アフリカを出発して2ヶ月半……嵐を抜けると正気に戻る船員も多くなり、船員で体調崩して2人ほど病気になって亡くなってしまう悲しい事件もあったが、大半は健康で順調に大西洋を航海していた。
甲板で釣りをしていた俺は、奥の方に島が見えることを発見し、皆に聞こえるように叫んだ。
「陸だ! 陸地が見えたぞ!」
ぞろぞろと船員達は俺が指差した陸地を見て大西洋横断に成功したと確信する。
羅針盤や航海地図、そして陸地の形状からあれは英領のバルバドス島であると一等航海士が言う。
直ぐに船を操作して、バルバドス島への上陸準備を整えると、港に船を接舷して、船守当番以外は大地を噛み締めた。
「うぇ……」
「大丈夫かチャーリー、陸酔いか?」
「陸酔いなんてあるんですか」
「あるある、長い船旅だとなる奴は多い。うちの船員達も多くが陸酔いをしているよ」
見ると陸地を喜んでいる奴半数、陸酔いで苦しんでいる奴半数といった感じか?
「よしチャーリー、食料の確保任務を任せる! ここで数日休んだら、目標地点のジャマイカに行かないと行けないからな」
「わかりました!」
食料を集める任務を任された俺は早速食料を譲ってくれそうな人物を探す。
まずは漁師っぽい人を見つけたので声をかけてみた。
「なんだ魚が欲しいのか? そしたらついてきな!」
そう言われてついて行くと魚が干物にされている場所に到着した。
「今朝獲れたばかりの新鮮な魚だ。そうだな〜1食ビール付きで奢ってくれたら全部やるよ」
「マジっすか!」
「あれ? ボリ過ぎたか?」
「いえいえ……」
聞けば大漁の魚は午前中にちょっと網漁をしたら獲れたらしい。
この他にも
「何? 肉が欲しい? じゃあハンティング用の火薬と弾薬を譲ってくれ! 取ってきてやるから」
「あら、野菜を買いたい? そうね……1ペンスでこれだけ買えるわよ(イギリスの買える量の10倍)」
「海亀やすいよ〜、日用品と交換だよ〜」
カリブ海の海産資源や住民達のおおらかさを舐めていた。
いや、この場合良い意味でだが……住民達はちょっと漁に出れば魚は獲れてしまうし、海鳥なんかも鉄砲があればハンティング出来てしまう。
浜辺を歩けば海亀が転がっている……そんな状況なので格安で譲ってもらえるのだ。
あっという間に食料調達に成功し、船に戻る。料理長に食材のリストを渡すと、早速調理に取りかかってくれた。(勿論俺も手伝うが)
水や酒などは別の人達が補充し、この日からは奴隷達も比較的まともな料理(肉料理)を食べることが出来るようになる。
売る為に少しでも体力を回復してもらおうという計らいである。
「腹も膨れた、補充も済んだ、多少の休憩もした……よし! 出航だ」
こうして再び船に揺られて俺達はジャマイカを目指すのであった。
で、無事にジャマイカに到着し、船長の知り合いの商人と繋ぎを取る。
ちなみに商人の種別は雑貨屋である。
奴隷を扱う雑貨屋はこの頃は普通であるので恐ろしい……。
ちなみに奴隷達は現在船の上で散髪や化粧をしている。
これは奴隷達の傷を隠し、すこしでも健康そうに見せるための工夫である。
「君がワイアット(船長)の部下のチャーリー君かな」
「は、はい! えっと雑貨屋の店主さんですよね」
「ああ、ロバートだ。よろしく」
「ロバートさんですね! よろしくお願いします」
「ワイアットから君に奴隷売買の仕組みを教えて上げて欲しいと言われたから説明していくよ」
まず奴隷達は奴隷市に案内され、奴隷市を開くことを周りに周知させる。
だいたい開催告知から1週間程度である。
そしたら奴隷達は並べられるが、病気持ちだったり、売れなさそうな子供の奴隷とかはセット売りされることもある。
奴隷市が始まったらまず商品の説明をしていき、合図が鳴ると客は走り出して奴隷達を次々に引っ張り、自身のエリア……陣地に入れていき、陣地に入れた奴隷を購入することが出来る……という話である。
