「ねこです。こせいは"ねこです。よろしくおねがいします"」   作:エルルーン

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二話 ねこはこせいはあくてすとちゅうです。

 

 

 

ピピッ『3秒04』

 

(むうっ……やはり50メートルじゃ3速までしか入らないか)

 

 

 短距離が仇となり、思うように力を発揮することが出来なかった飯田天哉は不満げながらにコースから外れると残りのクラスメイトが走るのを観戦することにした。

 

 

(まさか入学後も受験のようなことをさせられるとは……さすがは雄英。試験の次がまた試験とは、プロヒーローになれるのはほんの一握りというわけか。次は──あの時の子(麗日お茶子)とさっきの女生徒か……)

 

 

 次のレースを走るのは麗日と井戸守。重力に関する個性持ちの麗日にとって50メートル走は個性の恩恵を生かしづらい種目のため、平凡な記録になることだろうと飯田は睨んでいた。

 問題はボール投げ記録21メートルという不振な記録を叩き出してしまった猫耳の少女、井戸守ねこ。

 一見、猫科の動物系と思わしき個性のようだが、先ほど一緒に走った蛙吹と同じように四足走行なら5秒台。能力次第では5秒を切ることも不可能ではないだろう。

 

 何にせよ、飯田がここまで井戸守に目を向けるのは他に理由があるからだ。

 

 

(あの実技試験で次席をとるとは……一体どんな個性なんだ……?)

 

 

 『次席』。

 文字通り、首席に次ぐ2番目という意味合いを持つ言葉だが、この雄英高校ヒーロー科においてはその意味がとてつもなく重いものとなる。

 何せ、日本全国のヒーロー志望の受験生が最も集まるのがこの雄英高校だ。毎年の受験生は1万人。その倍率は300倍。受験戦争としては国内最難関と言っても過言ではない。

 その中で2番目の成績──次席をとるというのは彼女、井戸守ねこがどれだけ優秀かを表すには十分な言葉だ。

 だというのに──。

 

 

(あまりそんな感じには見えないが……)

 

 

 人を見た目で判断など不品行以外何物でもないが、飯田から見て井戸守ねこという少女はどこか抜けてる感が強い少女だった。

 ボール投げの不振な記録も気にせずに投げ終わったその後は群衆の中に戻って何もないところをじぃーと見つめて時間を過ごしたり、男子生徒(尾白猿夫)の尻尾を目で追っていたりとマイペースと言うか、自由気ままと言うか、色んな部分で猫っぽい少女というのが感想だ。

 

 だからこそ次席という肩書きが不釣り合いに思えてしまい、そんな思いを払拭させたいがためにも井戸守に対し期待を抱いていたとも言えよう。

 そう考えてる内にいよいよスタート寸前だ。

 

 

(さあ、次席の力を見せてもらおうか──

 

 

『スター──ゴール!』

 

 

 ……なっ……!?」

 

 

 飯田は何が起こったのか分からなかった。クラスメイトも、相澤も、遠くの陰からこっそり見ていたオールマイトでさえも、今何が起こったのかなど理解出来た者は皆無だった。

 ただ一つだけ言えるのは井戸守ねこがA組最速の記録を叩き出したという事だけだ。

 

 

『計測不能』

 

 

 走行記録と呼ぶにはあまりにも速すぎる結果に相澤は端末機器の故障すら疑った。しかし、その目に映った光景がそれを否定する。

 スタートからゴールまでの距離をほんの一瞬で移動するなど、もはや瞬間移動の個性としか言い表しようがなかったからだ。

 

 

「……速すぎて計測不可か……。おい井戸守。どんな手を使った? お前の個性は確か──」

 

「はい、ねこのこせいはねこです、よろしくおねがいします。どんなてですかって? ねこはねこです。ねこはかけっこがとくいなのです。えっへん」

 

 

(かけっこだって? あれがかけっこなら僕の走りなんて牛歩もいいところじゃないか……!)

