「ねこです。こせいは"ねこです。よろしくおねがいします"」   作:エルルーン

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十二話 ねこはしょくばたいけんにいます。ぜんぺん

 

 

 

 

 正直な話をすればホークスは職場体験の指名というものに興味はなく、例年同様に見送るつもりでいた。

 何せ日々の仕事は忙しいし、事務所の体制から考えても学生に任せられる仕事は皆無に等しい。そして何と言ってもホークスに後進育成の気がない。この一言に尽きるだろう。

 

 ただ、USJ事件の詳細をA組生当人達から話を聞いておきたかった、体育祭で優秀な成績を残した、同じ鳥仲間としてシンパシーを感じた──等、様々な点から常闇踏陰を指名するに至ったのだ。

 加えて、指名は二人まで入れられるのでついでに誰かもう一人入れようと思い、事務所総出で見直していたところ、サイドキックがある生徒に目星をつけた。

 

 

「この子とかいいんじゃないですか? スタートと同時にこれだけ距離離せるんですから、能力は申し分ないと思いますよ。ただ騎馬戦以降あまり活躍の場面がないんですよねー」

 

「へぇー、瞬間移動かー。動物系の個性かと思うたんばいけど、ばりレアな個性を持っとるんやなー」

 

 

 彼らの視線の先には障害物競走でスタートダッシュを決め、先頭に乗り出す井戸守ねこの姿があった。

 確かに1秒も経たずにあれだけの距離を移動出来るという点は対敵、対災害において強力な武器になるし、速さが求められるホークス事務所においてはうってつけとも言える個性である。

 ただ、どうしてそのままゴールをしなかったのかという素朴な疑問も浮かび上がり、その自問にホークスは移動出来る距離や時間が限られる個性だと結論付けると、それ以上注目することなく興味を失い始めた──その時だった

 

 

(んー? 今のって……)

 

 

 ホークスがおかしな点に気づいたのは騎馬戦の最終局面。残り十秒ほどの大接戦の最中だ。

 あるチームは急転回して明後日の方向へ向かおうとし、あるチームは何もないところを払いのけ、あるチームは何かを飛び越えようとたたらを踏んだりと、まるで見えないナニかを相手取ったような不可解な行動が各チームに見受けられた。

 残り時間僅かの正念場というところで一斉に奇妙な行動に走った騎手達を目の当たりにして、事務所内に変な空気が淀み始める。

 

 

「何だったんですかね、最後のアレ……?」

 

「さあ……?」

 

(いや……そこに気を取られがちだけど、本命はそっちじゃない……)

 

 

 答えに窮するサイドキック達。そんな中でホークスは全チームで井戸守チームだけが奇妙な行動を取っていなかったことに目をつけ、尚且つ四人の中であの状況に狼狽えている様子を見せなかった井戸守の個性によるものではないかと推察し始めた。

 目聡く柔軟な思考を有せる彼だからこそ導き出せる推論である。

 

 

(異形系に加えて瞬間移動……珍しい複合型個性だけど、今のやつはそれだけじゃ説明がつかないんだよなー……)

 

 

 同時多発的に起きたこの"空振り"は『目の前の何かに反応した動き』という一貫性のある乱れ方をしており、もし氷の流入や地形の影響が原因なら、示し合わせたかのように全チームが同じ動きをするはずがない。

 何かしらの外的要因が絡んでいる──ホークスはそう睨んでいた。

 

 

(そういえば……USJ事件でも似たような事例が起きてたな……)

 

 

 『USJに襲来した謎のヴィランが同士討ちを始めた後、自害した』──そんな報告がヒーロー公安委員会に寄せられていたのをホークスは思い出した。

 生徒を分断させ、プロヒーロー二人をも負傷させるという圧倒的優位の中、同士討ちと自害に及んだヴィランの真意にホークスは今の今まで首を傾げていたが──その鍵と思われる人物を見つけ、頭の中でピースがはまっていく。

 

 

(もしかしてだけど……()()もこの娘の個性とか?)

