「「・・・クリスタルゴーレム?」」
〈鑑定〉
(クリスタルゴーレム)
こいつの正式名称は、クリスタルゴーレムだった。
ボス部屋の扉を通った訳でもないのに、ボス感溢れる水晶の巨像は、明らかに通常モンスターとは雰囲気が異なるし、姿が異様というか、かっこいいというか、強そうな見た目をしている・・・。
そんな感想を抱いていると、クリスタルゴーレムがこちらに手を向ける。
―――その瞬間、肌を突き刺すような激しい悪寒を感じた。
「「―――回避ッ!?」」
ジブン達は、同時に〈飛翔〉を使ってその場を離脱する。
速度の調整なんて考慮していない、なりふり構わない飛行だったが、その判断は正解だった。
ジブン達がいた場所に、いくつもの水晶の槍が突き刺さったからだ。
その光景を見たジブンは、あのクリスタルゴーレムの危険度を認識できた。
アレは・・・ジブン達を殺せる存在だ!
「アオ、〈天之矢〉撃てる?ジブンが囮やるから」
「待って!「天之矢」って魔法扱いだからアイツに効くの?・・・なんか、ああいう水晶系の敵って、魔法跳ね返すイメージあるけど!?」
そう言われてみればそんな気がする。
一応、確かめたほうがよさそう。
「アオは魔法頼む。ジブンは物理試す」
「・・・わかった、無理しないようで!アイツまだ何か手札あるだろうし」
〈飛翔〉を解除して着地したジブンは、蒼規の任せた後にすぐ、クリスタルゴーレムに向かって走り出した。
それと同時に、蒼規が弓矢を構えながら光の魔法を放つ。
対するクリスタルゴーレムは、両腕を振り上げた。
すると、ジブンの進路上に水晶の柱が飛び出してきた。
「危なっ!」
突然目の前に出現した障害物のせいで減速したが、この程度ならば難なく回避できる。
学校のグラウンドとかで陸上の練習をやっていると、走っている途中に誰かが飛び出してくるとかで、進路上に障害物が出てくるのはたまにある。
だから、その経験を活かして避けることができた。
それに、蒼規の放った魔法は防げなかったようで、クリスタルゴーレムに向かって飛んでいく。
光の球は、そのままクリスタルゴーレムの水晶の体に直撃し・・・
「やっぱりダメかぁ・・・」
そのまま反射された。
その反射された魔法は、誰もいない場所へと直撃してから、小さな爆発と発生させて消滅した。
「なら、物理で斬ればいい!」
ジブンは、何とかクリスタルゴーレムの足元まで接近し、足の脛にあたる部位へ「死人の鉞」を振るう。
ガキッ!
「硬い―――ッ!?ヤバッ!」
その直後、左から水晶の柱が飛び出してきた。
ジブンはそれを避けることができず、せめてもの抵抗として鉞を盾のように構えて防御した。
だが、止めることなどできるハズもなく、ジブンは勢いよく吹き飛ばされてしまった。
「ぐぁっ・・・!」
「アマ!!」
吹き飛ばされて宙を舞うジブンに、クリスタルゴーレムが左手を振り下ろす。
ただ、それはジブンに届かない位置での動作。
それに嫌な予感を感じながら、ジブンは〈飛翔〉を使い、その場から弾かれるように離脱する。
〈飛翔〉スキルはスキル名を言わずとも発動できたようで、ジブンの体が空中を高速で移動する。
その直後、先程のいた場所に洞窟の天井から水晶の柱が生えてきた。
・・・あのままだったら、水晶の柱による追撃を喰らっていただろうな。
今は、〈飛翔〉で猛スピードを出しながら、そのままの勢いで蒼規の元へと戻る。
「華麗に着地っ」
「アマ、無事?」
「少し痛いけど大丈夫・・・」
それより、気が付いたことがあるけど聞く?と、途切れる言葉を繋ぎ合わせ、蒼規に伝えた。
「・・・実は、僕も気が付いたことが」
「じゃあ手短に話す」
その間にも、クリスタルゴーレムが水晶の槍を飛ばしてくる。
それでもジブン達は、話を中断せずに回避しながら、武器で弾きながら確認するように共有する。
「まず、アイツはとんでもなく硬い」
「だね、見た感じだと、僕達のステータスじゃ、あの水晶体を突破できるかどうか怪しいくらい」
「次に、水晶柱は予備動作がある」
「だね、水晶柱を出すには腕を振る必要がある」
その間にも、雨の様に降り注ぐ水晶槍と、足元から飛び出してくる水晶柱の対処する。
幸いにも、アイツの攻撃はわかりやすい予備動作があるので、それが来れば簡単に対処できる。
これがもし、クソバードと戦う前だったら、鉞を盾にして防ぐしかなかったのだろうが。
「アイツが片腕で出せる本数は1」
「そして、両腕を振った場合は2本!・・・でも、フェイントの可能性もあるから注意は必要、だね!」
「そう、そしてアイツの足、地面に埋まってる」
「マジで?」
クリスタルゴーレムが両腕を交差するように振るう。
蒼規の左側から、ジブンの右側から挟み込むように水晶柱が出現するが、回避に成功する。
・・・今のところ、ジブン達の仮説は多分正しい。
「埋まってるの!?・・・!もしかして、水晶柱を生やせるのって!」
体が埋まっているのなら、アイツはこの洞窟と同化しているのではないか?