 

 

 得意な競争で負け、滲み出る悔しさ。だが、それ以上に胸中を支配したのが高い壁(井戸守ねこ)を越えたいという対抗心だった。

 

 

 ──Plus Ultra(更に向こうへ)、か……。

 

 

 相澤が伝えたかったことが何となくだが、分かりかけたような気がした飯田であった。

 

 

 

 

 

 

 

 こんにちは。ぼーるなげではだめだめだったねこです。よろしくおねがいします。

 21めーとる? なにしてるんですかねこは。このままじょせきしょぶんされたいですか? いやですよ。ねこはゆうえいにいたいです。います。

 

 ので、50めーとるそうではほんきをだしました。

 みんながねこをみてました。だれもごーるをみてませんでした。ねこはくらやみにもいます。しかいのそとにもいます。ので、ねこはごーるにもいます。いることになります。かんたん。

 

 

「計測不能って……よ、よく分からないけどスゴイよ井戸守ちゃん! クラストップの記録だよ!」

 

 

 うららかさんにほめられました。ねこはうれしいです。おもわずにやけます。

 みんながねこをみています。みんなねこをみてわいわいしてます。

 

 

「まじかよ! 井戸守やべーな! くそっ! 俺もうかうかしてられねェな!」

 

「走ったようには見えなかったが……それであの記録とは一体どんな個性なんだ?」

 

「猫の個性かと思ったけど、違ったのかしら?」

 

 

 ねこはちゅうもくされてます。ほんかいです。ねこみょうりにつきます。

 ねこはやりました。50めーとるそうはねこがいちばんです。いぇーい。

 

 さて、このちょうしでつぎのしゅもくもがんばります。がんばるねこです。よろしくおねがいします

 

 

 

 

 

 〜握力測定〜

 

 

 あくりょくそくていですか。ねこはねこです。ねこにあしはありますが、てはないです。ので、あまりじしんないです。でも、がんばります。

 

 ……んにゃッ。

 

 ……ねこはひりきです。ひりきなねこです。

 

 記録25キロ

 

 

 

  

 〜立ち幅跳び〜

 

 

 これはかんたんです。50めーとるそうとおなじやりかたでかちます。いちいいただきです。

 

 ……だめです。みんながねこをかこうようにみます。すなばがちいさいです。ちいさいのでねこのいないところをみないです。これではねこできません。

 とりあえずとびます。 

 

 ……まあまあなねこでした。

 

 記録280.23センチ

 

 

 

 

 〜反復横跳び〜

 

 

 これはふつうにとびます。ねこはねこなのでねこらしくとびます。みぎ、ひだり、みぎ、ひだり──。

 

 ……あしがつかれました。

 

 記録78回

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 ……ぜんぶのてすとがおわりました。

 てごたえがあまりないねこです。よろしくおねがいします。

 

 これからけっかはっぴょうです。あいざわせんせいのまわりにみんなあつまります。ねこもあつまります。あつまったらおじろくんのしっぽをみます。え?『俺の尻尾、そんなに面白いかな……?』って? どうでしょう。ねこなのでめがはなせないねこはいます。

 

 

「んじゃ、パパっと結果発表するか」

 

 

 うんめいのしゅんかんです。

 

 ねこはあのあともがんばりました。が、ねこはひりきなのでじょうたいおこしはだめだめでした。へいぼんなきろくです。

 

 ちょうざたいぜんくつはばっちりでした。ねこはねこです。ねこのからだはやわらかいです。ので、からだをぺたっとあしにくっつけることができます。でも5 いでした。なんです、あの1いのぽにーてーるのひとは。てからぼうがでたんですが。くやしかったねこです。

 

 でもじきゅうそうではかちました。

 ぽにーてーるのひとはばいくをつかってはしろうとしてました。が、ねこはどこにでもいます。みんながすたーとちてんにいたおかげでねこはごーるにいてました。ねこが1いでした。

 

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 

 たんまつからほろぐらむがでます。けっかは……ねこは4い! ねこは4いです! 

