「…あ、あれ? 何処?ここ…………」
目を覚ました一人の少女が、むくりと起き上がる。
「私…<LBCS >を使って、ミゼレムが破壊した瓦礫の撤去作業を、みんなとしてた、はず…だよね……?」
漸く、足元に冷たい感触がある事に気付いた。
「うっわ冷た…!コンクリじゃないなあ…何か高そうなタイルみたい。 でも、どことなくオンボロっていうか……」
辺りを見回して見えた景色…
印象としては、<廃屋>そのものだった。
「荒廃してる…でもさっき居た場所じゃない……、もしかして[一つ前]に来た世界ーーーーーミメシスの世界に、戻って来た!?」
混乱する頭の中で、少女は考えをまとめる。
「私はリコ、モリサワ リコ(森沢 璃子)。池袋で買い物中に、時空震ってやつに巻き込まれて別世界に転移して…それが一回目」
立ち上がり、行くあてもなくその場をうろうろしながら続けて呟く少女…リコ。
「それで<スイッチ>の運搬中にミメシスの攻撃とか何かで、空間が歪んで…今度は<ミゼレム>の居る世界に吹っ飛ばされちゃって、これが二回目〜………」
誰も居ない空間に呟いて、それからリコは大きくため息をついた。
「……これ、絶ッ対に元々私のいた世界じゃないよ。 さっきまで居た世界のままか、それとも一個前…ミメシスの世界に戻って来たか、もしくはーーー」
浮かんだ悪い想像ごとかき消すように、頭を強く振って…リコは歩き出した。
「まず私のいるこの場所が、どういう所なのか調べなくっちゃ。 LBCSも手元に無いから、若干…いや、かなりイヤな予感はするんだけどー」
リコの居た空間は部屋のようになっていて、彼女はドアがあったであろう場所を通り抜けた。
「薄暗いなー……なんかガラス片とか、床に飛び散ってるし、気をつけなきゃ」
人影は無い。
廊下かと思われる場所に出て、リコは気付いた。
(あれ…?この階の中央が、くり抜かれたみたいに………もしかして、吹き抜け?)
どうやらここは一階ではないようで、大きく空いた空間から一つ下の階層が見えた。
「うっわー…下もボッロボロ。 LBCSかLBXユニット、どっちでも良いから欲しくなるよ〜……」
ひとまず下層へと降りる為に階段を探すが、軽く見た感じでどこにあるのかは分からなかった。
「奥まったトコにあるのかなー?」
足元に散乱したガラス片に充分注意しつつ、探索を進めて行く。
(なんだろ……この建物。 風化してるとか、そういう感じ、じゃないかも。単純に何かで破壊された、そんな感じに見えるんだけどなー……)
薄暗い廊下を壁伝いに歩きつつ、その手に触れた壁を見てリコは考えた。
(荒廃してるんじゃなくて……単に、荒らされた?)
首筋に、嫌な汗が流れた気がした。
元々普通だった建物を、これだけ損壊されられるのはーーーとても、人間業とは思えない。
想像するだけで、もう恐ろしかった。
様々な敵と対峙したからこそ、改めて彼女には思う事があった。
<生身では、手も足も出ない>
だからこそというべきか、それに対抗しうる装甲や武装が必要不可欠なのだ…
と、その時。
激しい爆撃音と共に、何かが勢い良くーーーひとつ下の階層から入って来たのだ。
(まさか…敵の襲撃ーーーっ!?)
丸腰のまま身構えつつ、下層の様子を恐る恐る覗き込んだリコの目に映った光景は……
光を放つ人影のようなもの、だったのだがーーーその光はすぐに収まり、その光の中からは1人の女性が姿を現した。
「誰、アレ!?………あっ!!!」
自分以外の人間の存在に安堵したのか、比較的大きな声で呟いてしまった。
しまった、と思い口を押さえた時にはもう遅かったがーーー下層の女性は、それ以上に驚いたようで…大きくのけ反った。
「うわぁッ!!急に壁粉砕してビックリしましたよねっ!? そこの方、すみませーん…!」
素早く深く頭を下げた女性に、リコが大きな声で呼び掛ける。
「あのーっ!ここの建物のコト、ご存じの方ですかー? そちらの階に、降りたいんですけどーっ……」
リコは階段をまだ見つけられず、困っていることを伝えた。
「そうでしたか……なるほど、分かりました。助けに上がりますので、そこを動かず待っていて下さい!」
リコが頷くのを確認すると、彼女は懐から何か取り出した。
(ガラケー?いやデカすぎるし、無線機かな。もしかして、今から救助を呼んでくれるって事…?)
