双子カラスは迷宮時代を駆け抜ける   作:@7281mo-mu

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 リアルの方がとんでもなく忙しくなりそうなので、投稿が不定期になりそうです。
 空き時間の合間に編集を続けていくので、これからもよろしくお願いします。


虎のお姉さん(下)

 翌日の11時、私は協会本部でとある会議に出席していた。

 会議への参加者は全員、広く長いテーブルへと座っている。

 下っ端の私も、そんな長テーブルの丘山さんの隣に座っており、上司の隣ということもあって物凄く緊張しているのですが・・・。

 チラッと周囲を見渡す。

 そこには、私以外にも一般職員の中から呼ばれた人が数人いて、その全員が私同様に肩身狭そうに縮こまっていた・・・。

 

 うん、そうだよね。いきなりこんな組織の上層部の人達がたくさんいるような場所に連れて来られて、重要な会議に参加することになってビビるよね。

 よかった・・・私だけじゃなくて。

 

 現在、この会議室には、探索者協会の中でも重要な役職に就いている方々が大勢在席していた。

 その中には、どこかで見覚えのある大物政治家や、歴戦の風格を醸し出す自衛隊の制服を着た年配の男性等、元々高い地位にいたと容易に予想できる人物が出席者の半数を占めていた。

 残りの半数は、全員が私のような覚醒者で、ここには幼馴染の萌ちゃんも参加している。

 あっ、萌ちゃんが私に手を振った。

 止めて!この場でそんな緊張感のない行動しないで!?

 

 ・・・さて、そんな大物が何人もいるため、ついこの間まで就活生だった私は物凄―く緊張しているのだけど、緊張していたのは私達だけではなかった。

 

 現在、会議室全体に張り詰めた緊張感と静寂に支配されていた。

 その空気に、私達のような新米だけでなく、ほとんどの出席者が冷や汗をかいて沈黙している。

 それは、ある人物に対する畏怖であり、恐れが原因だった。

 

「時間だ、始めてくれたまえ」

 

 そう発言したのは老齢の男性。

 けれど、老いを感じさせない鋭い眼光と錆色の髪。

 そして、その場にいるだけでどんな人物であろうと、この人を“ただモノ”ではないと感じられる程の威圧感。

 この方こそが、国から推薦されて協会本部の会長となった人物、穂乃上(ほのかみ)紅蓮(ぐれん)。

 国からの推薦であるにも関わらず、誰もこの人の素性を知らないという、現代社会にてどうかと思うレベルの謎の人物。

 噂では、彼は元々後ろ黒い仕事をしていたという噂が流れているのだとか・・・。

 

 正直言って、早く帰りたい。

 私と同様にこの場へ連れてきた人は、みんなガタブル震えているし、上司の人達も普段の姿からは想像できないくらい顔色が悪い。

 何故か、唯一萌ちゃんだけは、いつも通りの顔で平然と座っている。

 なんで!?丘山さんに怒られている時はもっとビビッてたじゃん!?

 

 横をチラッと見てみると、丘山さんも会長の放つ威圧感に耐えるように顔を顰めている。

 会議を始めるように言われた進行役の人にいたっては、もう気の毒なくらいに震えてらっしゃる。

 本当に、なんで私の幼馴染が平然としているのかがわからない。

 

「そ、それでは始めまます!こ、今回の議題は、専属職員制度についてです!?」

 

 司会の方が、震えながらも己の職務をまっとうする。

 その司会の方が言った「専属職員制度」。それは、探索者をより深くサポートするための制度。

 お悩み相談やアドバイス等、探索者の方々が万全な状態でダンジョンに潜れるよう手助けするための取り組み。

 ―――そう、表向きの理由は。

 

 司会がこの制度の説明を始める。

 曰く、探索者の管理のための制度。

 曰く、有能な探索者を発見し、その人物の他国へ移ることを阻止するため。

 曰く、それと同時に、問題のある探索者を洗い出し、それらに対する対策を練るため。

 そんなことが語られた。

 

 現在の世界中で、覚醒者が出現に伴って数多くの問題が生まれてしまった。

 日本は、他国よりも“そういうモノ“に寛容であり柔軟な考えを持っていたため、表向きは安定して社会に溶け込んでいる。

 しかし、それは他の国に比べてだ。

 

