空間騙   作:ベンゼン

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 激動の一日から、夜が明けて。

 

 住み家を失った私は、どうしようかと思いながら、閑散とした歩道を歩いていました。

 命の危険が無いとはいえ、ホームレスに戻ってしまった事実を受け止めなければなりません。

 

 無難な解決策は、事が終息してからあの燃え上がった賃貸物件が修繕されるのを待って再入居することですが、上手く言えないけど暫くはそういうのいいやって気分なので却下。

 だからこそ、次善の策として、新しい住処を見つけるまではスキマと野宿を行ったり来たりする生活を送ることとします。

 

 

「(この争いはいつ収まるのやら、数が多いとはいえただ数だけ(・・)の優位なら、数日散歩している間に殲滅されておしまい、そう思える程の戦力差ですし、長くはならないでしょうが……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちこっちで戦闘の音がする……」

 

 

 私が家から焼け出されている間にも、状況は動いていたのでしょう。

 少し大きな通りに赴けば、威勢の良い声で馬に跨る騎士達が進軍する──かと思えば、遠方からやってきたヘリが通り過ぎざまに機銃掃射を浴びせて帰っていく。

 

 少し小さな路地に目をやれば血に塗れた人、虚ろな目でうわ言を呟く少年少女、高層ビルから火の手が上がっているところも目立ちます。

 奪い取ったらしい自動車に乗って狂ったように暴走しながら、けたけた笑いを上げる異世界騎士と思しき存在──あ、事故って焼かれてる。

 

 

 

 

 

「ドラゴンが撃ち落された……戦闘ヘリとの戦力比は大きいようですね」

 

 

 

 こうしてぶらぶらと歩いている私ですが、内心はどちらかといえばルンルンな気分にはなっていません。

 昨夜の出来事もありましたし、冷静に状況を俯瞰してみると最初のインパクト以外はあまり見るべきところもないんじゃないかと、思い始めたので。

 はてどうしたものかと思いながら、ただ歩き続けていました。

 

 ──目下、私がもっとも関心を向けているのは、先日の夕方ごろにスキマ空間に閉じ込めた謎の少女のこと。

 その調査もなかなかどうしたものか、行き詰っていました。

 八雲紫パワーを使えば色々判明するだろう、面白いことになるだろうと思っていましたが……中々どうして上手くいかず、一旦塩漬けにするしかないと判断しました、残念なことですわ。

 

 

「ん──」

 

 

 

 

 いくつか通りを進んでは曲がって、目的地も決めずに進んだ先。

 時間が経つにつれて自衛隊やら警察の機動隊何某が異世界の軍隊に対処できるようになったのか、向こうの軍隊も最初は大勢で姿を見せていたのに、後になると散り散りになって見かけるようになっていましたが。

 

 そこで見かけたのは、思わず二度見するくらい大勢で進む異世界軍隊の集団でした。

 ざっと目算で800人はいると分かるそれらに、私は「おや?」となり、注目しました。

 

 

 

「(何をしているの、あの人たち)」

 

 

 

 進軍速度はお世辞にも早いとは言えない──エンジンを搭載した車のようなものはおろか、以前によく見かけた馬すらも使っていない──その集団は、ノロノロと車の通るはずの道を、まばらな隊列の徒歩で進んでいたのです。

 

 あれでは、これまでにもやられていたように上空からの格好の的になる、そのくらいは学習していないはずもないのですが、彼らの姿にどこかから撃たれる怯えなどは感じられません。

 

 

「(…………?)」

 

 

 

 暫く眺めていた私は、自分の中の疑問がだんだん違和感に変わっていくのを感じました。

 もう少し近くに寄って確認しようとした時、ババババという音が空から聞こえたので少し離れた車の影からその様子を眺めようとします。

 

 

 

「(今までと同じなら……)」

 

 

 

 あれほど集団がいれば目につかないはずもなく、現れた戦闘ヘリはこれまで通り異世界の軍隊に向けて金属の雨あられを降り注がせます。

 そして代り映えのない殺戮が行われる──その筈でした。

 

 

 

 

 

「おー…………」

 

 

 ヘリが銃口を突き付け、火花と轟音をまき散らすと共に血霧へと変わった異世界軍隊の姿を想像しましたが、その結果は私の想像とは異なるものでした。

 勿論、数が多いので撃ち漏らしが出ること自体は予想の範疇だったのですが、その数がやけに多く。

 

 

 

 というか、目に映る範囲で一人も死んでいませんでした。

 

 

 

 

 

 

「や?」

 

 

 

 

 ──奇跡的に弾が人を避けて当たったのか

 

 ――それとも砲手が下手くそだったのかと

 

 

 

 内心で問います。

 

 しかしどちらもしっくりきません。

 

 今もバババッを越えてヅガガガガガッな連続射撃がヘリから行われていますが、土煙やアスファルト煙を立てて地面が耕されるばかりで、標的たる存在はといえばそのまま前進を続けているのです。

 

 連射が緩まったようなので八雲紫パワーを高めた状態で近づくと、私の疑念はより一層高まりました。

 

 

 

「(明らかに当たる位置にいたであろう者も……無傷? 血も流れてない、弾痕はあるけど……破片が飛び散っただけでも十二分に人一人くらい簡単に死ぬ威力……それなのに)」

 

 

 

 どれほど現場を検分しても、奇跡が起こる余地などありそうもない、しかし現実は推定死者0。

 なんだこれはと思っているとふと、人間の耳なら鼓膜を破壊しているであろう音を出していたヘリが通り過ぎていくのが見えました。

 

 

 諦めたのでしょうか?