 

 

 ──招いてみるか。

 

 画面の向こうでドンマイコールを浴びながら会場を後にする井戸守を見ながらホークスは口元に笑みを浮かべる。目聡く耳聡い性分が故に一度興味を持てばあとは一直線。"速すぎる男"の名は伊達ではない。

 

 

「せっかくだからもう一人は彼女としますか。男だらけの事務所に一つくらい花があったほうがいいですしねー」

 

 

 軽口にサイドキックらは『ホークスさんらしい』と笑い合うが、その裏で彼の目は笑っておらず、井戸守を値踏みする瞳は獲物を射抜かんとする猛禽類のそれ。

 常闇は"鳥仲間"としての親近感で、井戸守は"公安としての勘"で──正反対の動機ながら、そのどちらも"ホークス"として確かな意図を持った指名だった。

 

 

(さーて、鬼が出るか蛇が出るか……はたまた猫の皮を被った虎とかかな?)

 

 

 心の中で冗談めかしながら手元の端末で雄英宛のメールを済ませるとやがて来る二人の姿を想像し、ワクワクするような笑みを残して仕事に励むのであった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「ほーくすですね? しょくばたいけんにいますします、いどもりねこです。よろしくおねがいします」

 

「……あー、まだ事務所開けてないんだけど、直で来たの? 噂の瞬間移動ってやつ? ……まあ、これからよろしく」

 

 

 初っ端からぶっ飛ばすなあ……、と思うホークスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねこです。よろしくおねがいします。

 きょうはまちにまったしょくばたいけんです。たのしみなねこはたのしみすぎて、とこやみくんよりさきにほーくすじむしょにいますしました。が、ほーくすはまだあいてないといいます。ので、ねこはみんなのところにもどりました。『心配するから独断専行は止めろ』とあいざわせんせいはいいます。おこられたねこです。よろしくおねがいします。しょぼん。

 

 

「いきなりいなくなったから驚いたぞ……! まさか静岡から福岡まで瞬間移動してたとは……!」

 

 

 ごめんなさい。さきにわーぷしてたねこです。が、もうやりません。ので、こんどはとこやみくんといっしょにしんかんせんでいきますねこです。よろしくおねがいします。

 

 で、ねこはふくおかにいます。ねこはほーくすじむしょのあるびるにいます。ほんじつ2かいめのらいほうです。じむしょはさいじょうかいにあります。ので"えれべーたー"にのりましょう。

 

 

「ここがホークス事務所……福岡市の中心街、しかもこんな高層ビルの中にあるとは……さすがは若くしてNo.3の肩書を背負う者。そんな人物に師事させてもらえるのはまさしく運命と言わざるを得ない」

 

『気合入レロヨォ、フミカゲ!』

 

 

 "だーくしゃどう"のいうとおりです。ねこもがんばります。ので、とこやみくんもがんばりましょう。よろしくおねがいします。

 

 

「フッ、当然だ。──着いたぞ。行こ──」

 

 

「「「ホークス事務所にようこそー!!」」」

 

 

 「「っ!?」」

 

 

 えれべーたーがつきます。と、どうじにひーろーたちがくらっかーをしますしてねこたちをおどろかせてきます。びっくりしてえれべーたーないでとびあがるねこがいま──って、な、なんですかこれはっ。

 

 

「こ、これは一体……!? っ、ホークスっ」 

 

「はははっ。いやー、驚いた? 数時間もかけて来たんだから、絶対緊張して固くなってると思ってね。サプライズさせてもらったよ。──そっちの娘には朝のお返しも兼ねてね。どう? びっくりした?」

 

 

 ぱちっ、とうぃんくするほーくすがいます。やられました。ゆだんしてたねこです。こせいはあくてすとのときのあいざわせんせいみたいです。ええいっ、このかりは3ばいにしてかえししてやりますねこですよ……!

 

 

「──さて。改めてホークス事務所へようこそ。俺の事は知ってるだろうけど一応初めまして、ホークスだ。こっちは俺のサイドキック達。これから一週間よろしく頼むよ」

 

「……雄英高校一年A組、常闇踏陰です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 いどもりねこです。よろしくおねがいします

 

 

「はい、よろしく。それじゃあまずはコスチュームに着替えてもらおっかな。向こうに控室があるから着替えはそこでお願いね。ロッカーとかシャワーとか色々あるけど自由に使っていいから」

 

 

 ほーくすじむしょはとてもひろく、おおきいです。ゆうえいとそんしょくかわりないせつびがあります。おおくのさいどきっくもいます。さすがはなんばー3のひーろー。おかねもちです。

