「ねこです。こせいは"ねこです。よろしくおねがいします"」   作:エルルーン

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十四話 ねこはしょくばたいけんにいます。こうへん

 

 

 

 

「なっ、体が……! 動かなっ……!?」

 

「……ハァ、パワーが足りない。だが、視覚から外れ、確実に仕留められるように画策した動きだった……若いが、いい……」

 

 

 あと一歩というところでステインの個性で動きを封じられた緑谷。

 目を凝らして見てみれば僅かにかすり傷を負っていたことに気がつき、高まっていた高揚感は一転して急降下。必死で藻掻こうと足に力を込めてはみたが、膝はただ冷たい地面に沈むだけ。

 

 ステインに対抗できる者はもういない。その現実が絶望となって、冷たい汗として背中に滲んだ。

 

 

「口先だけの人間はいくらでもいるが……お前は違うな。生かす価値がある。こいつらとは違ってな……!」

 

「や、やめ…ろ……!」

 

 

 動けぬ緑谷を他所に、凶刃(ステイン)は飯田に迫らんとしている。

 『助けなければ』──そうは思っても全身を縛るこの重圧を前に身体が言うことを聞いてくれず、焦りと恐怖で呼吸が早くなる。

 

 

(動けッ、動けよ──! ここで動かなかったらどこで動くんだよ! 誰かが傷つくのをただ見ているだけのヒーローなんて……何の意味もないんだ……!)

 

 

 ざっざっ、とステインが石畳を踏みしめる音だけがこだまする。

 飯田の倒れている場所はほんの数メートル先。なのに届かない。足に力を込めても筋肉は悲鳴を上げるばかりで動けない。

 

 

(グラントリノの元で鍛えてもらったのに……OFAの扱い方を教えてもらったのに──!)

 

 

 鼻の奥に張り付く鉄の匂いは路地裏の湿り具合と場の空気の重さをよく表しており、緑谷の脳裏を刺激させた。

 やがて飯田の元にたどり着いたステインは刀の切先を彼の鼻先に突きつける。腕をほんの僅か前に押し出せば彼の顔面に刃が深く突き刺さるほどの距離──そこまで事態が進んで尚、緑谷は黙って見てることしか出来なかった。

 

 

(ちくしょう……! 応援は……誰か、誰か来てくれ……! 誰でもいい……! 誰か、飯田君を……!)

 

 

 事前に送ったチャットは誰も見ていないのか、応援と呼べるものは未だ来る気配がなかった。

 当たり前と言えば当たり前だろう。今こうしてる間にも皆はそれぞれのヒーロー事務所で職場体験に勤しんでいるはず。突然送られてきた謎のメッセージよりも、現地で活動するのを優先するのは当然のことだ。

 そんなことに気づかなければ、『助けて』の一言も綴らなかった自分に嫌気がさしながらも──藁にも縋る思いで名うてのヒーローを思い浮かべる。

 

 こういう荒事が得意そうなかっちゃん。

 老いを感じさせず、瞬発力に長けた個性のグラントリノ。

 最高のナチュラルボーンヒーロー オールマイト。

 

 そして──。

 

 

(こんな時、井戸守さんがいれば……!)

 

 

 何故だかは知らないが、最後に脳裏に思い浮かんだのは強烈なキャラクター性を有するクラスメイト──井戸守ねこ。

 猫のように気まぐれで、猫のように掴みどころがなく、猫のように異様な静けさを纏った少女。どういう訳か彼女は自分の事を"非力"と言うが、それは明らかに間違いだ。

 体力測定では常人離れした記録を残し、USJ事件ではヴィラン撃退に一役買った彼女を見て、緑谷は思う。彼女は"普通"じゃないと。

 

 ──だが。

 

 その"異質さ"が、今はどうしようもなく恋しかった。

 彼女がいたら例えステイン相手だろうときっと怯まず立ち向かう事だろう。

 彼女がいたら誰かプロヒーローを連れて戻ってきただろう。

 

 彼女がいたら──この絶望の闇から皆を救い出せていただろう。そんな気がしてならなかった。

 

 

 だからこそ──。

 

 

 その影が中央に現れた時、押し込めていた感情が一気に溢れ出すように、胸が熱くなった。

 

 

 

「え、井戸守さん……!?」

 

 

 

 

 どうしてここに、とは言わない。あのメッセージを読んで来てくれたのは間違いない。

 

 USJ以来、三度目のお披露目となる『ねこ』のドレスコスチュームはクラシカルさが前面に押し出されたデザインながら、不思議な雰囲気を醸し出す井戸守と酷くマッチし──。

 

 

「……ねこはねこですよ?ねこはどこにでもいます。たすけをもとめるひとのところにもいます。こまっているひとのところにもいます。ゔぃらんがいますところにもいます。ので、ねこはここにいますのです」

 

 

 

 救いを求める人を背に、ヴィランを前に立ち塞がるその姿は──。

 

 

 

「みーむひーろー、ねこです。よろしくおねがいします」

 

 

 

 ──まさしく、ヒーローそのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……次から次へと……今日はよく邪魔が入る……。貴様、こいつらの知り合いか……? ハァ、誰だ……?」

 

 

 突如現れた女を前に、ステインは緊張を解く様子を見せなかった。

 

