現代日本において、名家と呼ばれる所を出身とする者達は存在する。彼らは幼い頃から優れた教育を受けその能力をもって高い地位を築き上げる。
しかし、その存在は時に人に畏怖されその者達に孤独を味合わせる。また、幼い頃から優れた結果を求められ、その兄弟、従兄弟といった家族とさえ競争し続け、果てには精神を摩耗させる故に彼らは一般人では全く理解できない悩みをもつことが多い。
西園寺白夜もその一人である。
彼は西園寺家長男であり、歴とした次の跡取りの候補である。そして彼が当主となり目的を果たすために必要なことは明確になっている。それはシンボリ家の最高傑作にして彼が打倒すべき最大の障壁。恐らく世代最強と言われるであろう「シンボリルドルフ」をレースをもって己の育てたウマ娘に敗北を叩きつけることである。
彼は己の全てを掛けてでも当主になる理由がある。
例え、己の大切なモノを失うことになろうとも成し遂げなくてはならない。
「白夜様。準備が整いました。」
そばに控え、紅茶を入れてくれるのは己の腹心にしてこの試練を乗り越えるために己に与えられたウマ娘。
「ありがとう。ホワイト。」
これから自分が行わなくてはならないことを思えば本当に嫌になる。ウマ娘は自由に駆け回ることこそが普通だというのに、自分はその彼女を目的のために利用するのだから。
「・・・日本ウマ娘トレーニングセンター学園か。今更だが、本当にそのまんまな名前だ。」
己の働く場所も、今思うと何とも平和な名前だ。
「奇をてらう必要がないという事でしょう。」
「・・・そうだな。」
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称、トレセン学園。ここは全国各地から選ばれた屈指の強者が集まるマンモス校だ。各地で名をはせたウマ娘達が軒並みそろっている。ここでの最強は正しく日本のウマ娘の最強を意味する。
「心配事ですか?」
「いや、ただ、そうだな・・・。」
「白夜様。あなたは既にトレーナーとして結果を残しております。自信をもってください。そして、微力ながら私もお手伝いします。」
「ありがとう。だが、壁は厚い。」
シンボリルドルフ、正しく王者。幼少の記録を遡ってもその才能は天賦のモノであり、それを存分に伸ばせる家庭環境も合わさり正しく化け物と言っても過言ではない存在。
現在までのレース記録は無敗。ホワイトも何度か挑んでいるが全て惨敗である。
「大丈夫です。あなたならできます。」
「感謝するよ。ホワイト。」
「はい。白夜様。」
白夜は注いでもらった紅茶を飲みきり、静かに立ち上がった。
「行こう。ホワイト。私達がこの家を変える。」
「はい。白夜様。この足どうかあなた様のためにどうかご存分にお使いください。私はあなたの脚なのですから。」
覚悟は決まった。やるべきことなど等に定まっている。勝たせる愛馬もいる。もう迷うことなど何もない。例え、トレーナーとして間違っていたとしても、「天才」の打倒、いや、正しく「天災」の打倒だとしても、私は勝つ。
「勝つぞ。ホワイト!」
「はい!」
ホワイトウィルピーはウマ娘である。幼少の頃からその才能を買われ西園寺家で高等教育を受けてきた。
そこで彼女は運命と出会った。
その頃は、それが何というか全く分らなかったが、今ではもう何なのかは理解している。そしてこれが叶わないことも。
だとしても彼女は迷わない。己の主の夢を叶えるために。
それで、彼が笑ってくれるなら。
それで、彼が自分を覚えていてくれるなら。
それで良い。彼女にできるのはただ彼のそばで仕え、結果を残すだけだ。彼がどれだけ頑張ろうが己が結果を残せなければ意味が無い。
「天災の打倒・・・。やってやる。」
今まで舐めさせられた土の味。それを返さなくてはならない。一人のウマ娘として。そして世界一優しい主のために。
己の全てをかけて成し遂げる。それこそが私の存在理由であり、勝たなければならない全てだ。
ここにトレーナーとウマ娘の絶対に負けられない闘いが始まった。