四皇〝赤髪のシャンクス〟と世界最強の剣士〝鷹の目〟の弟子──〝狩人〟カリュウ・D・トルコによる猛攻。
現実世界とウタワールドの双方で繰り広げられる死闘も佳境を迎えつつあった。
「腕は四本もいらねェだろ!
━━〝
覇気で漆黒に染まった戦斧が目にも止まらぬ速さで振るわれ、魔王の四本の腕が一気に斬り落とされる。
さすが、大剣豪の弟子なだけあり、共有した視界越しにトルコの実力を目の当たりにした赤髪ですらも感嘆の声を漏らす。
「鷹の目のヤツ、しばらく会わないうちにとんでもねェ弟子育て上げてやがったな。それにしても……
ただ、トルコが刀剣ではなく斧使いであることに赤髪も疑問を抱いてはいるようだ。かつての自身のライバルである世界最強の剣士の弟子が、刀剣を扱わないのだからそう思ってしまうのも無理はないだろう。
赤髪でなくとも、トルコが鷹の目の弟子だと知った者は必ず疑問を抱くことになるはずだ。
「これで終わりだ──トットムジカ」
おまけに、弓使いとまできた。寧ろ、こちらの方がトルコにとっての本職だ。百発百中の狩人。狙った獲物は絶対に逃さず、早射ちも得意としている。
覇気を纏い漆黒の弓使いと化した矢の貫通力は鋼鉄すら容易に貫いてしまうほどだ。
「ウチに欲しいくらいだ」
これは赤髪のシャンクスの本心である。
海軍からも個々の実力が高く、バランスの取れた鉄壁の海賊団と称される赤髪海賊団には、赤髪を長年支え続ける副船長のベン・ベックマンと〝
「悪いが赤髪……俺は海賊にはならねェよ。
んなことより、行くぞ!
━━〝
見えない鎧を纏うイメージで、覇気で矢を硬化させたトルコは、その更に上の技能によって、己が放つ矢の貫通力を高めると同時に敵を内部から破壊する力を纏った矢を魔王へと放つ。
この力もまた、鷹の目に鍛えられたからこそ至れた境地。
如何なる強固な鎧とてこの矢は貫き、魔を打ち破る。
「そりゃ残念だ!
(内部破壊の覇気まで……鷹の目、おれが新しい時代に懸けた一方で、お前は力そのものを授けたんだな)」
赤髪もトルコがどう返答するのか、すでに
これだけの逸材がフリーとは実に勿体ない話だ。
とはいえ、鷹の目の弟子ならば仕方ないと理解もしている。かつてのライバルだからこそ、赤髪は鷹の目が群れることを好まないことも知っている。その鷹の目が弟子を取ったことには心底驚きはしたが、弟子もまた鷹の目と同じで群れることを好まず、鷹の目と似た境遇の持ち主なのだろうと、深く聞かずとも想像に難くない。
そして、だからこそ己の
ウタが魔王復活の鍵だったならば、恐らくトルコは魔王消滅の鍵。
「トルコ!
仲間になってくれねェのは残念だが、これが終わったら宴の仕切り直しだ!お前も付き合え!絶対にだ!
━━〝
赤髪のシャンクスが愛刀〝グリフォン〟に覇王色の覇気を纏わせトットムジカに向けて振り抜くと同時に、トルコが放った矢が突き刺さり、トットムジカが悲鳴を上げながら消滅する。
トルコの矢は、邪を払い災いを断つ。悲しみの連鎖を断つのだ。
この一件を機に、時代は確実に動き出すだろう。
娘が連れてきた男は、紛れもなく新しい時代だ。
赤髪のシャンクスは時代の移ろいをその身で、その肌で犇々と感じていた。
「ウタ、お前を苦しめる魔王はもういねェ。
だから歌え。思う存分に歌え──ウタ」
✮✮✮✮✮
魔王との死闘を勝利で終えた後…。
「だっはっはっはっは!
剣を振ったらスッポ抜ける呪いって何だそりゃァ!?聞いたことも見たこともねェよ!
だーはっはっは!」
戦いの後は宴。
これは海賊達の間では鉄則であり暗黙の了解である。
「それでよく鷹の目の弟子になれたな!?
面白ェ!だっはっはっは!!」
これを守らずして、海賊を名乗れないのだそうだ。
「うるせェ酔っ払い!
剣ぶん投げられてェのか!?俺に投げさせたら百発百中だぞ!」
「そうだそうだー!シャンクスなんて蜂の巣にしちゃえートルコ!」
魔王撃破の立役者でもある〝狩人〟カリュウ・D・トルコは海賊ではないが、トルコも宴は嫌いではないらしく、すっかり赤髪海賊団と打ち解けている。
ウタとシャンクスもすっかり元通り……になるには、まだもう少し時間が必要だろうが、止まっていた父娘の時間がまた動き始めていた。
「ウ、ウタぁぁぁ!
そりゃねェだろォ!」
海の皇帝も娘の前では情けない父親でしかない。
ただ、この光景こそ、トルコが求めていたものだ。トルコが見たかった光景だ。
家族が笑い合う。そこには嘘偽りのない温かな笑顔がある。
「ねェトルコ!
シャンクスなんて無視してもっと、トルコの話聞かせてよ!」
もちろん、トルコがいたからこそ、今この瞬間がある。トルコがエレジアを訪れなければ、決してこんな時間は訪れなかった。それどころか、もしかしたらウタは自らその命を断っていたかもしれない。
とはいえ、深い事情があったとはいえ、何も言わずに置いて行かれた娘の恨みは深い。しばらくは、遅い反抗期に手を焼くだろうが、こればかりは甘んじて受け入れるべきだろう。
「ウ、ウタ!
年頃の女の子がそんなに馴れ馴れしく男に近づいたらダメだ!男は狼だ!何されるかわかったもんじゃないぞ!」
そして、年頃の娘の
「年頃の女の子には色々あるの!
邪魔しないでよ!」
「くッ──トルコ!
ウタに手を出そうものなら……おれ達が相手をしてやる!死ぬ気で来い!!」
それでも邪魔する父親はただ空回りしているようなものだ。
「安心しろ。
俺は大人っぽい女性が好みだ」
「俺のウタが子供っぽいってのか!?
よーし斧を抜け!弓でもいいぞ!おれが相手してやる!」
空回りではない。ただの酔っ払いである。
酒は飲んでも呑まれるなとはまさにこの事。
「噂通り本当にめんどくせェな!?」
「おれがめんどくさいだと!?誰だそんな噂流しやがったのは!あ!さては鷹の目だな!?あの野郎!!」
しかし、これが海賊の宴というものだ。二日酔いなど日常茶飯事。
赤髪に絡まれるトルコも、トルコの好みの女性を聞いて己のスタイルを気にして胸の大きさを確かめるウタも、酔っ払った船長に溜め息を吐く副船長も、バカ笑いする船員達も、海賊ならではの光景だ。
「どうなってんだ?」
無論、
あれだけ悍ましく、禍々しい怪物──歌の魔王〝トットムジカ〟が暴れていたのが嘘だったかのように、皆がバカ騒ぎしているのだ。
魔王という脅威が消え去ったのを見計らい、この場所にやって来た男──〝火拳のエース〟は、ただ驚くばかりである。その後ろにいる仲間達も同様だ。
「エース、
「入りづれェよ」
宴はまだ始まったばかり。
もちろん、この者達も宴に参加することになるが、その話はまたの機会にでも…。
ウタ生存。
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