ちなみに奴隷の売却金は一部信用取引が許されるものの、基本現金一括であり、現金一括をすると少し割り引いた値段で取引することが出来るし、船で直ぐに移動してしまう奴隷船は信用取引すると踏み倒されるケースがあるため、支払い能力が無いと見なされ取引拒否されるケースもあるのだとか。
まぁ今回の取引の場合、雑貨屋が中継を挟むため、雑貨屋に立て替えてもらう事が出来るので、多少の信用取引は応じるとのこと。
ちなみになぜこの時代奴隷の売買が盛んだったかと言うと、単純に植民地の労働力不足というのが一番であり、白人労働者を雇うより、奴隷を雇った方が約3分の1のコストで済むというのがある。
しかも1度買ってしまえばほぼ永続して働かせられるので白人労働者の人件費を数年単位で考えると約数十倍黒人奴隷を使ったほうが安上がりということになるのである。
そりゃ奴隷を買うわな……。
で、俺達の船に乗せてきた奴隷達も客達の奪い合いが起こるほど熱狂的な盛り上がりで全員売れてしまい、約70人分の売却利益が奴隷船に転がり込んでくる。
奴隷1人当たり20ポンドくらいで売れたので約1400ポンドの収益が入り、購入資金を差っ引いても約1000ポンドの利益となる。
奴隷がいなくなったので、奴隷を入れていたスペースを綺麗に掃除してジャマイカで収穫、加工された砂糖や綿、ラム酒等を購入し、綺麗にした船内に詰め込んで輸送していく。
「へへへ、良いものゲット!」
数日滞在するとして船長から美味いものを何か買ってこいと言われて金を渡されたので、カカオを大量に購入した。
「カカオ豆をすりつぶして〜」
カカオ豆をすりつぶして、粉末にし、お湯を加えて粘り気を出し、それから砂糖とヤギの乳を加えて更に練り上げる。
ペーストになったらそれをクッキー生地に練り込む。
「ただこれだけだと長期保存が効かないから〜」
生地に練り込んでチョコクッキーを作り上げる。
勿論追加で砂糖たっぷりで。
これを焼き固めてチョコクッキーの完成である。
お味は……うん甘苦い。
ビターチョコを更に苦くして口触りを悪くした感じであるが、クッキーがそれをある程度中和してくれている。
焼き固めているので1ヶ月程度は常温でも持つだろう。
船長に食べてもらうと
「ん? チョコを使ったクッキーか! チョコの苦みがまろやかになって美味いな!」
まさかの絶賛。
料理長にも作り方を教え、船で俺は保存食のチョコクッキーを作っていくのだった。
約2週間ジャマイカに滞在し、砂糖と綿をふんだんに積載したパプテマス号は新しい水夫を補充して出航……。
なぜ水夫を補充したかと言うと10人ほど水夫が脱走したからである。
ただこれは普通のことらしく、水夫としての賃金に不満があるとカリブ海の島々に到着したら脱走して他の条件の良い船に乗り換えを行うのだとか。
ちゃんと給料を貰っている幹部の離反は少ないが、下っ端水夫だとよくあることらしい。
ちなみにこういう交渉を行うのは単純に計算が弱い馬鹿がやることで、目先の金に釣られて交渉をしてしまうが、大抵最初から船に残って働いていた船員には会社の方から黒字ならばボーナスが出ると言われていた。
ボーナス金額も船長クラスなら100ポンド、役職持ちが50から20ポンド、下っ端水夫は10から5ポンド程度出るらしい。
今のところ順調かつ、アフリカであまり時間が経過しなかった事もあり、ここから偏西風に乗れば約2ヶ月でイギリスに帰国することが出来る。
実質航海は半年であり、経費がかからなかった分ボーナスも多く支払われるだろうと船長から言われていた。
で、新しく入った水夫達は交渉で1ヶ月1ポンドと7シリングという金額で合意したが、俺が1ポンド6シリングなので1シリングしか差が無く、しかもボーナスも支払われない為に逃げ出した奴らは馬鹿としか言いようが無い。
「簡単な計算も出来ないと馬鹿を見る。チャーリーは目先の利益に飛びつくなよ」
「はい!」
こうしてカリブ海を俺達パプテマス号一行は航海するのだった。
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