ジブンは、そんな結論に至った。
蒼規もその可能性に気が付いたらしく、頬を引きつらせていた。
この洞窟と同化しているのなら、洞窟はアイツの身体の一部と言っても過言ではない。
つまり、ジブン達はアイツの身体の中で戦っていることになる。
また、アイツがこの洞窟に好き勝手水晶の柱を生やせてることから、アイツはこの洞窟を自在に操ることができるのでは?
そんな可能性にも至れる。
・・・その場合、アイツがこの洞窟を縮小させ、ジブン達を圧し潰そうとするかもしれないということだ。
―――だから、アイツを早く倒す必要がある。
「・・・うん、だからアイツは、移動できないかも」
「!」
そして、プラスになる解釈もできる。
あの巨体のモンスターに、機動力がまったく無いこと。
それは、遠距離からの攻撃を当てやすいという証拠だ。
そして、ジブン達には戦況を一変させる程の手段を握っている。
だから、この情報は希望でもある!
クリスタルゴーレムの、眼球に当たる部位が光り輝いた。
そして、そこから赤色のビームが放たれる。
・・・ここにきて新技か。
だけどジブン達は、まだ何かしてくる可能性を想定していたため、余裕を持って避けることができた。
あと少しで翼に掠りそうだったが・・・。
「今度は僕から!今ビーム放った目のような部分、さっき魔法反射していた時、光ってた!」
「つまり、あの部位が魔法反射の種・・・!」
「多分、そう!」
・・・なんか、ジブンよりも凄く役に立つ情報を提供してきたな。
だが、これで光明が見えてきた。
「蒼規、強化のスクロール頂戴!」
「わかった」
蒼規は、相手の攻撃を避けながらもアイテムボックスを漁り、お目当てのスクロールを取り出すと、ジブンへと投げつけた。
襲い来る水晶柱や槍を避けながら何とかキャッチし、それに封じ込められたスキル使用する。
スクロールが輝きを放つと、火に焚べた紙のように消滅する。
それと同時に、身体中から力が湧いてきた。
――――――――――
「マジックスクロール」
魔法スキルが封じ込められた羊皮紙。
このスクロールに記された魔法スキルを発動すれば、その魔法スキルを所持していなくとも使用することができる。
このスクロールには、魔法スキル〈筋力強化・中〉が内封されている。
封じられたスキルを使用すると、このアイテムは消失する。
注:スクロールに封じ込められた魔法スキルの威力は、「神秘」のステータスによる補正を受けない。
――――――――――
〈筋力強化・中〉・・・3分間の間、使用者の「筋力」のステータスを一時的に2段階上昇する。例:E→D-
これで、ジブンの「筋力」のステータスは、一時的に「B」となった
・・・相手の堅硬そうな水晶体を打ち砕くことができるかはわからないが、それでもやらないよりはマシだ。
ジブンはこれから、前衛としての役割を
「頼んだ!」
「・・・なるほど、わかった!」
ジブンは、今出せる最高速度の〈飛翔〉で相手に向かっていく。
途中、襲い掛かる水晶柱は、当たるスレスレのところで回避する。
こういう技術は、蒼規よりも優れていると自負できる。
だからこそ、ジブンが前衛を担当しているのだ。
数本の水晶柱を避けながらも相手の目前まで辿り着くと、今度はクリスタルゴーレムの腕が、ジブンを打ち落とさんと振るわれる。
水晶柱と同様に避けようとしたが、クリスタルゴーレムが動くたびに起こる震動により崩れた1本の水晶柱が、運悪くジブンに向かって倒れてきた。
慌ててどちらも避けようとしたが、水晶柱に気を取られてしまい、巨腕がジブンを振捉えてしまう。
潰されはしなかったが、地面へと叩きつけられてしまったジブン。
だが、ここで止まるわけにはいかない!
