ワイアット副船長(以後親方)がドーバーの街で声をかけると、あっという間にベテラン水夫や航海長が集まり、給料を支払う代わりに、宝石人間達の見習い水夫達に航海まで帆の張り方や大砲や武器の扱い方、船内での活動方法等の訓練を付けてもらっていた。
「見習い水夫達、皆真面目ですげぇな。船長(チャーリー)のことを崇拝しているくらい結束しているし」
「覚えも良いし、ちゃんとした船医や薬剤師、料理人も乗っている。航海長もベテランで不運が無ければ航海出来るメンバーが揃っているんだよな」
「それにジャパン号も良い船だ。新しい要素を盛り込みつつ、船員の事を考えられた改造もされていて……船員用の船室があるのは凄いよな」
「あぁ、寝れる場所があるだけで喜ばしい」
雇われたベテラン水夫達もそんな話をしながら教官役として見習い水夫達を教えてもらう。
俺はその間に積荷を集めていた。
まだ産業革命前なので綿織物等の値段は高い。
アメリカで綿を生産させて、その綿をイギリスで織物に加工し、アフリカに輸出……という流れである。
この布を大量に買い込み、船の積荷にしていく。
他にアフリカで好まれるのは酒である。
蒸留酒の技術が未発達だったアフリカでは強い酒は宝物と同じ値段で取引され、1樽で奴隷1人と交換する場合もあった。
後武器や火薬……これは前にも説明したが、アフリカでは戦争が絶えなかった為に戦争で勝つために武器や火薬を求め、戦争捕虜を火薬や武器と交換してまた戦争をする……これの繰り返しであった。
あとは硝子細工だったり装飾品類も高値で取引されたのである。
まぁ俺は金や象牙等を今回購入するのであるが……。
宝石人間を作るための質の良い石炭を数袋購入してジャパン号に詰め込んでいくのであった。
年が明けて1721年2月、出航準備が整った俺は3回目の航海に出発するのであった。
今回の航海の船員の給料はこんな感じ。
·副船長(ワイアット親方) 月5ポンド
·航海長 月2ポンド15シリング
·甲板長 月2ポンド5シリング
·船大工 月2ポンド5シリング
·水夫 月1ポンド15シリング
(船医、料理長、薬剤師、見習い水夫達は宝石人間の為割愛 2ポンドから1ポンドの給料は支払っている)
船員数45人でドーバーの港を出航。
で、今回の航海には腐敗しない効果が俺にあるため、生野菜やフルーツ等を多めに詰め込んだ。
あと卵を手に入れるために鶏も40羽近く船に詰め込んだ。
で、今回も釣りをしながら食料を調達し、風を操り、順風で進んでいった。
「よぉチャーリー、また釣りをしてるのか?」
「あ、親方お疲れ様。どうしました?」
「いや、こうやって航海するの久しぶりだと思ってな」
横に座った親方も釣り糸を垂らす。
「ハンスの奴結局行方不明か」
「ええ、ロンドンで長く居ましたが、3年以上帰ってきてないらしいので、海賊になってるか……もう生きてないか……」
「まぁこういう大航海をする船員をやっていればままあることだからな……俺達もそうなる可能性もあるし」
「安全な航海を祈ってくださいよ……お、釣れた」
「何が釣れた?」
「シーブリーム(鯛)ですね。船員数も多いのでもっと釣らないといけませんが」
「相変わらずチャーリーは釣りの才能が凄いな。よくそんなに釣れるよな」
「神の加護があるのかもしれませんね」
グッドラック号と似たような船なので最高速度も同じくらい。
順風で10ノットでヨーロッパの沿岸を移動し、前よりは時間がかかったが、約10日でリスボンのロカ岬が見える位置まで移動をしていた。
「はい次の人」
宝石人間達のメンテナンスで、元海軍で筋肉マッチョに鍛えたマリン以外は病気にならないために体のリセットをかけていた。
「ふう、娼婦をやっていた頃に比べると力仕事ばっかりですわね」
「マリーゴールド、口調が女のままだぞ」
「あら、失敬……ううん、これで良いかいチャーリー様」
「うわ、急にイケボになるなよ……でも船は慣れたか?」
「ぼちぼちですね。チャーリー様が風を操ってくれるお陰で順調に航海出来ていますし……ちなみに今回はアフリカの何処を目指していますの?」
