キャラの濃い面接官がいた面接の後は、実技試験が行われる。
内容は、体力テストと模擬戦。
体力テストは、学校でやる物と同じ内容で、模擬戦は、試験官である鬼人の男性を相手にするというモノだった。
その鬼人の男性は、元々は自衛隊に所属していたらしい。
自衛隊の中には覚醒者が数人いたが、その中でも戦闘能力が1番高かったから、ここで実技の試験官をするように依頼されたそうだ。
「それでは、皆さんには自分にあった武器を選んでもらいます」
そう言って試験官が指さした先には、たくさんの武器群が立てられた棚。
剣や槍、斧に加えて、地味に名称がわからないマイナー武器まである。
「もちろん、あそこにある武器の刃は潰してあるので、変な使い方をしなければ怪我はしないでしょう」
・・・なるほど、刃を潰してあるのか。
それならば安全に・・・できるのか?
後、今の試験官の言葉から察するに、変な使い方して怪我したヤツは失格?
・・・一応はそういう心づもりでいよう。
「蒼規は武器、何にする?」
「ん?・・・まだ決めてない」
「剣にすれば?剣は王道」
「いいたいことはわかるけど・・・。確かに、槍は狭いところでは使えないか。なら、剣にしよう」
「そっか。ジブンは片刃斧に」
「・・・何故片刃斧?」
「パワーがありそうだから」
「ま、まぁ剣よりはある印象だけど・・・」
片刃斧は、斬撃も打撃もできる武器だと聞いたことがある。
もし、どちらかが効かない敵が現れたのならば、片刃斧なら対処できると思ったから選んだ。
もちろん剣も、槍とかよりも使い易そうだし、何度か木刀を振ったことがあるので、戦闘初心者でもそれなりに扱えると思うからだ。
・・・多分。
「皆さん、武器は決めましたか?決められた方は、職員の案内に従って練習場所へと移ってください。30分後に模擬戦を行いますので、それまでに調整をお願いします」
鬼人の人の指示の下、ジブン達を含めた受験者達が職員に案内されて練習場所へと移る。
そして、各々が選んだ武器を慣らすために、素振りなどを始める。
・・・意外と、片手斧って使いやすいな。
の方も、初心者ながらも剣の扱いがそれなりにできていた。
これは、「器用」のステータスが関係してる?
そんなことを考えながらも、30分間で片手斧に慣れるために素振りをする。
これが意外と面白い。
アニメのキャラのマネをしたり、仮想敵を思い浮かべながら武器を振るのは、意外とジブンの性に合っていた。
または、その身に秘めた中二心、故か・・・
「30分が経過したので、模擬戦を開始します。呼ばれた番号の方はこちらへ来てください。それではAからEの1番、2番の方は職員の案内に従って来てください」
職員の人に呼ばれて、10人程の受験者達が移動を始めた。
それを見たジブンは、今更ながらに緊張してきた。
そもそも、ジブン達は本当に戦えるの?そもそも模擬戦って何をやればいいんだ?
ファンタジー物の小説では、剣や魔法で相手を圧倒するところから、キャー強い!と称賛されるような物だが、この現代日本においての模擬戦では、そんな武器や魔法で攻撃するような物騒なことをしないのでは?
・・・なら、模擬戦とは名ばかりの別の何かをする可能性もあり?
そんなことを考えながら、ジブンに押し寄せてくる不安を和らげるために、素振りを止めていつも陸上競技の試合前にやってるストレッチを行う。
本来なら運動前にやるべきこと。
だけど、刃が潰れているとはいえ初めて持った武器に興奮して、うっかり忘れてしまった。
運動してからだから手遅れだが、やらないよりはマシなので念入りにストレッチを行っておく。
そんな風に、しばらく腕や脚を伸ばしてほぐしていると、蒼規に声をかけられた。
「アマ、天規」
「・・・ん、どした?」
「もう呼ばれた。行くよ」
のその言葉に、慌てて周囲を確かめてみると、職員の人がジブンの番号を読んでいた。
回転が速い。
「今行く」
幸いにも、蒼規が早い段階で気が付いてくれたお陰で、職員の人を待たせるということはなかった。
「オラァー!!―――ぐふぁ!?」
「大振りにし過ぎです。それと、何度も言いますが無理に攻撃してこなくてもいいんですよ。立てますか?」
「は、はい、まだやれます!」
はい。皆さん、しっかりと模擬戦やってました。
模擬戦の試験会場に来たジブン達の目に映り込んできたのは、試験官と受験生がボクシングのリングを2倍くらいにした囲いの中で、各々の武器を交差させ、受け流している様子。
もちろん、受け流されているのは受験生の攻撃だ。
受験生側は素人だからだろう、試験官にいいようにあしらわれているが、それでも、戦闘と言えるような光景が広がっていた。
「では模擬戦を行うにあたってのルールを説明しますね」
ジブン達を連れてきた職員が説明を始めたので、ジブンはその人の言葉に耳を傾ける。
・・・
まとめると、こんな感じ?