 

 ──きがえおえたねこがいます。とこやみくんもいます。ほーくす、よろしくおねがいします。

 

 

「着替え終わった? おっ、二人ともコスチュームが似合ってるねー」

 

「ホークスにそう言ってもらえるとは……恐悦至極」

 

 

 とこやみくんのこすちゅーむはくろいっしょくです。くろいふくにくろいまんと。"だーくしゃどう"のためのいしょうらしいです。でも、ねこはしってます。これ"ちゅうにびょう"っていうんですよね? みんながとおるみち。あいすゔぁいんちゃんとおなじですね。

 

 

「よーし、早速仕事に取り掛かってもらうんだけど、二人のヒーロー名も教えてくれる? 君達はまだ学生でこれもただの職場体験だけど、これからやってもらうのは立派なヒーロー活動。やってもらう以上、妥協はさせない。要は今から君達を一端のヒーローとして扱うってこと。それでヒーロー名は?」

 

「ツクヨミです」

 

 

 『ねこ』です。よろしくおねがいします。

 

 

「ツクヨミとねこ、ね。それじゃあ──」

 

「──!」

 

 

 ほーくすがつばさをひろげると、びゅおっとかぜがまきおこります。ねこのすかーともゆれました。 そのままほーくすはまどにむかいます。まどにはひろげたつばさとおなじくらいおおきな"さっし"があります。ほーくすせんようのでいりぐち。このままとんでいくつもりです。

 

 

「これから2人にやってもらうのはパトロール、ヒーローの基本中の基本だ。目と耳で観て、機転を利かせる力が現場において一番試される業務だからね」

 

 

 まどぎわにたったところでほーくすはふりかえります。

 

 

「俺は先に行くから二人はサイドキックと一緒に後から付いてきて。それじゃあ後の事はお願いしますね」

 

「……? サイドキックの方達と一緒に回らないので?」

 

「うん、これが一番速いからね。あっ、なんなら付いてこれるなら付いてきてもいいよ」

 

 

 ほーくすがねこをみます。ので、ねこもほーくすをみます。よろしくおねがいします。

 まるでしなさだめしますみたいなめつき。これはねこをためしてますね? じょうとうです。さっきのどっきりのしかえしをしてやります。

 ほーくすはひきつづきせつめいをします。

 

 

「っとその前に。これからパトロールするんだけど、君達のネックとなってくるのが公の場での個性使用だ。ヒーロー科と言えど、仮免も持ってない学生が校外で個性を使うことは法律で禁止されてる。ちなみにこれって授業で習った? あ、習ったんだ。ならちょうどいいや。

 

 じゃあこれも覚えといて。無免許でも保護監督者の認可があれば公共の場でも個性使用が認められるんだ。雄英で言うなら担任のイレイザーヘッドが保護監督者、ここホークス事務所なら俺ってこと。というわけで──プロヒーローホークスの名に於いて、『公共下での個性の使用を認める』」

 

 

 ふむふむ。ひとのつくったほうりつはめんどうですね。が、いまのねこはねこでもあり、ひとでもあるのでしたがうしかありません。ねこはいくらさんにめいわくをかけたくありません。ざいだんはほろべ。

 

 

「──じゃ、そういうわけで。今日は"ヒーロー"として思いっきり外の空気を味わっていくといいよ──!」

 

 

 ほーくすはそういうと、まどわくをけってとびだします。のこったのはあかいはね。あっというまにみえなくなりました。

 

 

「……すごいな。あれがNo.3ヒーローの背中か……」

 

 

 とこやみくんがそうつぶやきます。

 ゆうえいにはおおくのぷろひーろーがいます。いれいざーへっど、ぷれぜんと・まいく、みっどないと……。が、ほーくすはそのひとたちとはいっせんをかくすものがいます。これがとっぷひーろー。ねこもがんばりましょう。

 

 

「さーて俺らも出発といきますか」

 

「モタモタしとる暇はないとよ。あん人早かけん。追いつく間に2、3件解決してしまうんよ」

 

「……っ、今行きます! ──井戸守?」

 

 

 とこやみくんはさいどきっくのひとたちについていってください。

 ねこはほーくすをおいかけます。ねこはうられたけんかはかうたいぷです。よろしくおねがいします。

 