「黄金海岸沿いを回っていって、最終的に南アフリカで黄金と象牙を手に入れてまた沿岸部を北上してアメリカに行くルートを取るな」
「何ヶ月くらいかかるのそれ?」
「まぁ3ヶ月くらいじゃないか? 移動と停泊日数で半々くらい。良い訓練にはなるだろ」
「まぁそうですけど」
「マリーゴールド会計頼んだぜ」
「はぁ……表帳簿と裏帳簿作る労力考えてくださいよ……まったく」
そう言いながらマリーゴールドは船室を後にしていった。
アフリカ沿岸を進んでいると、客船と思わしき船が並走を始めていた。
船を見ると甲板でダンスをしたり、音楽をしたりしているように見える。
俺も甲板でその船を眺めていると、ワイアット親方が望遠鏡でその船を見ると慌てた様子で
「馬鹿! あれは海賊船だ!」
と慌てて船員達に船を引き剥がすように指示を出させた。
こちらが慌てた様子を見せると、相手方はバレたと思ったのか、ダンスをやめて、大砲をぶっ放して攻撃を始めたではないか。
俺は風を操って、砲弾が船に当たらないようにしたり、俺のジャパン号には強風を、海賊船には逆風を叩きつけて、一気に距離を引き離していった。
海賊というと某海賊漫画の様なドクロを掲げた船を操って大砲で攻撃してくる姿をイメージするかもしれないが、今回みたいに客船に偽装して船に近づき、距離が近づいて油断したところで攻撃を仕掛けるという船乗りの相互の情報交換だったり友好の証なんかの行動を逆手にとって略奪に勤しむ事があったのである。
幸い船はどんどん離れていき、直ぐに見えなくなったが、アフリカ北部でも海賊が居るというのはなかなか治安が終わっている……。
というか現在バーソロミュー・ロバーツという大海賊が暴れ回っており、海上輸送網が麻痺する事態に陥っていた。
そんな大海賊に出会わない事を祈りながら航海を続けるのであった。
「本当に腐ってねぇな」
肉、飲水、生魚……全てが俺の新しく得たチートの腐敗の防止によりまったく腐っていなかった。
お陰で塩漬け肉ではなく普通の肉を焼いたり蒸したり、スープで煮込んだりして食べることが出来ていた。
「本当に腐ってないですねチャーリー様」
「ああ、コウも料理長として毎日料理を用意してくれて悪いな」
「コーラルとアクアも手伝ってくれるので大丈夫です。それにしても生水が腐らないのは大きいですね」
少量の石灰を混ぜた飲水は1週間はギリギリ保つ。
ただそれ以降は味が変味していたり、腐ってしまうため衛生的にもよろしく無かった。
しかし、航海開始して2週間……宝石人間以外の船員達には蒸留をすることで飲水の味を保っていると説明していて、それが信じられていた。
船員達も酒は嗜むが、水が飲めるのであればそれに越したことは無い。
それに腐ってない水は連れ込んでいた鶏の病気を防ぐ意味合いもあり、上手く誤魔化していた。
「船医としても水が腐らないのはありがたいわ」
「シルバーリーフ……口調口調」
「おっと……女で居た期間が長いと女っぽくなるわね。気をつけないと」
シルバーリーフはコーラルと一緒に船医を任されており、船内で病気が蔓延しないように普段は船内の掃除を行っていた。
「出来れば衣服を一度熱湯で洗いたいのだけど」
「あと数日でシエラレオネ……今の時代だと国なき土地に到着するから、現地のイギリス商館と交渉して水の確保等をしてこよう」
「助かる。あと猫を仕入れられない? ネズミ捕りに使いたいのだけど」
魔女の使いとして一時期恐れられていた猫であるが、大航海時代と共に地位を回復していき、18世紀になる頃にはヨーロッパの商船にはネズミ捕りの為に猫を船内で飼う場合もあった。
ただ多くの場合がヨーロッパの近海を結ぶ航路の船が多く、十分な食事が与えられるか怪しい大西洋航海時には裕福な客船、もしくは大型船でないと猫を飼う事はしなかった。
特に奴隷船では衛生状態が非常に悪く、猫を飼っても直ぐに死んでしまうのである。
「シルバーリーフ、この船一応奴隷船だぞ」
「まぁ奴隷を置いてアメリカからヨーロッパに戻る時でも良いから考えて欲しい。宝石人間はリセットかけるから病気にはならないけど、ご主人は病気になるのだから」
「善処しよう」