 今日日までステインが手にかけたヒーロー殺害数は17名。再起不能者23名。

 合計40名にもなる死傷者の中には新米ヒーローから中堅ヒーローと年齢、性別、経歴問わず幅広い犠牲者層で占めており、そこには彼独自の歪んだ思想が色濃く表れていた。

 

 その中にはいずれ、そこに倒れてる"紛い物"のネイティブとインゲニウムの弟と名乗る子供も加えるつもりでいる。

 

 詰まる所、何が言いたいのかと言うと──。

 

 例え相手がデビューしたてのアマチュアだろうが、うら若き学生だろうが、名声や地位、収益といった我欲に目が眩んだヒーローはもはやヒーローに非ず。自己犠牲の果てに得うる称号こそがヒーローでなければならない。

 故に、それに値しない"偽物(ヒーロー)"は粛清せねばならない──それがステインの掲げる信条である。

 

 そのためにも──この女も見極める必要性がある。と、同時に一切の気配も認知させずにこの場に現れた井戸守に対し、警戒を解くなどという愚行をステインはするはずがなかった。

 

 

「女……こいつらの知り合いか……?」

 

「はい。おなじゆうえいこうこういちねんのどうきゅうせいです。ねこです。よろしくおねがいします」

 

 

 臆しないと言わんばかりにあっけらんと答える井戸守にステインは刀を握り直す。

 

 

「同級生だと……? 言っておくが……俺は女子供だからといって殺さないとは限らん……。ハァ、場合によっては……お前でも粛清対処だ……」

 

「ころせるならころしてもいいですよ。ころせるかはべつなねこですが。が、ともだちはたすけます。そこのひーろーもたすけます。()()()()()()()()()()()。よろしくおねがいします」

 

 

 井戸守の発した『ヒーロー』という単語にステインは目を細めるように反応し、瞳に冷たい熱を宿させる。

 刀を握る指先が『きしっ』と鳴ると刃は光を吸い込むように暗く沈み込んだ。

 

 

「ハァ……愚かな……。1年なら仮免試験もまだの筈。仮免も持ってないのに自分をヒーローと呼称するとは……お前も口先だけの人間か……。思い上がりも甚だしい……!」

 

「ゔぃらんにいわれたくはありません。ねこはまだひーろーではないですが、いずれは"おーるまいと"のようなひーろーになります。よろしくおねがいします」

 

「……オールマイト、だと……?」

 

 

 瞬間、空気が変わった。

 

 

「──貴様のような俗物が(オールマイト)を語るなッ……!!」

 

 

 飛来するナイフ。

 風を切る高い音を伴って飛んでくるそれを、井戸守は持ち前の動体視力を以てして横へ避ける──が、避けた先を予見したのか、移動先に二本のナイフが飛んできた。

 

 常人なら見切ることが難しいことだろう。だが、井戸守の身体能力は猫科の獣を遥かに凌ぐ。反射神経、視覚処理速度──どれを取っても、彼女のそれは人間の枠をはるかに超えていた。

 

 銀の閃光が頬を裂くよりも早く、横に滑るようにして彼女は避け終えていた。

 

 

「とびどうぐですか? ねこにはききませんよ?」

 

「ハァ……それを判断するのはお前じゃない……、俺だ……!」

 

 

 再度、ステインは一本目のナイフを投げ、すかさず二本目までも投擲する。

 井戸守はこれを難なく避ける。ただ1回目と違うのは先程は横に逃げたのに対し、今回は縦に逃げるように跳躍した点だ。

 猫の個性を持つ井戸守故に他に類を見ないほど高く跳躍したことで井戸守の身体は長い時間滞空に晒される。

 

 『誘われた』

 そう気づいた時点でもうすでにステインは井戸守の身を掻い潜り、その背後──飯田へと差し迫ろうとする。

 ステインは井戸守を相手にしながらその裏でネイティブと飯田を仕留める腹でいたのだ。

 

 

「目はいいようだが……ハァ、戦闘は不慣れのようだな……! だから簡単に……背を許す事になる……!」

 

「い、飯田君……!」

 

「くっ……!」

 

「まずは……一人目……!」

 

 

 ──そうはさせないねこです。よろしくおねがいします

 

 

「ッ!!」

 

 

 後ろにいたはずの井戸守が突如ステインの()()()()()()()()()()()()()現れた事でステインは一瞬硬直したが、すぐさま身を翻し後方へ飛び退いた。

 

 点から点へ一瞬で移動した井戸守を見て、ステインが『さっきの登場の仕方といい、この女──『ワープ』系の個性か……?』と訝しんでいると背中に強烈な衝撃が走る。

 何だ、と目を凝らせばそこには()()()()の井戸守がいた。

 

 

(こいつ……! 俺の後ろを……、──っ!?)

