海の狩人   作:紅涙

19 / 30


青キジの今後の動向も気になるなァ…。




狩人と氷の大将

 

 

 周囲一帯が凍りつくなか、その場所に立つ二つの影。

 

 それを離れた位置から見守るハンコック、ヤマト、キャベンディッシュ、エネル。

 

 無論、彼女達が見守る影の一つはトルコである。

 

「ロビンのもとに案内してやるつもりだったんだが?」

 

 そして、もう一つの影は海軍本部最高戦力の1人に数えられる海軍大将〝青キジ〟だ。

 

「元々はニコ・ロビンに会いに行くつもりだったのは確かだが、あの女が〝麦わらの一味〟にいるのは確かなようだし、今はそれだけわかりゃあ十分だ……が、今はあの女よりも()()()()()ができちまいやがった」

 

 本来、海軍大将が偉大なる航路(グランドライン)の前半部に出てくることは滅多になく、ニコ・ロビンという存在がそれだけ重要な案件であることは明らかだ。トルコの読みは間違っていなかったということだ。

 

 しかし、青キジはニコ・ロビンに会うことを断念すると、はっきりと口にした。

 

 20年以上もの間、政府と海軍が追い続けるニコ・ロビンが手の届く距離にいるにも関わらず、青キジが彼女よりも優先すべき重要なこととはいったい何なのだろうか…。それともニコ・ロビンを捕らえることなど簡単だと言いたいのだろうか…。普通に考えたら、海軍大将なのだからそれも納得だ。

 

 ただそれは、()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 ちなみに、普通の状況というのは、青キジが()()()()のがこの界隈に蔓延るただの海賊だった場合である。

 

「へェ……ニコ・ロビンよりも重要な案件か。

 それがいったい何なのか気になるな」

 

 海軍大将〝青キジ〟をもってしても、今この状況でニコ・ロビンを捕らえるのは至難の業。寧ろ不可能と言える。それは何故なのか……言うまでもないだろう。

 

「ッ……!

(これが五番目の皇帝。

 なるほどねェ。あのガープさんが、捕らえがいのある若造だって嬉々として語るわけだ。つっても、ガープさんだから嬉しそうにできるだけであって、おれからしたらとんでもねェ。中将達が意識持ってかれたってのも頷ける。やべェ覇気じゃないの!)」

 

 今、青キジの目の前にいるのが五番目の皇帝〝狩人〟カリュウ・D・トルコだからだ。ついでに言うならば、青キジの言うニコ・ロビンよりも重要な案件というのも、このトルコである。正確には、現在の狩人海賊団の戦力の把握と言うべきだろうか…。

 

 それもこれも全ては、トルコが青海での奉仕活動と称しエネルを下っ端(新入り)として引き入れ、空飛ぶ海賊船(方舟)〝マクシム〟を手に入れてしまったのが原因だろう。

 

 ゴロゴロの実の能力者であるエネルと方舟〝マクシム〟が政府と海軍にとって脅威であるのは明確。しかもその一味が、政府と海軍を相手に真正面から敵対し、〝バスターコール〟を二度も完膚なきまでに打ち破ったトルコ達なら尚更だ。

 

 今現時点のトルコ達の情報は少しでも多く把握しておかなければならない。それだけ、トルコ達の動向は注視しておかなければならないということだ。それだけで、政府と海軍が如何にトルコ達を警戒し、恐れているのか伺える。

 

 懸賞金額も更新され、エネルの手配書も新たに発行されることだろう。エネルの加入によって、ハンコック達の懸賞金もどれだけ上乗せされることやら…。

 

 それ以上に、トルコは五番目の皇帝としてますます悪名(勇名)を高めることになるだろう。四皇達に比べると、狩人海賊団の規模はあまりにも小さい。だが、個々の力が非常に高く、それでいて皆が若く、まだまだ発展途上なのだ。船長のトルコがその中でも一番若く、伸び代が計測不可というのも、狩人海賊団が恐れられる所以でもある。

 

「せっかく案内してやろうと思ったのに、他に用事があるってんなら仕方ない。まァ、赤犬が相手じゃないってのが残念なとこだけど、今日のとこはアンタで我慢しとくか」

 

 そう……トルコはまだまだ発展途上。

 

