「ねこです。こせいは"ねこです。よろしくおねがいします"」 作:エルルーン
気がついたらお気に入り数が2000を超えました!
これも皆さんの応援の賜物です。
これからも頑張りますのでねこのことをよろしくおねがいします。ねこでした。
「いどもり、さん………?」
これは夢だ、夢なんだ──そうあってほしいと何度も心の中で思う緑谷だったが、酷く冴えた脳がそれを許してはくれず、目の前で起こった惨状をただまじまじと見つめる他なかった。
そのせいなのだろうか。覚醒した緑谷の五感は恐ろしく機敏なものとなり、会得し難い情報までもを知覚しまっていた。
耳には峰田の吐き気を伴った嗚咽が伝わり──。
肌には蛙吹の激しい動悸を感じ──。
そして目に映るのは、打ちひしがれる相澤とそれを嘲笑うヴィランたちの悪魔めいた姿。
夢でも何でもない、これは現実なのだと──緑谷はそう認めざるを得なかった
「オえッ……!」
思わず直視してしまった井戸守ねこの、地面に叩きつけたスイカのように砕け散った人頭。スプラッター映画でしかお目にかかれないような生々しい光景に、緑谷は胃酸が昇ってくるのを必死に耐えることしかできなかった。
その向こうでは手だらけのヴィランが大笑いしていた。
「はははっ! ざまぁねぇなイレイザー……! 雄英の教師がッ、ヒーローがッ! 生徒一人すら守れないなんてよ! なんて無様なんだ……!」
ヴィランが井戸守の遺体を足蹴にする。
やめろ、
「………」
「なあ、教えてくれよイレイザー。生徒を目の前で失うってのはどんな気分なんだ? これセーブデータが吹き飛んだようなもんだろ? 俺なら死にたくなるね」
そう言いながら相澤の顔を覗き込もうとするヴィランは悪魔を通り越して死神のようにも見え、緑谷は怒りを憶えた。
生徒を逃がすために一人殿を務めた相澤を侮蔑するなんて許さない──そうは思っても体が震え、一歩も踏み出すことが出来ず、ただ時間だけが過ぎていく。
行動か、傍観か。その二択が脳内で巡りまわっている最中、ヴィランの横にあの黒い渦が現れた。
「死柄木弔……」
「黒霧か。そっちはどうだ? 13号と他のガキ共は殺れたのか?」
「……申し訳ありません。13号を行動不能にしたはいいものの、散らし損ねた生徒が数名……その内一人に逃げられました……」
「は? 黒霧お前……。はぁ──、お前がワープゲートじゃなきゃ粉々にしたよ……」
死柄木と呼ばれたヴィランは気が立ってるのか、爪で皮膚が裂けるのも厭わずに掻きむしる。
だが、黒霧に向かって相澤と井戸守の姿を顎で指し示すとこれまたいい笑顔を浮かべた。
「……まぁいい。こっちは女生徒一人を殺った。見ろよ、あれ。頭ミンチだせ、ヒデェもんだろ。脳無に歯向かったところまでは良かったが、逆に返り討ちでワンパンだ。雄英に入学したからって調子ノッてたんだろうよ」
「これはこれは……。なんて惨たらしく──見るも無残な姿ですね……」
「はっ、違いねぇ。プロヒーローは生徒を守れず……生徒は犬死に。天下の雄英が聞いて呆れるよ。あとはオールマイトを殺せりゃ完璧なんだが……さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。今回はここまでにするか。帰ろうぜ」
(かえ、る……?)
僕らの日常を壊しておいて……担任をこんな目に遭わせておいて……クラスメイトを殺しておいて……何の責も負わず、帰ろうと言うのか?
(……許さないッ!)