 

 

 迎撃せんと狙いを二人目に絞った所で──今度は真横から現れ、こちらに襲い掛かってきた()()()の井戸守。予想だにしなかった事態に脳が理解を拒もうとするが、絶えず身体は反応し続け、三人目を目掛けて刀を振るった。

 

 ところが、刃が井戸守に当った瞬間、井戸守の身体は景色に溶け込むように消え失せ、背景のコンクリート面を映し出すのみ。そうしたところで飛んできたのは二人目の井戸守によるドロップキックだ。小柄で華奢な井戸守の身体故にそこまで高い威力ではないが、意識外からやって来た攻撃だったためステインはまともに食らってしまい、蹌踉めくに終わらずに血の味を噛み締める羽目になった。

 

 『ステインを押している』

 その事実に三人は目を見開くばかりだ。

 

 

「ほーくすのいったとおりです。ねことねこをくみあわせればつよいですね」

 

 

 今まで井戸守がやっていたねこ(ミーム)を使った戦闘方法と言えば攻撃を逸らすための的にしたり、見せつけることで相手にプレッシャーを与えるといった陽動作戦に留まっていた。

 それをこれほどの戦術に昇華させることが出来たのは偏にホークスの助言があったからこそだ。

 

『ねこちゃんのそれ(幻覚)、何かもったいないんだよな〜』

『もったいない……??』

『もったいないとは一体どういう……?』

『んーとね。何ていうか……。二人はヴィランが一番恐れる攻撃ってなんだと思う?』

『うーん、なんでしょう……? ものすごいこうげきでしょうか? ばーん、とか。どーん、とか。』

『……詰まる所、当たれば全てを滅却せしめるような強力無比な一撃。これに尽きるかと』

『まあ、それも正解だね。でもそういう攻撃って大抵はハイリスクハイリターンな大技みたいなところあるよね。ゲームで言うならMPを凄い消費するとか、使ったら一ターン休みになるとか。強いけどそうポンポンとか使えない、使い所が限られる攻撃……みたいな?』

『むぅ……』

『あとは広範囲攻撃を得意とする技もだね。猫一匹いないようなだだっ広い平野にいるのがヴィランだけだったら好きなだけ繰り出せたり出来るよ? でもそんなヒーローに都合のいい状況はまずあり得ないと考えていい。大抵は周りに民間人がいて、民家がある。そんなところに全てを滅却しちゃう攻撃なんて撃てない』

『ご、ご尤もです……』

『なら何が一番なのか。それは──"どこから来るか、どうやって来るかが分からない攻撃"なんだ。──後ろのソレみたいにね?』 

『後ろ……? ッ、これはッ、ホークスの『剛翼()』……!?』

『いつのまにとばしてたんですか?』

『今しがたさ。君たちの死角から、そっとね。要は個性の使い方が重要ってこと。ヴィランからすれば、ねこちゃんが前に見える。でも本当は後ろにいる。後ろにいると思った瞬間には、横にいる。攻撃したと思ったら、それは幻。本物の攻撃は後ろから飛んでくる……ってな感じでね。戦場でこんなことやられたらプロでも混乱するよね』

『そのとおりです』

『戦法は個性の数だけ無限にあるんだ。型に嵌まった戦い方だけが戦いじゃない。だから──俺を超える事が出来るように、頑張ってね』

 

 実体と幻体を入れ替えて敵を翻弄しながら攻撃を仕掛ける──今その戦法がステイン相手に刺さっていることに、井戸守は確かな確信を得ていた。

 一方で口元から滴る血を見向きもせずに、ステインは思考をフル回転させていた。

 

 

(ハァ……矢継ぎ早に現れるこいつの個性……『テレポート』の個性か? いや、違う……これはそんな単純な代物でない……だが、何だこの違和感は……?)

 

 

 "視界の内側"から現れたような移動をテレポートと結論づけたと同時に、ステインはこの女に見覚えがあった。

 障害物競走ではテレポートを使って四位を記録。その後のトーナメント戦では一回戦敗退に終わった女生徒だ。

 一切のラグもなく移動出来る個性は強力。だが、当の本人は感情の起伏が薄く、正面からぶつかれば一撃で沈むような華奢な身体からは戦闘センスを一ミリも感じさせない。

 昨今の若者にありがちなミーハー気分でヒーローを目指したであろう学生。それが現時点における井戸守評。

 ──そのはずだった。

 

 

(確かに俺はこの女を斬った……だが、手応えがなかった……。外した? いや、確かに当たったはず……)

 

 

 何かがおかしい。

 思考よりも鮮明に感じた直感──ヴィランとしての本能がステインの背筋を冷たく撫でた。

 

 

 ──こっちですよ、"ひーろーごろし"。ねこはここにいます。ねこです。よろしくおねがいします

 

 ──こっちもねこですよ。よろしくおねがいします

 

 

 背後からした声に振り返ってみれば井戸守がいた。しかも二人。

 それだけじゃない。背後から、横から、前から、足元から、建物の陰から、入れるはずのない隙間から──ありとあらゆる場所からねこです。の視線と声がやって来る。

 ステインを除いて今この場にいるのは4人のはず。だというのにそれが10人にも、50人にも感じ始め、いつしか数十人単位のねこはいますの群衆で取り囲まれているように錯覚し始めた。よろしくおねがいします。

 

 

「ハァ、なるほど……変わった個性だな…分身の個性か……? いや、この手応えの無さは……間違いなく実体を伴わないものだ……。こうもはっきりと姿形がありながら、ハァ……()()()()()……となると──」

 

 

 しばらく考える素振りを見せるステイン。

 それを見た緑谷は『今の内に救援を……!』と井戸守に忠言しようとしたが、時間にして僅か数秒経った所でステインは顔を上げた。

 

 

「……なるほど……! 幻惑の類……! 騎馬戦のあれはそういうことか……! ハァ、合点がいった……! しかもテレポートと幻惑の複合個性とは……!」

 