 五番目の皇帝と呼ばれ特別視されるのも、これから先どれだけ成長するのか予想がつかないからだ。周囲に与える影響力も未知数。これまで知られていなかったのが不思議で仕方ないエネルという存在が新たに加わっていたように、この先また厄介な存在がトルコの下に集うはずだ。

 

「若いってのは羨ましいと同時に恐ろしいもんだな。

(あと10年もしたらどんな怪物になってることやら…。いや、1年後ですら手に負えない怪物になってるんじゃねェか?)」

 

 男嫌いで有名な〝海賊女帝〟ボア・ハンコックが惚れ込み、百獣のカイドウの娘である〝氷狼〟ヤマトが付き従っているのもその証拠。

 

 海軍最高戦力に数えられる青キジですら、この2人を相手にするのは骨が折れるだろう。なんせ、この2人とも覇王色の覇気の開眼者だ。ハンコックもヤマトも、覇気の扱いに長けているのも大きい。

 

 この2人に比べて、キャベンディッシュと青キジが先ほど戦ったエネルは実力は下だが、それは今現時点でのこと。この先どこまで強くなるかは想像するだけ恐ろしいだろう。元々、キャベンディッシュは努力することなく億超えの賞金首になった剣術の天才だ。その天才が努力し、トルコ達に揉まれたらどうなるか…。トルコの部下になった彼の成長速度は凄まじいものがある。いずれは、〝剣聖〟と呼ばれるに至る可能性を秘めているのだ。

 

 エネルに至ってはその能力の厄介さだろう。もし、ゴロゴロの実の能力が覚醒したら…。まさに天災そのもの。今の実力ですら、青キジの目から見て、エネルの懸賞金額は5億ベリーは下らない。広範囲の見聞色の覇気も厄介だ。今ですら厄介なエネルがキャベンディッシュ同様にトルコの下で成長し、覚醒にまで至ったらどうなるだろうか…。

 

「頭が痛いどころじゃねェな……ったく!

━━〝アイス(ブロック) 暴雉嘴(フェザントベック)〟!!!

 

 今、政府と海軍にとっての頭痛の種はトルコと彼が率いる狩人海賊団で間違いない。恐らく、革命軍以上に危険視し、排除すべき脅威のはずだ。

 

「やっぱり氷はいいな。

 俺は暑いのよりも寒い方が得意だし、夏よりも冬が好きだからな!

━━〝伐氷〟!!!

 

 青キジもここでかたをつけたいはず。

 

 もっとも、できればの話であるが…。

 

「おいおい!

(なんて斧捌きしてんのよ!おれの氷をこうも簡単に斬り取ってくれちゃって!

 だったらいったん身動きを封じるしかねェか!)

━━〝アイスBALL(ボール)〟!!!

 

 トルコは刀剣を扱えず、剣士でこそないが〝大剣豪〟の愛弟子。斧による斬術は青キジの氷ですら防ぐのは容易ではない。未だに、トルコが鷹の目の弟子なのは知られていないようだが…。

 

 とにかく、トルコの斧術を身を以て味わった青キジは、まずはトルコの身動きを封じるべく氷の塊に閉じ込め、次の一手を打つべく……だが、それも所詮は猿の浅知恵。

 

「心地好い寒さだ!!」

 

 トルコは、ハンコックからプレゼントされた悪魔の実を食し能力者になった。そして、その能力は身体能力だけではなく覇気をも増強してしまう汎用性の高いものだ。

 

「!

()()()()()で破りやがった!

 つかそれ、まるでガープさんじゃないの!!コイツ、ガープさんとの戦いで多くを学んじまってねェか!?)」

 

 何よりもトルコが恐ろしいのは、若さ故の吸収力。いや、これはもう本人の持って生まれた才能なのだろう。強大な覇気に能力が通じないのをトルコは〝海軍の英雄〟ガープとの戦いで目の当たりにし、それを今実戦で披露してみせたのだ。

 

 ガープとの戦いでは、ヤマトがトルコを手助けすべくガープを凍結させるも、ガープはそれを過剰な覇気で打ち破ってみせた。今のはまさにその再現だ。

 

「次はこっちから行くぞ青キジ!

 受け取れェ!!

━━〝斬伐流転(ざんばつるてん)〟!!!