その一心で、鈍い痛みの走る体に活を入れ、すぐさま起き上がった。
そして、未だに制御できていない全力の〈飛翔〉スキルを使い、体を弾丸のように加速させる。
背後から、追撃のために水晶柱が飛び出した音がする。
危なっ!?あのまま這いつくばってとら、吹き飛ばされてた・・・!
肝の冷える感覚を覚える中、ジブンは得物を構え、クリスタルゴーレの頭部目掛けて飛んだ。
―――その瞬間、クリスタルゴーレムの眼球部分が輝きを放つ。
ビームを撃ってくる!
でも、〈飛翔〉スキルで加速したから、絶対に止まれない・・・。
ならば、正面から迎撃する―――っ!!
「〈闇の手〉!」
ジブンの目の前を、大きな手の形をした闇が覆う。
それと同時に、赤い鉱石から放たれたレーザーが、ジブンの唯一の魔法である〈闇の手〉と衝突しる。
そして、しばしの均衡の後・・・どちらも消滅した。
〈闇の手〉は消滅したが、これでクリスタルゴーレムへの道は開かれた。
ジブンは、手に持っていた「死人の鉞」を、赤い光を放つ眼球部分の宝石目掛け、全力で―――振り下す!!
バキバキバキッ!
「―――ォ、オオオオオオオォォォーーー!!!」
手元から硬い物体を砕く音がした。
それと同時に、クリスタルゴーレムが初めて声を上げた。
やっぱり、効いてる!
けれど・・・まだ宝石部分に刃が届いてない!?
「ォォォ・・・」
クリスタルゴーレムが背中を丸める。
すると、身体中から如き水晶の棘が飛び出してきた。
そして、ジブンの身体の肉を容赦なく貫いく―――ッ。
「痛ッ―――、ラァァァーーー!!!」
脇腹と左腕、右太腿に、焼けるような痛みが走った。
だけど・・・利き腕は無事、まだ両の足も踏ん張れる・・・まだ問題なく動ける!
痛みで挫けそうになるということはなく、逆に煮えたぎるような熱が全身を巡り、気力が溢れんばかりに湧き上がってきた!!
ジブンの「死人の鉞」を握る手に、更に力を込めて、砕く!!
「―――ァッ、カァァァァァアアアアア!!!」
ピシッ、ビシビシビシ———ッ、パキーンッ!!
手元から、硬い物を叩き割った感触を感じた。
それを認識したジブンは、鉞を振りかぶって崩れた体勢を素早く立て直し、腰に下げておいた〈ホーリーランス〉のマジックスクロールを使用する。
すると、手元から光の槍が飛び出し、クリスタルゴーレムの水晶の体に命中した。
威力不足だったのか、傷はついてないみたいだけれど・・・今度は反射されてない!
「今だ、アオ!!」
そう叫んだジブンは、自身を貫く水晶の槍を砕いて、急いでその場から退避する。
その際に全身を激しい痛みを襲うが、
逃げるジブンを捕まえようとする巨大な手を避けながら、クリスタルゴーレムの腕が届かない距離をまで離れた瞬間。
―――毅然とした声が、洞窟中に響き渡った。
「いくぞ、―――〈天之矢〉!!」
その瞬間、水晶洞窟が眩い極光で埋め尽くされた。視界が白に染まり、その一瞬後に轟音が響き渡り、爆風が吹き荒れた。
音がウルセェ・・・。
目を焼くような眩しい光が収まると、そこには、上半身が消し飛んだクリスタルゴーレムの姿があった。
相変わらず、凄い威力だな。
「こ、これで」
「アマ、まだだ!!」
足元から水晶の槍が生み出された。
そのせいで、今度は無事だった右足と片翼が貫かれて血を噴き出す。
まだ、倒せてなかったのか・・・!