 

 ──そう言い切ったところで井戸守の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 井戸守? どこだ、井戸守! もう行ったのか……!」

 

 

 個性『猫』の能力の一つ、瞬間移動。あまりに自然すぎたそれに、常闇は消えた瞬間すら分からなかった。

 

 

「おぉー、これが瞬間移動かー」

 

「こりゃあ期待ん新人やな。伸びしろがあったい」

 

 

 井戸守のワープにサイドキックらが舌を巻いてるが、常闇はその限りではなかった。

 学生の身では到底越えられないホークスという名の高い壁。そしてその足元を共に歩いているはずの井戸守が、気づけば壁に届きそうなほど先に跳んでいるという現実に常闇の胸はざわついた。

 

 

(……俺は、まだ地を歩いているだけだというのに……!)

 

『フミカゲェ……』

 

 

 "黒影"がマントの内で蠢き、主人の揺らぎを映し出す。

 力はある。だが、制御も練度も未熟。時に暴走の危険性もある自分の個性に比べ、井戸守は自分の個性を使いこなしている節がある。脳無の件も含めると、場数さえ積んでしまえば明日明後日にもプロデビューしたとしても何ら可笑しくはない。

 

 

(音もなく消え、気づけば背後にいる……まさしく闇……あれが……本物の才か)

 

 

 常闇は歯を食いしばる。

 その感情は羨望か、あるいは嫉妬か。ただ一つだけ確かなのは心の奥底から己に対し劣等感が突き上げてくるということだけだ。

 

 

「くっ……! 負けてられるか……! 俺らも行くぞ"黒影(ダークシャドウ)"!!」

 

『頑張ロウナー!』

 

 

 ホークスの背中。井戸守の足跡。そのどちらも、今の自分には遠すぎる。

 ──だからこそ挑む価値がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひったくりだぁ! だ、誰か……ヒーロ──うわっ!」

 

「へへっ、この金はいただ──うぼっ!?」

 

「遅いですってば」

 

 

 パトロールして早速見つけた最初のヴィラン──と呼ぶにも値しないただのひったくりを『剛翼』で制したホークス。

 現場近くに偶々いたとはいえ、事件発生からものの数秒で解決してしまうその手際の良さは他のヒーローですら目を見張るものだ。

 

 

「はーい、このケースは返してくださいねー。──はいお兄さん。貴方のですよね? 取り返しときましたよ」

 

「あ、ありがとうホークス!」

 

 

 『いえいえー』と謝意を受け取りつつ、ゴーグルの奥の視線は笑顔の声色とは反対に鋭い目をしていた。

 ひったくりを倒しても、そこで終わりと考えるほどホークスは楽観的ではない。仲間が潜んでいないか、別の事件が起こってないか──リスクヘッジを考慮しつつ、街全体を撫でるように『剛翼』を駆使して警戒を続ける。

 

 ──そんな状況下で。

 ホークスの背中から井戸守ねこがひょっこり顔を出した。

 

 

「こんにちは。ねこです。そのひとはひったくりですか? よろしくおねがいします」

 

「──へぇ」

 

 

 事務所からここまでは約数キロの距離──それを井戸守は一瞬で詰めてきた。静岡から福岡まで瞬間移動出来たのだ。これぐらい序の口だろう。だが問題なのはそこではなく──。

 

 

(まいったな……声をかけられるまで気づかないとは……こりゃあただの"瞬間移動"ってだけじゃないな)

 

 

 『剛翼』の羽根はただ操れるだけの羽根という訳ではなく、空気の流れや振動を感知できるレーダーのような役割も持ち合わせている。

 極限まで磨き上げたその技巧をフル活用すれば半径数十メートル圏内の人の動きや話し声を正確に追えるため、彼相手に不意を突くのは至難の技とも言える。

 

 それがどうだ。

 井戸守ねこはその警戒網を難なくすり抜けて、真後ろへ立っているではないか。

 

 

「──いやーねこちゃん、すごいなぁ。いつの間に背中に立ってたの? 俺気づかなかったよ」

 

「ねこはほーくすからほめられました。そーです。ねこはすごいいきものです。もっとほめてもいいですよ? むふふ」

 

 

 無表情なドヤ顔にはふわふわとした無邪気さと、ゾッとするほどの異質さが奇妙かつ奇跡的に混在していた。

 

