「チャーリー、お前計算出来たよな?」
「はい、船長。出来ますが」
「なら経理の勉強もするか?」
「え? 良いんですか?」
「あぁ、奴隷の購入とか色々あるから数字強いのが居るとこっちも助かるからな」
「了解しました! 頑張ります!」
この時代の識字率は男性は約5割とされており、読めるけど書けないという人物が多かった。
まだ義務教育が導入前で宗教学校と呼ばれるキリスト教の教会で文字の読み書きを習うのが普通であった。
俺の場合は前世の知識とコーヒーハウスで学んでいたのが生きた形である。
穴抜けではあるが、神様の書庫で学んだ経験も魂に刻まれて生きているのかもしれない。
こうして俺は時に漁師、時に料理人、時に航海士の補助、時に経理補助と勉強出来ることは何でも貪欲に学び続けるのであった。
「火薬600樽に輸出用のマスケット銃が120丁……これで70人も奴隷って買えるのか?」
正直現地に行ってないのでどれだけの値段で奴隷が買えて、どれだけの値段で売れるかは未知数。
皆の給料を支払わなくてはならないことを考えると責任重大である。
間違いは許されない。
「えっと料理長と船医が1ヶ月2ポンドと2シリング、大工が1ポンド8シリング……」
給料を見ていくと誰がどれだけ船の中で重要か分かってくる。
船長が4ポンド5シリングも毎月貰っているのはびっくりしたが、他は2ポンド5シリングの一等航海士を筆頭に2ポンドから水夫の1ポンド6シリングの間に収まる。
日本円換算で考えると、1ポンドが約6万円程度であり1シリングは6000円、12分の1の1ペンスは500円くらいとなる。
日雇い労働者が10ペンスの日給なのでおよそ5000円、俺が目標としている100ポンドは600万円……という感じである。
600万あれば交易が出来る中型船が買えるってのは凄い時代だと思う。
現代だと中古の漁船を買うのに600万が必要なので時代だな〜と思うしか無い。
だから今の俺の財産である5ポンドは約30万……子供ながらに集めた方だと思うのは俺だけだろうか?
で、給料だと1ポンドと6シリングなので、月給約9万6000円……現代だと安いかもしれないが、この時代だとなかなかの手取りである。
船長の4ポンド5シリングだと約27万円ということになる。
約3倍近くも給料が貰えるのだ。
「くうう、夢があるな!」
俺は皆の給料を計算しながら、将来のお金を計算するのだった。
「港が見えたぞ!」
二等航海士の青年が叫ぶ。
まずは敵意が無いことを示すために空砲を鳴らして、船の接近を知らせる。
港が見え、船を岸に着ける。
錨を下ろし、先に桟橋に降りた人達でロープを張って、接舷する。
「航海士さん、ここは何処の港ですか?」
「ここはダホメ王国だよ。奴隷を沢山輸出してくれる良い国だ」
「へぇ!」
ダホメ王国……奴隷貿易がとにかく盛んで、軍隊も強い。
アフリカの王国は土地が余っているため、戦争は人を拐う為の手段と考えられており、日本の戦国時代みたいに土地の奪い合いでは無かったのである。
ただ経済を回すために奴隷を欲し、戦争をするため、武器を仕入れる必要があり、ヨーロッパの武器弾薬がここでは奴隷1人と交換する通貨代わりに使われていた。
「おーいチャーリー、お前も王様に挨拶しに行くぞ」
「え! 良いんですか?」
「荷物持ちが必要だからな。よし、交渉して馬を借りてこい」
「わ、わかりました」
船長からお金を渡されて、俺は町に出かける。
この時代のアフリカの国々は水辺や丘近くに首都を置く傾向があり、背丈は低いが、石作りだったり、土壁で出来た家に住んでいた。
町を歩いていると、黒人でも毛色が違う人物を見かけた。
「こんにちは」
『おや? どうかされました』
声をかけるとアラビア語で話された為に一瞬びっくりしたが、前世で旅行して少しだけアラビア語が話せたので拙い言葉で馬を探していると説明すると
『おお、拙いですが白人の人が私の国の言葉を話すなんてびっくりしました。馬は無いですがラクダなら貸し出せますがどうしますか?』
