「はえぇ……1ヶ月もかからずに大西洋横断したぞおい……」
「俺は奴隷達が一切病気にならなかったことの方がすげぇと思ったわ……」
ベテラン水夫達が話をしていた。
「この速度だと前に話題になったグッドラック号の航海の話を思い出すな」
「あの悪名高き南海会社の船だろ……確かチャーリー船長も乗ってたんじゃなかったか?」
「俺長く船乗りしているけど、あの人ほど幸運な人は見たこと無いわ……」
「確かにそうだな。釣りすれば何かしら釣ってくるし、今の料理長の師匠がチャーリー船長だろ? 船医のコーラルとシルバーさんの2人に医者のところに通わせた資金工面をしたのもチャーリー船長、下痢止めの薬を作ったのも船長、長持ちする瓶詰めという保存方法を発明したのもチャーリー船長」
「瓶詰めのお陰か、食事や水が腐らなかったからいつもなら苦痛の食事が美味い食事を続けることができたからな」
「それに奴隷もなんだかんだ1ヶ月程度で集まったもんな」
「親方に聞いたら、親方とチャーリー船長が乗っていた時も奴隷が直ぐに集まったとか……」
「それに奴隷の質も良いよな」
「ああ、胸や尻がでかくて、顔立ちは美形のが多いんだよな今回の女奴隷達」
「俺は少女の奴隷が締め付けがキツくて良かったわ」
「輪姦してるのに頑丈だよな……病気にもならず、翌日にはケロッとしていてよ……」
「肌さえ白ければな……」
「あぁ、奴隷にするには勿体ないくらい良い女達だよな……」
ベテラン水夫達は男の奴隷の方も注目する。
「模範奴隷多いよな」
「ああ、暴れる奴隷が全然居ないからな。今回の航海で鞭打ちした奴隷居なく無いか?」
「反乱に備えていたが、何事も無く出航できたし……今回は不気味なくらい航海が順調だよな……」
「ただカリブ海は気をつけねーと。海賊がまだうようよしているんだろ?」
「一応軍艦が多く派遣されて、鎮圧しているとは聞くが……実際どうなんだろうな」
「無事に航海が終わって欲しいぜ」
ベテラン水夫達はそう話し合うのだった。
無事にジャマイカに到着したので、この頃のジャマイカについて軽く説明しておくと、ジャマイカはキューバから見て南にある岐阜県程度の島である。
主要産業はコーヒー栽培とサトウキビ栽培……以上。
え? 他にもっと何かあるだろうって?
無いんだなーこれが。
イギリス本国の命令によりとにかくサトウキビとコーヒー栽培を行うように言われていたために、他の作物は個人が消費する分を除いて作られず、しかも土地が限られているので、生活必需品も他の地域からの密貿易で成り立っていた。
収入源は奴隷貿易でアフリカから運ばれてくる奴隷を買って、砂糖、コーヒー、ラム酒を売る。
他のカリブ海の地域に輸出は生産力が違いすぎて売れないという悲しき植民地なのである。
今回は見方を変えて売られた奴隷がどうなったか説明していこうと思う。
奴隷番号122番、雇い主からはジャックと言う名前が与えられた宝石人間がとあるサトウキビ栽培をしている大農園に買われていった。
まず買われた奴隷達は約1週間の休息が与えられる。
船旅で落ちた体力を回復する期間である。
この期間は食事が農場側から支給されることもしばしばであった。
で、1週間が経過すると労働が始まる。
日の出と共に作業が始まり、伸びたサトウキビを収穫し、荷車に詰めて、水車小屋に運んでいく。
水車小屋ではサトウキビから汁の抽出が行われ砂糖を作っていく。
あと副産物の廃糖蜜からラム酒を作る場合もある。
奴隷達には小屋が用意されて小屋の中で言葉が通じるグループで相部屋になり、小さなグループが出来上がる。
そのグループで自分達に与えられた小さな畑で、自分達の食べる食料を作らないといけない。
昼間の休憩は2時間ほどで、この間に自分達で食事を作り、食べる。