「……おみごとです。ねこのとりっくをあばいたのはあなたがはじめてですよ、すていん。ですが、ほんもののねこをあてられますか?」

 

「ハァ……愚問だな」

 

 

 井戸守の挑発にステインはそれだけを溢すと、目に見える範囲の全ての『ねこ』を観察し、再度何かを考えるような仕草を見せると──その視線は()()()へと向けられた。

 

 

「どれだけ幻覚を創り出せるかは知らんが……コレだけの数がいながら何故かさっきから俺を攻撃してるのは一体のみ……。つまり……この幻惑は見せ掛けのもの。一発当たるだけでも雲散する……脆く、儚いだけの……文字通りの幻……」

 

「──」

 

 

 ステインの言う通り、彼が見ている井戸守は水晶体内に存在するだけの幻だ。攻撃を受けることはないが、こちら側から攻撃することも出来ない、ただの虚像なのである。

 

 『看破された』──そう井戸守が驚いているとステインは倒れてる三人を一瞥する。

 

 

「俺を倒すことより、そいつらを守ることを重視してるお前が側を離れるような真似などしないはず……。よって……ハァ、そいつらに一番近いお前が本体だ……」

 

「──!」

 

 

 幻惑に出来るのはどこまで行っても陽動のみ。矛にも盾にもなれない以上、緑谷達を守ることが出来るのは本体である井戸守当人だけ。

 ステインは長年血の海を渡り歩いてきた狂信者としての経験則と推察力、直感を以てして目の前の"異常"の正体を導き出すに至ったのだ。

 

 

「……おみごとです、すていん。が、ねこがわかったところで、ねこのおくのてはそれだけではありません。それに──えんぐんとうちゃくです」

 

「なんだと……? ──ッ!!」

 

 

 直後、路地裏に炎が吹き荒れる。

 全てを溶かしてしまうような強烈な猛炎。しかし、その勢いとは裏腹に周囲の建物や小物。横たわる三人や井戸守などには当たらないようにステインだけを燃やさんとする"意思ある焔"には大胆ながらも繊細な炎捌きが感じられる。

 その炎に緑谷と飯田はどこか見覚えがあった。

 

 

「……緑谷。こういうのはもっと詳しく書くべきだ。

 

 ──遅くなっちまっただろ」

 

 

 轟の到着に井戸守は笑顔に似た無表情を見せた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……また増援か……」

 

「轟君……!?」

 

「何で君が……!? それに…左……!」

 

 

「何でって……それはこっちの台詞だ。ヒーローがこんなところに来るなんて答えは一つだろ」

 

 

 左に炎を灯しつつ、右では氷の幕が張り始める。

 その二つの色が交わる場所に冷静ながらも確かな決意があった。

 

 

「一括送信で位置情報だけ送られてきたからな。それがお前からとなると──『ピンチだから応援を呼べ』ってことだろ? 意味もなくそういう事する奴じゃねぇからな、お前は」

 

 

 右足から伸びた凍てつく氷膜が路地裏の地面を這うように一瞬で広がっていく。

 やがてそれは氷塊の壁と化し、ステインに迫るが当の本人は難なく避けて後退する。代わりに倒れた三人を氷で捕らえるとそのまま巨大な坂を構成。次に彼らの足元目掛けて炎をけしかけると三人は滑り台を滑るようにして轟の元へと転がっていった

 

 

「数分もすりゃあプロも到着する。それまで俺等で凌ぐぞ、みど──っと、井戸守もいたのか。お前も緑谷のチャットを見て来たのか?」

 

「ええ。とどろきくんこそ、ちかくでしょくばたいけんしていたんですか。しりませんでしたよ。

 

 ──それと、みどりやくんたちをたすけてくれてありがとうございます。ねこはねこがいますいがいできないねこなので、たすけるしゅだんがありませんでした。よろしくおねがいします」

 

「気にするな。同じクラスメイトだろ?」

 

 

 体育祭の時とは違った、何かが剥がれ落ちたような柔和な態度の轟に井戸守はギョッとした表情を浮かべた。猫で言うところのフレーメン反応である。

 

 

「……とどろきくん。わるいものでもたべました? なんかへんですよ?」

 

「……? 昼に蕎麦食ったけど、別にどこも悪くねぇよ。もしかしてお前……蕎麦アレルギーなのか?」

 

「いえ、ねこにあれるぎーとかありませんよ?」

 

 

 どこか噛み合わない二人に緑谷は忠告する。

 

 

「轟君! 井戸守さん! そいつに血ィ見せちゃダメだ……! 多分血の経口摂取で相手の自由を奪う個性だ……! 皆やられた……!」

 

「なるほど。だからはものですか」

 

「厄介な個性だな。だが俺なら距離を保ったまま──ッ!?」

 

 

 飛んできたナイフをすんでのところで避ける轟だが、回避行動直後のため身動きが取れない姿勢だ。そこを突くようにステインが地面を滑るような低姿勢で一気に踏み込んできた。

 

 

「しまっ……!」

 

「そうはさせませんよ」

 

「(っ、幻惑か……なら無視し──いや、違う……! テレポートか……!)」

 

 

 まるで二人の間に割り込むように、尚且つ斬撃を阻害させる位置に出現した井戸守を前にステインは踏み込みの勢いを殺さざるを得なくなる。

 