『オネガイシマス』
交渉成立。
俺はお金を支払い、ラクダを4頭借りると、手綱を引いて、ラクダを船の方まで移動させた。
「おいおい、馬じゃなくてラクダ借りてきたのかよ」
「船長、これ余りです」
「……お? 4頭借りるのにこれだけしか掛からなかったのか?」
「アラブの商人と仲良くなりまして、安く貸してくれました」
「すげーなチャーリー……」
ラクダに荷物をくくりつけていき、王城まで歩いていく。
「ちなみに船長、この荷物にはどんな物が入っているんですか?」
「ああ、宝石とか綺麗な布なんかや、装飾品だ。王様に奴隷の購入を伺わないと行けないからな……機嫌取りだ」
「なるほど」
徒歩で約1時間……王城に到着し、謁見を求めると、直ぐに客間に通された。
「うむ、私がダホメ王のアガジャである!」
「イングランド王の臣下でパプテマス号の船長をしておりますワイアットと申します。お会いできて光栄です」
社交辞令であるが、幾つかやり取りをして、貢物を渡すと、王は上機嫌になり
「うむ、良い物だ。そなたらの望む物を言い給え」
「でしたら港で奴隷を購入する権利をいただきたい」
「ふむ……なるほど……では火薬2樽と銃1丁で奴隷1人と交換としよう」
「ありがとうございます」
こんな感じのやり取りが行われ、そそくさと王城を後にする。
「今回は運が良かったな。結構安く交渉が成立した」
「運が悪いともっと高いので?」
「ああ、ふっかけられる時は銃2丁要求されることもある。これはもしかしたらがあるぞ」
「もしかしたら?」
俺はラクダをアラブの商人に返却し、今度は船から火薬や銃の入った箱を指定された場所に運んでいく。
「よし、今回は運が良いぞ! 1回で目標の75人を買い取ることが出来そうだ」
船長やベテラン船員達は大喜び。
なぜ喜んでいるかと言うと、この奴隷を集める作業がとにかく時間がかかる。
長いと1年近くアフリカ沿岸部を行き来して奴隷を集めなければならない。
ちなみに今回は王様に謁見して国の許可の元購入したという形であるが、奴隷商人から購入する場合の方が多い。
奴隷商人は別名人攫いでもあり、村を襲って奴隷を集めたりする集団であり、この時代が最盛期を迎えている。
これが時代がもう少し進むと国が人攫いを禁止して奴隷商人の数は減っていくのであるが……今回は割愛である。
あとなんでアフリカ中部にアラブ商人が居るかと言うと、こちらも奴隷を購入するためである。
ただ労働力を求めるヨーロッパ側は男性をなるべく買いたいとする中、アラブ商人はメイド等にする女性を購入するため、需要が分かれていた。
えっちらおっちら荷物を運ぶと、船医が奴隷の健康状況を確認していく。
主に見るのは肌や口の中である。
肌はデキモノが大量にあれば病気を疑い、口の中は歯ぐきの状態等で栄養状況が1発でわかるため確認する必要がある。
船医が全員の確認を終えると、船長が役人との交渉を終えて奴隷達を縄で縛って船に連れて行く。
その間に俺達水夫や料理長は長い航海を耐えるための食材調達を行う。
小麦粉、よくわからない野菜、味噌っぽい何か、ドライフルーツ、米もどき……食える物や酒をパンパンに船に詰め込んで、奴隷も船に詰め込んでいく。
奴隷達は船の底の部分に1人1畳の場所が割り当てられ、そこから出ることを許されなかった。
これは奴隷達の反乱防止の為に必要なことであり、しかもその空間内で排泄もしなければならないと最悪この上無かった。
ちなみに船員達のトイレ事情は船首部分がトイレになっており、風を受けて船が進むので、排泄物が船につかない為には船尾ではなく船首の方が良かったのである。
一応船内にもトイレスポットはあるが、嵐の時以外は板を敷いて寝るスペースに使われていた。
まぁ俺が船長になったら奴隷の扱いをもう少し何とかしないと駄目だと思いながら、船は出航することになるのだった。
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