航海に向かう前の準備も行っておく。
この時代の貿易は、貿易を行う前に出資者を募り積荷の資金を集めることが多かった。
資本家達は船が帰ってくれば出資金の1.5倍から3倍が戻って来る、しかし船が沈んだり海賊におそわれたりすれば水の泡……ちょうど大海賊時代まっただ中だったために配当金は高止まりしており、俺が乗る予定の商船にも3倍配当確約ということになっていた。
俺は貯めた5ポンドを自分が乗る船に投資したのである。
ちなみにこの時代無事に大西洋貿易が成功する確率は約7割とされ、生きて帰れるかは6割とされていた。
なので生きて帰ってくれば大儲け、死んだらそれまでという感じで俺は成り上がる為にリスクを取ったのである。
一応の遺書を書き残し、俺は船に乗り込むのであった。
「よし、積荷をどんどん詰め込んでいけ」
俺は積荷を他の水夫達と一緒に詰め込んでいく。
今回載せるのは武器、弾薬、布に装飾品類である。
乗る船はスクーナー型帆船(乗組員25名 最大人数100名)である。
積載量的には中型からやや小型船と言われる大きさである。
個人所有物は樽1つ分と決められており、俺はその中に作れるだけのキャベツの酢漬け(ザワークラウト)とレモンの瓶詰め、それに調味料を用意していた。
それが割れないようにおがくずを敷き、残った部分には本を持ち込んだ。
船長から事前に本を持ち込むと良いと言われていたからである。
というのも本は航海中で船員達が持ち寄って回し読みし、娯楽として扱える唯一の物であり、あとはトランプなんかも詰め込んだ。
持ち物を持ち込めるのも志願した水夫の特権であり、徴発された水夫は持ち物が持ち込めなかったり、持ち込める量が減らされたりもした。
ちなみに時代が進むと水夫不足から酒場で元気そうな若者を酒や薬で泥酔させて船に乗せるというやり方で水夫を集めるという恐ろしい事をやる人材派遣会社が複数存在したのだとか……。
しかもそれが宿や酒場の店主とグルなので引っかかる人が続出したという恐ろしい話である。
幸い今回の船員は船長が集めた志願者ばかりであり、上層部はベテランで固められていた。
船での役割は船長、副船長、航海士(一等、二等)、料理長、船医、甲板長、大工、砲手、そして水夫達である。
今回一緒に航海を共にするパプテマス号は先ほどの人員(高級船員9名)に水夫16名で航海をすることになる。
「船長、出航準備完了しました!」
「よし、では出航だ!」
錨を上げて、ロープを解くと、船が港から離れ始め、長い長い航海が始まるのであった。
とは言え、大西洋横断までは陸地を見ながらの航海となり、フランス、スペイン、ポルトガル本国を見ながらアフリカ中部へと向かう。
「最初の仕事は見張り員か」
甲板から周囲を見張る見張り員の仕事を水夫達は受け持つ。
というか日中は甲板掃除をしているか、甲板長や航海士の指示に従って帆の操作するか、見張り員をやるか以外の人員はなるべく休んでいる。
勿論水夫に個室なんて物があるわけでは無く、甲板に布を敷いたり、倉庫の隙間で眠ったり……中には換気口の隙間で寝たりと寝れる場所なら何処でも寝るという感じで眠りに就く。
見張り員の仕事は8時間の3交代制でアフリカやカリブ海でなければ海賊もそこまで出ないので楽にしていて良いと甲板長から言われていた。
そんで船での食事というと、腐りやすい物から食べていくのが決まりであり、出航から間もない頃は野菜がちゃんと出てくる。
あとは釣った魚を料理長が捌いて料理を出すことが普通である。
調理場では金属製のコンロがあり、他に延焼しない仕組みとなっていたので、船内で唯一火を扱う事が出来る部屋であった。
なので火の通った料理が普通に出てくるのである。
俺は甲板で釣具を借りて釣りをしてみる。
「よぉチャーリー、釣れそうか?」
「あ、船長……お! ちょうど当たりが!」
グイッと引っ張ると1メートル超えのスズキことシーバスが釣れた。
「まだ岸に近いからシーバスが釣れましたね。よっと」
俺は釣れたシーバスの頭をナイフの腹で叩いて脳震盪を起こさせてその場でナイフで尾の付け根を切断して海水を汲んだバケツにシーバスを漬け込んだ。
そうすると血液が染み出てきて生き絞めをしたのと同じ効果がある。
「ここらへんシーバスの漁場っぽいので釣れるだけ釣って干物にしてしまいましょうか」
「お、おう……流石漁師の息子だな」
その後釣り続けて20匹近くも釣れて、皆から一目置かれるようになり、料理長に漁師飯として食べられていたと言って荷物から酢とレモン汁を持ってきてシーバスの刺身に捌いて、オリーブオイルと酢、レモン汁でカルパッチョを作った。
料理長は生魚はまずいだろと止めるが、俺は漁で何度も食ってましたよと言うと、料理長は恐る恐る食べてみて、それが凄まじく美味くて衝撃を受けたようだ。