リコの予想に反し、彼女は手にした端末を操作し始めーーー
<MODEL:Hunter Ⅱ>
操作に呼応するように端末から電子音声が発せられたのを確認して、女性は腰の辺りにその端末を装填した。
<ACCESS>
リコが目を凝らして彼女を見ると、彼女の腰の中央部分には、ドーナツ型の灰色の円が映像として浮かび上がっており……何かのゲージのようにその円が少しずつ、緑色へと変わって行くのが分かった。
そしてゲージが緑一杯に溜まりきったその時、
<CONNECT>
また、同じような音声が発せられる。
女性は横向きに装填した端末を……装填した状態のまま縦に持ち上げた。
それと同時にーーー彼女の背後には、ホログラムのような巨大な何かが、凄まじい速度で構築されて行った。
「あれって…まさか、LBX !? めちゃデカい………」
みるみる浮き上がり完成しあがったホログラム。するとーーー
「REBOOT(リブート)!」
掛け声と共に女性は、縦に持ち上げた端末を、今度は前へと押して倒した。
瞬間、形を成したホログラムが分裂して周りを飛び交いーーー彼女の体へと装着されていった…
<REBOOT. Hunter Ⅱ:CONNECTED>
「見た事ない装着方法だけどーーーアレ、ほぼ装甲娘じゃん…!」
驚きと興奮を隠せないリコの前に、武装した姿で上層へと跳躍して降り立って来た先ほどの女性が、手を差し伸べた。
「ここから離れましょう…!」
「あ、ハイっ!!」
リコはその手を、笑顔で取った。
ーーーーーーーーー
女性と共に建物から無事脱出したリコ。
運び出された先で降ろしてもらった彼女は笑顔でお礼を告げた。
「ありがとう!アナタのおかげで私、助かりました。 ところで、それってー……」
改めて、リコは女性の装甲をまじまじと見る。
「…珍しいのかもしれないけど、ごめんね。できる限り力は、温存しておきたいしーーー」
そう言い、女性は端末を抜いて装甲を解除した。
<ABORT>
解除し終えた女性は、何だかお淑やかな出立ちをしていた。
「ねぇ、聞いても…いいですか? それって……装甲娘、なの?」
リコの問いかけに、少しぽかんとした表情を浮かべた女性だったが…近くの地面の砂埃を軽く払って腰を下ろし、答えた。
「えぇと……たぶん、違うかしらね? 装甲娘って……なに?」
彼女の反応はリコ自身もある程度の予想が付いていたのか、更に質問を続けた。
「LBX、LBCS、後はー………そうだ、ミメシスとか、ミゼレムって、聞いた事、ない?」
「…ごめんなさい。どれも聞き覚えのない単語ね。 私からも良いかしら?」
「どうぞどうぞ、助けてもらったし私に答えられる事なら!私の方こそ、質問責めしてゴメンなさい……」
少し俯くリコだったが、相手は全く気にしていないようだった。
「私はシブキ。一ノ瀬シブキっていうんだけど、とりあえず貴女の名前を聞いても良い?」
シブキは穏やかな表情を浮かべている。
「あ、ハイ!私はリコ、森沢 リコ(璃子)っていいます。リコで大丈夫ですよ!」
それを聞いてシブキはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、リコ。私のこともシブキって呼んでくれて構わないわ。 ところでリコ……貴女、此処がどこなのか分かる?」
シブキの問い掛けにリコは、スムーズな返しが出来なかった。
「それが…分からないといえば、分からないんだけどー………想像が付いていないといえば、ウソになるかもっていうかー………」
しかしながら、その答えにシブキは頷いた。
「それじゃあリコ。貴女の想像っていうのを、聞かせて頂戴?」
「はいっ、私が元々……えーと元々?元々か、一応。 元々居た世界とはまた別の世界に、飛ばされて来たとかじゃ、ないかなーって…?」
苦笑いで言うリコの言葉に、シブキは息を飲んだ。
「貴女もなの!?別の世界から?しかも…気づいてたの!?」
そう言い、懐にしまった端末に目を落とす。
「…もしかして、私の使っていた兵器を、さっき見たからかしら?」
リコは笑ったまま首を振る。
「いやーそれとは違うんだけど、似たようなモノは今まで見てきたからー……じつはお恥ずかしながら私、今の世界をカウントするなら異世界に転移して来るのって三回目なんだよねー………」
「はいぃ、異世界三回目!? えぇぇ分からないんだけど…? 貴女、どうなってるの?」
