海の狩人   作:紅涙

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過去一で過去編が面白いというか熱い!!




狩人と天候を従える女

 

 

 二つの刃が衝突すると同時に天が割れた。

 

 ほんの一握りの強者のみが至ることができる境地であり、そのほんの一握りの強者達の衝突によってのみ起こる稀な現象──これぞまさに、海の皇帝同士の衝突だ。

 

「マーマハハハ!

 若造がやるじゃないかィ!まさか本当に()()()()()()に足を踏み入れてるとはねェ!?」

 

 それも、海賊歴半世紀以上の怪物と新時代の怪物の衝突である。

 

「お前達の領域なんて知るかよ!

━━〝覇王の権能〟!!!

 

 つまり、この戦いが意味するのは世代交代でもある。

 

 海賊王ロジャー世代の海賊が、若い世代の先頭を走る怪物に若さと成長を見せつけられるその様はまさしくそれだ。いつの世も、日々進化しているのである。

 

「ぬぅ!?

(なんだいこの覇気の使い方は!?)」

 

 斧を逆手に持った状態で指を少しばかり開くようにして手を翳し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()する。放たれる強大な覇気は相手を威圧して身動きを封じ、そのまま腕を引くことで重力をかけたかのように相手に膝を突かせ平伏させる。四皇の一角をも平伏させるとは……これを王の威厳と言わずして何と言う。

 

「な、何をしたあのガキ!!

 ママが膝を突かされただと!?」

 

 だが、この光景があまりにも異常であることは否定できない。膝を突かされているのは〝ビッグ・マム〟シャーロット・リンリンなのだ。懸賞金40億ベリーを超える世界最強の女海賊。

 

 懸賞金7億を誇るビッグ・マム海賊団幹部にしてシャーロット家長男のペロスペローが驚くのも無理はない。もちろん、トルコに驚いているのは彼だけではない。

 

「ママ、そこから離れろッ!!

(これが五番目の皇帝ッ──〝狩人〟カリュウ・D・トルコか!?このガキは危険すぎる!()()()()()()()()()()()()()()()!!)」

 

 シャーロット家の最高傑作とまで称される見聞色の覇気の達人にして、ビッグ・マム海賊団最高幹部〝三将星〟最強と謳われるカタクリですら、トルコの力に戦慄しているではないか。それが意味するのはつまり、トルコの実力が最高幹部達を遥かに凌駕し、()()()()……四皇と同等の力を有しているのが事実であるということだ。

 

 これで証明されたことになる。そして、知ることになるだろう。()()()()()()()()()()()()因縁ある百獣のカイドウにとっても、トルコは大きな脅威であることを…。

 

 これが新しい時代。

 

 皇帝ならざる五番目の皇帝の力だ。

 

「遅い!

━━〝斧慄(おののく)〟!!!

 

 斧から稲妻のように迸る強大な覇王色の覇気。

 

 それはビッグ・マムですら慄くほどのもの。身動きを封じられてしまった状態では尚更だろう。

 

「こ、このクソガキィィィ!!」

 

 断末魔のごとく響き渡るビッグ・マムの怒声。

 

 しかし、トルコはその怒声を意に介すこともなく、覇王色の覇気を纏った右手の斧を斜め上に一閃。

 

 その一撃の余波は凄まじく、近くで戦いを見守っていたビッグ・マムの子供達諸共を吹き飛ばし、足場となっている硬い氷に大きな亀裂が走ってしまう。

 

「がふッ!?

(しゅ、周囲一帯に猛威を振るう程の重い一撃ッ…!

 あ、ありえねェ!こんなクソガキとあのロックスが重なって見えやがるなんてッ!!)」

 

 斧による強力な斬撃を受けたビッグ・マムは吐血しながら吹き飛ばされ、彼女の脳裏にはかつて己の船長であった男の姿が過り、その男とトルコの姿が重なっていた。

 

 ビッグ・マムの脳裏に過ったその男は、半世紀近くも前に一つの時代を築き上げた悪名高き大海賊。ただ、悪名高すぎる故に、今ではその名を語ることすら一部で禁忌とされ、歴史から葬り去られてしまっている。

 

 その男を知る者達は、口を揃えてその者をこう呼んでいたそうだ。

 

 バカでろくでもない男……と。

 

 かくいうビッグ・マムも、その内の1人だそうだ。

 

 これだけを聞けば、トルコとその男は真反対に位置すると誰もが思うだろう。

 

 だが、戦う姿が重なってしまってしまうのは、強者だからこそなのか…。それとも、その男もまた、〝D〟の名を持つ者だからなのか…。

 

「あ、やっべ!力入れすぎちまった!

