重たい瞼が開き、まず目に入ったのは、まるで神殿のように荘厳な天井だった。
それだけで、自分が“どこか違う場所にいる”という違和感は確信に変わる。
――けれど、それよりも先に気づくべきことがあった。
自分の身体が、異常だった。
「……なんだよ、これ……」
呟いた声に自分で驚く。声が、妙に低い。そして胸元に手をやれば、肌が熱く、どこか硬質な鱗のような感触。背中には何かが生えかけていて、腰のあたりから何かがうねるように伸びている。
「尻尾……? は、なんで……!?」
混乱は一瞬で頂点に達した。どこだここは、なぜこんな姿に? 夢か、幻か。
そんな中――ふと、記憶の断片が蘇る。
夜。見上げた月がやけに大きく、白く輝いていた。
夢の中のようだった。けれど確かに、目の前に“それ”はいた。
男だった。けれど、人ではなかった。
長い銀髪、額に生えた漆黒の角、金色の瞳。そして、どこか懐かしい、けれど重みのある声。
「……お前を迎えに来た」
そう言って、微笑んだ。その笑顔に敵意はなかった。けれど、その言葉の意味も、行動も、すべてが現実離れしていた。
気づけば、意識は深い闇に落ち――
「目が覚めたようだね。気分はどうだ?」
その声に、振り返る。
そこにいたのは、記憶の中にいた“男”やはり人ではない存在、だが威圧感はなく、むしろどこか穏やかな雰囲気を纏っていた。
「誰……なんだよ、あんた……ここはどこで……俺の体に何をした……!」
バラムは静かに立ち上がると、ゆっくりと暁に近づき、ひざをついた。
「すまない、驚かせてしまったね。君の名は“暁”……で間違いないだろう?」
その優しげな声に、暁は警戒を解きかけた。
「……あぁ、だけど、なんで俺の名前……」
「私はバラム・レイン。龍の一族を束ねる者。君を、こちらの世界“シルバーダ”へ連れてきたのは私だ」
「はぁっ!? 勝手に……!」
怒りが込み上げる。しかしバラムは、申し訳なさそうに微笑みながら続けた。
「……勝手なことをしたのは認める。けれど、君には“この世界で果たすべき役割”があると信じている。私の血を分け与えたのは、それだけの意味があってのことだ」
「血……?」
暁の目が見開かれる。バラムは小さく頷く。
「君は、私の血を受け入れ、龍人として生まれ変わった。……君は、もう人間ではない。そして、この世界で――私の息子として、新たな人生を歩むことになる」
沈黙。
重い言葉だった。だが、バラムの声には一切の押し付けがなかった。ただ、見守るような――親のような眼差しだけがそこにあった。
「……なんで、俺なんだよ……」
その問いに、バラムは答えなかった。ただ一言。
「それを知るためにも、まずはこの世界での生活を始めてみよう」
暁は、混乱したまま、ただその言葉を飲み込むしかなかった。