念じる。

 やがて自分の感覚が世界の裏側まで拡張された(ような気がする)状態で、世界に生じた歪みとでも呼ぶべきものの根本を辿り、異なる世界の繋がる地点を逆算した。

 

 

 自然な状態であれば決して繋がる筈の無い、世界同士の接触。

 これが今すぐにこの世の破綻を齎すことはないものの、多大な影響を与えることは間違いない──と感じる。

 

 

 

「近いわね……人目も気にせず街中で開くつもり?」

 

 

 

 異世界との繋がる場所の、おおよその見当はついた私は、隠す気も無さそうな来訪者のやり方に驚く。

 何か隠蔽する手段でもあるかそれとも、見つかっても構わないということか。

 こちら側の世界の事情やら混乱の有無など気にしていない――そういう可能性も考えられる。

 

 いずれにせよこのまま状況が推移すれば三時間は過ぎない内に、異世界との通路は開くことが分かった。

 それまでは暇なため――折角の機会ということで異世界を繋ぐ力の解析をしてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「これは……なんともまぁ」

 

 

 解析の結果、様々な事が分かった。

 今こちら側へ繋がろうとしている異世界からの道……長いので『通路』と呼ぶが、これを成している力は私の持つ力とは別のものだということ。

 それ自体は驚くべきことではない。

 私の持つ仮定を元にすれば、別の世界には別の世界なりのルールがあり、それを由来にした別の力を使っているというのは有り得るだろう。

 こういう事を八雲紫パワー的な何かを使って完全に言い当てられれば格好良さそうだが、それは現時点の私には望むべくもないことであった。

 

 自分が本当に期待していたようなものではない……けれども、面白いので良しとする。

 大掛かりな力を制御する仕掛け、その中身は精密な構造が見て取れた。

 私の扱うものとは似て非なる超常の力を、効率よく現実の事象に転化させている。

 それはそれはすごい存在の仕業に違いない。

 

 

「なるほど闇雲に通路を伸ばすというよりは、概念的な世界の境界面を接触させて……この程度のエネルギーを使ってこうやって繋げると…………ははぁ……なんだか凄い気がする」

 

 

 構造を眺めて、全体の半分いくかいかないかくらいではあるが理解することに成功。

 そうして理解したはいいものの……同時に疑問も生まれてくる。

 

 いったい、これを行っている存在の目的とはなんなのか。

 素人目に見ても、非常識の部類に属する術の中でもかなり高度な事をしていることは疑いようがないが、作られるであろう通路を通って現れるはずの存在といえば、だいたい人間やそれに近い何かであると私の能力が告げている。

 正確には何だか奇妙な物質的生物らしきものの反応も一緒にあるようだが、それはそれとして。

 

 

(んー……この中には術者らしきものは居ないみたい? こっちの感知ミスかもだけど)

 

 

 

 力の発生源が、遠い別世界の方にあるのは読み取れた。

 そしてその力を操っているものも、私の推測混じりになるが別世界の方に存在していると思われる。

 

 つまり、これも推測だがこの向かってくる者たちは通路を開いた存在、仮に力の操り手と呼称するものの手下か何かということなのか。

 流石にこちらの世界からでは、(技量不足も相まって)あちらの正確な状況を拾いきることまではできなかった。

 

 

(ま、この辺にしておきましょうか……そろそろみたいだし)

 

 

 色々と疑問も増えはした――しかし、今は捨て置く。

 こちらに向かってくる事までは理解できたが、その目的や真意まで分かるわけがないし……無理に理解しようとする必要も今のところ無い。

 

 

 

「スキマから覗いて観察するのもいいけど……今日は調子がいいわ、折角だから……」

 

 

 

 内からいつも湧き出ていた気怠さは鳴りを潜めている。

 いつもより心がウキウキしている──これまでを考えると珍しいと思いつつ、私は異界同士が繋がる場所の近くへとスキマを開くとそこから外へ出た。

 それに並行して能力により『認識の境界』を操作することもしておく。

 これによって、完全に姿を消すとまではいかずとも五感の、主に視覚情報としては、限りなく記憶に残りづらく目立たない印象を他者に与えることが可能だ。

 例えるなら私に視線を向けた存在は、目に入った瞬間私の事を記憶できない……意味のある情報として認識できず、結果として生得的な機能による補正がかかりそこに居ないように錯覚する、という感じになる。

 似たような能力の使い手にはあっさり見破られるかもしれないが、その時はその時で。

 

 

(平常運転でいくわよ~)

 

 

 

 

「っと……わー、すごい、殆ど繋がってる」

 

 

 

