船乗りがなる病気も色々ある。
一番有名なのが壊血病であるが、感染症も多く蔓延する場合がある。
赤痢、ペスト、コレラ、インフルエンザ等から、アフリカの赤道近くをうろちょろするためマラリアなんかにも感染する。
赤痢やコレラ、食中毒なんかは、正露丸や経口補水液(砂糖と塩、レモン汁と煮沸消毒した水を混ぜた物)を摂取させておけば脱水死することは無くなるし、インフルエンザやマラリア等の熱病は南米産のキナの木の樹皮を煎じて飲む事で解熱剤になることが経験則で判明していた。
事実このキナの木の樹皮を更に薬として成分を抽出したのがキニーネという解熱鎮痛剤である。
1640年頃よりヨーロッパでもキナの木の樹皮に解熱効果があると広まり、南米で重要な資源扱いされていたりする。
問題はペストであり、ネズミを媒体に広まることが多く、船内はネズミが繁殖しやすい環境なので、シルバーリーフが言うように猫を放し飼いするのが予防として一番手っ取り早い。
しかも抗生物質が無いこの時代、ペストが一度広まれば、対処法が自然治癒しか無い為に、ペストは黒死病とも呼ばれ、ヨーロッパのトラウマとして刻み込まれていた。
ちなみに中南米のインディアンが壊滅的被害を受けたのはヨーロッパ人が持ち込んだペストが原因であり、多少の免疫のあるヨーロッパ人に比べて、インディアン達はバタバタと死んでいったのである。
前に、この時代無事にヨーロッパに帰港出来る確率が7割という話をしたが、船が沈む確率はそんなに高く無く、大半が奴隷反乱と病死であった。
何が言いたいかと言うと、熱病が船内で流行し始めてしまったのである。
宝石人間達は大丈夫であるが、航海長、大工、水夫5名が感染し、高熱でぶっ倒れた。
一応近くに港があったので停泊して回復を待つが、なかなか回復しない。
病気になるからとシルバーリーフが衣服を熱湯で全部洗ったり、近くの商館で医療品を購入して、様子をみているが、おそらくインフルエンザと思われた。
解熱剤と鎮痛剤、あと脱水予防に経口補水液を飲ませて様子をみていると、1週間程度で回復に向かい、ベテラン船員が壊滅するというのは避けられた。
「シルバー船医は陸上の病院の先生よりも信用できる」
「滅茶苦茶有能なお医者さんだ!」
「シルバーさんが居なかったら俺達死んでたな」
幸い死者は出なかったが、船内でシルバーリーフの名声は確固たるものになり、体調が怪しくなったらシルバーリーフに診てもらうという流れになるのだった。
イギリスを出発して1ヶ月……黄金海岸に到着し、親方に船を任せて、ダホメ王に面会し、奴隷や金の購入許可をいただいた。
そのまま俺は武器弾薬と金を交換し、石炭から奴隷を50人ほど作り、船に運んだ。
「ダホメ王国では今回50人の奴隷か」
「ええ、親方。金の方が安かったくらいで、沢山金を購入することが出来ました」
「そうか……残り150人、沿岸部を巡るぞ」
「はい!」
新鮮な食料の積み込みも行い、中央アフリカから南アフリカまでの沿岸部を航海していく。
この時航海の目印になるのが各地に建てられた城である。
城……まぁ規模は砦であるが、なぜアフリカやインドに砦が沢山あるかと言うとこれら全部企業の支店だからである。
まず貿易会社は基本的に国から貿易許可証を発行してもらう。
ジュエリーカンパニーも勿論この貿易許可証を持っており、貿易が許されている国は俺の場合イギリス、スペイン、ポルトガル、オランダの会社と取引が許されていた。
フランスは取引の関係で別にフランス領に寄る必要が無いので支払ってないが、まず貿易会社を始めるためには国の許可がいる。
そしたら次に各貿易会社の本店への挨拶である。
寄港する可能性のある会社には顔を出しておき、取引の許可を求める。
これには賄賂が有効であり、南海会社のバブルが広まったのはこの賄賂として自社株を他の人達に配って貿易許可を求めたのも原因の一端である。
俺のジュエリーカンパニーは創業したての貿易会社なので、現金で賄賂を送り、企業の許可をもらった。
ただこれ別の方法もあり、それはその貿易会社に出資者になってもらう方法である。