「──が、その前に」
頭に血が上り、憤怒で全身が湧き上がったところで──死柄木がこちらを見た。
嫌な予感が悪寒となって緑谷の身体を突き走る。そう感じた時には、死柄木はすでに目の前まで来ていた。
「あと二、三人は殺っておくか……!」
「───!」
蛙吹の顔面に迫る死柄木の掌。無我夢中でOFAを繰り出そうにも一拍遅れ、死柄木の指先はそのまま蛙吹の顔に──
触れそうになったところでその凶行を止めたのは
「がぁはッ……!!??」
「死柄木弔!?」
顔に触れる直前、突如現れた脳無の剛腕が死柄木へと刺し穿たれ、彼の細身の身体は宙へと舞った。
黒霧がワープゲートを展開し、受け止めていなければ死柄木はそのまま地面へと叩きつけられていただろう。それもあって死柄木は黒霧に礼を言うより先に怒りの矛先を脳無へと向ける。
「くっそッ……何しやがる脳無ッ!! イカれちまったのか、あぁ!?」
「お待ちをッ……死柄木弔! 貴方、腕がッ……!?」
「離せ黒霧! このポンコツめッ……飼い主に楯突こうってのか、えぇ?!
防御し損ねたのだろう。あらぬ方向へ曲がった死柄木の腕を見て黒霧は酷く心配するが、当の本人はそれ以上に脳無の異常行動が気掛かりのようで痛みをかき消すほどの怒声で責め立てた。
しかしどこ吹く風と言わんばかりに上の空の様子の脳無に死柄木は再度青筋を立てながら吼える。
「二度は言わねぇぞッ! 脳無ッ、あのガキ共を殺れッ!!」
死柄木の命令が響くや否や、脳無は地を蹴った。
オールマイトを彷彿とさせる力強い走りに緑谷達は身構える。だが──。
「「「うわぁぁぁぁッ!!??」」」
その剛腕は緑谷達にではなく、広場にいたヴィラン達へと襲いかかったのだ。
突然の乱逆行為に緑谷達だけではなく、ヴィランらも理解が追いついていない様子。彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ回るが、それよりも先に脳無の手によってぶちのめされていった。
「や、やめろッ!? 俺は雄英生じゃね…ぐわあぁぁっ!!」
「どうなってんですか死柄木さんッ!! 俺たちは味方なのに……!」
『それはこっちが聞きてぇよ……!』と死柄木は青筋を立てながら吐き捨てるが、その顔には困惑が表れていた。
思い描いた計画を頓挫にされた挙句、
「クソッ、クソッ、クソッ……!
「危ないッ!!」
再度、脳無に襲われる死柄木だったが、既のところでワープゲートに引きずりこまれ、難を逃れる。
だが、九死に一生を得た死柄木など眼中にないと言わんばかりに脳無は四方八方を駆け巡り、暴れに暴れて、広場にいた雑兵達を全滅させたところで──助けを乞うように死柄木の方を見た。
「───」
声帯がないのか、人語にもあたらないようなうめき声を上げる脳無。
その手振り身振りとした振る舞いから何かを伝えようとしているようだが、その肝心の
「────」
伝達を諦めたのか、脳無は頭を地面に叩きつけ始める。
一度ぶつける度にコンクリートの床が捲り上がるほどの力で何度も何度も叩きつけ──その肉体が傷つくことも厭わず、脳無は自傷行為を繰り返す。
辺り一面の床がクレーターだらけになったところで、その次に脳無は剛腕を振り回す。
周囲の空気を掻き混ぜるかの如き挙動はまるで
やがて落ち着き、その場に立ち尽くす脳無──。かと思いきや、何かを怯えるように今度は自身の眼窩に指を突っ込み、目を抉り始める。
しかし、その身に宿る『超再生』が損傷を許さず、眼部は抉った処からみるみる再生してしまう。
されど、怪物の手は緩むことなく、再生したところをすり潰すように再びほじくり返し──そしてまた再生する。
その後も、抉っては再生し。抉っては再生。抉っては再生を繰り返し──。
その行程が2桁に達したところで伝達も、抵抗も、逃避も、もはや意味をなさないと悟った怪物は──。
「───!」
剥き出しになった大脳及び頭部に両腕を叩き込むことで、不死身の肉体を自らの手で終わらせたのだった──。
◆
『──もう大丈夫! 私が来たッ!!』
数えきれないほど聞いた──その頼りになるはずの名台詞もこの時ばかりは恨めしく聞こえてしまい、オールマイトに対して謂れのない怒りを向けてしまう。
いや、違うッ! こんなの逆恨みじゃないか。オールマイトは助けに来ただけだ。オールマイトは何も悪くない。悪いのは……悪いのは……。