シブキにじっと見られるが、リコには答えようが無かった。
「私が聞きたいぐらいですよー、って感じかなあー………あはは」
そうして頭をかいていたリコだったが、ハッとなって立ち上がった。
「そうだ、さっきの!!ハンターとか言ってたよね、音声で!? なのにLBXでもLBCSでもないのかー……いったいそれは、何なの?」
シブキは端末を取り出し、リコへ見せた。
「正直、難しい事は私にも分からないけど……この世界で確実に、為になる道具と力よ」
「全然見たことない機械…」
「私に分かるのは…このデバイスの、ある程度の仕組みだけよ」
その端末には小さめの画面が付いており、指で操作できるようだ。
「ここでね、素体…[MODEL]を選択するの。 私は今のところ、ハンターⅡってものにしか適正が無いみたいなんだけど……」
画面を軽く操作し、[ハンターⅡ]を選ぶシブキ。
「ハンター、ツー………」
リコの脳裏に浮かんだのは、自分が更に異世界転移した先で所属していた、<アテナス特殊警備>に同じく所属の[ファーストケース]として第一線で活躍を遂げた<ハンター>の装甲娘。
しかし目の前にいるシブキ…彼女はハンターとはいってもハンター<Ⅱ>だ。
おまけにメカニズムも、リコの知っている二つの装甲娘のそれともまた更に別のものと来た。
「シブキは……この世界の人なの?」
「いいえ、違うわ。約二週間前ーーー正確には12日前に、突然こちらの世界に居たの。 だからある意味、貴女と同じ境遇なのかもね?」
優しく微笑むシブキだったが、ややぎこちなさを隠せずにいた。
元の世界に帰れるのか、そもそも元の世界の友達や家族はどうなっているのか…心配なのだろう。
「私みたいに、シブキも<別次元同位体>って可能性もあるし…そんなに気に病むことは、ないかもだよ!」
リコから発せられたよく分からない単語に、またもやポケッとした顔をしたシブキだったが、気を取り直して訊ねた。
「別次元……それ、なにかしら?」
「複数の世界に、自分がもう一人いるってコト…らしいよ! 私がここより一つ前の世界に来た時調べてもらったんだけど…その更に一個前の世界で起きた時空の歪みで分裂したのが今の私、らしくって。 時々夢で、あっちの世界の事を見るんだけど、それは分離する前の私の記憶だとか何とか……」
リコの話を聞いていたシブキだったが、途中からあからさまに渋い顔をした。
「…聞いてるだけで頭が痛くなりそうね。 つまりは、元の世界にも私が存在したままで、今の私はそこから分離した存在ってこと?」
「うんうん、凄いねシブキ! でも今の自分は何かが抜け落ちたとかじゃなくって、あくまで時空の歪みでパラレルワールドの自分がもう一個存在したってだけだから…安心してね!」
「そうなると、逆に心配事があるんだけど……元の世界に帰れたら、私が二人になっちゃわない?」
「それも大丈夫なんだって!その時は、時空の歪みが解消されて二つの同位体が同期?して修正された結果、一つになる!!……って、めちゃくちゃ偉い博士が言ってたから」
リコはさも自分の事のように胸を張って、誇らしげに言った。
「とにかく、元の世界に戻ったら良いってことね…。 ありがとうリコ、貴女と話してると何だか少し元気になれるわ」
よく分からない話に困惑を隠せないシブキだったが、ポジティブかつマイペースなリコのおかげで、再び笑顔になった。
「シブキのさっきの、そのー…装甲?は、どこで手に入れたの?私、こっちに来た時は持ってなかったんだけど……」
先ほどから他にもあった疑問のひとつを、シブキへと投げ掛けるリコ。
「え?いや、私もこっちに来てから現地調達したのよ?」
シブキの言葉は予想外の答えだったため、リコは激しく驚いた。がーーー
「現地調達ぅ!? あ…もしかしてアレ?手にした瞬間に、<分かる!ワタシ、これの使い方分かるわ!?>みたいな!アニメとかゲームでよくあるやつ!!」
前のめりになって興奮気味に詰め寄るリコへ、ばつが悪そうにシブキは答えた。
「この世界には敵がいるんだけど……その中で、同じようなものを使ってきたヤツが、居てね。 その時に、見様見真似で私も使ったの」
「敵……人間ってこと? それとも、アンドロイドとか…?」
シブキは知る由もないが、リコは異形にも慣れている。今までミメシス・ミゼレムを相手にして来た人間だ。
そしてミゼレム世界でサージェン(高性能AI搭載の人型アンドロイド)の存在も、この目で見て来た。