 氷が割れそうだな!?

 ハンコック!ヤマト!キャベン!マクシムに戻るぞ!これだけやりゃあ、とりあえず目的は達成したも同然だ!」

 

 それにしても、トルコも随分と海賊らしくなってきたものだ。本人は決して認めないだろうが、目的を達成したら即退散というのはまさに海賊が取る行動である。

 

「はぁん!トルコのお姫様抱っこ!わらわ幸せすぎて絶頂してしまいそうじゃ!

 それに汗を流していてもトルコからはイイ匂いしかせぬ!」

 

 そして、腕にはハンコックという世界最高の美女を抱いており、格の違いを表しているかのようだ。

 

 さすがは五番目の皇帝。

 

「カリュウ・D・トルコぉぉぉ!!

 おれがこのまま逃がすとでも思ってんのかぃ!?

━━〝天上の火雷(ヘブンリーファイアブリッツ)〟!!!

 

 ただ、相手は天下の四皇にして、世界最強の女海賊。

 

 これで終わりなはずがない。

 

 おまけに、己の半分も生きていない若造に大海賊としてのプライドを傷つけられ、それどころか傷まで負わされ、いつになくご立腹のご様子だ。

 

 マクシムに飛び乗ったトルコ達に向け、雷と炎を融合させたエネルギー砲のようなものを放つビッグ・マム。

 

 能力によって己の魂を分け与え使役する火の玉と雷雲(プロメテウスとゼウス)。これはビッグ・マムが〝天候を従える女〟と恐れられる所以でもあり、強大な力を持っている。

 

「その程度の火加減じゃ、プライムリブも焼けないぞビッグ・マム。

━━〝神箭・鏑〟!!!

 

 だからといって、トルコが恐れ慄くはずもなく、目も止まらぬ速さで矢を矢筒から抜き取り、狙いを定めることもなくトルコが矢を放つと、その矢はビッグ・マムが放ったエネルギー砲を払い除け、彼女へと突き刺さった。

 

「ぐあぁぁぁ!!

(い、忌々しい!あの()()()()()と同じようなことまで言いやがってッ!!)」

 

 神の名を冠する箭がビッグ・マムの腕へと深々と突き刺さり激痛を与える。

 

 腕を矢で射抜かれ、痛みで叫び声を上げるビッグ・マム。

 

 その光景に、ビッグ・マムの桁外れな肉体の頑健さを誰よりも知る子供達は驚愕していた。

 

 あのビッグ・マムに吐血させる程の一撃を食らわせるだけに留まらず、たった一本の矢で腕を貫いてしまうとは…。銃でも大砲でも傷つかず、槍や矢ですら簡単に弾き返してしまうビッグ・マムが射抜かれた腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべる様を見るのは初めてのことなのだろう。

 

「心臓を狙ったんだがな。

 さすがはビッグ・マム」

 

 今、ビッグ・マム海賊団の一同は、一味崩壊を迎えたかのような、絶望と驚愕が入り混じったかのような表情を浮かべている。対してトルコ達は、そんな様子など気にした様子もなく、マクシムに乗り上空から見下ろしていた。

 

「はあ……はあ……まさかここまでやるとは思ってもいなかったよ──カリュウ・D・トルコ。

 マーママママ!認めるしかないようだね。アンタは間違いなくこちら側の海賊だよ!」

 

 肩で息をするビッグ・マム。

 

 これまで、ビッグ・マムがこれ程までに追い詰められたことがあっただろうか…。大海賊時代が始まるよりも前……もしかしたら、〝海賊王〟が誕生する前にまで遡るのではないだろうか…。

 

 そう、〝海賊王〟ゴール・D・ロジャー、〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート、〝金獅子のシキ〟、〝ビッグ・マム〟シャーロット・リンリンがしのぎを削っていた伝説の時代。まるで、神々が争っていたかのような、天災級の力が常日頃奮われていた時代だ。

 

「久々に血が騒いできやがった!

 マーハハハ!これこそが血湧き肉躍る海賊の戦いだ!!」

 

 ただどうやら、トルコの放った箭が、ビッグ・マムの中で眠りについていた海賊としての本能を呼び起こしてしまったようだ。

 

「誰が海賊だァ!?

 俺は海賊じゃねェ!!」

 

 奇しくも、トルコはビッグ・マムに認められてしまった。それを喜ぶべきか、悲しむべきか…。

 

 とはいえこれで、本人の思いとは裏腹にではあるものの、トルコは名実ともに大海賊になったということだ。

 

「ますますアンタが欲しくなった!