 

「そりゃあそうだ。静岡から福岡まで来れるんだから、これぐらい屁の河童だよね。興味本位で聞くけどそれってどこまで移動できるの? 地球の裏側だって行けちゃう感じ?」

 

「はい、いけますよ。ねこは"ぶらじる"にもいますしたことがあります」

 

「一応聞くけどパスポート持ってる? なかったらそれ不法入国だからもうしないでね」

 

 

 軽口のつもりで振った問いかけを、何のためらいもなく即答する井戸守ねこ。虚勢も嘘も感じられない、ただ事実を口にしているだけの無邪気さがあった。

 『さて、どうしたもんか』と考えてると二人の周りに通行人が集まりつつあることにホークスは気づいた。

 

 

『おい見ろよ! あれホークスじゃね?』

 

『ほんとだ! ホークスだ!』

 

『カッコいいー! サインくださーい!』

 

『写真撮らせてー!』

 

 

 白昼堂々これだけの騒ぎを起こせば否が応でも注目を集めるというもの。

 数分もしない内に周辺には人垣が出来上がり、スマホを掲げて写真を撮る者、子供を抱えて近寄ろうとする親、きゃあきゃあと黄色い声を張り上げる女子高生──と、群衆はどんどん膨れ上がっていった。

 彼らに向かってホークスは片手を軽く振り返す。

 

 

「いやぁ、参った参った。みんな元気だねー。今仕事中だからサインとかは後でまとめてお願いね?」

 

 

 その軽口にさらに声援が上がり、場の熱は一層増す。

 だが当の本人は笑顔の裏で、視線と羽根を駆使しながら不審者の有無をしっかり確認していた。

 一方の井戸守は周囲を取り囲む群衆をまじまじと見回し、尻尾をふりふりと揺らす。 

 

 

「にんげんはすぐあつまります。えさをまかれたすずめみたいです」

 

「ははっ、言うねぇ。でも、こういうファンサもヒーローの立派な仕事だと思うんだよね」

 

 

 拍手と歓声、カメラのシャッター音が飛び交い、熱気が祭りのように膨れ上がっていくそんな中──群衆の熱から浮いた一つの影がそこから逃げ出すかのように、停めてあった原付で駆け出そうとしていた。

 

 

「く、くそっ、あのバカ捕まりやがって……! 邪魔だ、どけッ!」

 

 

 帽子を深く被り、マスク姿のそれは明らかにカタギの格好ではない。この男の仲間か、その直感を信じたホークスは羽根を飛ばす。が──。

 

 

「おっと、とうぼうはいけませんよ。おとなしくつかまってください」

 

「ッ、何だこの女──うごっ!?」

 

 

 一気に加速したその直後。突如、謎の急旋回を取った男は、その勢いに耐え切れずバランスを崩した挙句、原付は悲鳴のような唸りを上げて、建物の壁面に派手に激突した。

 

 群衆から悲鳴が上がる。

 車体の破片が飛び散り、煙が立ち込める中で男は呻き声を漏らしながら地面に転がっている。スピードが乗る前だったからか、惨状と対比的にそこまで酷い怪我ではなさそうだ。

 

 一連の流れを見たホークスは眉をひそめる。直前の男の言葉と軌道から、まるで進行上に立った()()を避けるような動きだった。そして、その動きが体育祭で見た物と類似してることに気がつくのに時間が掛かることはなく、その視線はやがて()()()()()()()井戸守へと終着した。

 

 

(──なるほどねぇ……)

 

 

 猫の身体能力と、瞬間的に姿を消すような動きに加えて『いないはずの人物を見せる』能力──即ち、"幻覚"。

 それも不特定多数を対象にしたものではなく、見せる対象を選択できるタイプときた。予想の遥か先を往く第三の能力にホークスは合点がいったように肩を竦める。

 

 

「参ったなぁ……君、見た目以上に芸達者じゃん。猫の個性に瞬間移動と来て、トドメにゃ幻覚? 随分と手札が多いねぇ。サービス精神旺盛すぎない?」

 

「ねこはいろいろできますねこです。よろしくおねがいします」

 

「へぇ、頼りになるなぁ。(まーだ何かを隠してる節があるな。もしかして、まだ他にもヤバい能力があるってか? ……はぁ、最近の子は色々凄いなぁ)」

 