 そこへ迸る氷の槍。

 態勢を立て直した轟からの援護射撃だ。当たりこそしなかったが、この狭い路地裏では決して無視出来ないものと強く印象付けることに成功した。

 

 

「ねこがすていんのきをひきます。とどろきくんはこうげきをよろしくおねがいします」

 

「わかった……だが、深入りはするなよ。奴の術中にハマっちまうからな」

 

「りょうかいです」

 

「二対一か……甘くはないな……。それに……ハァ、女の方は厄介だな……殺すのは最後にするか……」

 

 

 殺気を宿らせるステインを前にして臨戦態勢を取る轟と井戸守。そんな二人を見て、背後から声を掛ける者がいた。

 

 

「何故だ……どうしてなんだ、二人とも……! もう、やめてくれ……!」

 

 

 未だ倒れたままの飯田からだった。

 

 

「兄さんの名を継いだんだ……! 僕がやらなきゃいけないんだ……! 僕が、そいつをッ……!」

 

「……継いだのか。それは別にいいんだけどよ」

 

 

 チラリ、と一瞬だけ横目を向ける轟。彼の目に映るのはヒーローの後継者というより、酷く憔悴しきっただけの一人の少年だった。

 そしてこうも思う、あれはかつての俺だと──。

 

 

「インゲニウムは俺も見たことがあるが……少なくとも、そんな顔をしてる人じゃなかった──なァっ!!」

 

 

 一度仕切り直すためにも通り道を塞ぐようにして氷の壁を作り上げる──が。

 

 

「己より素早い相手に対し自ら視界を遮る……ハァ、愚策だ」

 

「そりゃどうかな……、ッ!?」

 

「とどろきく……っ」

 

 

 両者の身に走る激痛。ナイフを当てられたと気づいた頃には既にステインは空高く飛び上がっていた。

 

 

「お前も良い……! うっ……!?」

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

「緑谷!?」

 

「なんか普通に動けるようになった! もしかしてだけど、奪える基準って──!」

 

 

 ステインの個性は『凝血』。

 血を舐めることで相手の身体の自由を最大8分奪う事が可能。奪える時間は血液型によって左右され、O・A・AB・Bの順番で少ない。ちなみに彼の血液型はB型である。

 

 だが、それが分かったところでステインの強さは変わらない。

 それどころか、三対一でありながら狩られているのは自分たちだと嫌でも理解させられる。

 まるで路地裏そのものと一体化したかの如く、影から影へ滑るように移り、三人の攻撃の隙間を縫って迫ってくるステイン。

 そんな怪物を相手に少しずつ、少しずつ攻撃を食らい、生傷を増やしていく三人を見て、ぐちゃぐちゃになった感情をさらけ出すように飯田は吠えた。

 

 

「止めてくれ……! もう、僕は……!」

 

 

「止めてほしけりゃ、立て! なりてぇもん、ちゃんと見ろ!」

 

 

 轟にそう言われ、飯田は思い出す。 自分がヒーローを目指した原点(オリジン)を。

 

『迷子を見かけたら迷子センターに手を引いてやれる。そういう人間が一番カッコいいと思うんだよな』

 

 こういうヒーロー? いや違う。これは兄の目指したヒーロー像だ。

 

『規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー』

 

 だったら、こういうヒーロー? そんな訳が無い。規律を守らず、無許可で突っ込んだヤツが誰かの手本のようなヒーローなんかになれるハズが──。

 

 

(兄さんが目指した姿から、一番遠いところにいるのが……僕だ……!)

 

 

 胸の奥がぎゅっと縮む。

 分からない、何もかも。こんな未熟者なんかに。

 

 けれど、一つだけ分かってることがある。それは──

 

 

「(ここで立たなきゃ──もう二度と、彼らにッ、兄さんにッ! 追いつけなくなってしまう……!)

 

 レシプロバーストぉ!!」

 

 

 唸りを上げたエンジンと共に立ち上がった飯田の鋭い蹴りはステインの持つ刀を真っ二つにへし折ってビルの狭間へと弾き飛ばした。

 折れた刃がくるりと回転し、路地裏の石畳へ突き刺さると同時に飯田は叫んだ──。

 

 

「俺が折れてしまって、インゲニウムを殺す訳にはいかないッ!」

 

「──論外」

 

 

 

 

 

 

 

 そこから繰り広げられたのは目で追うのが忙しいほどの密度と速度の戦いだった。

 だというのに優勢に立っているのはステインで、これだけの人数を相手にしてまだ諦める素振りを見せない。

 何が奴を突き動かすのか、何が奴を奮い立たせるのか。

 犯罪者の心情なんて分かりたくもないが──ただ皆を守るため、悪を挫くために彼らは死に物狂いで力を振るっていた。

 

 そんな折、『エンジン』の不調を感じた飯田。先ほどの蹴りでラジエーターが故障してしまったようだ。

 

 

「轟君! 温度の調節は可能なのか!?」

 

炎熱(ひだり)はまだ慣れてねぇが……何でだ!?」

 

「俺の脚を凍らせてくれ! 排気筒は塞がずにな!」

 

「──邪魔だ」

 

「ぐぅっ……!」

 

「飯田!?」

 

「いいから早く!」

 

 

 ステインが投げたのはさっきまで左手で握っていた全長50センチにもなる大型ナイフだ。それが飯田の右腕を貫通し、床まで深々と突き刺さる。

 

 

「防いだか……だが」

 

 

 折れたとはいえ、刀は刀。半分になった刀身でも殺傷力は十分備わっているため、ステインはそれを使って飯田にトドメを刺そうと襲い掛ってくる。

 轟が炎で迎撃しようとしてるが、ステインはバケモノ染みた反射神経を持つ怪物。今まで一発も当たってないのに、この土壇場でそれが当たると思えなかった。

 だからこそ──。

 

 

(俺がやるしかない……! があぁぁぁ……!!)