 いえ、あちらも攻撃の効かなさを目視で確認したなら、一旦距離を取って対処法を考えるために動いているのか……

 どちらにせよ異常な状況であることには変わりありません。

 

 

 

 

 興味が強まったので、私はより彼らに近付いて観察することにしました。

 

 認識阻害が効いているせいかこちらに気付く様子はなし。

 虚ろな眼差しで道を行進する騎士然とした人間達の姿に、まるでゾンビのようだという印象を覚えます。

 

 

「近くでも見ても、人間である事は変わりなさそう……なら別の目で見るとしましょうか」

 

 

 私は八雲紫パワーを使い、彼らをより詳細に調べます。

 その異常は割とすぐに見つかりましたが、私が思考に浸ろうとした時ズガガと音を立てて雨が降ってきました。

 

 

 

「(あ、これ私も当たる……)」

 

 

 

 バババババババババババ

 

 

 

「あばばばばばっ」

 

 

 

 ピカッと光った後に叩きつけるような衝撃、頭から地面にめり込みます。

 

 何十秒かそうしていると、ようやく終わったかと顔を上げて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、やはり『無傷』で足を進める異世界の軍隊が、ありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………?????」

 

「(おかしい……おかしくない? いくらなんでもおかしい……私は八雲紫みたいなものだから耐えられたけど)」

 

「(ただの人間に毛が生えた程度でしかない……実際、頑丈さは確かめたはず……何が)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……つまり、もしかして、そういうこと?」

 

 

 

 生命感知、熱源感知、エネルギーの流れを感知する術をはじめ、直に触れた上での境界操りを応用した検査、耐久実験、諸々。

 一時間くらい調べ続けた結果を総合して、私が導き出した答え。

 

 それは、彼らが人間の特徴を持ちながら、人間ではないものの特徴を獲得したのではないか、ということ。

 生命感知術を使えば、彼らが生きていることはわかりましたが、それは彼らがまともな状態であることを意味しませんでした。

 

 言うなれば、彼らは生きているアンデッドになったようです。

 あるいは思考能力を失った超人です。

 

 

「(こうもあっさりと見つかるなんてね……この世界に無かったはずの非常識)」

 

 

 死霊だとか悪霊を実際に見た事はありませんでしたが、八雲紫知識を使えば今の私でもそれらが大雑把にどんなものか、目の前のそれだそうであるかを見分けることはできました。

 その比較によれば、彼らは物質的な生命体で、人間の形は保ちつつも、その構成要素に普通ではない超常のエネルギーが作用しているということが判明しました。

 彼らが弾幕をものともしないでいられるのも、そのエネルギーによって肉体が強く維持されているため。

 ある意味人間を超えた力を手に入れている。

 

 しかし、その代償は決して安くはなく。

 

 

「(彼らは考える力を失った……ただ歩き続け、どこかへ辿り着こうとするだけの存在となった)」

 

 

 彼らの目は真っすぐ目の前に向けられていますが、何かを見ているわけではなく、道を進み続けるという本能に突き動かされているのです。

 

 

「(そうか、彼らは銃弾が当たっていなかったのではなく、当たった銃弾がまるで効いていなかったのね)」

 

 

 

 ババババとまた戦闘ヘリが現れる。

 

 今度は三機も現れて、流石にうざったかったので結界を張って私は雨から免れます。

 ズガガガガガガとこれまで以上に衝撃の連続で地面が耕されますが、彼らは悠然と進み続けています。

 

 

 

「すごいすごい……惜しむらくは知能がほぼ無になってることですわね」

 

 

 戦闘ヘリに遮られ──目視できない搭乗員達が恐怖する姿を幻視する私。

 きっと怖いでしょう、私だって同じ人間の立場ならコワーとなるでしょうし。

 歩く事しかできない生ける屍(リビングデッド)でしかない以上、彼らはただ怖いだけの存在でしかないのですが。

 

 

 

 

 ババババ……

 

 ヒュッ

 

 ドガガガガガ

 

 

 

 

「「「「「「──────」」」」」」

 

 

 

 

 

 

「もしかしたら……」

 

 

 恐怖を与えるという点での妖怪ぽさとは、こういうものを言うのかもしれないと。

 

 何度打ちのめされても足を止めない姿を見ながら、そう思いました。

 

 

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