サウスカロライナ……そこは北アメリカ大陸南部のイギリス植民地である。
後にジョージアが植民地として配置されるが、それまでスペインの植民地と接していたのはこのサウスカロライナであり、修羅の国でもあった。
というのもこの頃のサウスカロライナは戦争のしすぎで財政破綻してしまい、イギリス本国に土地を買ってもらい、イギリスの直轄地として再出発したばかりであった。
ちなみにサウスカロライナ最大の都市チャールズタウンはアメリカ植民地でも5本の指に入るほどの大都市である。
なんなら独自の新聞を発行していたり、もう少し後にはオペラハウスが建造されたりもする文化都市なのであるが……。
「奴隷も多いが白人の少年少女も多いな……」
「ん、チャーリーはチャールズタウンに来るのは初めてか?」
話しかけてくれたのは親方である。
「はい、実は初めてで……なんか白人の少年少女が多い気がして」
「ああ、本国で植民地で働けば土地が貰えるという募集でやってきた者達だろ……奴隷よりは賃金が出るが、辛い労働を長年することになるだろうな」
「うへー」
この少年少女は年季奉公者と呼ばれる存在で主に7年契約で、その期間を過ぎれば他の職業を自由に選べたり、自分の店を持つことが許されたのである。
意外かもしれないが、この制度は奴隷制度が廃止された後も続いており、児童労働に関する法律が整備されるまで残っていたのである。
まぁ奴隷よりは待遇的に優遇されていた場合が多いらしいが……性的な虐待を受けたり、意図的に雇い主が女子の労働者を孕ませて、任期を延長させるというあくどい事をやっている雇い主も居たらしい……。
植民地の闇の部分である。
奴隷を売却して綿や染料、タバコを船に詰め込む。
サウスカロライナのプランテーションでは綿、米、アイ(染料)、タバコが主に作られ、アメリカ向けには大豆や牛等の家畜、乳製品の製造も盛んである。
米はカロライナゴールドという品種が育てられており、日本米の粘り気とタイ米のような縦長の形の米で、リゾット等にして食べられる。
俺も街に船から降りて食べに行ったが、普通に旨い。
しかも温暖な気候が合わさり、大量に収穫することができたため、この地域の主食となっていた。
勿論小麦や大麦、トウモロコシなんかも栽培され、良好な漁港も合わさり、美食の街でもあった。
滞在したのは1週間程度であったが、すっかりチャールズタウンを気に入り、金が貯まったらここに移住するのも良いなぁと思うようになるのだった。
イギリスを出発して4ヶ月……アメリカでやることも終わり、サウスカロライナから出航する。
奴隷の居たスペースには約500トン近くのジャマイカの砂糖、コーヒーとサウスカロライナの染料、綿、タバコがどっさり詰め込まれる。
金払いが良いことや、船員全員分の寝床があることで、今回逃亡する水夫は居らず、出航時の45人誰一人欠ける事無く出航することが出来た。
で、偏西風と海流に乗ることおよそ一月……5ヶ月間の航海で3回目の三角貿易に成功し、ドーバーの街に戻ってくることに成功した。
ドーバーの街では久々に無事に貿易船が戻ってきたと騒ぎになり、商人達が積荷を購入するために集まった。
競売にかけられ、今回の収益は予定通り1万5000ポンドとなり、船員達にボーナスを支払って、1万4000ポンドが最終的な利益となった。
「親方ありがとうございました」
「おう、また金に困ったら乗せてくれや」
「はい! お願いします!」
船員達は酒場に消えていき、俺は事務所で待機していた宝石人間の社員達に事務所を守ってくれていてありがとうと労った。
「貿易船今年に入ってどれぐらい帰ってきた?」
「去年の今頃から約300隻がイギリスから奴隷貿易に出発して、帰ってきたのは100隻に満たない感じですね……」
「3分の2が失敗か……多くの会社が大損こいたんじゃないか?」
「はい、その様で……南海バブルとバーソロミュー・ロバーツの大暴れにより経済面、物流面共にダメージを大きく受けています。新しい内閣が成立しましたが、この不況を打破するにはまだ年月が必要かと」
「ふむ……まぁ稼ぎ時ではあるな。ライバルが少ないから」
「ええ」
今回の航海で宝石人間達に航海の経験を積ませることに成功した。
次の航海からは宝石人間だけで回すことも可能だろう。
「よし、今回の利益で新しい船の新造を依頼しよう。5000ポンドあればジャパン号の同型艦は造れるだろうし」
俺は新しく船の建造に着手するのだった。
『3回目の航海までにだいぶ時間がかかったねチャーリー』
「お久しぶりです。神様」
俺はまた書庫の様な場所で神様に出会っていた。
神様はトランプの様なカードをシャッフルしている。
「随分と俺は幸運の様ですが、これも神様の導きってやつですか?」
『まぁ多少の加護は与えているが、幸運はお前さんの自力の運だよ。揺り戻しも来ると思うから気をつけるんだな』
「気をつけます」
『さて、新しいチートを与えよう3枚引きなさい』
俺はカードの束の上から3枚を引いていく。
〈雨を降らせる〉
〈窒素錬成〉
〈魚群探知〉
「うわ、窒素錬成って何に使うんだ?」
『さあ、効果は当たってからのお楽しみ……さて3枚をシャッフルして……はい、どれにする』
「じゃあ真ん中をドロー!」
〈窒素錬成〉
「一番よくわからんの来た……」
『効果は空気中の窒素を固形化することが出来る……言ってしまえば人間ハーバーボッシュ法だ』
「ハーバーボッシュ法……水素と窒素からアンモニアを錬成する方法でしたっけ?」
『そうそう、石炭、水、空気からパンを作る方法とも言われている物だ。まぁ石炭を触媒に肥料や火薬が作れると思った方が良いかもな』
「うわ……船乗りだと全然効果の無いチートじゃん」
『まぁこういう時もあるってことだ……今回はロックするかい?』
「雨だけロックします」
『わかった。雨を降らせる能力をロックしよう』
「あの! 神様!」
俺は意識が途絶えそうになったところで叫んだ。
すると意識が明瞭になり、神様が驚いた顔でこちらを見ている。
『どうした?』
「神様が俺にこんなによくしてくれるのはなぜですか? あと神様は俺に何をさせたいのですか?」
『なぜ……なぜ、か。君なら面白い世界を作ってくれると思ったから……かな。あとチートを詰め込んでも壊れない器をしていたから』
『それに私は英雄を作りたくてね』
「英雄……ですか?」
『そう! 大航海時代を生き抜く大英雄……それこそ黒ひげとか女海賊達なんかみたいに名を残せたら最高じゃない?』
「それは面白そうですが……俺が英雄ですか? しがない奴隷商人ですよ」
『ふふふ、歴史のレールに乗っていけば、きっとチャーリーは英雄と成れる器がある。私は未来でゲームのキャラクターになった君で遊べることを願っているよ』
「結局神様の娯楽ってことですか?」
『そうとも言うね……話は以上かな。じゃあ元の世界に戻ろうか』
そう言われて俺の意識は途切れるのであった。
「社長……社長!」
目が覚めるとマリーゴールドが俺を起こしに来ていた。
「ゴールドか、どうした?」
「社員一同待ってます。次の指示を出してください」
「次の指示ねぇ……よし、1ヶ月休んだらジャパン号で航海に出るぞ」
「はい!」
「準備の時間だ! 皆に号令しろ」
俺はマリーゴールドにそう命令するとベッドから起き上がり、皆の待つ外に出るのだった。