海の狩人   作:紅涙

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狩人とD

 

 

 今宵、ユキリュウ島に魔王が出現した。

 

 龍の頭を装飾にした黒いハットを被り、髑髏の霊魂を数珠のように首に浮かばせ、黒い翼を生やし、ピアノの鍵盤となった四本の腕に短い二本の足。

 

「な……何だありゃぁ」

 

 見るからに悍ましく、禍々しい。

 

 あまりにもの禍々しさに、訳あってユキリュウ島を訪れたルーキー海賊──王下七武海の一角を落とすという偉業を成した〝火拳のエース〟ですら後退りしてしまうほど。

 

「くッ……な、なんつゥ()()だ!

 こ、これが()()()()()()()()()()()()()()()の覇気だってのか!?」

 

 さらに、その魔王と戦う四皇〝赤髪のシャンクス〟の凄まじい覇気に、七武海を落としたといえどまだ経験の浅い火拳のエースは膝を突き、仲間達の何人かは気絶してしまう。

 

 七武海の一角を落とし、他のルーキー海賊達に比べても破格の懸賞金を懸けられようとも、四皇とルーキー海賊では明確な実力差がある。寧ろ、比べることすら烏滸がましいだろう。

 

 なんせ、火拳のエースが生まれるよりも前から海賊として生きてきた者達なのだ。おまけに、赤髪のシャンクスは元ロジャー海賊団の見習いだったことでも有名だ。海賊王の全盛期を間近で見てきた人物でもある。

 

「お、おいエース!

 ここは一旦引き返すぞ!誰か知らねェが微かに、けど確かに感じる!赤髪以外にも()()()()()()()()がこの島にいやがる!!」

 

 そして、赤髪とは別に、強大な覇気の持ち主がこの地におり、魔王と戦っている。

 

 しかし、その覇気は強大さのわりに、まるで靄がかかったかのような、確かに感じるはずなのに不思議な感覚だ。

 

「これがッ……四皇!」

 

 この世界にたった四人の海の皇帝。

 

 目指すべき頂は遥かに遠く…。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 時はほんの少しだけ遡り…。

 

 歌の魔王〝トットムジカ〟の封印が解かれる少し前のこと。

 

 トットムジカ解放の鍵であり、トットムジカに依代とされてしまった赤髪のシャンクスの娘──ウタは当然、〝狩人〟カリュウ・D・トルコの申し出に反発していた。

 

 トットムジカが解放されたらどうなるか…。

 

「バカ言わないで!

 私が〝Tot Musica〟を歌ったらどうなると思ッ──うッ!?だ、ダメッ…時間が…もう…お、お願いだから…は…やく…わた…しを…殺し…て…じゃないと…()()…」

 

 すべてが破滅する。

 

 数年前もそうだった。

 

 ウタが手にした楽譜〝Tot Musica〟を歌ってしまい、一夜にしてエレジアは崩壊してしまったのだ。

 

 まだ四皇になる前だったとはいえ、赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団総出で戦って尚、国民が国王以外皆殺しにされてしまったことからも、トットムジカが如何に危険な存在なのか、想像に難くない。

 

 だからこそ、Tot Musicaは封印されていた。

 

 だからこそ、エレジアではTot Musicaをこのように呼んでいたのだ──破滅の譜と…。

 

 それを自ら歌い、復活させるなど常軌を逸している。狂っているとしか言いようがない。

 

「ウタ、俺を信じろ!」

 

 それでも、どんな危機的状況であろうとも、必ず救済はある。今にもトットムジカという闇に取り込まれてしまいそうなウタを光が包み込む。

 

 

 

『トルコ……助けて』

 

 

 

 ウタの本当の心の声が聴こえる。

 

「ああ、任せろ!!」

 

 その声に対し、不敵な笑みを浮かべながら、トルコは力強く返した。その表情に、声に、ウタがどれだけ安心したことだろうか…。

 

 思えば、初めて会った瞬間からそうだったのかもしれない。

 

 深い理由があったとはいえ、赤髪のシャンクスにエレジアに置き去りにされて以降、ウタは一度もエレジアから出たことがなかった。出ようとすら思えなかった。

 

 トットムジカに依代にされたことに気付いて以降、その気持ちはますます強まった。ただ、日に日に強まっていくトットムジカの力を抑え込むのも限界に近づき、自ら命を断とうと考え始めた時、トルコが現れたのである。