 覚醒者に対して気味が悪いからと差別やイジメを行ったり、それが原因で自らに宿る人外の力を制御せずに振るい、殺傷事件を起こしてしまうという事例が起こり始めている。

 また、自らの力に溺れ、犯罪行為に手を染める人々も出始めているという。

 これでも、日本はマシな方だという事が恐ろしい。

 

「い、以上がこの制度の説明です。何か、質問のある方は挙手をお願いします」

 

 司会が「専属職員制度」について話終えた後、全体、というより会長の様子を窺っている。

 しばらくの沈黙の後、誰の反応しない中、会長はコクリと頷いた。

 その反応を見て、どこか解放されたようにホッとする司会の方。

 そんな司会の様子に対し、会長は・・・。

 

「大変、わかりやすい説明感謝する。それと、そう怯えずとも獲って喰いはせんよ。それとも、どこか調子が悪いのか?」

「い、いえ!そんなことはありません!?だ、大丈夫です!!」

「そうか、ならば引き続きよろしく頼む。だが、余り無理はするなよ」

「は、はい!!」

 

 司会の方を気遣った後、無理はするなと言って、再び沈黙する。

 ・・・もしかして、会長はそんなに怖い人じゃない?

 

「そ、それでは、次の議題に移らせて頂きます」

 

 司会の方も、先程よりも顔から緊張の色が抜けた状態で会議を再開させた。

 その時、少しだけその場の空気が和らいだような気がした。

 

 次の議題は、現在、注目するべき探索者に関する事。

 将来有望な探索者から、問題行動の目立つ探索者まで、様々な探索者について論じるという物だった。

 

「・・・このパーティは、4名の20代女性と、1名の50代男性の計5名のパーティです。全員が覚醒者であり、その内の1名が「逸話級」の覚醒者であることと、堅実な探索、それにも拘わらず、現在は9階層という進捗であることから、将来は有望であると判断されました」

「その5人の素行はどうなんだ?それと、中年男性の方は4人の女性とどんな関係だ?まさか、いかがわしい関係ではないだろうな?」

「その心配はございません。男性は件の「逸話級」覚醒者の保護者であり、娘が心配で見守るために共に潜っているとのこと。また、他のメンバーはその娘の友人とのことです」

「なら安心ですね。どこかの誰かみたいな、いかがわしい思考の持ち主ではなさそうです」

「っ!きっ、貴様ぁ!!」

 

 会議は先程と違って、意見が活発に飛び交っていた。

 御2人程、不穏な空気になっているが、会長がギロッと、その鋭い眼光を向けると、2人は争いを止めて押し黙った。

 こうして、会議はさっきとは様変わりした様子で順調に進んでいった。

 そして、ある問題児パーティの話題になった。

 

「・・・以上の8名が探索者の間で問題視されています。彼等は同じグループで探索しており、集団で他探索者に対し追い剥ぎ行為をしているという噂もあるそうです」

「この人達見たことありまーす!私の友人が悪質なナンパされたんだって。俺達は探索者だぞ~、とか脅して迷惑かけてたなぁ~」

「ちょっ!?」

 

 萌ちゃんの、普段通りの軽いしゃべり方に思わず声が漏れた。

 流石にこの場でそんなしゃべりかたしたら、怒られるって!

 隣を見ると、丘山さんのジトッとした視線を、萌ちゃんに向けていた。

 萌ちゃんが視線に気付いて顔を蒼白にする。

 

「・・・この6名には、覚醒者になる前から黒い噂がありますね。高校時代には、他生徒からカツアゲをしていたという情報もあります」

「他にも詳細は省かせて頂きますが、過去に婦女子暴行未遂で何度か問題を起こしていたとか」

「俺、この6人にイジメを受けたことが・・・」

 

 と、出るわ出るわ、悪評が盛りだくさん。

 約1名、この人達の犠牲者がいるようだが、とにかく問題のある人達であるとはわかった。

 手元に配られていた、彼等の探索者になった後の素行も、お世辞にも悪くないとはいえない事ばかりだ。

 

「では、この6名に対しての対処方法を募ります。意見のある方はどうぞ、挙手してからの発言をお願いします」

「では、まずは私から発言させて貰おう」

「ならば、次は私が発言するとしよう」

「この様なわかりやすい悪人は、ダンジョンで力を手に入れればどうなるかわからんからな。早めに対処するのがいいだろうな」

 

