エンデュミオンの奇蹟 -the another story- 作:Toa-Kise
雨にその長身を濡らしたステイル=マグヌスが上条宅の前に現れたのは『それ』から10分も経っていなかった。
「ステイル…!!?お前…これはどういう…っ」
突然現れたその魔術師に上条は叫ぶ。
黙ったままのステイルに再び声を荒げようとして
そこで気づく。
ステイルが背におぶった人影に
銀髪のシスターに。
「イン…デックス!?大丈夫か!!怪我は!?」
「この子なら無事だ。魔術の痕跡はないから薬かなにかで眠らされているから今日一日は目を覚まさないだろうがね」
ステイルが口を開く。
しかしその表情は苦渋に満ち溢れている。
「彼女は…鳴護アリサは、助けられなかった。これは僕の責任だ」
その言葉に、その事実に、上条は自分の心が締め付けられるのを感じた。しかし今は情報が少なすぎる。焦ったところで上条にはどうすることもできない。
静かに右の拳を握りしめ、しかし冷静に、言うべきことを、聞くべきことを紡ぎ出す。
「いや…ありがとう、インデックスを助けてくれて。礼を言っておくよ。で、だ。」
区切って、上条は続ける。
「何者なんだ、二人を襲撃したのは?お前がここにいるんだ、魔術絡みなのはわかってる。相手の目的は一体なんなんだ?」
はぁ、と
ため息をついてステイルはちらりと背負ったままのインデックスに目をやる。
「バベルの塔、というのはいくら神話や魔術に疎い君でも聞いたことくらいはあるだろう」
「あぁ…人間が神様が住んでるところを目指したっていうあれだろ」
「そうだ、そしてその結末は愚かな人間達に神の制裁が下って塔は崩壊というものなんだけれど」
「塔が崩壊?つまりそいつはその伝承を利用して何か堅牢な建物を破壊しようっていうのか?」
何らかの目的を持った魔術師がピンポイントで壊そうと考える建物。
そんなもの、科学に溢れたこの街では存在しないだろう。
ひとつを除いては。
第七学区中央、『窓のないビル』。
学園都市統括理事長の住まうその城は、この街の本丸だ。もし崩れるようなことがあれば間違いなく科学サイドはこのバランスのとれた世界から失脚する。
魔術が台頭する世界が訪れる。
そこまで考えて上条は身体を強張らせたのだが、
「いや、重要なのはそこじゃない、『神が人に罰を与えた』という物語上の事実だ」
「神が…人に?」
「その結果起こった現象ではなく、その事実関係。その事実さえあればあとは人の手で歪めることができる。それによっておこる現象を。それがたとえ、神が与える罰でさえも」
「なん…だよ、それ…」
莫大な力の渦の、その矛先を変えられる?
「まぁまず伝承通り、建物を破壊してはいおしまい、じゃあ済まないだろうね。奴がどっちに動くかが問題だが、最悪の場合少なくとも北半球からあらゆる水分が蒸発すると僕は考えている」
言葉が出なかった。
北半球が…壊滅?
血の気がさっと引いていくのが感じられる。
「嘘…だろ?事態はどこまで進んでいるんだ、俺達に残されたリミットはあとどれくらいなんだ!?」
ステイルが苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「…もうほとんどないと思っていい。僕としては今夜中に蹴りをつけるつもりだ」
今度こそ、絶句した。
視界が狭まる。
ふらふらと、身体が揺れる。
それでも必死に脳を動かし、頭に浮かんだこと、しかし今となってはどうにもならないことを叫ぶ。
「…そこまで馬鹿でかい術式ならもっと早くに気付けたんじゃないのか?もっと迅速に対処できたんじゃないのか!?」
「僕達のもとに情報が届いたのが一昨日、奴の素性と目的などを調べ上げて、今ここにいるのはこれでも最速といっていいレベルだ。そもそもの情報が、既に遅すぎた」
衝撃が大きすぎてパンクしそうな頭にステイルの言葉が続く。
「ただ一つ、安心していい。場所と敵の実態は既に把握している。今すぐに向かって、決着を付けることができる。」
場所は、上条にも察しがついていた。
バベルの塔、そう揶揄される学園都市の建造物はまず一つしかない。
上条は傍らの魔術師に短く聞いた。
今も鮮やかに蒼い光を放ち続ける尖塔を睨みつけながら。
「敵の名は?」
ステイルは煙草の煙を吐き出しながら、ぽつりと言った。
その名を。
「レディリー=タングルロード、どうやら彼女はまだ死を諦めていないらしい」
久しぶりの更新です!待ってた方なんていないとは思いますが、読んでくださった方には大きな感謝を。
前回のラストから一気にシリアスに…なってますかね?笑笑