 

 続いて今度は、ガープの〝拳骨(ゲンコツ)流星群(りゅうせいぐん)〟が斧の斬撃の嵐になったようなもの。

 

 きっと、青キジは今、ガープと戦っているかのような、そんな錯覚に陥っていることだろう。

 

「これだから皇帝は!

(ガープさんアンタ!厄介な敵を育てやがってもう!)

━━〝氷山壁画(アイスバーグミューラル)〟!!!

 

 自身の半分も生きていない若者が海軍の英雄の全盛期を彷彿させようとはなんと恐ろしいことか…。しかもその力は明確に、政府と海軍に牙を剥いている。唯一の救いは、犠牲を厭わない正義を掲げた海兵以外……罪なき一般市民を犠牲にしてまで正義を執行するような真似はしない海兵には、敵意を向けていないことだろう。

 

 誰よりも平和を願うトルコだからこそ、きっちりと線引きをしているのだ。

 

「おーさすがだ!

 自然(ロギア)系はやっぱり規模が凄いな!」

 

 ただ、海軍大将〝青キジ〟の掲げる正義は〝だらけきった正義〟で、日頃の本人の様子からもやる気の欠片も見られないが、実際は寛容さを持った正義を掲げており、青キジは罪なき一般市民の犠牲なく正義を遂行する穏健派だ。

 

 本来なら、トルコが進んで敵対する側の海兵ではない。

 

「やってくれるじゃないの!

━━〝氷柱(アイシクル) 弩砲(バリスタ)〟!!!

 

 ならば何故、トルコは青キジと戦うのか…。

 

 恐らく、トルコは敢えて青キジの思惑通りに動いている。この場合、青キジの思惑とはトルコ達の戦力の把握だ。

 

「弓使いに対して、巨大な氷柱を矢のように放ってくるなんて、アンタ見かけによらず負けず嫌いか?

━━神箭・鏑〝流星雨(りゅうせいう)〟!!!

 

 そして、これは牽制でもある。

 

 青キジの当初の目的であるニコ・ロビンにおいそれと近づくことができなくなったのもそうだが、これは政府と海軍に対するトルコの忠告だ。

 

 初めてバスターコールを打ち破り、海軍の英雄に傷を負わせ逃げ切った当時ですらたったの3人だった。そこにハンコックを仲間に加え、二度目のバスターコール破り。これだけでも五番目の皇帝と呼ばれるに相応しいが、さらにここに来てエネルの加入と空飛ぶ海賊船による空路の確保。

 

「ガープさんから聞きはしてたが、斧だけじゃなく弓矢の腕まで……マジで怪物だな。

(内部破壊の覇気で分厚い氷を内側から粉々にされちまった。コイツが存在することで、三大勢力から四大勢力になっちまうんじゃねェか?)」

 

 海軍大将を相手に、牽制を兼ねてここまでの力を見せつけられてしまっては……警戒を強める一方で、今後トルコ達に迂闊に手を出すことはできない。

 

 寧ろ、空路という移動法を得たことで、トルコ達の移動の速さが格段に上がったことで、海軍のお株を奪うかの勢いで、一般市民に危害を加える海賊達は次々と駆逐されることだろう。過激派の海兵達も同様だ。

 

 この世界の均衡が大きく変わろうとしている。

 

 強ち、青キジの見解は間違っていないのかもしれない。トルコ達を部類分けした場合、彼らのこれまで起こした事件の数々を考えたならば、海賊よりも〝革命軍〟寄りだ。

 

 そう考えた場合、トルコと彼が率いる狩人海賊団と革命軍が新たな勢力と位置付けられ、世界四大勢力となるのではないだろうか…。現に、政府と海軍はまだ把握できていないようだが、トルコ達と革命軍は同盟関係にあり、五番目の皇帝と世界最悪の犯罪者が与える影響力は凄まじいだろう。

 

「ふぅ……さすがは海軍最高戦力の1人。

 けど、赤犬とは大違いだ」

 

 とはいえ、トルコ本人は自身が世界の均衡を保つ勢力の一角になることを望んではいない。彼はあくまで、己の手が届く範囲の人々を助けたいだけ。大切な者達を守り抜きたいだけなのだ。大それたことは、革命軍の総司令官の担当だ。トルコはあくまで、武力による害虫駆除担当のようなものである。

 

「あー疲れた。早く帰って寝る。

 お前らの手配書の更新は明日以降……あー、気が乗ったらやるとする」

 

「ハハハ。

 まァ、お手柔らかに頼むぜ」

 

 どうやら、トルコが進んで政府と海軍を壊滅させ、世界制覇などと大それたことをする人物ではないことを青キジも理解したらしく、今回は大人しくトルコ達の戦力の把握に徹し、深追いすることなく今この場を退くようだ。

 

 この思慮深さも、憎き仇(赤犬)と青キジを違うと判断し、そのように口にしたのだろう。

 

「青キジィ!