 このような悪人をのさばらせてはいけない、と言わんばかりに、次々と挙手する出席者の方々。

 そんな、少し騒がしくなった会議室に、威厳のある声が響いた。

 

「徹底的にその若造共を調査せよ」

 

 声の主は会長だった。

 会長の声は、まるで“鶴の一声”のように響き渡り、会議に白熱していた方々を押し黙らせた。

 または、“神からの宣託“にも思える、そんな畏怖を感じる声だ。

 

「・・・そ、それで、調査の結果、白と判断されれば」

「その時は引き続きダンジョンに潜ってもらう。だが、もし黒だった場合は」

 

 司会の方が、おずおずとした調子で会長に質問する。

 それに対して、会長は・・・

 

「潰す」

 

 たった1言、それでいて余りにも残酷に告げた。

 

「はっ?い、今なんと・・・」

「これ以上被害が出る前にそ奴等を潰すと言っている。もちろん社会的にだ。責任は私が持とう。・・・躊躇いがあるのであれば、儂にすべて任せるがいい。それで終いだ」

 

 その時・・・会長が、この人は本当に人間なのかと疑ってしまった。

 先程と変わらぬ威圧感を放ち、非情に彼等のパーティへの処遇をあっさりと下したその姿は余りにも恐ろしく・・・その姿はまるで、地獄で罪人に裁定を下す閻魔大王の様であった。

 

「いずれにせよ、こ奴等の処遇は調査の結果次第だ。これ以上こ奴等についての議論は不要である。・・・次に進めてくれ」

「―――っ!は、はいっ!・・・で、では、次にこの4名の男性で構成されたパーティについて・・・」

 

 この後、誰も問題児パーティについて話すことはなく、彼等の扱いは既に、会長が決めた通りに行わるのは決定事項となってしまった。

 誰もそのことに意義を唱えることはなく・・・いや、そもそも意見しようとも思えなかった。

 その理由は、会長という協会のTOPだからなのではなく、賄賂やコネ、派閥といった政治的な面も存在しない。

 ただ単純に、この場の誰もが不思議と会長に意見することができなかったからだった。

 

 一体、会長って何者なの・・・?

 私は、上座に座る1人の老人を見る。

 この覚醒者で溢れる世界で普通の人間と同様の姿をしているにも拘わらず、只人とはかけ離れた威風堂々とした姿、覚醒者、非覚醒者関係なく畏れる威圧感を放ち、その言の葉は不思議と心に響く力強さを感じる。

 この人は・・・本当に、私と同じ人間なのだろうか・・・?

 

 ・ 

 ・

 ・

 

 会議は進み、残すは最後の探索者となった。

 

「・・・では、本日最後の探索者です。お配りの資料25ページをご覧ください」

 

 司会の方の指示通りに、手元の資料の次のページを開く。

 それと同時に、スクリーンに2人の人物のプロフィールが映し出された。

 

 その2人は、とても美しい少女だった。

 1人は綺麗な白と黒いメッシュの入った髪の少女で、もう1人が片方とは真逆の配色の髪を持つ少女。

 2人の顔は、芸術品のように酷く整っており、それと同時に、似ていると思った。

 けれど、白の少女は目尻が少し垂れ下がっており、優しそうな印象を持った。

 対して黒い少女は少し吊り上がった目尻をしており、クールビューティーな印象を持った。

 その箇所が無ければ、お互いがどちらかわからない程に似通った容貌の2人の少女。

 だが、その少女達が覚醒者であることは一目瞭然だった。

 

 ―――翼だ。

 2人の少女の背には、鳥のような翼があった。

 片方は白、もう片方が黒という相対した色を持つ少女達。 

 その姿は、まさに天使を彷彿させる。

 そんな2人の少女に、その姿を目に映した方達は皆・・・見惚れていた。

 

「えぇ・・・この2人の名は、北豊蒼規と北豊天規。年齢はどちらも17歳で、性別は“元“男性です」

「「「男だと!?」」」

 

 え?・・・えぇーー!? だ、男性ぃ!? この子達って男性なの!?

 こんなに綺麗で・・・む、胸も私よりあるのに!!

