「チャーリー! 海賊船が近くに!」
俺が眠っていると、アクアが俺を起こしに来た。
現在キューバからメキシコに残った奴隷を売るために移動している最中であり、海上を航行していた。
俺は眠い目を擦って甲板に出ると、海賊船から砲撃が飛んできていた。
「うお、危ねえ」
「チャーリーの力で追い払ってくれよ」
「わかった」
俺は風を操り始めると、グッドラック号は順風に、海賊船には逆風を叩きつけて、速力に差を付けることでどんどん船を引き剥がしていった。
30分もすると海賊船は見えなくなり、船員達も安堵の表情を浮かべる。
「また海賊船が来たら教えてくれアクア」
「はいはーい!」
そう言って調理室に戻って直ぐにまたアクアに呼び出される。
これがこの日3回も起こり、流石海賊の楽園カリブ海だと痛感させられる。
ただメキシコに近くなるにつれて海賊の数も少なくなり、何とか海賊からの略奪を避けながらメキシコに到着するのだった。
「グッドラック号……何かの加護があるのかもしれねぇ!」
「本当に幸運船だ!」
事情を知らない船員達は船が幸運だと喜んでいた。
そんなグッドラック号はベラクルズ湾(メキシコの主要な港)に入港し、奴隷を売却していく。
今回はスクランブルと言われる奴隷売却方式が採られた。
これはまず仲介業者が奴隷を欲する人物を広告で集め、奴隷を並べて客が奴隷を見定める。
そして一定の時間が過ぎたらスターターが合図を鳴らし、客達が一斉に奴隷に群がり、複数人で対象の奴隷を客それぞれの陣地に入れていき、その後会計をするという方式である。
1回目の航海でジャマイカにて奴隷を売った時もこの方式であった。
この方法だと貿易船側と仲介業者の間で値段を先に決めることができ、値段が書かれたカードを首から下げられたりもする。
「はい、よーいどん」
航海長がピストルを鳴らして合図をし、客達が一斉に奴隷に群がる。
50人いた奴隷はあっという間に売れてしまい、直ぐに会計作業に入る。
俺が各陣地を巡り、奴隷の値段を確認していき、支払い方法の確認もする。
ここで現地通貨で決済をお願いする人は取引をしない決まりになっていたので、銀貨や金貨の支払い、もしくは仲介業者に立て替えてもらう方式のどちらかで支払ってもらう。
そしてブローカーを介さない客との取引の場合、その場で所有者を示す焼きごてを押し付けることになる。
奴隷達の苦悶の声が響く中、奴隷市は無事に終わる。
だいたい1400ポンドの値段で売れ、キューバと合計すると5200ポンドの売り上げとなった。
メキシコではこの売上から銀やタバコを購入していき、船に詰め込んで即出航。
で、やっぱり海賊に出会うが、俺が風を操る事で船を加速させて、海賊の射程外に脱出していく。
ちなみにこの時代の海賊は小型船に武器を満載したタイプと商船を魔改造した大規模海賊の2種類がいる。
小型船は海岸沿いにて通りかかる船を狙い、大規模海賊は航海中の船を狙う。
1717年で有名な海賊は前にも出てきたホーニゴールドやヘンリー・ジェニングスという海賊共和国(現バハマ)の指導者達が有名なのだが、コイツら来年になるとイギリス国王が派遣したバハマ総督が無条件の恩赦を行うことにより海賊を辞めてしまうので、その部下達が以後大物海賊として活動していくのである。
例えば黒ひげことエドワード・ティーチや逃げ足のチャールズことチャールズ・ヴェイン、女海賊のアン・ボニーとメアリ・リードを率いたジョン・ラカムという歴史に名を残す大船長達がこの時期はホーニゴールドとヘンリー・ジェニングスの部下をしていたのである。
また、海賊共和国があった時代は穏健派のホーニゴールドが指導者だった為にイギリス船は見逃される事が多かった。
しかし、1718年の海賊共和国崩壊後はイギリス商船だろうと見境無く襲撃され、特に1720年から1722年までは大海賊達がカリブ海だけでなくアフリカ沿岸部でも暴れ回り、一時海運がストップするという時期があったりもする。