日が沈むと作業は終了となり、ここから奴隷達は自分達の畑の手入れをしたり夕食を作ったりの労働を行い、深夜12時頃に就寝、朝5時頃起床という流れを永遠に繰り返していくことになる。
一通りの流れを確認した上でジャック君がどうなったかを見ていこう。
ジャックと共に売られた石炭人間の奴隷達が小屋に集まって話し合いをしていた。
「まったく、これから奴隷として一生働くことになるのかよ」
「まぁ石炭として一生を終えるよりはマシだろ……優秀だったら子孫を残す権利が得られるし」
この頃の奴隷は子供を作るのにも農園の長の許可が必要で、不用意に子供を作ると罰が与えられることもしばしば。
「先輩奴隷の皆さんから種芋や野菜の種を借りましたし、農地を共有して作物を作っていきますか」
ジャックと仲間達は英語を話す事が出来たので、奴隷と農園の幹部の白人との通訳をする役回りに直ぐになり、仲良くなった白人幹部達と酒を飲み合う場合もあった。
そこでジャック達は資材を集めて酒を作る装置を作り、芋から酒を作り出すことに成功する。
他にも頑丈な石炭人間は病気や怪我をすることが少なく、よく働くため、幹部からの評価がどんどん上がっていき、2年が経過する頃には自分だけの小屋を建てることが許されるまでに至っていた。
それに、石炭人間も数が増えていき、最初4人だったのが、2年でこの農園だけでも12人まで増えていた。
(ジュエリーカンパニーが何度も航海を成功させたため)
増えた石炭人間でコミュニティを作り、物資を共有したりし、更に他の奴隷達に育った作物を貸したりしながら、自身のコミュニティの発言力を強めていき、遂には家畜を飼うことを許されるまでに至った。
鶏や牛を飼い、それを農園幹部の人達に肉や卵を譲る事で、色々な物資を手に入れることに成功し、色々交渉することで、妻を持つ権利まで手に入れる。
子供が出来ることになるが、石炭人間と普通の人間のハーフは石炭人間の頑丈さと勤勉さを引き継ぎ、子供ながらによく働いた。
ジャックの最初の妻は数年後に病気で亡くなってしまうが、次の妻はまた売られてきた石炭人間だったために更に頑丈な子供が産まれることになり、計算を幹部から教わったジャックは10年後には農園の幹部となり、奴隷を現場指揮する立場まで成り上がるのであった。
まぁその頃にはジャマイカの黒人奴隷の1割が石炭人間、もしくはそのハーフになるほどに浸透することになるのだった。
「いやぁ売れた売れた。あとはサウスカロライナで奴隷を売れば、アメリカとはおさらば!」
上機嫌の俺は貨物室にびっしり詰め込まれた砂糖やコーヒーを見てニヤける。
あとは残った石炭人間をサウスカロライナで売って、綿を入手すれば任務は完了。
「くうぅ! これで約1万4000ポンドの利益は旨すぎる!」
するとアクアが船長室に乗り込んできた。
「どうしたアクア、そんなに慌てて」
「軍艦が臨検するから止まれって合図を送ってきてるんだけど」
「何処の国?」
「おそらくスペイン」
「じゃあにげるぞ」
本国は負けたが、植民地では負けを認めたくないスペイン艦隊が戦争終結後もイギリス商船への嫌がらせを行っているとジャマイカで耳をしていたが、本当にやっているとは……。
こういう時も風の力が役に立つ。
軍艦をぐんぐんと引き離し、あっという間に見えなくなってしまった。
「ふう、スペインもいいかげんイギリスに挑むのを止めれば良いものを」
「過去の偉業を忘れられないんだよ……きっと……」
「まぁ俺達がやっている奴隷貿易は歴史からしたら黒歴史になるだろうな」
「だろうね……これがあと1世紀は続くんだけど……」
「まぁ何処かで見切りを付けて勝ち逃げしないといけねぇな」
「そうだね」