クリスタルゴーレムの体を見てみると、心臓部にあったのだろう青色の球体が、周囲の水晶に包まれようとしていた。
アレが、クリスタルゴーレムのコアか!
そう確信した時、コアへと矢が何本も放たれ、コアを包み込もうとする水晶を損傷させて妨害している。
「アマ、早く!!〈剛弓〉!」
蒼規が焦りを感じさせる声色で、全身血だらけのジブンに、まだ戦えと言う。
そんな要求に、少しだけ苦笑いを浮かべた後、背中に背負っていた「蒼竹の槍」を無事な右手で持つ。
・・・うん、右腕は問題なく動かせれるし、投げることも可能だ。
竹だから強度は心配だけど、損傷もほぼ無いし、これでも魔法武器だから大丈夫だろう。
だから・・・まだ、ジブンは戦える!
ジブンは、「蒼竹の槍」を大きく振りかぶり、全力で投げつけた。
助走をつけてない分、威力は心配だが、そこは〈槍投術〉スキルの補正を信じよう。
「喰らえオラァーーー!!」
ジブンが投げた槍は勢いよく飛んでいき、コアに衝突して大きな亀裂を入れた。
だが、突き刺さったままだけで、完全には砕けていない。
まさかの威力不足。完全に倒すには、至らない・・・!
「だけど、十分だ」
今ので、水晶の動きが完全に止まった。
突破口も作った。
ならば、蒼規の矢が届く!
「いい加減に倒れろ!〈剛弓〉!!」
放たれた矢は、一直線にコアへと飛んでいき、「蒼竹の槍」が突き刺さってヒビ割れた箇
所へと突き刺さり・・・、
―――パキンッ!
そんな音を立てて、コアは完全に砕かれた!
一瞬の静寂の後、水晶の巨体は音を立てて崩れていき、やがて、灰となって消えた。
それと同時に、ジブンの体内に残っていた水晶片も、傷口から灰となって零れ落ちる。
傷に灰が染みて痛い・・・ッ!
けれど、どうやら今度こそ倒せたらしい。
「「つ、疲れた~」」
強敵との戦いの後って、喜びよりも疲れが強いんだ・・・
ジブンは、身体中から血を流しながらそう感じた。
今回の敵は、マジで洒落にならない程にヤバかった。
最初から最後まで何とか相手の攻撃を凌いでみたが、1撃1撃が結構重いし、あの叩き落としや、水晶槍に串刺しされた時なんかも、全身がすっごい痛かった。
というか、現在進行形で身体中が痛い・・・。
もう1発くらい重いのを喰らっていたら、多分だが動きが鈍くなってそのままボコられて殺されていた。
・・・実際、もう動けないくらい痛い。
あ~・・・っと、鼻血まで出てるじゃん。
アイツ、魔法反射や水晶柱を生やしたりだとか、明らかに25階層に出てきていいモンスターじゃないだろ。
ジブンは、痛みを我慢しながら立ち上がり、ボスがいたところまで歩いていく。
そこには、ヒビの入った「蒼竹の槍」と、初回のボス戦の後に出現するような大きな宝箱があった。
魔法武器といっても、所詮は竹。
雑に使えば簡単に砕けてしまうのも納得だ。
・・・さて、問題は、宝箱の方だが。
「・・・アオー、ちょっと来てー」
「わかったー・・・って、血だらけじゃん!?早くポーション使え!!」
蒼規に、何時ぞやのジブンが手に入れた「中級ポーション」をぶっかけられた後、傷がそれなりに治ったことを確認できたので、本題に移ることにした。
「・・・僕達って、ボス戦に挑戦したわけじゃないよね」
「そう、なんだよね」
「じゃあ・・・コレ、何?」
「ボス戦の後の大きな宝箱だね」
不思議なことに、ジブンの目の前にはボスを倒した後に出てくる宝箱と同じくらいの大きさの宝箱がある。
・・・やっぱり、アイツは何らかのボスだったのだろうか?