「そうねえ……人型っぽいけど実質化け物よ。メカとかマシンとかロボットっていった方が、しっくり来るかもしれないけれど。 本当に人間の敵は、私もまだ一人しか見てないんだけど…そのマシン達とは比べ物にならないぐらい強かった、手も足も出なかったのよ。 相手があくまで遊び感覚で、倒された後も放置されたままだったから、今こうして私は奇跡的に生きているってぐらいかしらね…」
「敵対勢力が居て、メカより遥かに強いのが一人の人間…かあ。 もしかして、その人が……親玉!?」
まだ実際に、<この世界での敵>を目視した事こそないものの、リコは今自分におかれた状況を、できるだけ把握しておきたかったのだ。
「親玉かどうか、までは私も分からない…。 だけどソイツが自分の武装を追加するために、周りのメカを取り込んで武装に変換しているのは見たから……立場的には、メカ達よりは上に位置しているのかもしれないわ」
分かる範囲でシブキは、リコへと情報を伝えた。
「私がこのツール一式を回収しておいたのは、トランシーバーみたいな通信機器だと思ったから、だけど…………確かに実際一部通信はしてるとはいえ、まさかこんな用途だとは思いもしなかったわよ」
改めて、デバイスを見つめるシブキ。
「じゃあ今、正面に付けてる…それは?」
リコがシブキの腰辺りの、ベルトのような部分を指差した。
帯状のそれの中央には、かなり巨大なバックルが付いている。
「トランシーバーの類だと思ってコレを見つけた時に、バックル部へ装填された状態だったの。変に弄って壊しちゃいけないから、当時は外さずそのまま持ち歩いていたんだけど……敵の使ってたデバイスと腰の装備がコレに似てて、取り外せるって分かったから慌ててコレを中央に合わせて装着して、デバイスを装填して戦ったの」
しかし、結果はさっき言った通りだったのだろう。敵には太刀打ち出来なかったとの事、だがーーー
「敵側の、えーっと…モデル?の方が強かった、とかは?」
リコが推測を始める。シブキは、自信無さげに頷いた。
「有り得る話ではあるわね………それか、単純に私が、このデバイスやモデルの力を完全に引き出せていない、っていう可能性も考えてるの」
「確かに、初見の装備を訓練無しで使いこなす事なんて出来ないよー。私だってそうだったし…」
経験談でもある為、リコが腑に落ちたと言いたげな顔でうんうんと頷く。
「…ところで私未だに丸腰なんですけど、そのデバイスってスペアあったりはー………しない?」
不安そうにシブキを覗き込むリコだったが、それについては心配無用とシブキはVサインをしてリコへと笑顔を向ける。
「私がこれを持ち出した場所に、確か同じのがあったの! ここから七・八百メートルぐらい先かなあ…誰も持ち出してなければ、その施設内にまだ残ってる筈だよ」
「じゃあ行こう!場所教えて? 私もコレ使えれば戦力になれる……シブキと一緒に、戦うよっ!」
「ありがとうリコ。そう遠くはないから敵に注意しつつ歩いて行きましょ、私もついて行くわ」
案内するシブキと共に、リコは歩き始めた。
不思議と、気持ちは沈まなかった。
その世界に呼ばれて、やるべき事があるなら、必死でもそれに向き合うことーーーーそれが何より大切な気がすると、いつしかリコがそう考えるようになっていたから…かも知れない。
自分もそのデバイスをいち早く入手して、助けてくれたシブキと共に、元の世界へ戻る手掛かりを探す………立ち止まっている場合では無いのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そういえばさ、マシンみたいな敵って…やっぱりたくさん居たりするの?」
そう言うリコに、シブキは首を縦にでも横にでも振る訳でなく微妙なリアクションを取ったのだった。
「どうなのかしら……多くても同時に四、五体程度見かけるぐらいだから。 多いのかしら、どうなのかな?」
ミメシスやミゼレム基準だと、個体数としては圧倒的に少ない。しかし…
「それじゃあ、一体の大きさがそこそこあるとか…結構強いとか、そんな感じ?」
リコの疑問は当然だった。
「そう…かも、ね。 私がハンターIIモデルを使いこなせていないっていうの前提だけど、<モデルのみの力>で倒せた事は、ほぼ無いわね」
今のシブキの言い回しで、やはりリコには引っ掛かる点があった。
