海の狩人   作:紅涙

7 / 30


鬼の子も裸足で逃げ出す?



狩人と繋がる和

 

 

 それは余興。

 

 そう、宴会の余興のはずだった。

 

()()()()()()()()()()為の模擬戦だ。

 簡単に倒れてくれるなよ──〝火拳のエース〟!

━━〝神退(かむぞく)〟!!!

 

 魔王討伐後、〝狩人〟カリュウ・D・トルコと赤髪海賊団達は宴を開いた。そこに、赤髪に挨拶に来たと、最近巷で話題のルーキー海賊〝火拳のエース〟とその一味(スペード海賊団)が現れ、その面々らも宴に加わることになった。

 

 その宴会の最中、トルコが自身と同じ歳であり、赤髪と共に魔王を討伐したと知った火拳のエースが今の己の強さを測る為に、トルコに決闘を申し込んだのである。なんでも、火拳のエースは赤髪と同じく四皇に数えられる大海賊──世界最強の海賊〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートの首を狙ってるのだとか…。

 

 要は、生ける伝説に挑む前の前哨戦ということだ。

 

 とはいえ、トルコ本人は魔王との戦闘後ということもあり、火拳のエースの申し出を一度は断っていた。無論、すっかり出来上がっている赤髪達は当然、宴会の余興に持ってこいだと、若者達の決闘だと囃し立て、トルコは渋々ながらも決闘を受けることになってしまったが…。

 

 その場のノリに釣られたウタからもお願いされてしまっては、断れるはずもなかっただろう。トルコも少しばかり酔っていたのもある。

 

「!?

(あれは……まさかおれの(〝神避〟)を自分流に改良したのか!?)」

 

 しかし、このような結果になることを誰が想像しただろうか…。さすがの赤髪も、酔っていたこともあり〝見聞色の覇気〟で()()()()()()()()()()

 

 それどころか、トルコが放つ覇気に赤髪だけではなく幹部達の酔いも一気に覚め、赤髪海賊団の下っ端達やスペード海賊団の船員達の何人かは()()()()()しまう。七武海の一角を落とす程の船長を持つ一団の船員達や、下っ端とはいえ四皇の一団に所属する者達が気絶することからも、トルコの覇気の強大さが窺える。

 

 斧に覇王色の覇気を纏わせたトルコは、火拳のエースが目で捉えることのできない速さで飛び上がると同時に一気に頭上付近にまで距離を詰め、斧を振り上げ、そのまま上段から真下へ一閃。

 

 一見して、動作は至ってシンプルなものだ。だがその一撃は、覇気を極めた先にある御業。

 

「がッ……!」

 

 たった一撃。

 

 トルコは飛び上がり、斧を振り下ろしただけ。

 

 そのたった一撃で、王下七武海の一角を落としたルーキー海賊の意識を刈り取ってしまった。

 

「あ……いっけね。見様見真似で試したら加減忘れちまった。つか、覇気の消耗が半端ないな。一発でこの有様だ」

 

 もっとも、打ち負かした当の本人は、覇気の激しい消耗で手が震えている程度である。

 

 すっかり酔いの覚めた赤髪と幹部一同は改めて痛感する。トルコが世界最強の剣士の弟子であることを…。それと同時に、トルコがもっとも得意とする得物が弓であることを思い出し戦慄し、トルコが何故〝狩人〟と呼ばれるのか納得していた。

 

 一度武器を握ってしまえば、その瞬間に狩猟の時間となり、相手は獲物と化してしまう。火拳のエースはこの男に狩られてしまったのだ。

 

「す、凄い。一撃で倒しちゃった。

 ねェ、シャンクス……トルコってもしかして、とんでもなく強い?」

 

 そして、魔王に意識を乗っ取られていたこともあり、魔王との戦いがどれ程のものだったのか、そもそもトルコが戦う姿を初めて目にした戦闘の素人であるウタも、トルコの凄さを素人ながら感じ取っていた。 

 

「本当に面白いヤツだ」

 

 その隣では、赤髪が過去を懐かしむように頬を緩めている。

 

 かつて、()()()()()()()()()()()、己も技を会得したその瞬間を思い出したのだろう。ただ、そのとある人物と火拳の間に深い繋がりがあることは複雑な心境のはずだ。

 

「あーまァなんだ……悪いな火拳」

 

 頂は遥か彼方…。

 

 

 ✮✮✮✮✮

 

 

 宴は3日続き…。

 

「本当に行っちゃうの?」

 

 出航の時を迎える。

 

 魔王〝トットムジカ〟との戦いを終え、ウタを苦しめるものはなくなった。父親との仲も修復し、これからは赤髪海賊団の音楽家として、ウタは歌い、新時代を築き上げる。

 

 ただ、ウタを本当に救った人物とは、ここでお別れだ。

 

「ああ。

 俺は世界各地を周ってるからな。次は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、俺が見て周りたいのは新世界だけじゃないんだ」

 

 トルコがエレジアを訪れ、ウタと出会い、ウタの身に起きた悲劇を知り、赤髪海賊団のもとまでやって来たが、トルコは赤髪海賊団の仲間ではない。

 