 

 

 刺さったナイフを咥えて抜くとそのまま地を蹴って加速。

 腕が、痛い。いや、腕など捨て置け。とにかく今は脚さえあればい──。

 

 

「ハァ、仕方ない……」

 

 

 ──ゾクッ。

 ステインが放つ殺気が、さらに濃くなる。

 

 

「贋物とはいえ……その諦めの悪さだけは認めよう。ハァ、だが……刺し違えてでも、()()()は殺す……!」

 

(ま、まずい……!)

 

 

 このまま向かえば攻撃を食らうのは飯田の方が早い。しかしフルスロットルで発進したためにルート変更や急停止は今更不可能。例え出来たとしても、ステインにこれほど近くまで接近出来たチャンスはもう二度来ないだろう。

 ならば、と覚悟を決める飯田。その目は死兵に似たものを感じさせる目つきだった。

 

 

(せめて……俺の命と引き換えに皆だけは守るッ……!)

 

「そのひつようはありませんよ、いいだくん。ねこにおまかせください」

 

「……!」

 

 

 飯田を守るように刀の軌道上に現れた井戸守に、ステインは内心ニヤついた。

 仕留めるべき獲物が二人も向こうからやってきたのだ。これほどの好機はない──そう思ったその瞬間。余裕気な笑みは直ぐ様崩れることとなった。

 

 真っ先に目についたのは刀の折れた先の部分。井戸守はそれをナイフのように手掴みにして切っ先をこちらに向けていたのだ。

 

 

(こいつ、俺を刺すつもりか……!? いや……まさか──)

 

「そのまさかですよ。ともだちをまもれるなら、ねこはひーろーでもゔぃらんでもかまいません。よろしくおねがいします」

 

 

──ゾクッ

 

 

(──! な、なんだこれは……!?) 

 

 

 ステインが感じたのは井戸守の殺気だ。

 それも──怒りや憎しみ、使命感や罪悪感、といった人が誰かを殺そうとするときに必ず芽生えるはずの"理由"や"感情"混じりの殺気ではなく、"殺害"という結果だけを目的とした、機械的かつ原始的な完全無欠の殺意。

 不純物が一切ない──純度100パーセントの殺意を目の当たりにしたことでステインの全身は煮え立った湯水のように震え立った。

 

 

(こ、これは人に出せるモノではない……! ば、化け物だ……! 殺らなければ、殺られる……!)

 

 

 ステインほどの修羅場を潜り抜けてきた人間が生物的本能で『退く』という行動を選んだ結果──飯田に向けるはずの刀を反射的に振るったことで──。

 

 

「──!」

 

 

 ──井戸守の右腕が切られ、宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 ザンッ、という生々しい音と共に赤い雨の中で跳ね上がる白い腕を見て、轟と飯田は掠れた声で仲間の名を呼んだ。

 

 

「井戸守ィ!」

 

「井戸守君……!? そんな……!」

 

 

 真っ赤になった石畳の上でまるで打ち捨てられた魚の如くビクつく乳白の腕は学生が見るには強烈すぎるもので二人の網膜に酷く詳細に焼き付いた。

 

 

(お、俺のせいで……!)

 

 

 飯田は反射的に手を伸ばしたが、指先が届く前に井戸守の身体は地面に崩れ落ちた。切断された右肩からは絶え間なく鮮血が噴き出し、石畳をさらに紅く染めていく。

 

 『戦意喪失』

 

 同級生が腕を失くしたことでその感情が二人の頭を支配しようと躍起になっている。

 現に轟は炎を閉ざし、飯田は無意識の内にエンジンの出力を弱めてしまおうとしていた。

 

 誰も彼もが諦めの域に入ろうとしている中──。

 

 

「かかりましたね」

 

「は……?」

 

「飯田君! 行くんだ!」

 

 

 ただ一人、井戸守の不死性を知っている緑谷だけが動いていた。

 

 『凝血』の支配下から抜け出し、フルカウルで突撃中に井戸守が斬られるのを目撃して尚、緑谷はヒーローとしての務めを果たそうとしていたのだ。

 

 

「折れたら、終わりだ! 何もかも……終わりなんだ!」

 

「(っ!!) うおぉぉぉ!!!」

 

 

 緑谷の喝に手を引かれるように、井戸守の犠牲を無駄にしないためにも、飯田は走った。

 

 唸りを上げるエンジン。

 足元から迸る爆発的な推進が狭い路地裏に白線を描き、空気ごと踏み砕くようにしてステインへと差し迫る。

 緑の稲光と化した緑谷も同様に路地裏を縫うように走る。

 

 

「デトロイト……!」

 

「レシプロ……!」

 

 

 緑谷は強化した拳を構え、飯田は加速させた脚を伸ばし──。

 

 

「スマッシュっ!!!」

 

 

「エクステンドぉ!!!」

 

 

「があ……!」

 

 

 渾身の一撃をステインに叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「気絶……してるっぽいね……」

 

「ならそこのロープで拘束して通りに出るか。念の為武器も全部外しといてな」

 

 

 いろいろげきせんだったねこです。よろしくおねがいします。

 みどりやくんといいだくんのこうげきをうけて、"すていん"はやられました。ただいまきぜつちゅうです。これにていっけんらくちゃくですね。が、しょくばたいけんはあしたもあります。おまけにねこはほーくすにおこられなくてはいけません。ので、みどりやくん。いっしょにおこられてくれませんか?