「モデル……のみ? ハンターIIのモデルしか使えない、みたいな事言ってなかったっけ?」
「このデバイスを機能させるにはMODEL(モデル)が不可欠だけど………そこから更に、ARMER(アーマー)やWEAPON(ウェポン)っていう項目を上乗せして、戦う事が出来るの。 後はMODE(モード)っていうのもあったけど、今は使えなさそうな感じだったわ」
「アーマーとウェポン…文字通り装甲と武器かー。追加装甲と武装が増えれば、確かにパワーアップできるよね!」
「まあ、概ねはそんな感じよ。リコにも、扱えるMODELがあると良いわね」
こちらに来てから約二週間。単身でサバイバルして来たシブキにとって、リコを見つけられた事はかなり大きかったのだろう。
「あの時、リコの居た建造物に思いっきり風穴開けたのも……ハンターIIに合うARMERとかWEAPONを考えながら組み替えて、威力試してたのよね」
中に居たリコに被害がなくて本当に良かった、と言うシブキ。
「アーマーとかウェポンも、そのー…デバイスだっけ、そこに一緒に収納されてるの?」
「この中に保存されているのは確かだけど、あくまでMODELとは別枠よ。本来、最初から重ね掛けして装着する事もできるんだけど……リコも使ってみたら分かるわ。MODEL単体の再起動(リブート)だけでもそこそこの負荷が掛かるの。そこにARMERを上乗せして同時装着すると結構、キツかったわ。WEAPON一つ追加ぐらいなら…今の私でも特に問題無さそうだけど」
負荷ーーー
それはリコにとって、まだ考えてもみなかった事だった。
LBCSは精神感応と改良により、特定の場合以外で負荷は限りなく少なく、
LBXユニットも、装着に手間こそ掛かる(装甲車のアシストが必須)であるものの、無茶をしない限りは、体に直接負荷が掛かるような事は無かった筈。
今回の装甲は、装着という行為そのもので既に負荷が掛かるという事が、このシブキの回答で、初めて明らかになった。
「まずMODELの再起動を済ませてからすぐARMERを追加すれば、掛かる負荷は分散できるから……当面はそれで大丈夫よ」
「えぇっ!?そんなのでいいの…? なんか荒業……」
「一気に50キロの荷物を持ち上げるより、25キロの荷物をすぐ下ろして次にまた25キロの荷物を持ち上げる方がきっと楽でしょ? どうしてもメカニズムは完全に把握できないけれど…ひとまずそういう事なんだと、私は考えてるわ」
分からないなりにも考えたシブキ独自の認識には、リコもある程度とはいえ合点がいった。
「射撃も近接も、こう見えて民間の警備会社?みたいな所で訓練受けたから…無事にモデルを使えたら、任せて!!」
そんなリコの言葉に、シブキは更に勇気づけられたようだ。
「それなら、とにかく急いでデバイスを取りに行きましょ…駆け足で!」
突如走り出したシブキに、慌ててついて行くしかないリコだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
とある建物の前で一旦足を止め、中へと入ってゆくシブキに、リコも続いた。
「…ここが、デバイスのあった場所?」
「ええ、この地下に……ね。でも以前来た時にはマシンが徘徊していて、これの使い方も分からなかったから…見つからないように、逃げ出したんだけどーーー」
そこまで言って、シブキは自分の身に付けたバックルに手を当てる。
「ーー今度は、大丈夫。マシンが出て来ても、リコのことは私が護衛しつつ、デバイスの場所まで向かうわ」
仄暗い通路を抜け…更に暗い、地下へと続く螺旋階段へと差し掛かったリコとシブキ。
「さすがに足元が危ないわ。心許ないけど……これの光を頼りに注意して降りましょう」
懐から取り出して画面をONにしたデバイスを掲げたシブキが、もう片方の手を手すりに沿わせながら階段を降りて行く。
その後にリコが続く。
シブキのデバイスにより自分の前方が照らされているおかげで、リコの視界は彼女よりも幾分かマシだった。
「負荷が掛かるって話はさっき聞いたけど、そもそもどうやってそのLB…モデルってやつは、そのデバイスに収納されてるんだろうね?」
リコが質問した時には丁度、螺旋階段が終わり地下フロアへと降り立ったところだった。
「まずデバイスの所に行きましょう。 こうして私も一緒について来た理由は勿論、リコが安全にデバイスの在処まで辿り着く為でもあったけれど……私にとって、改めて確認したい事もあるからなの」