 ねこはじょせきしょぶんではありません。が、みどりやくんがさいかいです。びりっけつはゆうえいからさよならしなくてはなりません。ねこはかなし──『ちなみに除籍はウソ。君達の最大限を引き出すための合理的虚偽だ』……は? 

 

 うそ? うそっていいました?

 

 ……ねこはきれました。きょうしがうそはだめです。このうそつききょうしめ。このかりはさんばいにしてかえします。かえすねこです。

 

 とりあえずだれもいないしません。よかったです。よかったねこです。よろしくおねがいしました。

 

 ……にゅうがくしき、おわってます。たのしみにしてたのに、ざんねん。

 

 

 

 

 

 

 

 『合理的虚偽』と嘯いて生徒らを教室へ帰らせた後、同じように職員室へ帰途中の相澤の脳裏に浮かんだのは井戸守ねこに対する疑念感だった。

 実際に相対してみた感想としては色んな意味で掴みどころがない奴だとは思う。だが、それ以上に気になったのが井戸守の個性である。

 

 

「──井戸守ねこ。個性は『()』、()()()()()()()()()()、か……」

 

 

 猫耳や尻尾といい、猫の個性らしく見た目からして愛くるしい要素を含んではいる。だが、井戸守の個性にはそれ以上の武器とも言える()()()が秘められているとヒーローとしての直感が囁いていた。

 何せ、手元の端末には猫の個性と呼べるような証左など何も映していないからだ。

 

 

 『井戸守ねこ 持久走記録 計測不能』

 

 

(計測不能ってことは小数点第2以下の記録ってことか……。今までやってきたテストの中じゃダントツ……規格外の速さだ。如何に身体能力に長けた動物系の個性と言えど、ここまで速すぎる記録は見たことがない……)

 

 

 計測不能の結果を出すには1500メートルを最遅でも0.009で走る必要がある。この地球上にそんな速さで移動する事が出来る猫──いや、生物が果たしているだろうか。

 いるわけがない。光速で走る猫など、どこにも。

 

 

「……オールマイトはどう思われます?」

 

「えっ!? 何でいるってわかったの!?」

 

「……その図体で隠れてるつもりだったんですか?」

 

 

 校舎陰から出てきたのは入学式を途中で抜け出してきたであろうオールマイト。彼は茶目っ気たっぷりに笑った後、相澤の隣に並んだ。

 

 

「コホンっ。で、井戸守少女のことだね! ……うーん、正直に言おう。()()()()()()()()()()()()。井戸守少女はかけっこが得意とは言ったが、あれはもはや走りの類ではない。テレポートと呼んだほうが良いぐらいだよ」

 

「オールマイトにそこまで言わせるとは……山田の言うダークホースってのもあながち間違いじゃなさそうだ」

 

「おっ! あの相澤君からそんな台詞を聞くなんて、明日は雨でも降るのかな?」

 

「1分1秒を争う現場じゃ、テレポート染みた移動能力を持つヒーローは貴重です。その点は評価しますよ。その他はまあ……あまり光るものはないですがね」

 

 

 オールマイトが相澤の言葉に苦笑する。確かに最終順位だけ見れば井戸守ねこの記録は圧倒的だが、それ以外は平均的記録だ。握力や上体起こしに至っては平凡以下の記録に留まり、そこに彼女の非力さが表れていた。

 

 強個性に不釣り合いな虚弱体質。このご時世珍しくも何ともない事例だが、それを差し引いてもやはりこの記録は異常と言わざるを得ない。

 

 

「相澤君。私が見るに、彼女の個性にはまだ隠された部分があると思う。本人がそれを知覚してるかしてないかはさておいてだ。鍛錬次第ではA組の中で一番化けるのは彼女かもしれない」

 

「それは今後の授業で確かめるとしますよ」

 

 

 相澤は手元の端末を操作しながらそう呟く。 

 

 瞬間的に移動する挙動にしか見えないほどに計測不能なスピード──この事から井戸守ねこの個性『()』は単に身体能力が向上するような個性ではなく、それとは別に何か特殊な原理が働いてる個性の可能性が高いと相澤は睨んだ。