 

 

「え、えーと……ホークスに黙って来たの……? まあ、僕も人の事は言えな──あ、その腕……!」

 

「そうだった……! 井戸守君……! 早く腕の手当を……!」

 

 

 あ、これですか? そういえばきられてしまいましたね。

 えーと、うでは……あ、ありました。ねこがまだねこだったときはいたみはなかったですが、いまのねこはひとなのでいたみはあります。ので、いたいです。というか、いまいたくなりました。あどれなりん(アドレナリン)のせいですね。

 

 

「くっ……あまり持ち合わせがない……! 二人は何か救急用品を持ってないか!?」

 

「すまねぇ……! 簡単な処置しか出来ねぇもんばっかりだ……。緑谷は……?」

 

「僕も似たようなものだけど……。……ねぇ、井戸守さん。もしかしてだけど……この傷も治せたりするの……?」

 

 

 はい。なおせますよ。ねこはすごいいきものです。ので、これぐらいおちゃのこさいさいなのです。

 

 

「緑谷君は何を言ってるんだ……!? この傷だぞ……! 動かない方が良い! 今救急車を呼ぶ──」

 

 

 いいだくんはしんじてないようですね。──はい。このとおりもとどおりですよ。しんじてくれますか?

 

 

「なっ……!? 腕が……ある……!?」

 

「……どうなってやがる……?!」

 

 

 ねこはねこです。ねこはうでやあしがなくなっても、だれかのなかにねこがいればそのねこがねこになります。ので、ねこがいますかぎり、ねこはねこのままでいられるのです。

 ひーろーねこはたすけるひとがいるかぎり、けっしてまけないむてきのひーろーなのです。

 

 

「井戸守…お前……」

 

 

 どうしましたか? とどろきくん。

 

 

「お前……猫じゃなくて、トカゲの個性だったのか……?」

 

 

 ……とどろきくん、なにをいってるんですか? ねこはねこですよ。ねこのこせいは『ねこ』です。よろしくおねがいしますですよ? よろしくおねがいします。

 

 まったく。ねこのことをとかげだなんて、ねこはきずつきましたよ。このまえのたいいくさいのけんもふくめて、とどろきくんにはあまいものでもおごってもらいましょう。うん、そうです。それがいいです。

 

 さて、すていんのこうそくもおわりました。から、とおりにでましょう。ちかくにほかのひーろーやけいさつがいれば、そのままみがらをわたしましょう。

 

 

「悪かった……! 本来なら君たちを守るのが俺の役割なのに……! 完全に足手まといだった!」

 

「い、いえ……! 一対一じゃステインの個性はもう仕方ないと思います……強すぎましたし……」

 

「四対一な上にこいつ自身のミスがあってギリギリ勝てたようなもんだ。焦ってたせいで緑谷の復活時間が頭から抜けてたんじゃねぇかな。それと……井戸守のトカゲの個性も予想外だったんだろうな」

 

 

 こせいはねこですっ。よろしくおねがいしますですっ。

 

 

「──むむっ!? んなっ……どうしてお前がここにいる!? 座ってろっつっただろ!」

 

「グ、グラントリノ!?」

 

 

 いきなりあらわれた、なぞのおじいさんにけられるみどりやくん。ちょいちょい、みどりやくん。だれですか、このおじいさんは?

 

 

「何だお前は!? こいつの知り合いか!?」

 

 

 はい。みどりやくんのどうきゅうせいです。いどもりねこです。よろしくおねがいします。

 

 

「何だクラスメイトか──って、血塗れだぞ! どっか怪我してんなら手当を受けんか!」

 

 

 ねこはだいじょうぶですよ。それよりさんにんのけがのほうがひどいです。はやくおいしゃさんにみてもらいましょう。

 

 

「まったく……ガキが無茶しやがって! まあ、とりあえず無事ならよかった」

 

「ははっ……すいません……」

 

 

 と、そこへいろんなひとたちがやってきます。ようそうからしておしごとちゅうのひーろーたちです。

 

 

「エンデヴァーさんの言ってた路地ってのはここか?!」

 

「子供!? 何故……? つーか、酷い怪我じゃねぇか! おい、救急車!」

 

「おい、こいつ……まさかヒーロー殺し!?」 

 

 

 さすがはそのみちの"ぷろふぇっしょなる"。てきぱきおしごとをこなします。あとはこのひとたちにまかせましょう。ねこはめんどうなてつづきがきらいです。……うーん、ねこはつかれました。さっさとかえってねたいねこがいま──『井戸守君、緑谷君、轟君!』──いいだくん? なにかごようですか?

