海の狩人   作:紅涙

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レイリーとガープ。

年取った非能力者の爺さん達は本当にカッコイイ。





狩人と囚人狩り

 

 

 時代の変換期の前哨戦──〝トットランドの海戦〟から2日後のこと…。多くの者達が不安に怯えるなか、海軍本部の〝マリンフォード〟の近くに存在する前半の海の終着点にして、偉大なる航路(グランドライン)の折り返し地点でもあるシャボンディ諸島では、またしても世界政府と海軍が頭を抱えかねない事態が起きていた。

 

 唯一の救いは、トットランドの海戦のような事態にはならないことだろう。

 

 交わる刃。

 

 実際には、その刃は触れることすらなく周囲一帯に衝撃を与え、この地の特徴でもあるシャボン玉を割ってしまう。

 

 それどころか、空を覆っていた分厚い雲すらも割ってしまったではないか…。

 

「これはまた随分と大物が出てきなさったものだ」

 

 元ロジャー海賊団副船長にして海賊王の右腕──〝冥王〟シルバーズ・レイリー。

 

 御年76歳。

 

「覇王色の覇気を纏うことができる双斧使い。

 ふふ、()()()()を思い出すな」

 

 全盛期よりも衰え、現役を退いてな尚、ほんのひと握りの強者の証ともされる覇王色の覇気を纏った剣技を扱える高い実力を持つこの男は、〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートや〝海軍の英雄〟モンキー・D・ガープ等と同様に生ける伝説だ。

 

「いきなりの非礼を詫びよう。

 あの()()()()()()()()()()()()()()が本当に四皇と並ぶのか気になっていたものでな。

 会いたかったぞ〝狩人〟──カリュウ・D・トルコ」

 

 寧ろ、シルバーズ・レイリーはロジャー海賊団の解散後は海賊稼業から引退しており、未だに賞金首ではあるのは当然のことではあるのだが、表立って目立つような行動はしておらず、今も第一線で活動を続けるガープや白ひげよりも伝説的な人物かもしれない。

 

 これ程の覇気を有していながら、全盛期よりも劣っているとは……全盛期の〝冥王〟がどれ程だったのか気になるところ。ロジャー海賊団には、海賊王ロジャーの他に突出して強い海賊が2人いたというのは有名な話だが、無論その内の1人はこの冥王のことである。

 

 その冥王までもが、トルコに一目置いていたようで…。

 

「レイリーィィィ!!

()()()()()()()()と思えば、わらわの大切で愛しいトルコにいきなり斬りかかるなど万死に値する!

 せめてもの慈悲じゃ!この脚で冥界に逝かせてやろうではないか!!

━━〝芳香脚(パフューム・フェムル)七蛇(ムシュマッヘ)〟!!!

 

 そんななか、伝説に臆することなく覇王色の覇気を纏った蹴りの七連撃を放つのは、〝冥王〟レイリーと何かしらの繋がりがあるハンコックだ。

 

「ッ──お、落ち着きなさいハンコック。

 くッ……ほ、本当に強くなったな。まさかキミまで()()()()()()()とは!?」

 

 美人が怒ると怖いのは有名な話ではあるが、絶世の美女であるハンコックが怒ると世界が震えるほどに恐ろしい。怒りのあまり、ここにきて不完全であった覇王色の覇気を纏うひと握りの強者の証を完全に習得してしまうとは、まさしく〝恋はハリケーン〟ではなかろうか…。

 

 触れることすらなく襲いかかる強力な蹴りの七連撃を難なく防いでこそいるが、怒り狂うハンコックに、冥王ですら冷や汗を流している。

 

「ハンコック、落ち着け」

 

「はい!」

 

 そんなハンコックを黙らせ、素直に従わせることができるのはこの世にはたった1人しかいない。ハンコックのこの従順さを目の当たりにすれば、それだけで冥王も納得できただろう。

 

「ふう、やれやれ」

 

 五番目の皇帝と海軍の英雄ガープの戦いの日々も、四皇〝ビッグ・マム〟を相手に引き分けたのもデマでも奇跡などでもなく、紛れもなく事実なのだと…。

 

「頼もしい若者(海賊)が現れて嬉しく思う」

 

「あ、一つ訂正させてもらうと、俺は海賊じゃないんで」

 