 

 トルコを初めて見た瞬間、ウタにはトルコが天使にすら見えていた。

 

 だから、ウタはトルコにお願いをした。赤髪のシャンクスのもとに連れて行ってくれと…。

 

 この極寒地帯をトルコに背負われて赤髪のシャンクスのもとに向かう旅路は、ウタに大きな安心感を与えた。いや、この島に到着してからだけではない。この島に到着するまでの航海の時間は、短いながらもウタにとってかけがえのないものとなっている。

 

 自ら命を断つことでしか解決しないと考えていたウタが初めて口にしたのだ。助けを求めたのである。

 

「絶対に助けてやる!

 その為に強くなったんだからな!」

 

 応えるのが男というもの。

 

 その身から放たれる強大な覇気が開戦の合図である。

 

「!

(〝覇王色の覇気〟!

 この若さでこれほどとは…。だが、なるほど……ウタが信用するのも納得だ。それに、どういうわけか()()()()姿()()()()()()見える)」

 

 そして、トルコの姿に赤髪のシャンクスも自然と頬が緩む。この緊迫した状況のなか、トルコの後ろ姿がかつてのライバルと重なって見えている。

 

 不思議と、すべてが上手くいくようにすら思えてすらいる。

 

「これも何かの縁か」

 

 それと同時に、己が最も憧れる存在が赤髪の脳裏に過っていた。その者も〝D〟の名を持っていた。

 

「やっぱり〝()〟は面白いな。なァ──()()()()()()

 

 今、()()()()と呼ばれる者が魔王に立ち向かう。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 ウタウタの実の能力者が禁忌の楽曲〝TotMusica〟を歌うことで、ウタウタの世界(ウタワールド)のみならず現実世界にも降臨する魔王。

 

 それが歌の魔王──トットムジカだ。

 

 そのトットムジカを撃退する方法はたった一つ。

 

 ウタワールドと現実世界、両方から同時に攻撃しなければトットムジカにダメージは通らず、撃退できない。

 

 厄介極まりない存在だ。

 

 だが、トットムジカを撃退すべく、自ら進んでウタワールドに入り込んだ者が一人。

 

「これがウタワールドか…。

 それにしても、ウタワールドも随分と侵食されてるな。ウタの可愛さとか綺麗な歌声から考えたら、もっと煌びやかなとこだと思ってたんだが……汚しやがって」

 

 トルコがたった一人、ウタの歌声を聴いたことで強制的に眠り、ウタワールドへと入り魔王と対峙する。

 

 当然、最初はウタも赤髪のシャンクスもトルコか一人でウタワールドに入ることに反対した。トルコがウタワールドに入るにしても、赤髪海賊団も何人かと入るべきだと…。

 

 だが、トルコは頑なに赤髪の提案を受け入れなかった。

 

 一人の方が戦いやすいと…。

 

 そして、トルコが自身の師匠が赤髪のかつてのライバルであることを告げると、赤髪は驚きつつも腑に落ちたかのように納得し、トルコが一人でウタワールドに入ることに了承した。

 

 無論、ウタは最後まで渋っていたが…。それでも、トルコに信じろと言われてしまえば、納得し、受け入れるしかない。

 

 ウタは久しぶりに声を発したとは思えないほどの美声を披露し、トルコをウタワールドへと送り込んだのである。

 

「さて、魔王狩りの時間だ」

 

 あとは、トットムジカを倒すだけ。

 

 弓矢を構えたトルコにとっては、魔王ですら狩るべき獲物にすぎない。

 

 次の瞬間、現実世界の赤髪のシャンクスの強大な覇気を感じ取ったトルコは、己の覇気と赤髪の覇気の波長を合わせ、ウタワールドと現実世界の視界を共有することに成功する。これで、意思疎通して情報を共有し、ウタワールドと現実世界の双方による同時攻撃ができる。

 

「あの歌声が喪われるのは大きな損失だ。()()()()()()()……赤髪。

 さっさとウタを解放してもらおうか!

━━〝破魔矢〟!!!

 

 孤高の大剣豪の弟子が魔王を狩る。

 

 

 






タイミング悪くシャンクスのもとを訪れたエースであった。

執筆捗るかもなので、励みになりそうな感想ご評価よろしくどうぞです!
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