 いや、待って。そういえば司会の方が“元“って付けていたような気が・・・。

 

「皆様の疑問は最もですが、彼らは戸籍上は男です。しかし、覚醒者へと覚醒した際に女体化してしまったらしく、現在の姿となったそうです」

「覚醒って、女体化することもあるのか・・・!?」

 

 誰かが思わずといった様子でそう呟いた。

 すぐに、ジブンの発言にハッとなって、ペコペコと周囲の人に謝り始めたが、それは無理もないと思う。

 だって、私もそう呟きそうになったから・・・。

 

「そして彼女達は現在・・・16階層を踏破し、17階層の攻略に挑んでいるとのことです」

「バカな!16階層だと!?」

 

 その報告を聞いた瞬間、自衛官らしき竜人種の方が声を荒げて立ち上がった。

 周りを見てみると、何人かの出席者が同様の反応を見せている。

 

 ・・・日本政府は、何度かダンジョンへと調査隊を送っている。

 それは、探索者協会が設立されてからも1度だけ行われており、会長を残した優秀と判断された覚醒者で行われた。

 その数は、計4回。

 そのいずれも、調査隊に大きな損害が出たことで撤退した。

 その理由は、出現するモンスターによる“数の暴力“が原因らしい。

 止めどなく押し寄せる蚊型のモンスターに、茂みや木の上から強襲するサル型、爬虫類型モンスター、そして、蚊の軍勢と共に襲い掛かる植物型モンスターが原因だったそう。

 

 1度目の調査では、10階層の洞窟のような閉所で押し寄せるモンスターの群れに苦戦し、狭い場所で容易に兵器を使えない状態であったため、10階層には到達できたものの、それまでの連戦で体力も疲弊し、物資も枯渇した状態で中鬼を突破できずに壊滅した。

 

 2回目の調査では、1回目の経験と10階層到達者の中の生き残りが持ち帰った情報によって中鬼の対策をしていたことで難なく突破。

 その後、これまでの環境から大きく一変した11階層の探索で、サル型モンスターやこれまで以上の規模の群れに苦戦し、犠牲者も出始めたということで撤退指示が出された。

 その時の探索で、ポータルという存在の確認と、その利用方法が判明した事が救いだったそう。

 

 3回目の調査も、1回目と2回目の経験を経て、増援部隊が10階層を踏破して11階層で合流した後に開始された。

 調査隊は15階層までは順調に進んでいたのだけど、16階層に足を踏み入れた時点で足を止めた。

 そこには、おびただしい程の数で構成された蚊型モンスターの群れがあったのだという。

 それを見た調査隊は、持ち込んだ重火器で焼き払おうとしたらしい。

 その結果、階層中のモンスターを怒らせてしまったのだという。

 燃え盛る森の中、自身の身体に火が付いているにも関わらず押し寄せる植物型モンスター。

 火から逃げる素振りを見せず、侵入者を排除しようとする他系統のモンスターの群れ。

 中には、巨大なカブトムシに轢き殺された隊員もいたのらしい。

 もちろん、蚊型モンスターの襲撃にも遭い、多くの死傷者が出た調査隊は撤退を余儀なくされた。

 

 4回目は、国と探索者協会が集めた覚醒者達を加えての調査だった。

 その中には、萌ちゃんや丘山さんも入っており、選ばれなかった私は彼女達を見送った。

 そして翌日、蚊の軍勢に見つからないように隠密行動をした結果、18階層まで到達できたが、そこでイービルアルラウネという植物型モンスターに見つかり交戦。

 その際に、その階層にいた蚊型モンスターに見つかって撤退したのだという。

 

 会長がいなかったとはいえ、国が総力を持って挑んだにも拘わらず16階層の突破は現段階では難しいと判断された。

 それを、この子達はたった2人で成し遂げたの・・・?

 

「その少女達の種族は」

 

 会長の声が、会議室に響いた。

 それを聞いて落ち着きを取り戻す竜人の方々。

 ・・・恐らく、動揺した人達は全員、あの調査隊に参加していたのだろう。

 確かに、自分達が犠牲を出しても成し遂げられなかったことを、華奢な少女達が成し遂げたのだから驚く気持ちはわかる。

 納得できないのだろうけど、会長の手前、大人しく引いたのだと思う。

 

「はい、白の少女がフギンで、黒い少女がムニンとのことです」

「フギン、ムニン・・・北欧の大神の使い魔であるワタリガラスの名か」

「おっしゃる通りです。・・・そして、彼等は自分達の位階を「神話級」だと語ったそうです」

 