アメリカから持ってきた物資を出資者に配分しますという契約を結べば大抵の企業は許可をくれる。
じゃあなぜそれを俺がしなかったかと言うと、バーソロミュー・ロバーツが暴れまくって海運が滅茶苦茶になり、奴隷貿易の投資は危険と思われていることと、南海泡沫事件の影響で投資に慎重になっていたので、投資が集まらなかったから賄賂で許可を求めるという回りくどい事をせざるを得なくなったのである。
で、そんな貿易会社は自前の拠点を大抵作っており、それがアフリカやインドにある城や砦になる。
主に奴隷の一時的な保管、船の修理や補給、貿易品を集める役割があり、これが支社の役割である。
こういう支社には海賊だったり敵国(スペインやフランス等)が本国が戦争になると決まって襲ってくるためある程度の自衛の為に支社を要塞化させるのである。
時代が進むと要塞化させるのではなく、最初から要塞を建てる貿易会社も現れるといった感じだ。
言ってしまえば武装した銀行みたいなイメージをしてくれると一番近い。
(貿易品だけでなく本社が取りに来るまで金銀等も備蓄していたため)
取引をする場合まず城に向かって空砲を数発放つ。
敵意が無いことを示し、城側から返礼の空砲もしくは旗が掲げられるので、こちらも旗を掲げて商品があるかどうかのやりとりを行う。
今回の場合は金と奴隷、それに物資の補充を希望し、城側に金はあると旗が昇った。
そしたら海岸付近に近づいて、船を停泊させて、ボートで上陸して、城の代表と挨拶を行う。
この時に品のサンプルを見せ合う事もある。
今回は布と金の交換が成立し、布と金を交換する。
更に徒歩で行ける範囲に別の城とそっちなら奴隷が居るかも……みたいな情報と本国の様子等の情報交換を行い、水夫と社員が貿易品の交換を行う。
ちなみに支社の方々はここで得た布を内陸の国に売りに行き、奴隷や金と交換してくる……というサイクルが完成していた。
場合によっては自分らが武装して人攫いをすることもある。
俺は地図を借りて別の城に向かうフリをして道中で石炭人間を生み出して自分の船に戻るという感じで奴隷を船に積み込んでいく。
予定では南アフリカ近くまでこれを繰り返す予定だったが、偽装が結構難しいことが判明し、コンゴ辺りで行動を止めて、食料や水の補充を行うと、大西洋横断を開始するのであった。
200人ほどの奴隷を乗っけて大西洋の移動を続けるが、俺が風を操っているので、前回みたいに20日程度で大西洋横断ができそうである。
で、船内ではやっぱり始まる大乱交大会……。
それまで溜まっていた性欲を奴隷達にぶちまける船員達。
宝石人間達も周りに流される形で石炭人間達と乱交を行い、俺が毎度犯された石炭人間のリセットをかけるハメになる。
まぁ俺もやる時はヤるのであるが……。
「俺も今年で20歳……あと何回航海出来るかなー」
そんな事を考えながらもマリーゴールドと共に会計の仕事と航海日誌の作成をしていく。
自分の会社とは言え、役人に企業実態を説明するために航海日誌の保管は必要であり、基本雇われ船長もしくは航海長が航海日誌の作成を行う。
まぁ社長自らが乗っているジャパン号は社長である自分が作らないと駄目なので、書いているが……。
「ふう、帳簿の作成終わりましたよ」
「ありがとうマリーゴールド……現時点でどれくらいの利益だ?」
「6000ポンドの品々が約6000ポンドの金と200人の奴隷に化けたので、現在船の積荷は約1万ポンドくらいの価値になりますね」
「ジャマイカで売っぱらって、砂糖や綿花なんかを積み込んで売れれば1万5000ポンドくらいになるか? 人件費を除けは1万4000ポンドくらいが残るかな?」
「今回の航海が成功したら船をふやすので?」
「いや、船員を完全に宝石人間で固める。それで次は宝石集めの旅だ」
「なるほど……今回ので金の宝石人間が増えそうですわね……おっと、増えそうですね」
「まぁそうなれば石炭をより多く詰め込んでおくだけで利益が馬鹿みたいに増えるからな。そしたら船を増やすか、大型船にするか……」
「稼げるうちに稼いでしまいましょ!」
「あぁ、そうだな」