地下は、1階や螺旋階段とは打って変わって、光源があった。
青い光を放つ丸いライトに照らされ、奥の方まで通路が続いているのが分かる。
「この地下に、このデバイスとバックルの置かれた部屋があったわ。 それで、私が確認したいっていうのは、その近くに落ちていた……文書みたいなもの」
「……文書? あー、アレかな?SF物とかの、手記みたいな…! この世界の秘密、とか載ってるやつ!?」
「んーと…ごめんねリコ、残念ながら違うわ。 あそこに置かれていたのは多分、この装置の使い方。 あの時チラッとだけ目を通したけれど…意味不明すぎて途中で読むのやめたのよね。この装置をまさか本当にこんな使い方する事になるだなんて…」
先ほどまで灯り代わりに掲げて持っていた、謎の端末を改めて見つめるシブキ。
「ACCESSやCONNECTって単語も、その紙に書かれてあって……実際にこうして使うまでは、このデバイスについての用途とはとても思えなかったぐらいだし」
会話を交えながら、二人は歩を進めてゆく。
「……着いたわ。あの扉の奥の部屋よ!」
敵と遭遇することなく、二人はようやく目的地へと辿り着いた。
眼前に広がるのは、重厚な鉄の扉。
「ーーーよい、しょっ……と!!」
二人掛かりで取っ手を握り、スライドさせて何とか扉を開く。
鉄板と呼べるほどの、あまりに分厚い扉の奥は………随分と狭かった。
「機械の化け物から逃げてた時…ここが凄く頑丈そうだったから、じつは何時間も閉じこもっていたの」
思わず苦笑いするシブキ。
自分の居るその部屋にあったデバイスさえ使えば、簡単にその化け物を殲滅できただろうに…と言いたげな顔だった。
「確かに、なんかシェルターみたい…? 実物のシェルター見たことないけど……」
安全確保の為に扉を引いて再閉めた後、二人は目当ての装置があるか棚の上を物色し始める。
「ベルトとバックルとデバイスが、くっ付いて置いてあったんだよね?確か。 んー、同じ機械同じ機械……っと」
手を怪我しないよう、ガラクタや部品をかき分けて行くとーーー
「あったよ!シブキとまったく同じやつ!!」
リコはバックルに装填されたままのデバイスを得意げに持ち上げた。
異世界転移して来たというのに、効果音でも鳴りそうなぐらいに、その様はご機嫌だった。
「帯を巻いてみて。腰に当てがうと、自動的にフィットするわ」
シブキの助言を受けながら、リコも装着にトライする。
ーーーカシャッ!
「おおお…!吸い付くみたいに腰にくっ付いた!! コレ…まさか二度と取れない、なんて事はー……」
不安そうなリコにシブキは軽く首を振る。
「再起動(REBOOT)していない時なら、引っ張るだけでいつでも腰から剥がれるわ。 とりあえずは、何も選択しないでデバイスを……画面が外側に向くように装填してみて」
「えっ? シブキはさっき、画面を内側……隠れるように入れてなかった?」
「ええ。だけどこれで自分の適正MODELを検索できるみたいだから、リコもやってみて…!」
「オッケー任せて!!来い来い来い……っ!」
SEARCH... Applicable MODEL:1
「該当MODELがあるって言ってるわ、リコ! これで貴女も戦闘して身を守ーーー」
その時だった。
扉の向こうで、何かが衝突するような、激しい音が鳴り響いた。
「マズい…敵が、気づいたのかもしれないっ」
シブキが自分のデバイスを取り出す。
液晶の中に映るハンターIIを一度タップ、その後そのハンターIIを上にーーー画面外へとスワイプした。
< MODEL:Hunter II>
「私がはしゃいだせいで、見つかっちゃったのかも……よしっ、私も!!」
リコが抜き取ったデバイスの画面を確認するとーーー
< Applicable MODEL…1:ASSASSIN>
「だぁーっ!何か、そんな気はしてたけど…やっぱりかー!! 射撃苦手な私に毎回毎回アサシンばっかり押し付けるなんてー、もう!」
今さっきシブキがやった操作を真似して、
< MODEL:ASSASSIN>
「わかったわかった、私の相棒はアンタ固定って事ね! そっちがそういう態度なら、私だってなり振り構わないよ…やってやる!!」
リコは苛立ち混じりに勢いよく、デバイスを腰のバックルへと装填するとーーー
< ACCESS >
< CONNECT >
