入学式を終えたサクリアは、ガルピア学校の大きな門を背に校門付近へと足を運ぶ。そこにはすでに、彼の存在に興味津々な生徒たちの姿があった。
「君ってバラム様の子供なんだよね!?」 「どれくらい魔力あるの!?」 「聞きたい事あるけどいい?」
学年を問わず、同学年の生徒から上級生までがサクリアに詰め寄り、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。その数に圧倒されながらも、サクリアは苦笑しながら肩をすくめる。
「詳しくは……父さんに聞いてくれない?」
そう言ってメアリの手をぎゅっと繋ぎ、人混みを器用にかき分けるようにして空へと飛び出した。二人はスッと風を切るように上昇し、スカイテールの方向へと舞い戻っていく。
着地したスカイテールの村には夕暮れが差し込んでいた。サクリアは手を繋いだまま、メアリを見つめてふっと笑う。
「じゃあ、また明日な。」
「うん、また明日!」
名残惜しそうに手を振るメアリを背に、サクリアは自宅の方へと足を進める。
家が見える距離に差し掛かったとき、突然家の扉が勢いよく開いた。
「お帰りーーーっ!!」
両手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべてバラムが飛び出してくる。ハグの体勢に入ったその瞬間——
「ストーップ!!」
サクリアが手を前に出し、間一髪のところでハグを回避。勢い余ったバラムは寸前で止まり、少ししょんぼりとした表情を浮かべた。
「ふむ……無念だ」
サクリアはそんなバラムを横目に、真剣な表情に変わる。
「……開会式で、なんで俺が新入生代表だったんだ?あれ、事前に何も聞いてなかったけど。」
「うむ、それは私が校長に話を通しておいた。せっかく私の子が入学するのだから、しっかりと顔を覚えてもらわねばな。」
「……父さん、ほんと余計なことをしてくれるよな。」
サクリアは口元をつり上げて微笑んだ。
「ハグはお預けな。」
「む……」
バラムはやや悲しげに項垂れたが、サクリアはそれをスルーし、ふらりと家の中へ入っていく。
「さて……魔力の特訓でもするかなー」
まるで他人事のように呟いたサクリアの背に、バラムはぽつりと小さく声を漏らす。
「……成長したな、本当に」
その言葉に振り返ることなく、サクリアは家の中でゆっくりと歩みを進めていった。
その日の夜、夕食を終えたサクリアは自室でのんびりと横になっていた。しかし、まったりしているだけでは飽きが来る。
「……暇だな。」
退屈しのぎに立ち上がると、部屋の一角にある書棚へと目を向ける。バラムが集めていた書物が整然と並んでいた。2階の書庫に足を運び、背表紙を眺めながら気まぐれに一冊を抜き取る。
それは、魔法に関する基礎から応用までを記した分厚い書物だった。
ページを捲ると、魔法の属性に関する項目が目に入る。
《属性魔法》
火、水、雷、土、風の五大属性
聖魔法:浄化や癒しを主とし、極めて稀な力
闇魔法:負の感情に呼応して発動しやすく、使い手の精神に影響を与える危険性を持つ
「聖と闇は、普通の魔法とは別格ってことか……」
さらに読み進めると、「神力」や「龍の技」「獣の技」という項目も目に止まる。
《特殊系統》
神力:神のみに許された力。存在そのものが神聖であり、他者が扱うことは不可能。
龍の技:龍人族が生まれ持つ力。個々に異なり、一人につき一つだけ。
獣の技:魔獣族特有の技。獣性を象徴する力であり、こちらも一人一つ。
「一人一つか……。じゃあ、俺にも『龍の技』ってのがあるのか?」
書物を閉じたその時、1階からバラムの声が響いた。
「サクリアー、2階にいるのかい?」
階段を降りながら問いかける。
「父さん、本見てたんだけど龍の技ってなんなのさ?」
バラムはいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、杖を手にして応える。
「学校で自然と分かることだよ。ガルピア学校の内部には“聖龍像”という祈りの場があってね。その像の前に立ち、心から願うことで、自分の内に眠る“龍の技”が発現する。誰にも干渉できない、魂に刻まれた一つの力だ。」
「……へぇ。じゃあ、俺にもいつか発現するってことか。」
「そういうこと。だがそれは、心の準備が整った者にしか現れない。焦らず、己の心を見つめてごらん。」
バラムの言葉を胸に刻みながら、サクリアは少しだけ胸の高鳴りを感じていた。
“龍の技”――それはきっと、これから始まる学校生活の中で、自分を形作る何かになる。