 その瞬間、会長から恐ろしく強大なプレッシャーが放たれた。

 

「「「「「!?」」」」」

「―――ッ!?」

「―――グヌッ!?か、会長・・・ッ!」

 

 会長から放たれたプレッシャーが、会議室内の空気を振動させて周囲にいる人達を押し潰す。

 それは多分だけど、数秒の出来事だった。

 けれど、私を含めたその場にいる人達のほとんどが、何10分もの時間、そのプレッシャーに晒されていたように感じただろう。

 もはや、身体を起こすことすらままならず、平伏する様に俯き耐えるしかなかった。

 

「・・・すまん。少し気が昂ってしまった」

「「「「「―――はっ!?」」」」」

 

 プレッシャーから解放されると、長距離を走った後のような疲労感と開放感を得て、慌てて呼吸を整える。

 もちろん、私も・・・。

 

「おじい様ぁ~~~?もうちょっと手加減してあげてよ、寧々ちゃんがビビっちゃうじゃん!」

「・・・そうだな。すまん、お前の友人を怯えさせる気はなかったんだ、許してくれ」

「それなら本人に行ってよ」

「あぁ、そうだな」

 

 思考がうまく働かない中、萌ちゃんが会長と話していたような気がするけど、恐らくは朦朧とした意識の中で作り出された幻聴だろう。

 他の人達も、ようやく落ち着きを取り戻してきた頃、司会の方が会議を再開させようとする。

 みんな・・・持ち直すのが早すぎる・・・。

 

「で、では、ほとんどの人が持ち直したようなので、会議を再開します」

「すまんが、この2人の対処は儂に任せて貰えんか?恐らくだが、この2人が何か問題を起こした場合、他の者では力不足だ」

 

 だが、会長はこの件も自分に任せろと言った。

 

「・・・何故、でしょうか」

「それは、彼等が「神話級」であるからだ」

 

 会長は何でもないように、儂と同様にと、続けてそう答えた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 「ううぇーーー・・・疲れたー・・・」

 「お疲れ~、はい、お茶」

 「あ、ありがとう・・・」 

  

 萌ちゃんが差し出したお茶を受け取り、ゴクリと一口飲んで、またうつ伏せになる。

 今日の分の、私が書かなくちゃいけない書類はすでに提出済み。

 残業とか追加の仕事はなく、もう終業近くである為、こうしてだらける時間を確保できた。

 意味が解らないくらいのホワイトな職場である。

 あったんだけど・・・、

 

「なんで・・・新人の私にこんな重要な仕事があああああ・・・」

「わー疲れてるね、ちゃんと休憩とらなきゃダメだよ?」

「誰のせいだと思ってぇ・・・」

 

 私の腰から伸びた虎の尻尾をニギニギと握る萌ちゃんの手を、尻尾の先でペシッと叩きながら、憂鬱な気分のまま今日あった事を思い出す。

 

 結局、あの2人の処遇は会長の主導の下に経過観察を行うこととなった。

 それと、2人は「専属職員制度」における専属職員が付く条件を達成しているため、誰かを専属職員に任命して経過観察を行うとのこと。

 あんな綺麗な子と毎日会話できるのはまったくもって構わないのだけど、あの会長が最大限の警戒を持ったことで、そんな気持ちは吹き飛び、ちょっと怖く感じている。

 

 問題は、その候補に私が入っているということだ。

 

 私の幼馴染がこの子達の専属になりたいと騒いだのだけど、萌ちゃんのヤツは既にあの子達に会った事があるらしく、その時にセクハラ発言をしてしまったのだという。

 それから、あの2人とは接触禁止令が出されたらしい。

 何やってんだ、萌ちゃん。

 

 ・・・それで、その希望を却下された萌ちゃんだったけど、それでも諦められなかったらしく、専属職員に私を推薦した。

 なんでだよ。

 本当になんでだよ

 

 思わず首を絞めながら尋問すると、まったく堪えた様子の無い萌ちゃんが言うに、私があの子達と密接な関係になって、その後に幼馴染である自分を紹介して貰う想定をしていたそうだ。

 幼馴染を生贄に出すな。

 そんな思いを他所に、萌ちゃんは、自分のおじいちゃんが守ってくれるから大丈夫だから、とか、私も四六時中寧々ちゃんの警護するから、と宣う()()()()