 元々、一人で航海を始め、今後も一人で航海するつもりでいる。

 

 ワノ国には、3日前の宴の余興で訳あって重傷を負わせてしまった火拳のエースが回復するまでの間という名目で、スペード海賊団の船に同乗することになっているだけだ。海賊が戦いで怪我を負うのは当たり前のことだが、トルコには海賊の掟も常識も関係ない。賞金首ではあるが、トルコは海賊ではないのだ。自身が怪我を負わせてしまった相手が、それがきっかけで死んでしまっては寝覚めが悪すぎる。

 

 どうやら、この3日の間に火拳のエースの人となりを知り、赤髪海賊団同様に自身が嫌う海賊ではないと判断したのだろう。

 

 それに、()()()()()()()()()であることも発覚したのもある。

 

 とはいえ、あくまでワノ国までのみの間だ。

 

 スペード海賊団の仲間になったわけではない。ワノ国に到着する頃には、エースの傷も癒えているはずだ。

 

 要は、自身が怪我を負わせてしまった謝罪として、エースが完全回復するまでの間、代わりに戦うということである。

 

 しかし、スペード海賊団に新たな戦力として〝狩人〟が加わったと認識されてしまう可能性は高いが……そこは広範囲の見聞色の覇気と弓の名手としての実力を遺憾無く発揮し、正体がバレぬように遠方から行動する(狩る)つもりだろう。

 

「そっか……そうだよね。

 トルコの力が必要な人達はきっと、この世界にたくさんいるんだよね。私みたいに、助けを求めてる人がいる」

 

 そうしなければ、いらぬ誤解を生む。トルコがスペード海賊団の仲間になったと認識されてしまっては困るからだ。

 

 悲しみの連鎖を断ち切る。

 

 それが、トルコの夢であり目的だ。

 

「俺やウタのような存在を……大きな悲劇を生み出さない為に、俺は強くなった。俺はその力で、一人でも多くの人を救いたい。一人でも多くの笑顔を守りたい」

 

 無論、邪魔する者には誰であろうと容赦はしない。人々を苦しめ悲劇を生み出す海賊も、正義の名を語り悲劇を生み出す海兵も、トルコの狩るべき対象だ。

 

「トルコなら出来るよ!

 だって、トルコは私を救ってくれたから!」

 

 ウタは、そのトルコが最初に救った一人だ。

 

 これまで、鷹の目と出会う前も、もしかしたらトルコによって救われた者はいたかもしれない。ただ、当時のトルコは復讐者でしかなかった。行き場のない怒りと悲しみに支配され、復讐心という衝動のままに殺戮を繰り返す空虚な存在だった。今と比べたら、雲泥の差だ。だからこそ、護る力を授け目的を与えてくれた鷹の目に、トルコは心から感謝し、師として尊敬している。

 

「本当にありがとう!」

 

「はは、感謝するのは俺の方だ。

(俺はきっと、その笑顔を見たかったんだ。

 師匠、これもあなたのおかげだ。)」

 

 心の底から笑うウタのその笑顔に、心が少しだけ晴れたような……トルコはそう感じていた。

 

「トルコ、私は私の歌で誰かの心に寄り添い、力になる。私の歌でみんなが笑顔になれる新時代を作る!」

 

 そして今、トルコは理解した。

 

 己一人では悲しみの連鎖を断ち切ることなどできないことを。心臓一つの人間一人、出来ることには必ず限界がある。

 

 それでも、トルコが救ったウタが、己の歌で誰かを救うと言ってくれたように、一人、また一人と繋がり、少しずつその和が広がっていき、その(未来)に……トルコが目指す、求めるものがあるということを…。

 

「それから……次に会う時はトルコが見惚れる大人のイイ女になってるから覚悟しておいてね!!」

 

 これから先、トルコには厳しい、過酷な試練が幾つも、多く待ち受けているはずだ。だが、それを乗り越えた先に待ち受ける世界はきっと…。

 

「!

 やってくれんじゃねェか」

 

 きっと、多くの笑顔で満ち溢れているはずだ。

 

「にしし!

 次は唇を奪ってやるから覚悟しておいてよね!なんてたって私は赤髪海賊団の音楽家──ウタだから!」

 

 彼女の歌声は、笑顔に満ち溢れたその世界を美しく彩ってくれるだろう。

 

「勝負だトルコ!斧を抜けェ!」

 

 そこには少し煩わしい赤い髪の御仁がいたり…。

 

 

 






シャンクスがキッド相手に神避した後、瀕死のキッドを見下してるシーンで、シャンクスに汗を足して、やっちまった感を出したコラ画をどこかで見たんですが、今話のトルコはまさにそんな感じです。

神退(かむぞく)
神避を見様見真似で、自分流に改良。
覇王色の覇気纏いからの、斧を上段から振り下ろす。

本来はこの字も〝かむさり〟って読むらしいです。
ここでは敢えて、〝かむぞく〟としてます。

神すら退く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。