1つ目、模擬戦は1対1で行われる。
2つ目、模擬戦の時間は1人につき5分だが、試験官(対戦相手)がこれ以上続ける必要が無いと判断した場合は、5分経過してなくても終了することもある。
3つ目、模擬戦といっても、受験者がどの程度戦えるかを見る為のモノなので、無理に試験官に勝とうとしなくてもいい。
他にも細かいルールはあるが、大体はこんな感じかな?
職員の人が、質問はないかと聞いてきたが、特になかったようなので、ジブンの番号が呼ばれるまで待機となった。
待機場所に2人で座って、模擬戦やってる人達に視線を向ける。
・・・よく躊躇いなく攻撃できるなぁ、みんな・・・。
見た感じだと、半数くらいの人が武器を使い慣れていないのか、もたついているかヘロヘロとした動きだ。
だけど、もう半数は試験官を相手にそれなりに戦えている。
ジブンが見た限りだと、戦えているのは獣人系の覚醒者が多いように見える。
覚醒者になると身体能力が上がるから、実戦経験が無くても肉体のスペックで渡り合っているのかもしれない。
と言っても、ジブンも戦いに関しては素人なので、この時間は試験官の動きを観察して戦闘時の動きを学ぶことにする。
・・・動きは派手さが無くて地味だけど、身体や武器の使い方がうまいな。
まるで、達人の動きを見ているよう。
・・・いや、さっき元は自衛隊をやっていたと言う人が試験官としているから、対戦相手である試験官達はみんな、戦闘のスペシャリストなのか?
これは、素人が手も足も出ないのはしかたがないか。
「それでは、Kの15番、16番の方。2番の所に来てください。」
「呼ばれた。行こう」
「わかった」
ジブン達の番が来たので向かう。
2番の場所は・・・あった、ここだ。
ジブン達が2番の模擬戦場所へと向かうと、そのきは鬼人の男性が待っていた。
どうやら、この人がジブン達の試験官らしい。
ということで、さっそくこの人と戦うことになった。
受験番号通りの順番で行くと、蒼規が先でジブンが後になる。
蒼規が模擬戦場へと入り、剣を構える。
対する鬼人の試験官は、頑丈そうな1.5mくらいの巨大な棍棒を軽々と持ち上げていた。
流石は鬼。高い「筋力」を必要としそうな武器を軽々と持っている。
「それでは模擬戦を開始します。まずは、貴女が武器をどれ程まで使いこなせるかを確認したいので、そちらから攻撃をしかけてください」
「わかりました。それでじゃ、いきます!」
その言葉を合図に、蒼規は思い切り足を踏み込み、ダッ!とその身を加速させる。
その一瞬後に試験官へと肉薄し、手に持つ剣を上段から振り下ろす。
「っ!?」
「やっぱり防がれる」
蒼規の一撃は、試験官によって完璧に防がれた。
それを確認した蒼規は、これ以上は無理に追撃を行わない方がいいと判断したのか、剣を構えたままの状態で後ろへ下がる 。
外野から見ているジブンからしたらこのまま追撃に移ったほうがよさそうだと思うが、相手はジブン達よりも遥かに実践慣れしているであろう試験官。
慎重な対応をするべきだと思ったのだろう。
その証拠に、蒼規は油断せずに試験官の行動に注意を払っている。
試験官は少し驚いた顔をしていたが、蒼規の手元に視線を向けると、数瞬の沈黙の後に口を開いた。
「・・・北豊蒼規さん。以上をもって、貴女の試験を終了します」
「「・・・えっ」」
試験官の言葉に、驚きの言葉を隠せなかったジブン達だった。
だが、ジブンは蒼規の手元の模擬戦用の剣を見て、試験官の言葉の真意を大体察した。
蒼規も、試験官の視線によって気が付いたようで、慌ててジブンの手元を見たことで気が付いたようだ。
蒼規が持つ剣には、大きなヒビが入っていた
それはもう、くっきりと。
「武器が壊れたとなっては、このまま続けることは難しいと判断しました。なので、北豊さんの実技試験はこれで以上となります。数時間後に結果が出ますので、別室にてお待ちください」
「・・・はい」
蒼規は、しょんぼりと肩を落としながらこの場を離れた。
無理もないだろう。
試験官が模擬戦で見たかったのは武器の扱いであったし、それを見せる前に己の武器を破壊して試験終了。
絶対に落ちたと思うし、ジブンもそう思う。
・・・というか、何故に青規の武器が壊れた?やっぱり筋力ゴリラになったからか、カラスなのに。
「では、次の方どうぞ!」
「は、はい!」
ジブンの番が来た。
先程の蒼規の失敗は、武器の扱い方が悪かったのか、蒼規と試験官のどちらかのパワーが高かったが故に起こった事なのかがわからない。
だから、先程の蒼規以上に慎重に行動しなければ・・・!