アイツの強さ、ここの階層からして尋常じゃなかったし、まぁ納得はできるな。
「どうする?開ける?」
「もちろん」
「じゃあ僕が開けていい?」
「いいよ。〈天之矢〉のお陰で勝てたし」
それではお言葉に甘えて、と言い、蒼規は宝箱を開けた。
「・・・何が出た?」
「こんなのが出た」
――――――――――
「水晶の盾」 武器種:大盾
「魔水晶」で作られた、淡い青色の光を放つ盾。
まるで芸術品のような盾だが、鋼鉄よりも遥かに優れた硬度を持つ。
この盾は、魔法の力を跳ね返す力を持っている。
スキル
〈魔法反射・D〉・・・神秘が「D」以下の魔法攻撃を反射
〈水晶壁〉・・・〈魔法反射・D〉の効果を持つ水晶の壁を召喚する。
――――――――――
――――――――――
「属性結晶・無」
無属性の魔力が込められた属性結晶。
主に、魔道具の材料や武器への属性付与等に使用される。
――――――――――
・・・性能は、それなりに良い。
うん、良いんだけどね?
「ジブン達は、使わないよね」
「うん。2人とも大盾なんて使わないし、鍛冶?関連のスキルも持っていない」
それじゃあ、つまり・・・。
「「宝箱ガチャ爆死した・・・」」
その後、しばらく2人で落ち込んでいたが、何とか持ち直して、クリスタルゴーレムのドロップアイテムを回収した。
そして、いつの間にか塞がっていた入り口が再び開いていたので、さっさと退散。
もう戦う気に慣れなかったので、その日の探索は終了。
帰還後、足利さんに今日のことを伝えたり、ガチャをやったら全部C(コモン)を出して爆死したりして、ホテルへと戻るのだった。
ちなみに、水晶や鉱石は凄く高い値段で売却できた。
それだけが、不幸中の幸いだったな。
「・・・それにしても、今日の戦い・・・」
綱渡りで、考えなしの行動ばかりだった。
そのせいで、地面に叩きつけられてしまった。
あそこの地面、水晶片や鉱石片が転がっていて、地面に叩きつけられた時にメッチャ刺さって痛かった。
それに、水晶柱で体中に風穴開けられて・・・。
本当に、今日は今までに無い程に嫌な目に遭って・・・
「とっても楽しかったなぁ・・・」
脳裏に浮かぶ、ジブンの顔面を貫こうとする水晶槍。
あの光景を思い出すと・・・・・・
「フフッ」
ジブンの口から、自然と笑みが零れた。
・
・
・
Side ??
淡い金の光に包まれた空間で、1人の人物が作業を行っていた。
・・・いや、正確にはそれは人ではなかった。
中性的な体躯に、6枚の赤い翼、紅白の混じり合った炎を纏い、顔を白い布で隠した存在がいる。
その存在を彼としよう。
彼は、透明な板―――こことは違う世界にて、ステータスプレートと呼ばれる物と酷似した物へと向き合っていた。
透明な板に映し出されていたのは、数多の文字の羅列だ。
【アークウルフ】 適正レベル:「普通級」20
所在迷宮:金固の迷宮10階層
踏破者:171名 死亡者:39名
【ソードヘッジホッグ】 適正レベル:「希少級」30
所在迷宮:金固の迷宮20階層
踏破者:31名 死亡者:41名
【バーバリアン・レグルス】 適正レベル:「逸話級」40
所在迷宮:金固の迷宮30階層
踏破者:2名 死亡者:11名
【キマイラ】 適正レベル:「逸話級」60
所在迷宮:金固の迷宮40階層
踏破者:2名 死亡者:0名
・
・
・
⦅前回から変化は無いか・・・。それも仕方がない。なにせ、我が主の御業により人類が進化して1年も経過していない⦆
⦅いや、むしろこの短時間で、よくぞここまで来れた⦆と思い直し関心する。
なにしろ、数カ月前までレベル1だった者達の中に、半分近くまでダンジョンを踏破した者がいるのだから。
彼は人類を見くびっていたのだ。
力を手に入れたとはいえ、突然手に入れた力に酔いしれ調子に乗った結果、30階層辺りで躓くだろうと考えていた。