 おれのモノになりなァ!カリュウ・D・トルコォォォ!!」

 

 ビッグ・マムが認め、強く欲するほどの力を持っていることを証明してしまったのだ。

 

「寝言は寝て言え!

━━〝大斬伐〟!!!

 

「マーハハハハハ!寝るなんて勿体ねェ!!

━━〝威国〟!!!

 

 強力な斬撃の衝突は再び天を割り…。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 白ひげ海賊団2番隊隊長〝火拳のエース〟の公開処刑が世間に大々的に発表されてから3日。

 

 世界は異様なほどの静けさを保っている。

 

 それはまさに、嵐の前の静けさだ。

 

 この3日間の間に世間を揺るがす二つの大きな事件が起きたが、事件は収束し今ではすっかり落ち着いてしまっている。普段ならば、この二つの大事件が世間を大きく賑わせ、騒ぎはまだ収束していなかったはずだ。

 

 だが、世間の関心は今、火拳のエースの公開処刑……それに伴って勃発してしまうであろう世紀の大戦に向いている。

 

 どちらが勝とうとも、世界の均衡は大きく崩れてしまう。

 

 大海賊時代の大きな転換期にして〝戦国期〟の到来。意味もなく、多くの血が流れてしまうだろう。

 

 しかし、そんな状況下で少しでも犠牲を減らすべく、世界を奔走する勢力が一つ。世界三大勢力の一角に数えられる四皇に匹敵するであろう力を持ちながらも、四皇ならざる皇帝──〝五番目の皇帝〟と恐れられる〝狩人〟カリュウ・D・トルコだ。

 

 (くだん)の大きな事件の一つにも、トルコが関わっている。四皇〝ビッグ・マム〟シャーロット・リンリンが支配する万国(トットランド)の沖にて、狩人海賊団とビッグ・マム海賊団が激突。

 

 ビッグ・マム海賊団が圧倒的に有利な多勢に無勢の戦況であったにも関わらず、嵐と地の利を得た狩人海賊団が不利な戦況を覆し、痛み分けという形で戦線を離脱することに成功した。

 

 元々、トルコの目的はビッグ・マム海賊団の進軍の阻止。火拳のエースの公開処刑に伴って起きるであろう白ひげ海賊団と海軍本部の全面戦争を機に、四皇〝白ひげ〟を討つべく動くであろうビッグ・マムの足止めがトルコの目的だった。案の定、ビッグ・マムは白ひげを討つべく動き、待ち構えていたトルコ達狩人海賊団と激突することになってしまったのである。

 

 ただ、一見痛み分けという形で終結した五番目の皇帝と四皇の小競り合いではあるが、多勢に無勢の戦況を覆し、目的を達成した狩人海賊団の勝利とも言えるだろう。

 

「人間、死に物狂いになれば案外できるもんだな。

 ビッグ・マムを相手に大きなケガもなく、全員が五体満足でここにいるんだからな」

 

 しかも、全身至る所に傷を負ってこそいるが、誰一人として欠けることなく無事ときた。上空からの援護に徹していたウタとエネルに至っては無傷である。

 

 トルコは、今回の一件で五番目の皇帝として確固たる地位を築き上げることができたはずだ。

 

 五番目の皇帝と恐れられトルコではあるが、海賊達の中には四皇には劣る存在としてトルコを見ている者達がいた。

 

 もっとも、そう思う者達がいても何ら不思議ではない。海軍の英雄と海軍大将と戦い逃げ延び、バスターコールを二度も潰しているといえど、これまでトルコが四皇と戦ったことはなかったのだ。四皇に準ずる力があると思えても、四皇に匹敵する……四皇と同等の存在とは思えなくて当然だ。

 

 ただ、それも今日までのこと。

 

 ビッグ・マムを相手にこれだけの戦果を上げたのだ。トルコに対する認識を改めるしかないだろう。寧ろ、ビッグ・マムに取って代わり、トルコを四皇の一角と考える者達も現れるかもしれない。

 

「さすがはトルコじゃ!