そんな考えが脳内を埋めつくし、不安な心情を抱えながら模擬戦へと臨むのだった。
・・・メンドイ
・
・
・
「・・・先程の方は、貴女の姉妹でしょうか」
「兄です」
「そうですか。・・・兄?姉ではなく兄!?」
「覚醒でTSしました」
「そ、そうなんですか・・・。すもません。では、始めていきましょう。先程のお兄さん?に説明した通り、初めは貴女が武器をどれ程まで使いこなせるかを確認したいので、そちらから打ち込んでください。では、始めてください」
「わかりました」
試験からは始めるように言われたが、ジブンはすぐには打ち込まなかった。
恐らく、先程の蒼規は思いっきり剣を試験官の持つ金棒へと叩き込んだのだと思う。
それで、あの鉄の塊のような棍棒よりも劣る強度の剣が壊れたと推測した。
所詮は物の原理とか戦闘とかよくわかってない素人の考察。
本当にそうなのかは現段階のジブンには判断できないので、今のところはそう思っておこう。
だから、武器を相手に打ち込む時は思いっきり振らず、手加減しながら慎重に行う。
決心がついたジブンは、試験官へと接近する。
そして、手に持った片手斧の刃のついてない方で殴る。
「そっちですか」
「壊れたら怖いので」
ジブンの一撃は、試験官に金棒で防がれた。
でも、ジブンの蒼規よりもちょっとだけ勝る筋力のお陰か、試験官の武器を持つ腕がプルプウると震えている。
だけど、試験官が腕を引くと、ジブンの斧は受け流されてしまう。
なので、先程 がやっていたように後方へとバックステップして距離をとる。
武器をチラリと見る。
ヒビらしきモノは見えないので、壊れる心配はまだ無さそう。
生意気に手加減した甲斐はあったようだ。
「・・・こっちもか」
「?」
「いえ、お気になさらず。・・・それでは、ここからは私からも仕掛けるので、私の攻撃をしのいでください。もちろん反撃してもいいですが・・・できれば遠慮してくださると嬉しいですね」
「わかり、ました・・・」
ジブンがそう言うと、試験官が「では、行きますよ」と言って棍棒を構える。
そして、こちらへと突っ込んできた。
棍棒を振り回すのではなく、突進するような突き攻撃。
それを、ジブンは左へ転がって回避する。
「お見事です」
「遠慮なさすぎ」
戦いの中で会話できるほどの熟練度を持ってないジブンは、反撃とばかりに片手斧を振るう。
しかし、試験官は金棒をバットのように両手で持って振るう。
それにより、ジブンの攻撃を受け止められるどころか、逆に武器を手放してしまいそうな衝撃を受けた。
今ので武器を手放さなかったジブンを褒めて欲しい。
「反応が早いですね。過去に誰かと戦ったことがありますか?」
「無いです」
ここまで何とか対処できているが、それはジブンが覚醒者になったことで得た肉体スペックを使っているからだ。
もし元の体のままだったら、最初の突き攻撃に反応できずに、無様に吹き飛ばされていただろう。
そもそもの話、ジブンの肉体スペックがどれ程のモノなのかなんて、はっきりと理解できていない。
ステータスで「A」とか「B」とか「C+」なんて出されても、平均値がわからないのでジブンの身体能力を完璧には理解できていない。
ただ、ジブン達の「筋力」はリンゴをギュッ!としてジュースにできるくらいならわかるけど・・・。
つまり、ジブン達はゴリラだった!?
「油断しましたね!」
「やばっ」
咄嗟に顔を後ろへ下げたら、目の前を棍棒が通過した。
この人、やっぱり遠慮がなさすぎる!