 ただ、トルコ本人は未だに己が海賊ではないと異議を唱えている。懸賞金20億ベリーを超える賞金首にして、新参者のウタ以外の仲間は全員が5億ベリーを超える高額賞金首。おまけにハンコックとヤマトは覇王色の覇気の覚醒者。

 

 もはや、トルコの否定に耳を傾けてくれる者はこの世界に誰一人としていない。

 

「かつてのロジャーのように幾度もガープを相手にしておきながらそれは無理があるだろう」

 

 冥王の言葉にトルコは撃沈するしかなく…。

 

 潔く認めるのも男らしさである。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 トルコ達〝狩人海賊団〟がビッグ・マム海賊団と激闘を繰り広げていたなか、別の事件がこのシャボンディ諸島で起きていた。とあるルーキー海賊による、天竜人に対しての傷害事件である。

 

 事件を耳にしたトルコも、普段ならば軽く聞き流していたはずだ。寧ろ、天竜人に嫌悪感を抱いているトルコならば、その者を褒め称えていただろう。

 

 ただ、そのルーキー海賊がトルコが気にかけている〝麦わらのルフィ〟ならば話は別だ。なんせ、麦わらのルフィ率いる麦わらの一味には、トルコが長年探し続けていた〝悪魔の子〟ニコ・ロビンが所属している。

 

 しかも、その後に麦わらの一味に起きた悲劇を聞かされてしまっては、トルコは休む間もなく動き出すはずである。

 

「悲劇を視る見聞色の覇気──〝過去視〟か…。頭に直接触れることで他者の記憶を読み取る使い手は知っているが、君ほどの使い手がいたとはな」

 

 今、トルコは麦わらの一味に起きた悲劇を視るべく、その現場へとシルバーズ・レイリーの案内で赴き、過去視を用いて確かめているところだ。

 

 ちなみにハンコックは()()()()との会話に花を咲かせているらしく、他の面々もそちらにいるようである

 

「海軍大将〝黄猿〟と七武海の〝暴君〟バーソロミュー・くまか…。とりあえず、ロビンが政府に連行されず、ルフィ達が死ななかったことを知れたのは朗報だな」

 

 2日前、トルコがビッグ・マムと激闘を繰り広げていた一方で、彼が気にかけていた麦わらの一味は完全に崩壊してしまった。事の発端は、麦わらのルフィが天竜人を殴り飛ばしてしまったからだ。理由は、天竜人が麦わらのルフィの友達を銃で撃ったからで、普通に考えたら殴られて当然と思うかもしれないが、相手は天竜人。危害を加えることは世界の禁忌とされている。

 

 天竜人に危害を加えようものなら、海軍最高戦力が出張ってくるのは当然で、ルーキー海賊では一溜りもない。

 

 近年では、トルコが同じような事件を起こしているが、トルコは例外中の例外だ。

 

 しかし、そのトルコ本人は麦わらの一味に起きた悲劇を視たにも関わらず、至って冷静な様子である。それどころか、安堵しているようにすら見受けられる。

 

 

 

『おれは…っ…仲間一人も゛…!

 救えな゛い゛っ……!!」』

 

 

 

 脳裏に過る麦わらのルフィの悲痛な叫びと姿。

 

 これは誰もが通る道でもある。

 

「己の弱さを知ったか、ルフィ。

 そうだ。強くなければ大切なモノを守ることはできない。失いたくなければ、強くなるしかないんだ」

 

 それはどこか、改めて己自身に言い聞かせているようにすら思える光景だ。

 

 この場で、王下七武海の〝暴君〟バーソロミュー・くまの能力で()()()()()()()()()()()()()()瞬間を何もできずに見ていることしかできず、己の無力さを痛感させられた麦わらのルフィの身に起きた悲劇。

 

 だが、これは同時に飛躍の時でもあり、トルコは悲観などしていない。自信に満ち溢れていたルーキー海賊達にとって悲劇であるのは確かだが、これを糧に更に強くなるまたとない機会でもあるのだ。

 

 なぜなら、彼らはまだ()()()()()()()()()のだから…。生きていれば、まだ幾らでもチャンスはある。

 

 時には足を止め、入念に準備する時間も必要だ。

 

 それはかつての、鷹の目のもとで修行に明け暮れたトルコと同じように…。足を止めた時間は決して無駄ではなく、だからこそ今のトルコがいるのだ。

 

「それにしても、まさか()()()()()()()()()()()とはな。バーソロミュー・くまに飛ばされるタイミングで、アイツの能力でルフィと石ころの場所を入れ替えたのか…」