 

 新しい発見をした所でまた新しい要素が僅かに片鱗を見せたことでホークスは口元に笑みを浮かべたまま、心の中で深く息を吐く。

 脳裏に浮かぶのは、自分より遥か上の世代のヒーロー達。シンプルな力で人々を守り、その勇姿を背中で語っていた巨人達の姿。

 それと比べれば、今目の前に立つ『ねこ』は複雑怪奇な個性を持ち、素性を幾重にも隠して生きる──トリックスターのような少女。それがホークスの──勘が鋭く、ある意味熟し過ぎた男の井戸守評であった。

 

 

(いやぁ……ホント。俺らの時代がシンプル過ぎたのか、それとも君たちが特別なのか……。まだ二十そこらだけど、これがジェネレーションギャップってやつなんかなぁ。まっ、頼もしいことに変わりはないんだけどね)

 

 

 どんなに時代が進もうと、守るべきものの形は変わらない──けれど、その方法は確実に進化している。

 次世代のヒーローの卵達は、きっと自分たちが想像もできない領域で人々を救うのだろう。 

 

 そう確信を得ていると、遠くの方に走ってくるツクヨミとサイドキックの姿が見えた。

 

 

「ハァ、ハァ……ホークス! 『ねこ』!」

 

 

 事務所で別れ、ここで再会するまでの間で彼の中で何かを改めたのだろう。

 叫びながら駆け寄るツクヨミの顔は、普段のクールぶった面影が薄れ、若さそのものを前面に出したような真剣さで輝いていた。

 その姿を見て思わず笑みを深めたホークスは、挑発の意を込めてまず一つ報告をする。

 

 

「ご苦労様です。ひったくり1、その仲間と思われる男1を捕まえときました。後始末お願いします──っと、通報入りました。完庭那のバーで客が暴れてるそうです! 次そこで落ち合いましょう!

 

 ──ほらほら、まだ職場体験は始まったばかりだよ。頑張って追い付いてきな、ツクヨミ、ねこ。君等の校訓を忘れた訳じゃないだろ? ──"Plus Ultra(更に向こうへ)"、さ」

 

 

「……言われるまでもない。さらにその先へ、俺の闇を届かせてみせる……!」

 

「ねこもです。よろしくおねがいします」

 

 

 『上等だ』と言わんばかりに二人は頷き合う。

 足音と羽ばたく音が重なり、三つの陰はやがて人波へと溶けていった。

 

 

 

 

 

メモ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






・井戸守ちゃんのブラジル入り
 財団の実験でどこまでワープ出来るかを調べてる際に財団ブラジル支部に行ったことがある。尚、ポルトガル語は話せないし、パスポートは持ってない。



・『みんながとおるみち。あいすゔぁいんちゃんとおなじですね。』

 元ネタはSCP-014-JP-J- 『奈落の悪鬼 黒き翼の堕天使アイスヴァイン』。一般家庭の子として生まれた彼女は14歳になった頃に『自分は天界より追放を受けた堕天使であり、追放先の第十二地獄ヘルからやって来た』、『邪悪な霊を見る超常的視力』、『天才的な剣術』、『冷気を操る力』、『飛行能力』、『あらゆる人間を魅了する超美貌』……等、前世と複数の個性を有してると話す彼女に財団は懐疑的は目を向けていた。

財団(この娘って一度Neutralized(異常性なし)になったあの娘だよな? またでまかせ言って……いや、もしかしたら本当に超常能力を個性として持って生まれた可能性も捨てきれない……。だとすると邪悪な霊能力や冷気を操るという個性は財団の敵となりえる……一度入念に検査すべきだな……)

 ──という財団の懸念は杞憂だったようで、今回も思春期特有のアレだったことが判明。(今世の彼女は前世の記憶を引き継がずに転生した模様。前世と同じ流れを汲んでいるのは元オブジェクトという因果をなぞっていただけなのでは?というのが財団の見解。再度Neutralizedになった後に前世を思い出した)。
 尚、現在高校生の彼女にそれについて聞くと頑として話さない。一度財団に保護された身なので井戸守ちゃんとも親交がある。

http://scp-jp.wikidot.com/scp-014-jp-j
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