「う、ウメェ! なんだコレ!」
「カルパッチョと言われる料理らしいです」
料理長は皆にもこの旨さを共有したいと、俺と2人で仕込んで料理を作っていった。
カルパッチョを食べた船員達は美味え美味えと大喜び。
ただ釣れた当日じゃないと味わえない為、今日だけの品と言うと、滅茶苦茶味わいながら食べ、酒を飲んで宴会になるのだった。
「チャーリー、また釣りか?」
「ああ、シーバスばかりだと食べ飽きるだろうから別の餌で釣りをしてみたが……お? 何かかかった」
俺は糸を引き上げるとタコが釣れた。
「おいおいデビルフィッシュじゃねぇか! 捨てちまえそんなの」
「うん! 今日はこれを食べよう」
「おいおいまじかよ!」
水夫達は辞めとけと言うが、料理長に相談して自分の持ち物からマヨネーズもどきを持ってきた。
「なんだこれは?」
「卵の黄身、酢、塩と植物油を投入したマヨネーズという調味料です。これと小麦粉、それにキャベツを使わせてもらいますよ」
「お、おう……長持ちしないからキャベツを使うのは良いが……」
小麦粉にマヨネーズ、小魚で取っただし汁と細かく刻んだタコ、それにざく切りキャベツを投入してよく混ぜる。
そしてフライパンで焼けば……なんちゃってお好み焼きの完成である。
料理長がまず味見をする。
「あつ! あつ! なんだコレ! 美味いぞデビルフィッシュってこんな味になるのか?」
「これなら皆食べられると思いませんか?」
「ああ! ベーコンを入れても美味いかもな。マヨネーズが無いと作れないのか?」
「いや、繋ぎとなる食材なら何でも……卵が小麦粉を繋ぎ合わせる役目があるので、マヨネーズで代用した感じです」
「なるほど……見た目が変わってしまえばデビルフィッシュが入っているとは分からないか」
料理長を手伝いながら、俺はなんちゃってお好み焼きを焼き、皆に提供すると、これも好評。
ただ食った後にデビルフィッシュ(タコ)が中身に入っていると知ると皆仰天するのだった。
そんな事をしていたためか、出航から数日後には俺は料理人に抜擢され、甲板の見張り員は免除の代わりに料理長の手伝いと釣りを日中することを船長から命じられた。
「本当毎日何かしら釣ってくるなチャーリーは……今度は何を釣ったんだ?」
「シーブリーム(鯛)がなんか沢山釣れたよ。今日はこれを食べようか」
なんか俺が毎日釣るのが当たり前みたいになっているが、これが普通では無いのは分かる。
神様が才能が開花しやすいチートを与えるって言っていたから漁に関する才能が芽生えた……のかもしれない。
まぁありがたいから使わせてもらうが……。
ちなみに現在地はイベリア半島南部に来ており、出発から約1週間が経過していた。
イギリスの勢力圏外……というかスペインとイギリスの仲はこの頃悪く、港を使うとしたらイギリスと同盟関係のあるポルトガル領を使う必要があるが、まだまだ食材、水共に十分あるため素通りし、アフリカ大陸に向かっていた。
「チャーリー航海の勉強をしたいんだろ。あれがロカ岬だ」
ロカ岬……ポルトガル首都リスボンがある場所の事で、ここを通ればカナリア海流に乗ってアフリカに一気に移動することが出来る。
「アフリカまでどれぐらいかかりますかね」
「うーん、3日から1週間ってところだね。今のところ凄い順調な航海だよ。雨も小雨が降った程度だし、風は十分に吹いているし」
料理人として働きながら、空いた時間は二等航海士の人に色々教えてもらいながら航海術について学んでいた。
一等航海士の方は船長と共に何年もペアを組んでいるベテランだが、二等航海士の青年は軍人上がりでアフリカには幾度か行った事があるが、大西洋を渡るのは初だと言う。
「じゃあ今の船の速度を測ろうか」
そう言って二等航海士の青年は俺に縄を渡してきた。
「これは?」
「今の船の速度を調べる道具ですよ。これを海に投げ入れて……良しっと」
縄の先端には木の棒がくくりつけられており、等間隔で結び目がついていた。
海に木の棒側を投げ入れて、手を離し、結び目が何個手から通過したかで速度を測る。
ノットという単語が、結び目と言う意味と、船の速度とを意味する言葉な由来はこれである。
「7ノット……だいぶ速いな」
ちなみに帆船の平均速度は順風で5ノットと言われている。
強い風と海流に乗っているためより速度が出ていた。
「この速度が続く様なら1週間もかからずにアフリカ中部地域に出れそうだね!」
「そうなればいよいよ奴隷貿易ですか……」
「今より厳しい旅の始まりになるから気合を入れないとね」
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