こうして、ジブンと試験官の戦いは、周囲の職員が止めに入るまで続いたのであった。
「やけに楽しそうだったじゃん。いいなー、あんなに戦えて」
「・・・」
そして、こっそりと覗いていたらしい蒼規に、羨ましがられた。
・・・うん、模擬戦は楽しかった。
三人称視点
北豊天規の実技試験が終わり、待機場所へと移動するのを見届けた宇良という試験官は、近くにいる職員へと試験官の業務を別の人と交代してもらえるように頼んだ。
そして、その足でとある部屋へと向かった。
その部屋に着くと、部屋にあった箱を1つ手に取り中身を空ける。
すると、コツコツという足音と共に、1人の女性が入ってきた。
その女性は、赤い帽子を被った切れ長の目の女性。
双子の面接を担当した、先輩と呼ばれていた人物であった。
「・・・宇良さん。ここにいたんで―――っ!?」
「やっぱり、あの2人って双子だったんですね。それと、2人共ヤバイですね。私の腕がこんなになるなんて」
赤帽子の女性は、宇良の両腕を見て驚愕した。
逞しい彼の腕は、いつもとは違ってパンパンに腫れ上がっており、まるで骨折したかのような惨状だった。
いや、本当に骨が折れているのかもしれない。
何故、そのようなことになったのか、そして、何故、彼は腕がこのような有り様になって尚、顔色を変えないのか。
赤帽子の女性は、そのことに不思議に思いながらも、まずは彼の腕の応急処置をしなければならないと思い、腰に携帯していた瓶を取り出す。
そして、瓶の中に入っていた緑色の液体を振りかけた。
宇良は、さすがにそこまでしなくてはいいのに、と言いたげな困った顔をしながらも、女性の行動を大人しく受ける。
すると、先程まで腫れ上がった腕が、みるみる内に元の肌色へと戻っていった。
「・・・何故、あのような状態に?」
「いやぁ、あの双子ちゃん達の一撃を弾いただけであの様です。華奢な体からは想像できないくらいの重い攻撃でしたし、僕の全力でも受け止めるのがやっとで、平静を装うので精一杯でしたよ」
「あの宇良さんが・・・!」
赤帽子の女性は、彼の「全力でも受け止めるのがやっと」という言葉に衝撃を覚えた。
この宇良という試験官は、探索者協会の職員の中でも1、2を争う程の力の持ち主だ。
通常の人間のステータスの平均が「G」で、「G+」や「F-」が1項目でもあれば、それは天才や超人の枠組みに入れられる。
さらに、覚醒者達の平均ステータスは「F」や「E」というように、明らかに人間を超越した能力を持っている。
中には、1項目だけだが「D」を持っている者もいるようだ。
ステータスの「E」と「D」には、大きな差がある。
「E」では人間を超越している能力値であるが、それは生物の枠組みに収まる程度。
だが、「D」からは違う。
「筋力」ならば鉄筋コンクリートをへし折り、「耐久」ならば爆発を受けても致命傷に届かず、「俊敏」ならばジョット機と並走する。
そのような化け物の領域に入っていることを示すものが、ステータスでの「D」である
そんな中、宇良の「筋力」のステータスは「E」。
しかし、本人が覚醒者となって自衛隊としてダンジョンに潜った際にレベルアップをしたことで手に入れたスキル。
そのスキルの恩恵により、彼の「筋力」は「D」まで跳ね上がる。
そうなれば、彼の腕力は鉄筋コンクリートなんぞ容易く捻じ切るだろう。
そんな彼が、力で負けた・・・。
それが意味することとは、この鉄筋コンクリート捻じ切り男以上の「筋力」を持っているということだ。
そこまで考えていたた彼女だったが、ふと違和感を覚える。
「・・・あの、宇良さん」
「どうしましたか?
「そういえば、宇良さんのスキルって効果が高い分、デメリットがありましたよね。確か、強化部位に負担を生じる系で、使ったらその部位が腫れ上がるって話でしたよね」
「・・・」
「それで、普段は使わないように上から指示が来てましたよね。宇良さんは無茶するから、命令という形で使わせないようにしたとか」
「・・・」
「後、そのスキルは対戦者に危険を及ぼすから、危ないので使用に制限、かけられてますよね」
「・・・」
「まさか、そんなスキルを受験者に対して、使ってませんよね?」
「・・・なぁ、丘山さん」
「はい、なんです?」
「上には黙ってもらうのは、アリですかね」
「ナシです」
その後、とある模擬戦の試験官が、使っちゃいけないスキルを使用してたということで、その人物が担当した受験者の合否判定は緩くなったという。
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