または、文明を築き上げたことで、以前よりも死のリスクを恐れるようになった今の人類に、迷宮を進む度胸なんてないのだと。
実際、彼の予想は半分正解だった。
なにせ、
己の欲を満たし、夢などというモノを掴もうとし、怠惰な日々を送る者までいる始末。
故に、彼はあの方々の計画を邪魔する愚者に、憤りを感じていた。
そんな彼が作業を続けていると、とある項目が布で隠された眼に止まった。
⦅ふむ・・・⦆
【トンカラトン】 適正レベル:「逸話級」40
所在迷宮:日輪の迷宮7階層
討伐者:0名 死亡者:18名
【バグ・トレント】 適正レベル:「逸話級」60
所在迷宮:日輪の迷宮19階層
討伐者:1名 死亡者:24名
【クリスタルゴーレム】 適正レベル:「逸話級」50
所在迷宮:日輪の迷宮35階層
討伐者:2名 死亡者:0名
⦅クリスタルゴーレムが倒された・・・?⦆
アレは並大抵の者では倒せない存在。油断すれば、適正レベルの者でさえも時間切れで死ぬ程の物だ。
そう創られたのだから。
⦅ドミニオン。アレを寄こせ⦆
彼が虚空に向けて手をかざし、その名を呼ぶ。
すると、かざした手に光の粒子が集まり、携帯端末のような物が現れた。
これは、彼の部下が記録した映像機器のような物。神器と呼ばれる代物だ。
出現したそれを、彼は手慣れた手つきで操作し、そこに記録されている映像を確認する。
そして・・・
⦅成程、そういうことか⦆
合点がいった。
そんな様子で、彼はそう呟いた。
⦅時空の主が選んだ神話級・・・とはいえ、まさかこの2羽の雛鳥が成したとは⦆
何とも予想外だ。
彼の予想では、「火の神」か「九尾」の群れが先に討伐すると思っていた。
「蛸人」と「毒鳥」が動かない今、このモンスターを倒せるのはその2者だけだ。
・・・そう思っていたのだが、雛鳥の片割れが手に入れていた「宝具」によって、その予想は打ち砕かれた。
彼にとって「フギン」、「ムニン」という種族は、ハズレの部類に位置付けられている。何故なら、この2体の能力は、他と比べて劣る印象を持つからだ。
種族として取得できるスキルに戦闘用のスキルはなく、他の種族ぬような特異なスキルも持たない。
そのため、この種族を一言で言い表すならば、神話級最弱。容易に代わりを用意できる器用貧乏。下界で迷宮を創る際に参考にしたソシャゲで言い表すならば、レア度が高いだけの不遇キャラ。
現状の戦闘面では、最弱と胸を張って言えるだろう。
・・・だが、その要因の1つである“火力不足”。それを解決したのなら、なんとか他に劣らぬ存在になれるだろうとは考えている。
⦅運がいい。・・・いや、まさかこれを見通して・・・?⦆
一瞬、思考の海に浸った彼だが、すぐに思い直す。
いくら欠点を補ったとはいえ、それは他より劣らない程度。
それで対抗できる程、雛鳥達の同格と扱われる者達、「神話級」という位階は・・・ダンジョンの先で待ち構えている者は、甘くない。
⦅下界は今、時代の変革を迎えている⦆
突如出現した、8つの迷宮《ダンジョン》。
世界中で起こった人類の進化。
現代に蘇った、紀元前の怪物達。
そして、24の「神話級」。
彼等は既に、胎動を始めている。
⦅「モドキ」は既にその身を神格へと昇華し、「雷霆」は万衆の英雄となり、「死の王」は国家を掌握した。そして、島国では5名の神話が在る⦆
⦅これから人類はどうなるか不安であるな。しかし・・・信じているぞ、未熟な(愛しき)人間達よ⦆
彼はただ1人、これから訪れる動乱に人類がどう向き合って行くのか、その行く末を案じるのだった。
やっと倒したボスから出てきたアイテムが、自分が使わない代物だった時、貴方ならどうします?
作者は「ファーーーッ!?」と発狂します。
そして、区切りのいいところに来たので、ここで1章は終わりとします。
蛇足はあると思いますが・・・。