 ビッグ・マムと刃を交え、天を割る姿など神々しく──か、かかか、カッコ良すぎてわらわ!はあん!思い出しただけで心臓が破裂しそうじゃ!!」

 

 覇王色の覇気を持つ者同士が衝突することで起きる現象の中でも、ほんの一握りの選ばれし強者のみが衝突することで起きるのが、天すらも割る超常現象だが、ビッグ・マムとの衝突でそれを起こしたということは、つまりそういうことである。

 

「ガープおじいさんとの衝突で見慣れた光景になってたけど、四皇が相手だとまた違った迫力があって、あれは痺れたな。やっぱり凄いよトルコは!!」

 

 そもそも、覇王色の覇気の衝突による超常現象に関しては、海軍の英雄ガープとの衝突で、海軍と政府はすでに把握しており、それもまたトルコが危険視される要因ともなっていたのだ。ガープを相手に何度も逃げ延びることができているのも実力故のもの。

 

 とにかく、トルコは初めて四皇と刃を交え、試合で引き分け勝負に勝つという大きな戦果を残した。これは偉業と言っても過言ではない。

 

 以前までのトルコなら、己がどれほどの偉業を成したのか、さして興味を抱くこともなかっただろう。

 

「これで、これまで以上に女ヶ島とブルジョア王国に掲げた旗が力を発揮してくれるはずだ」

 

 今はもう、そうは言ってられない。

 

 〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートは、この大海賊時代の頂点に立つ男だ。とはいえ、白ひげも心臓一つの一人の人間。寄る年波には勝てず、今の白ひげは老いによる衰えがかなり進行している。化け物と称される男とて、海軍との戦争での戦死も可能性としてはゼロとは言い切れない。

 

 つまり、これから起こるであろう戦争は一つの時代が終わる時……白ひげの時代の終焉を意味している。

 

 大海賊時代の頂点であった白ひげの時代の終焉により、白ひげを恐れていた海賊達の動きが世界中で活発化し、世界情勢は大いに不安定となるだろう。白ひげという抑止力を失った海が、大海賊時代到来初期の動乱を彷彿させるのは火を見るより明らかだ。

 

 極めつけには、白ひげの領海(シマ)に海賊達が続々と侵攻することである。世界最強の海賊の旗は意味を失い、平穏な日々はあっという間に打ち破られ、己達がどれだけ白ひげに守られていたのかを痛感することになるだろう。

 

 大黒柱を失い、四皇の地位から転落した白ひげ海賊団の残党達もまた、崩壊の一途を辿ることになるはずだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろ?なら、白ひげに代わってぼく達のナワバリにすればいい!ぼくのプロマイドも添えたら効果覿面だ!」

 

 そして全てを奪い尽くされる。

 

 世界三大勢力の一角が落ちることで、世界に与える影響が如何に大きいか…。とはいえ、四皇が落ちるのと王下七武海が落ちるのでは訳が違う。此度予想されている大戦にて、白ひげ海賊団及び傘下含む大艦隊相手に、海軍本部と王下七武海が全戦力をもってして待ち構えているであろうことからも、それは明白だ。

 

「それはともかく、主は戦争には参加せぬのか?

 実力を示すにはそれが一番だと思うのだが…」

 

 つい最近だと、〝砂漠の王〟クロコダイルと〝影の支配者〟ゲッコー・モリアが揃って()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、これと言って然程、大きな影響を及ぼしてはいない。後者に至っては、政府と海軍が情報統制を敷いたことで、戦いそのものがなかったことにされている。クロコダイルの方も、クロコダイルの討伐や露見した悪事の数々に驚きこそすれど、世界への影響はさして大きくはなかった。影響が大きかったのは、アラバスタ王国とその近隣諸国のみだろう。

 

 四皇の1人が落ちるのと七武海の1人が落ちるのでは、それだけ大きな差があるのである。

 

「今、俺達が目を光らせるべきは戦争ではなく、戦争終結後の世界だ」

 

「よ、よかった。

 これで戦争にも参加するって言い出したら、船医として止めてたとこだよ!トルコは強いけど、昔から何でもかんでも背負いすぎ!全部をトルコが背負う必要はないんだからね!」

 

 それに、トルコはビッグ・マムとの戦いで多くを学んだ。まだ、己が弱いことを…。もし最初から、ビッグ・マムが慢心などせず、最初からトルコを同等の存在と見ていたら、結果は違っていたはずだ。今回の痛み分けという結果は、トルコを甘く見ていたビッグ・マムの慢心によるものでしかなかったのである。

 

 四皇の本気を身を持って味わったトルコには、戦争に参戦するという選択肢は万に一つもない。

 

 ただ今は、静かに傍観するだけだ。

 

 とはいえ、かつて航海を共にした仲間の行く末はさすがに気になるところ。

 

「ありがとな、ウタ。けど、歯痒いもんだな。

(願わくば……エースが無事であらんことを…)」

 

 

 






最近は読むばかりに専念してしまっていた……すみませぬ。

久しぶりですが、感想ご評価頂けたら嬉しい限りです!!
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