空間騙   作:ベンゼン

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4.5

 

 

――銀座を突如として襲った未知の軍隊。

 

――彼らと、その通り道である『門』が大勢の日本国民の目に触れた、その次の日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         「すみません! 私の妻を知りませんか!!」

 

 

 

 

              「俺死んじまうのかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

                      「もう訳が分からん……」

 

    「あいつらを早くどうにかして」

 

 

                      「ふぇええええ……」

 

 「家に帰らなければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……荒らされたなぁ、町」

 

「そう言わんといて下さい、完璧な奇襲をくらっちまった以上は……こうもなります」

 

 

ぼやく男――緑色の迷彩服じみた色合いの服と、ヘルメットや幾つかの小道具を身に着けている。

周りにも似たような姿の男たちがいる。

 

男の愚痴に反応したのは、同僚らしき男。

 

 

 

 

「そらそうだけどよー」

「金貰って食ってる分は働かないと、税金泥棒呼ばわりは御免ですから」

「真面目だねぇ…」

 

 

ババババ、と空を割くプロペラの音が響く。

 

襲撃による混乱に際し避難誘導は為されているが、如何せん数が多く……正体不明生物による攻撃で破損した建物に取り残された者たちもいた。

昨晩になってようやく事態の整理が進み始めたものの――現場の者たちは自分たちの動きが緩慢であるかのような感覚を消せずにいた。

しかし、冷静に状況を把握すればするほど、それはそれで、不可解な事象であることが浮き彫りになる。

 

 

――銀座に人工的と思しき建造物現る。

 

――これを『門』と呼称する。

 

 

 

――門の内側より、外観から物理的にあり得ないとしか思えない量の人員と、怪物を含む軍隊が出現、繰り返すが、その巨大な建造物の中にあっても収容しきれないと考えられる程の人数である。

 

――聞き取りによると、その門が現れた時偶々近くにいた者には、『滲み出るように少しずつその姿を現していった』『少しずつ石材から組み立てて作られたわけではなく出来合いのそれが一気に現れた』等と供述しており、状況の難解さを増す要因となっている

 

――荒唐無稽ではあるが、現実に起こっている事も踏まえ情報を統合して考えるにフィクションの世界に登場するような超常現象が発生した可能性も視野に入れて事態究明に努める必要があるだろう

 

 

 

 

「あいつらどっから来たんだろうな~」

 

「知りませんっすわ、考えても仕方ないですし」

 

 

 

「俺たちは生き残れるのかねー……」

「それは言わない約束っすよ……」

 

 

 

 

 

「…ここ以外も大変らしいな」

「そっすね……」

 

 

ここには居ない顔の知らない同胞達も、苦境に立たされているのだろう、と。

しかし、今の自分達にもやらなければならないことがある以上、助けに行く事はできない。

 

 

 

――おお、ヘリコプターよ、一刻も早く安全な場所へ運んでくれ。

 

 

 

その場にいる全員がそう願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――日本国。

 

――総理官邸。

 

 

 

 

「頭が痛いな……全く」

 

 

――銀座の中に突如として現れた建造物から古めかしい軍隊が現れ、虐殺を始めた、などと。

 

飲み込み難い事を飲み込まざるを得ない状況に、内閣総理大臣たる男は頭を抱えたい気持ちで一杯だった。

俯かずに次々と送られてくる情報を処理していたのは、せめて国民に選ばれた長としての、非道に抗う矜持か。

あと少しで終わる任期満了に、泥を被せられかねない事への個人的な憤りか。

 

 

 

 

 

(だが、既に駐屯地から自衛隊が出動している……)

 

(どうもやつら勢いはあるようだが、装備に銃器の類は一切見られないとか……防衛大臣が不思議がっていたな)

 

 

 

(被害は甚大だが、一刻も早く解決せねばならな――)「総理!」

 

 

 

扉を開け放って現れた姿に、胸騒ぎを覚え尋ねる。

 

 

「……どうした?」

「それが……」

 

 

 

 

 

 

 

「お、追って連絡が来ると思いますが」

 

「銀座周辺……のみならず、24区、いえ、東京都全域にて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同時多発的に暴徒による暴力行為が発生していると……」

「――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「既に現地の警察が対応に当たっていますが、余りにも数が……」

「そこまでか?」

             

「現在確認できただけでも……五百個所は超えていると」

 

「……」

 

 

 

絶句――したのも束の間、総理と呼ばれた男はすぐに我に返る。

 

 

 

 

 

「(何故……どうしてよりによって私の任期中に……!)」

 

「(こんな事が許されるというのか……おお神よ、私が何をしたというのだ!?)」

 

 

 

 

 

「許されない……こんな事が、許されていいはずがないっ」

 

「総理……!」

 

 

 

 

 

その時、議員の男は見た――総理大臣たる男の背に。

 

 

 

「(おお……まるで燃えているかのような、なんという……っ)」

 

 

 

 

 

――火山の熱気もかくやと言えるような『熱』を見た。

 

――ともすれば、ほんの一瞬ではあるが暑苦しさを通り越して焦げ臭さすら感じる程に。

 

 

――未来に対する悲観を、怒りへと転化した総理大臣たる男の姿に、議員の男は気圧されていた。

 

 

 

 

「(見える……国会で非難され……総辞職を迫られる私の姿が……おのれぇえええええええ!!!)」

 

 

 

 

内心の清濁がどうであれ、男の姿を見た議員が感じた気迫に嘘偽りはない。

 

とはいえ、起きてしまった事は決して無くなりはしないのだが、茫然自失するよりはマシである。

 

 

「(こうなったのも全てあの軍隊のせいだ……できるものならこの手で……!)」

 

 

 

 

 

 

「すぅー……(落ち着け、怒りを解き放つのは今でなくともいい)」

 

「(今はとにかく、平穏を取り戻す事……)」

 

 

 

「(このまま日本国民の出血を止められなかった無能な総理の烙印を押されてたまるものか……!)」

 

 

 

 

――男の目に、再び炎が灯る。

 

――日本のため、総理たる男にとっては自身の名誉を守るための戦いは、まだ始まったばかりである。

 

 

 

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