 

 とはいえ、そのトルコでも予測できない事態というものは必ずある。トルコも人間だ。全知全能の万能な神ではない。()()()()()()()()()()()()ことで起きる嵐は予測などできるはずもない。

 

 まさか、ハンコックの後釜として七武海に加入した顔見知りが能力を駆使して麦わらのルフィを助け、七武海の地位を利用して〝火拳のエース〟が収監される大監獄〝インペルダウン〟へと赴き、麦わらのルフィをインペルダウンへ侵入させてしまうとは…。

 

「レイリーさん、ありがとうございます。

 とりあえず俺達はルフィのもとに向かいます。俺の〝ビブルカード〟を渡してあるんで、場所は分かりますから」

 

「ああ、行ってくるといい。

 〝D〟は嵐の中でこそ真価を発揮するのだから…」

 

 そこから今以上に事態が混沌を極めてしまうことも…。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 五番目の皇帝──〝狩人〟カリュウ・D・トルコは珍しく頭を抱えていた。これまで、どのような問題(騒動)にも冷静に対応してきたトルコだが、この件に関してはトルコの予想の範疇を超えていたらしい。

 

 超問題児ルーキー海賊〝麦わらのルフィ〟が、世界で今もっとも注目を浴びている人物である〝火拳のエース〟ことポートガス・D・エースの義弟であることは知っていたが、まさか義兄を助けるべく、自ら大監獄〝インペルダウン〟に侵入してしまうとは…。

 

 おまけに、大監獄を脱獄するのではなく、侵入するという前代未聞の騒動に知人が協力していようとは…。

 

「これは想定外だ。

 しかもお前がそれに手を貸すとは…」

 

 ちなみに、トルコが今いる場所は、インペルダウンから海軍本部〝マリンフォード〟へと向かう航路……そこに浮かぶ()()()()である。

 

 方舟マクシムを手に入れたことで、〝凪の帯(カームベルト)〟を気にすることなく世界の海を縦横無尽に駆け巡ることができるトルコ達狩人海賊団は、世界政府と海軍の領域にも実質行きたい放題。

 

「ダメだったか?

 政府と海軍が大慌てすると思ったんだが…」

 

「そりゃ大慌てだろうさ。

 だが、これはやり過ぎだ……()()。これを機にレベル6の囚人達が溢れ出てくるぞ」

 

 トルコ達はシャボンディ諸島を出た後、麦わらのルフィに預けたトルコのビブルカードを頼りにあとを追っていたのだが、示す先がインペルダウンであることに一抹の不安を抱きつつ急行した。その道中にて、一隻の軍艦と、その軍艦から見知った気配(覇気)を感知したトルコは、軍艦へと降り立ったのである。

 

 当然、なんの前触れもなく軍艦に五番目の皇帝が降り立ったのだから、海兵達は阿鼻叫喚の巷と化してしまった。それを煩わしく思ったトルコは、その場の指揮官だった海軍本部中将含む海兵全員の意識を覇王色の覇気で刈り取ったのである。

 

 無論、その軍艦に同乗していた〝死の外科医〟トラファルガー・ローもトルコの登場に動揺を隠せずにいた。

 

「う……だ、だが、麦わら屋が侵入したからといって、レベル6の囚人達が脱獄する事態になるとは思えねェんだが…」

 

 まさか手を貸した麦わらのルフィがトルコと知り合いだったとは、トラファルガー・ローにとって予想外である。

 

「いーや、必ず脱獄(悲劇)は起きる。

 覚えとけロー。悲劇は必ず連鎖する」

 

 しかも、混沌を極めてしまう事態に発展してしまうなど…。ローは手を貸した麦わらのルフィが周囲に与える影響力の大きさを把握しきれていなかった。

 

 Dが呼ぶ嵐の大きさを甘く見ていたのだ。

 

 おまけに、麦わらのルフィは〝海軍の英雄〟の孫で、〝反逆竜〟の息子でもあり、()()()()()()()()()()と義兄弟。これらの素性を踏まえると、引き起こす嵐は規格外となるのは火を見るよりも明らかである。

 

 もっとも、トラファルガー・ローは麦わらのルフィから火拳のエースが義兄弟であることは聞かされ、だからこそインペルダウン侵入の手助けをしたが、革命軍総司令官の息子であることや、火拳のエースが海賊王の息子であることまでは聞かされてはいなかったのだから仕方ない。