「えっ早!CONNECTするの早くない!? リコ、貴女どうやったの!?」
<CONNECT >
「知らないよーっ!!とにかく話は後で! 外にメカ、居るんでしょ? とっとと退治しちゃお!!ーーーーーーーーリブート!!!」
「そうね……REBOOT(リブート)!」
<REBOOT. ASSASSIN: CONNECTED >
<REBOOT. Hunter Ⅱ: CONNECTED >
背後に現れた、実体のないホログラムだったアサシンがパーツ状に分かれてバラバラに弾け飛び…腰に、腕に脚に肩に胴にーーーそして頭部に、装着される。
そして直後に目の前で構築されたスナイパーライフルを、リコは両手で受け止めた。
「うっわッ、スゴイ何これ!視界めちゃめちゃ広いんだけど…!?」
リコがMODELとして使ったアサシンの三つのカメラアイで それぞれが映す視覚情報は、リコ本人へと送られているようで……今瞳が五つあるともいえるリコは、視野が物凄く広くなっていた。
「リコの適正MODELも、狙撃タイプなのね。私のハンターIIも一緒なの。 ただ私の場合、視覚機能としては[望遠]があるんだけど……今から近距離になるでしょうから、多分あまり役には立たないわ」
シブキの手にも、リコと同じ狙撃銃が握られていた。
「あっ私たち、銃お揃いじゃん!やったね!……ってこの銃、LBXユニットの時と同じだ!?」
「少しは落ち着いてよリコ。この銃は[イグゼキューショナー]っていうらしいわ、ただ登録されてた名前を呼んだだけだけど…」
リコと打って変わってシブキのテンションは低めだった。
「それに…言い換えれば私達、二人揃って<遠距離狙撃タイプ>って事でしょ?今からマシン達に突っ込むには本来どっちもふさわしくないのよ………」
「うぐっ…」
シブキの指摘に、ぐうの音も出ないリコだった。
「それでも丸腰のままアイツらにやられるよりは何億倍もましよ。気を引き締めて行きましょ、この扉を吹っ飛ばすわ」
ほんの少し距離を取り腰を落として素早くライフルを構え、動揺する素振りなく数度発砲しーーー吹き飛んだ扉と共に、シブキは駆け出した。
「えぇぇ…! ちょ、シブキ!?」
リコが静止させる間もなくシブキは前進する。そして彼女は今のREBOOT状態で端末を操作した。
<SELECT :WEAPON-破岩刃(ハガンジン)>
端末から飛び出したホログラムは実体化し、ギザギザとした刃の大剣が実体化した。
「えと…マシンっていうのはー………」
リコが視線を奥へとやると人型ロボのようなモノが数体、大振りな斧のような剣を、振り回してこちらへと近づいていた。
ーーー全身は黒く、その随所に緑色のラインが入っており…瞳であろう部分は一つで鈍く光り、こちらの見据えている。
(あれって……ミゼルの使ってた、[ベクター]…かな?)
「せやあぁぁーーーッ!!」
そのロボへの一つと斬りかかったシブキ。
程なくして斬り伏せられた一体は、電源を抜かれたかのようにその場で、崩れ落ちた。
「あれか…! よし、私もーーー!!」
皮肉にも、自分の手に随分と馴染んだライフル[イグゼキューショナー]を構えて、リコもマシンへと攻撃を仕掛けた。
問題なく命中したが、大したダメージにはならなかったようで、当たった敵の注意がリコへと向いた。
「くっダメかぁ、それなら………臨むところだよ、おりゃーっ!」
接近して来たマシンに対して、リコはライフルを両手で構えて、鈍器として思いきり振り下ろした。
ーーーガンッ!!
という強烈な音を立てて鈍器と化したライフルは敵の頭部や腕にぶつかり、そのあまりの衝撃を受けマシンは後ずさる。
「逃がさないっ…!!」
リコはマシンに飛び付いて更に追撃する。再び鈍器のように、敵の腹部へと力任せにライフルをぶつける。
相手の腹部装甲がひしゃげて出来た隙間に、ライフルの銃口を無理矢理差し込んでリコが発砲した。
「壊、れ、ろぉぉーーー!」
マシンは爆風も巻き起こさず、粉々に砕け散った。
「やっぱり爆発とかしないのね……それ、ならっ!」
残るマシンの数は二体。
一体は現在シブキが相手をしており、もう一つがリコに迫りつつあった。
跳躍して少しだけ距離を取って、相手の頭部を射撃。
しかし敵は依然として、怯む事なくこちらへ向かって来る。
(人間を参考にしてたら……たぶん中枢になってるコア、心臓か脳の役割をしてる部分とかがあるはず!)