 

 

「僕のせいで君達に傷を負わせた。本当に済まなかった……! 僕は怒りのせいで……何も見えなくなってしまっていた……!」

 

「……僕もごめん。君があそこまで思い詰めてたのに、気づかなかった……。友達なのに……」

 

「別に気にしてねぇけど……しっかりしろよ。委員長だろ?」

 

 

 そのとおりです。ねこたちはともだちです。ともだちはたすけあうものです。ので、これからもよろしくおねがいします。しょくばたいけんがおわったら、またゆうえいであいましょう。

 

 

「……うん……! ありがと──」

 

 

「──伏せろッ!!」

 

 

 とつぜん、ぐらんとりのがこえをあらげます。

 『ふせろ』? いったいなにが──とおもっていたら、そらにゔぃらんがとんでいます。あれは……のうむ(脳無)

 

 

「ちょっ、うわぁぁぁぁ!!」

 

「っ、緑谷君!?」

 

 

 みどりやくんがつれさられました。ゆーえすじぇいのときとはちがうのうむです。いったいなにものなんです……? どうしてみどりやくんだけを……?

 

 

「マズイ……! あまり上空にいかれると俺の個性じゃ届かん……!」

 

「誰か遠距離攻撃が出来るのは!?」

 

「出来るやつは皆向こう手伝ってるよ!」

 

 

 ひーろーたちはだめです。が、ねこならみどりやくんをたすけられます。ねこならあののうむのあたまをねこでいっぱいにして──。

 

 すていん?

 

 

 

「偽物が蔓延るこの社会も──」

 

 

 

(いたずら)に力を振りまく犯罪者も──」

 

 

 

「粛清対象だ……ハァ……!」

 

 

 

「全ては正しき社会の為に……!」

 

 

 

 とびだしたのはすていんです。かくしもってたないふであたまをずぶり。のうむはおちていきます。ゔぃらんがみどりやくんをたすけた?

 

 

「子供を助けた!?」

 

「バカ、人質を取ったんだ! しかも躊躇なく人を殺しやがったぞ……!」

 

「いいから臨戦態勢を取れ! 彼を助けるぞ!」

 

「何故一塊で突っ立っている!? そっちに一人に逃げたはずだが!?」

 

「エンデヴァーさん!?」

 

 

 ほのおをふきだすおとこのひと……ほのおがとにかくすごいなんばーつーひーろー、えんでゔぁー。とどろきくんのおとうさんでしたね。きょうりょくなすけっとです。

 

 さあえんでゔぁー。ちゃちゃっとやっちゃってください。はやくみどりやくんをたすけ…『偽物め……!』──え?

 

 

「正さねば……誰かが血に染まらねば……!」

 

 

 

英雄(ヒーロー)を取り戻さねば……!」

 

 

 

「来い……! 来てみろ……偽物共……!」

 

 

 

「俺を殺していいのは……本物の英雄(オールマイト)だけだッ!!」

 

 

 

 ───。

 

 すていんはいったいなにをかんがえて──いえ、すていんはおなじことしかかんがえてません。『にせもの』、『ひーろー』、『ただしきしゃかい』、『えいゆう』、『おーるまいと』……こればっかりです。このことばばかりがあたまをしめています。ほかはいろんなかんじょうがいりまじって、よみとれません。

 

 それだけをはきすてたら……うごかなくなりました。これは……きぜつしてますね。おれたろっこつがはいにつきささってます。

 

 しばらくすると、ほかのひーろーとけいさつがやってきました。たいほされたすていん。まずはびょういんにつれていかれるようです。あれだけのけがでよくうごけたなとたいいんさんもおどろいています。

 

 が、すていんのさいごのあのことばはなんだったんでしょう。にせもの? ほんもののえいゆう? すていんはなにをつたえたかったんでしょうか……?

 

 ………。

 

 ……かんがえても、ねこにはわかりません。みどりやくんたちもわからないようです。あとあじわるいですね。とりあえずだれもしななくてよかったとあんどするねこです。

 

 というわけで、ねこでした。おつかれさまでした。

 

 

 

 

 

 

メモ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





Q.井戸守ちゃん腕を失くしたのに平然としてるけど無痛症なの?

A.普通の人間と同じように痛みは感じてます。ただ表情の変化が乏しいのと、少しばかり思考回路が人間とは違うので痛覚(からの)悶える、顔を顰める、声に出す、などのリアクションをしないだけです。言うなれば矢印の部分が繋がってないのです。



・ヒーローねこの技 
 『ねこだまし』
 幻覚を使って相手の視界内にねこを出現させ、敵を撹乱させる技。使い方としてはケミィの『幻惑』同様にデコイだが、幻惑と違う点はねこがいるのは水晶体或いは角膜付近のため、観測は出来ても攻撃を当てることが出来ない。

 『ねこまたぎ』
 曝露者の中心視野外(目のピントが合わない処)に『ねこがいる』という観念を植え付けることで『ワープ』という形で現実を改変する技。移動距離に限界はないようで、曝露者がいれば地球どこでも移動出来る。弱点は曝露者がいないとワープが出来ないこと、移動先が第三者に見られている場合はワープが不可な点である。これとテレポートを兼用すれば敵は攻撃を当てることすら困難になる。

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