 だが、それで納得できる程に物分かりが良くない私が、萌ちゃんのエルフ耳を引っ張っていると・・・上司である丘山さんが来て、そのことを詳しく教えてくれた。

 

「心配せずともそうなる可能性は多分低いわよ。なにせ、あの双子の子達には自分で専属の職員を選べるようにしたから。それに、選べる職員は全員が美形で、美男美女揃い。元々が年頃の男子高校生なら美女、美少女が好きだし、好みが肉体に引っ張られていた場合はイケメン男性を選ぶだろうから。・・・だから、あまり気負い過ぎなくていいわよ」

 

 多分、ってフレーズで凄く心配になるが、丘山さんのその言葉を聞いて少し安心した。

 気が楽になったので、反撃とばかりに私の胸に顔を埋めようとする萌ちゃんの頬を引っ張ってセクハラを阻止し、自分の仕事へと戻った。

 それでも、丘山さんに自分が選ばれた時のための準備だけはするようにと言われたので、最低限の準備はした。

 ・・・それが、今日あったことだった。

 

 「・・・そうだった、全部萌ちゃんが悪い。なんで入社1年も経過してない私がこんな重要な仕事を任せられてるの!?」

「まぁまぁ、それだけ寧々ちゃんが優秀だったってことだよ?そもそもこの資料にある人全員、入社1年目だよ?」

「そ、そうだった。探索者協会が発足されてからまだ、1年も経っていないんだった・・・」

 

 この一覧に乗っている私以外の人達も、慣れない環境で四苦八苦しているのだと思うと、ブツブツと文句を言っているのが申し訳なく感じる。

 

「まぁ、候補の人達全員、元々国の中でも重要なポジや()()()()()()を生業としてたから、寧々ちゃんと違って慣れてるんだけどね」

「ねぇ、私の申し訳なさを返して?」

 

 それと何、()()()()()()って。

 

「それより、もし選ばれたら寧々ちゃん、エリート街道まっしぐらだよ!せっかくのチャンスなんだぁら頑張って行こーー!」

 

 萌ちゃんが凄く張り切っているが、それで苦労するのは私なんだよ?

 ・・・でも、よく考えれば私が選ばれることは無さそうだ。

 だって、他の人が()()()()()()のプロであるなら、未熟者である私に御鉢が回って来るのはまず無いだろう。

 

 覚醒者の溢れた世界において、個人が有する力は以前とは比べ物にならないくらいに大きくなった。

 今の世界情勢は、多くの国々が自国の国民の中から生まれた覚醒者を識別するという、所謂、自国の保有する戦力を把握している段階。

 しかし、それが終われば訪れるのは、まず間違いなく他国の優秀な覚醒者の引き抜きだ。

 とある専門家が、今後の国力は個人の覚醒者が握る可能性があると言う。

 それは流石に暴論ではないかと思ったが、会長を目の当たりにして考えは180度変わった。

 

 会長が戦争に出たら、一国の軍隊をも壊滅できると。

 

 そんな、神話の世界に登場する英雄みたいな話だが、実際にどこかの国では英雄の名を冠する存在になった人物がいるのだという。

 本当に・・・恐ろしい時代になっちゃったなぁ・・・。

 

 それはともかく、協会が発足するという専属職員制度も、そんな優秀な覚醒者が別の国に勧誘されるのを防ぐための措置であり、国家規模の政策に匹敵する程に政治的な思惑が動いているのだと思う。

 件の2人は、会長とかの上の人達の反応を見る限り、何としてでも逃がしたくない大魚。

 何としてでも抱え込みたぃが、「神話級」という位階なので、下手なことをして機嫌を損ねたくないだろう。

 そして、そんな相手にタダの一般職員を差し向ける人物がいるのか。

 いや、いない!

 私が候補に選ばれたのは、それなりの地位に出世した萌ちゃんが我儘を言ったからで、仕方なく名前を入れただけだと思われる。

 

 ・・・うん、よく考えたら、私がそんな重要な仕事を任せられる可能性なんてゼロだ!

 その事実に気が付いた途端、私の心は重責から解放されたように軽くなった。

 

 気が楽になった私は、私のお尻に顔を埋めようとしている萌ちゃんの頭を尻尾で叩いた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 翌日、私は彼女達の専属職員となることが決定した。

 




 めっさ長くなってしまった・・・。
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