 

 もしそうだとすると話が変わってくる。

 未だ謎の多い個性が蔓延る世の中だ。教導するに当たって、こちらとしてもより慎重な対応が求められる事になる。それは別に構わないのだが、今の相澤には彼女の個性がこの超常世界の物理法則とは根本的に懸け離れたモノにしか見えてしょうがなかった。

 

 

「速さもそうだが、この個性でどうやって大型仮想(ヴィラン)を倒したんだ……?」

 

「相澤君。その件についてだが……」

 

 

 相澤の疑問にオールマイトは答える。

 

 

 「つい先ほど、パワーローダーから声を掛けられてね。故障の元凶とまではいかないけど、停止理由が判明したそうだよ」

 

「理由……? なんです?」

 

 

 相澤はオールマイトを見上げ、目を細める。

 そんな彼を見て、オールマイトは少し困ったような表情を作るが直ぐにいつもの笑顔に戻してこう続けた。

 

 

()()()()()()()だそうだよ……。(ヴィラン)ロボットの演算処理能力を超える情報が入力されてしまい、フリーズしたとのことだ」

 

「……演算処理能力を超えた、情報?」

 

「うん。私はコンピューター関連に詳しくないから話の半分も分からなかったんだけど……パワーローダー曰く『頭がパンクしちまった』らしい。仮想(ヴィラン)による入試制度を設けてから初めての事例だってさ」

 

「……」

 

 

 雄英高校では毎年一万人を超える受験生を捌くためにも試験時には高度な自律型ロボットを用いている。

 生徒を篩に掛けるためのやられ役とは言えど、その性能は一流の技術者達がその技術力を惜しみなく注ぎ込んだ一級品。そしてその処理演算能力も並の機械とは一線を画している。

 それを搭載している仮想(ヴィラン)がオーバーフロー? こんな事は雄英高校始まって以来の異常事態とも言えよう。

 

 

「テストで何か詳しいことが分かると思ったんだが……振り出しに戻ったか……」

 

「まあ、まだ入学したての1年生さ。時間もまだたっぷりある。これからゆっくり分かっていけばいいんじゃないかな」

 

「……そうですね」

 

 

 腑に落ちない点もあるが、これ以上はいくら考えようとも詮無きこと。埒が明かないと考えた相澤は釈然としないままオールマイトに会釈を返し、別れの挨拶を口にするとそのまま職員室へ向かう。

 

 その道中、相澤の脳内ではある言葉がひたすら反芻していた。

 

 

(ダークホース、か……)

 

 

 相澤の脳裏でぐるぐると渦巻き、その脳内を占領するプレゼント・マイクのあの言葉。加えて井戸守ねこの様相が脳裏に()()()()()()()()仕方がない。

 それはこれから起こる波乱の前触れと言わんばかりに、相澤の心をざわつかせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねこです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねこはいます。ねこはどこにでもいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねこはおもにくらやみにいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたのめのおくにいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたまのなかにいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

メモ

 

 





 井戸守'sアイ……大きくてぱっちりしたお目々。丸いものに目がない。最近はエノコログサみたいな(尾白の)尻尾を追うのにハマってる。ここだけの話、彼女が瞬きしてるところをクラスメイトの誰も見たことないらしい。
 井戸守'sボディ……猫らしくスレンダーボディ! 
 井戸守'sイヤー……ザ猫耳。常人よりも聴力が優れてる。かなり敏感。
 井戸守'sテール……ザ尻尾。特に何かある訳では無い。

 井戸守's個性……『ねこです。よろしくおねがいします。』

 能力その1! 
 ミームを介して他人の脳内を知ることが可能! 一度ミーム汚染されれば見たことから聞いたこと、考えてることなどが丸わかりだ! プライバシーなんてへったくれもないぞ!

 ねこ「ねこです。よろしくおねがいします。みねたくん。きのうよんでたほん、なんですか? はだかのおんなのひとがいっぱいのった──」
 峰田「うわああああああっ何で知ってんだお前ェェェェェェ!!」
 
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