 今度はぼくと戦ってくれよ!」

 

「ボインのカワイイ姉ちゃんならいつでも大歓迎だ。

(ったく、コイツら……高額賞金首ってのが悔やまれるな。もしコイツらが海軍にいたなら、政府の言いなりになることなく、真の正義を掲げた海軍になれてたかもしれねェな)」

 

 もし、トルコと青キジが本気で激突した場合、どちらかは確実に死ぬだろう。それがトルコなのか青キジなのかは分からない。経験の差は大きく、青キジに分があるかもしれないが、発展途上の若さと勢いもまた侮れない。

 

 互いにそれを理解しているからこそ、これ以上の戦いは避けたのである。

 

「1週間くらい有休とってもいいくらい働いた気分だ。

 じゃあな」

 

 当初の予定とは狂っただろうが、トルコ達の戦力の把握を大方終えた為、青キジはここまでやって来た時と同様に自転車に乗り、能力で氷の道を作りながら海軍本部へと帰還するようだ。

 

 そんな青キジの背中を眺めながら、トルコは氷の上に倒れ込み一息突く。

 

「はあ……疲れた。

 やっぱ強いな海軍大将は!!」

 

 今回の戦いで、この世界には強者が多く存在することを改めて痛感した。二度もバスターコールを打ち破ってこそいるが、バスターコールと青キジ、またはガープ、どちらが強いかと聞かれたら、トルコは迷わずに青キジまたはガープと答えるだろう。

 

 ガープは例外として、それだけ海軍大将と中将の強さには差があるということだ。

 

 その大将の内の1人が、トルコの仇敵──〝赤犬〟。

 

「まだまだ強くなんなきゃな……守る為に」

 

 トルコは改めて己に誓う。

 

 守る為に強くなることを…。

 

「トルコ!

 大丈夫か!?ケガは!?わらわが身体の隅々まで確かめる故に服を脱ぐのじゃ!それに疲れたであろう!わらわが背中を流すからお風呂に入るのじゃ!」

 

「ん?

 ああ、大丈夫だハンコック。けど、今日は大人しく背中流してもらおうかな。大将を相手に生き残れたからか、なんだか……()()()()()がそばにいるのを強く肌で感じたい」

 

 ただ、トルコは気付いていない。

 

 決意を改めた反面、とんでもないことを口にしてしまったことを…。

 

「と、ととと、トルコがわらわを大切な人と…!

 わらわとお風呂に入り夫婦の契りを交わすと…!

 はぁん!わ、わらわは今生に悔いなし!」

 

 そしてそれをハンコックが盛大に、己にのみ都合良く解釈するのはお決まりのこと…。

 

「相変わらず独自解釈が凄いことになってるが、あーまァなんだ……そ、その、ハンコックとなら…」

 

 いや、これはもしやである…。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 その後…。

 

「おれの方舟〝マクシム〟は()()()ではない!!」

 

 トルコ達が別行動をしてた間、麦わらの一味達も何やら騒動があったらしく、上陸した島で出会った原住民を、離れ離れになった仲間達のもとにどのようにして送り届けるか悩んでいたところ、トルコ達が戻ってきた為…。

 

「これも奉仕活動の一環だ。

 送り届けたらロビン達とまた合流するぞ」

 

「くッ……我は再び絶対に神の座に返り咲く!!」

 

 エネルの受難は続く。

 

 






VS青キジ。

青キジのオリジナル技も書いてみました。

まだまだ熱くてやる気が出ないィ。涼しくなるかと思って青キジとの戦闘描写に力入れてみたけど無理でした。

やる気が出るご評価と感想じゃんじゃんよろしくです!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。