改めて距離を少し取り、今度は敵の胸部を数発狙い撃ちして装甲を破損させた。
「うっわダメだ、中枢が無いーーーもう全部食らえぇっ!」
リコの読みは外れ、やけっぱちで放たれた大量の弾丸を、その身に受けた敵は…さっきと同じようにその場で砕けた。
「やるわねリコ…!でも、それなら私だって!」
シブキは大剣[破岩刃]を敵に叩きつける。
胸部装甲を狙ったことにより、損壊した部分が脆くなる。
「そこ……!!」
後退しながら武器をライフルに持ち替え一発だけシブキが狙撃すると、弾はマシンの壊れた部分を撃ち抜きーーー粉砕することで撃破に成功した。
<ABORT>
「リコ!最初に私が斬ったマシン、粉々にはしていないわ。 試したい事があるから、注意しながらこっちへ来て!」
「わ、わかったっ」
<ABORT>
装着を解除して二人が、倒れ込んでいるマシンへと近寄る。
「リコ、コイツにデバイスをかざしてみて。私の真似をしてちょうだい」
シブキはハンターIIの画面をスライドさせて別のモードに変更し、無力化したマシンに対し、スキャンのような事をし始めた。
リコも横に立って、シブキの真似をしてスキャンを開始する。
「えっと……サーチ、モード? ねえシブキ。この機械の事、調べてるの?」
「調べてるのはこの機械じゃないわ。コレに内蔵されている武装や装甲よ」
<SEARCH COMPLETE.>
「……なんか武器あるよ! コイツ、そんなの使って来てないのに」
「よく分からないけれど、こいつらを構成しているデータの一部として……私たちも使える、WEAPONやARMERーーーつまり武装や追加装甲が、組み込まれている場合があるの」
「なるほどー。追加武装は、こうやって地道に現地調達するしかないのかー……」
と納得しかけたリコだったが、それは違うと言いたげにシブキは首を振る。
「じつは、それぞれのMODELには<ARMER CLASS>ってパラメータが、存在してるのよ。それが上がると、新たな武装や別の装甲が正式に解放されたわ」
「モデルなのにアーマー、なの?」
「MODELって呼んでいるけれど、たぶんこのMODELも、ARMERの一つなんだと思うわ。私達それぞれの適正が違う…ってだけで」
それよりも、とシブキはリコのデバイス画面を指差した。
「このWEAPON、私はもう持ってるから、貴女が取っちゃいなさいリコ」
「あ、うん。 セレクト………」
<WEAPON:[ヘビィソード] SELECT>
「……完了、っと!」
リコの操作を確認し終えると、シブキはそそくさと先ほどの部屋へと向かっていった。
「手記か何かがあって、シブキはそれを見に来たんだったよねー?」
「そうよ。今はもうリコにも関係ある事だし、一緒に見て確認して頂戴ね」
そう言うや否や、ついさっき自分がライフルで吹き飛ばした扉を跨いで、シブキは部屋へと消えて行った。
「あっ待ってよー! ……もう、シブキってば。こっちだって初陣だったんだからーっ」
若干むくれつつも、リコも先ほどの部屋へと足早に走って行く。
彼女は………リコは、まだ知らない。
知る由もない。
この世界の全貌も、暗躍する存在も、何も。
たぶん皆さま、初めまして。
装甲娘戦機(と装甲娘)を題材に、二次創作としてクロスオーバー物を書きたかったのですが…何かとクロスさせる事によって装甲娘戦機要素が薄まってしまうことに気付いてしまいました!笑
したがって原作にあたる装甲娘戦機と、戦機は設定が少なかったのでミゼレムクライシスの二つの要素だけで、素人なりに筆を走らせてみました…
余談ですが筆者は、ブラウザ版の旧装甲娘を結構それなりに楽しんでプレイしていた、かなりの異端児です
記憶が正しければ、ブラウザ版ではシズネ(ハカイオー)とバンリ(ジャッジ)を愛用してた気がします。