何が言いたいかというと、1718年から1722年までが本当の大海賊時代なのである。
海賊達から5回も発見されるが、俺のチートを使うことで何とか逃げ切り、大西洋に出ることができた。
これで海賊も追ってくることは無い。
船上で2回目のボーナスを支給し、船に揺られること20日……嵐に2回遭遇したものの死者、怪我人無し、病気も赤痢が一部流行ったが、正露丸を飲ませて安静にしていたら回復し、ロンドンから出航して直ぐに遭った嵐で大砲に轢き潰された1人を除いて、全員無事にロンドンに戻ることに成功したのだった。
その航海日数なんと95日……約3ヶ月で航海完了は近年類を見ない順調航海だったと船員達は喜んだ。
ロンドンに到着し、南海会社に航海の費用や利益の書類、積荷を渡すと会社側は大喜び、船員全員に更に追加でボーナスを支給された。
俺は横領した約100ポンド分の金や宝石の他に給料として約6ポンド、ボーナスに要求した南海会社の株をなんと2株も発行してもらい、ハンス船長にまた航海に誘われたが、ちょっと陸で休息すると言って断った。
ちなみにこの短期間の航海で膨大な利益を出した事でハンス船長は一躍時の人になり、有能な船長として新聞に取り上げられたりもした。
南海会社はハンス船長に3ヶ月の休暇を与え、また貿易に出航するように要請し、ハンス船長も承諾。
ただこの船に俺は乗ら無かった為に、出航したグッドラック号とハンス船長は二度とロンドンに帰ってくることは無かったのである。
船員達が寄港を祝い、宴会を開く中、俺は頃合いを見て宴会から脱出し、宿にコーラルとアクアを呼び寄せた。
俺達3人は荷物を入れた袋をひっくり返すと金や銀のコイン、ダイヤモンドやルビーといった宝石の入った箱が出てきた。
総額にすれば300ポンドはするだろう。
「いやぁ……稼いだな」
「大粒のダイヤモンドにルビーに金貨、銀貨……」
「チャーリー、これをどうするんだ?」
コーラルがどうするのか聞いてくる。
「とりあえずこの宝石や金、銀を女の宝石人間を作り出して娼館でも始めようかな。コーラルとアクアに経営をしてもらって」
「別に良いが、場所はどうするんだ?」
「そりゃ勿論ドーバーよ。ロンドンは物価が高いし高級娼館が建ち並んでいるからな」
ただ娼館をやるのにも資金がいるため、備蓄していた30ポンドで借家を借りたり、備品を集めたりする必要があるが……。
「まぁ足りないと思うから一部宝石は換金しないとな」
俺はコーラルとアクアを一旦宝石に戻してから眠りにつくのだった。
『やぁ2回目の航海お疲れ様だねチャーリー』
「ええ、無事に帰ってこれましたよ神様」
『さぁ約束だ。またチートを与えよう。前回飲水を生み出す能力と頭の中に世界地図が浮かび上がる能力をキープしていたから新しいチートは……これだ』
神様はカードを俺に見せてくる。
〈腐敗を防ぐ〉
「こ、これは……」
『良いチートだろ? まぁ当たるかは分からないけどね……さて3枚のカードをシャッフルしてっと……はい、チャーリー、1枚引くと良い』
「……これにします」
俺はカードをめくると腐敗を防ぐというカードを手にしていた。
『おめでとう! 良いカードを引けたんじゃぁないかな?』
「これって瓶詰めや塩漬けにしなくても食料を新鮮な状態でってことですか?」
『一部制約がある。適応範囲はチャーリーが乗る船や空間限定だ。陸地だとチャーリーの住む家に限定されると言えば良いかな? まぁ船上で使いやすいチートだと思うが』
「そうですね……腐敗しない……まぁ水が腐らないだけでもありがたい」
『ふふ、気に入ってもらえた様でよかったよ。今回も選択肢のロックはするかい?』
「……いえ、一旦リセットします」
『ほう、そうかい……では選択肢はリセットだ。ではよき旅をチャーリー』
俺の意識はそこで途絶えた。