いくら考えようと、ヴィランという答えが出なかった。
『チッ、ここまでか……。あのボンクラめ……帰ったらぶっ殺してやるッ……!』
オールマイトが来たことで分が悪いと察したのか、死柄木達は仲間を置き去りにしたままワープゲートへと姿を消していった。
この時、動き出していれば二人を捕まえられたかもしれなかったのに。いや、それよりもあの時井戸守を止めていれば彼女は死なずに──。
……詰まるところ、何もかもが遅すぎたのだ。
「い、ども、り……」
「相澤先生……」
顔面の穴という穴から血を流し、へし折れた腕で這い上がろうとする相澤を後ろから支える三人。
井戸守の遺体に近づけば近づくほど、その惨状に三人は目を反らしてしまうが、相澤だけは片時も目を離さなかった。
「井戸、守……」
特徴的だった白髪や猫耳は血で紅く染まってしまい、その美しさはもはや過去のもの。今となっては見る影もない。
そうさせたのは誰なのか。こうなったのは誰のせいなのか。
誰かにそう聞かれた訳でもないのに、四人の肩に後悔としてのしかかった。
「井戸守ッ……すまない……!」
流れ落ちる涙。
相澤にとって身近な誰かを失うのは……これで二度目なのだ。
「井戸守……!」
井戸守の遺体に手を置く。ねこの身体はとても冷たく、そして硬い。死後硬直が始まってるのだろう。ねこはいますクラスの奴らに、彼女の旧知になんて言えばいいのかねこはここにいます。
──は、い、ねこです。
──は…?
──な、んですか?
──ん……?
──ねこですよ? よろしくおねがいされました
『いどもりねこです。よろしくおねがいします』
そう言っていつも通りの目を向ける井戸守の姿に、四人は情けない声を上げる他なかった──。
◆
「相澤君! 遅れて済まない! むむっ、緑谷少年! それに蛙吹少女に峰田少年も! 君達も無事かい!?」
「オールマイト……うわっ!」
相澤は三人を引き寄せると『俺の話に合わせろ』と耳打ちし、加えて『井戸守の事は他言無用だ、いいな?』と強く念押しする。
理解が追いついていない緑谷らはとりあえず頷くしかなく──今度は井戸守に向かって『お前は怪我人だ。大人しくしてろ』と言い放つと改めてオールマイトの方へと向き直った。
「俺は大丈夫です……しかし、井戸守は頭を強く打っている可能性があります」
「何だって!? そいつは大変だ! 待ってくれ、今ストレッチャーを持ってくる!」
オールマイトが取りに戻ったところで井戸守が『いえ、ねこはなんともありませんよ』と健康体であることを訴えたが、相澤の『怪・我・人・だッ、いいなッ』という凄みを前に彼女は『……はい』と尻尾を丸めて項垂れるだけだった。
(なんともない? いやそんなはずは……。だって頭を潰されて血まみれになった井戸守さんがさっきまでそこにいまままいませせんん血がががないいいねこはここにいますすよねこをみろみろろねねねここはここにねこをいますをみるなななみるななねこを
みないほうがいいですよ
「待たせたね! さっ、ここに井戸守少女を! 何をしてるんだい相澤君、君もだ! 事後処理は私達に任せて君も病院へ……!」
ストレッチャーを持って戻ってきたオールマイトと雄英ヒーロー達の迅速な行動によってUSJ内のヴィラン残党は一掃され、相澤と井戸守は屋外に待機していた救急隊に引き渡される運びとなった。
しかし病院嫌いなのか、井戸守はその間ずっと『いきたくないです』『ねこはここにいます。みんなといます』と言い続け、救急隊の人達を困惑させてたので最終的にはミッドナイトの個性『眠り香』によって昏睡した状態で搬送されていった。
全てが終わって尚、最後の最後まで緑谷達は理解が追いついていないままだった。
Q、脳無は何で死柄木を攻撃したの?
A、全てのイエネコが『ねこ』として認識されるように、雄英ヒーロー&A組生徒以外の人間が『井戸守ねこ』に見えるようになったので片っ端から殲滅しようとしていた。
Q、井戸守ちゃんが生き返ったけど、不死身なの?
A、不死身というよりはリポップかと。
ねこ(実体)が終了したので主体がミームのねこに移動。その後、四人の中(この場合は相澤)にいるねこ(ミーム)が『ねこはいます』をした事で現実にも『ねこがいる』状態となり、実体を帯びた『井戸守ねこ』が再出現した。