 

 これはトルコだからこそ……彼の人柄と繋がりがあってこそ、本人達が教えてくれた秘密なのだ。

 

 ただ、その秘密も間もなく全世界が知ることとなる。

 

 政府と海軍が白ひげとの全面戦争を厭わなかった理由がまさしくそれなのだから…。

 

「ロー、お前は七武海として務めを果たせ。

 念の為に数発殴って怪しまれないようにしとくか?」

 

 それはそうと、トラファルガー・ローは海軍本部へと向かい、七武海の1人として白ひげ率いる大艦隊を迎え撃たなければならず、これ以上ここに留まってはいられない。しかも、狩人と親しい間柄であることは知られてはならず、何かしらの対策を立てておかなければ…。

 

「え、遠慮したいとこだが、やり過ぎちまったことに対する謝罪として受け入れる。つっても、覇気はなしで頼む」

 

 これはトラファルガー・ローにとっての悲運である。トルコに覇気なしで数発殴られ、トルコ達狩人海賊団がその場を離れたところで気絶した海兵達を起こし、ローは海軍本部へと向かっていくのであった。

 

「インペルダウン……か」

 

 一方で、ローと別れたトルコは思い悩んでいる。

 

 もし、トルコの予想が当たっていれば、これから起きる悲劇は想像を絶するものだ。悲しいことに、悲劇に対するトルコの未来視が外れたことはこれまで一度もなく、彼が険しい表情も浮かべるのも当然だ。

 

「さて、どうしたもんかな。

 インペルダウンに俺も侵入して先にエースを奪還するか?そのままルフィも回収して……いや、そしたらここが戦場と化して逆に多くの囚人達を解き放つ事態になる可能性が高い」

 

 そして、トルコもまたDの名を持つ者。

 

 騒動の中心に、本人が意図せずして引き寄せられてしまう星の下に生まれてしまったのだろう。

 

「トルコ、わらわは何があろうともそなたに従う。

 そなたがそばにいてくれるのであれば、中枢だろうと怖くはない」

 

 幸い、そんなトルコの下に集うのは一癖どころか百癖も千癖もあるが頼りになる猛者達だ。どんな強大な嵐だろうとも共に飛び込み、共に乗り越えてくれるに違いない。

 

「ありがとな、ハンコック。

 何があろうとハンコックは俺が守り抜く。だから、どこまでも俺についてきてくれ」

 

 トルコにとってかけがえのない存在で、彼が強くあれる理由でもある。

 

「ハンコックだけじゃないよ!

 右腕はハンコックに譲ったけど、トルコの左腕はぼくだからね!」

 

「もちろんだ。

 頼りにしているぞヤマト」

 

 トルコは仲間達を心底信頼しているのだ。とくに、両翼を担うハンコックとヤマトへの信頼は厚いだろう。

 

「ちょっとオバサン!?

 抜け駆けしないでよ!!」

 

「誰がオバサンじゃ小娘ェ!!」

 

 そこに、新たにウタも加わった。

 

 無論、キャベンディッシュとエネルもトルコにとって大切で、信頼する仲間である。

 

「やれやれ。

 それで……船長、行き先は?なるべく、ぼくが目立てる場所にしてほしいのだが…」

 

「主よ、麦わらを手助けに行かなくていいのか?」

 

 トルコはこれから、その信頼する仲間達を率い、()()()()()()()

 

「しばらく待機。

 俺達には俺達の役割がある。しばらくしたら、脱走した囚人狩りだ」

 

 狩りの時間だ。

 

 

 






ハンコックの代わりは、原作でもお馴染みの終身名誉麦わらの一味のトラファルガー・ローさんです。

シャボンディ諸島でルフィがくまに飛ばされる瞬間、広大なROOMを使用してのシャンブルズでルフィを回収。麦わらの一味は、ローが嫌いな世界政府への宣戦布告をしたことからも興味を持っており、天竜人を殴り飛ばしたことから完全に気に入り、一時保護することに。保護した後、エースの処刑を知ったルフィから義兄弟であることを聞かされ、インペルダウン侵入に手を貸すことに。

インペルダウンまでの流れはハンコック同様。船室に誰も入れないようにしてルフィを匿い、ローが「ぶへーくったくった」と言わされる羽目に。

ロングコートにルフィを隠し、身体検査の瞬間にこっそりシャンブルズ。

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