 視線を向けた先にはビルの立ち並ぶ大通り、多くの人が行き交う道の、その一部に既に異変は現れていた。

 ただ目で見ただけでは薄ぼんやりと、その輪郭と中身が蜃気楼のように揺らめいているのみ。

 しかし意識を向けて注視してみれば──近付いて行くその間にも大きな構造物じみた姿が滲み出ていくのが分かった。

 そんな中でも人々の様子は変わりなく、非常識と日常が入り交じっていく様には言葉にできない情感を覚える。

 

 

 

「あらら、呑気な顔しちゃってまぁ……無理もないことだけど」

 

 

 

 戦争も遠い昔の話、そうでなくとも超常現象に縁遠い世界の人間なので気を付けておけと言う方が無茶な話だろう。

 だが現実はおそらく非常事態に近づきつつあって、これから訪れるカオスを私は目に焼き付けなければならないと心に決めた。

 

 

「……それにしても、どんなのが来るのかしら?」

 

 

 あまりに野蛮人か化け物みたいな存在であるなら──少し困ったことになるかもしれないが。

 まぁ、見ていれば分かるだろうと思い頷く。

 

 

 道端に置いてあったベンチに座り、私はその時が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれ何だ」

「なんか出てきてねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──人々は立ち止まり、それに視線は釘付けとなる。

 

 ──あるものは携帯電話で撮影し、通話し、またあるものは止まったまま口を開けている。

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 びしゃり、と何かが宙を舞った。

 

 

「あ、ああ、ああああ……」

 

 

 ──突如として現れた『門』の前にいた男性は、不幸にもその光景を目の当たりにする。

 

 ──自分と同じような姿をしていたものが、その形を次々と変えていく。

 

 

 

「■■■■■■■■■────!!!!」

 

「「「「「ウォオオオオオオ!!!!!!」」」」」

 

 

 

「にげ、逃げろぉおおおおおおおおおっっ!!!」

 

 

 

 

 

 ──甲冑を身に纏いし人型の影、空を舞い地を駆ける異形の姿、それらが大挙して押し寄せてくる

 

 

 

 ──濁流のように、暴風のように

 

 ――突き進む

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああ!!」

 

 

「うぁああああああ」

 

 

「痛いいたいいたいたいた」

「助けて──ー!! ママぁ!!!」

 

 

「警察、警察は!?」

 

 

 

「あ、あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──暴力

 

 

 ──悲鳴と絶叫

 

 

 ──金属の音

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──東京、銀座某所はその日、異世界により初めて侵略された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時間は少し巻き戻り

 

 ──銀座に、異世界の侵略者が現れるより、少し前

 

 

 

 

 

 

「何だろう、あれ……」

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が、空を見上げている。

 否、正確には空ではなく、少女から見て斜め上、空中の何も無い筈の場所だ。

 目を擦ってもその『何か』は確かに見える、しかし傍にいる母親は特に何も気付かず、父親も同じく談笑していた。

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 ふと、視線を別の場所にずらした少女は──違和感に気付く。

 キョロキョロと見回してみるが、特におかしなことはない。

 おかしいものは今まさに見た、何も無い場所に浮かび上がる『何か』だけ、その筈なのに。

 

 

 

 

「あれ……?」

 

 

 少女はまた、妙なものを見つけた。

 それは椅子に座る、見覚えの無い人の姿。

 しかし、知らない人ならば他にも周りに幾らでもいる──であれば何故その一人に視線が向いたのかと言うと、やはり違和感のためであった。

 

 

 

「見え、ない……ぼやぼや?」

 

 

 

 そこまで距離は無いのだが、何故かその姿は上手く捉えられない、目を凝らしても──まるで輪郭も、色合いも、はっきりとした情報を感じ取れなかった。

 おかしいのは、同じくらい離れている人の顔は見えるのだ、つまり見え方が違っている。

 まるでその場所だけが──遥か遠くにある山の頂上のような場所にあるかのように。

 そしてどういうわけか、いかにも不自然なよく見えない『何か』であるそれに、何もおかしくないと思おうとしている自分がいる。

 

 

 少女の持つ知識では、それが何であるかは判断のしようもないことで。

 ただ、そこだけが他と切り離された異質なナニカであることは、直感的に察していた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 少女は駆けだした。

 ややあって、後ろで騒ぐ大人の声も聞こえないかのように。

 それは子供らしい好奇心に突き動かされてか、それとももっと明確な意図を持ってのことか。

 分かることは──少なくとも、一人の人間の行く末が大きく変わったということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来そうね」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 そして、少女は見つける。

 

 無邪気に何処かを見つめ微笑む、金髪の少女を――

 

 

 

 

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