午後の授業が始まると、教室の空気が少しだけ張り詰めたものへと変わった。
担任のレガル・ノート教師が教壇に立ち、堂々とした声で言う。
「これより、各自の“龍の技”を授かる儀式を行う。場所は外だ。ついてきな。」
サクリアたちは教室を出て、校舎の裏手にある少し開けた場所へと向かった。そこには厳かに佇む石造りの像――“聖龍像”があった。
羽を広げ、天を仰ぐ姿はまさに神々しく、ただそこに在るだけで圧倒されるような存在感を放っている。
「像の前で祈りを捧げ、自身に眠る“龍の技”を目覚めさせるのだ。これは個々にしか発現しない、唯一無二の力だ。」
最初に前へ出たのはメアリだった。両手を胸の前で組み、静かに祈る。
「……聖弓光矢(せいきゅうこうし)」
メアリが口にしたその瞬間、まばゆい光が彼女の手元に集まり、そこに現れたのは純白と金色が織り交ざる聖なる弓矢だった。
その姿に周囲の生徒たちが息を呑む。
「ほう、聖属性とは……非常に珍しいな。見事だ、メアリ。」
レガルが珍しく目を丸くし、褒め言葉を贈る。メアリは少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに弓を眺めた。
次に前へ進んだのは、貴族の龍人・セレイン。
「……華頂伸鞭(かちょうしんべん)」
伸縮する銀の鞭が両手から現れ、彼女の手に吸い付くように収まった。
しなやかで鋭く、セレインらしい気品の中に芯の強さを感じさせる武器だった。
他の生徒たちも順に龍の技を発現させていき、そして最後に――サクリアの番が来た。
「じゃ、最後だな。準備ができたら聖龍像の前に立て。」
レガルの言葉を受け、サクリアは静かに前へと歩き出した。
皆の注目が一斉に集まる中、彼は聖龍像の前に立ち、目を閉じる。
(……俺の、“龍の技”)
その時、ふと脳裏に浮かんできた言葉があった。まるで心の奥から語りかけてくるような、確かな声――
「……天翔闘輝(てんしょうとうき)」
その名を口にした瞬間、眩い金色の光が彼の体を包み込んだ。
気が付けば、サクリアの背にはもう一対の翼が生え、周囲の空気が一変する。
まるで天から降り立った光の化身のように、彼の姿は神々しく、誰もが言葉を失っていた。
「な、なんだあのオーラは……っ!?」
「サクリア……!? なんであんな力が……!?」
生徒たちがざわつく中、レガルはすぐにサクリアの元へ駆け寄る。
「体調はどうだ!? 苦しくはないか!?」
「いや、平気。……けど、なんだろう……魔力も使ってないのに、力が溢れてくるような、そんな感じがする」
そう言ってサクリアは深呼吸をし、力を解放したままでは危険と判断し、自らの意思でオーラを収めた。
その直後――
「……サクリア!」
突然、空間が歪むような音が響き、光と共にバラムが出現した。彼の表情は珍しく焦りに満ちている。
「今の……お前の技か……?」
「あ、うん……何か、勝手に言葉が浮かんできて……」
サクリアが戸惑いながら答えると、バラムは深く息を吐き、周囲の生徒たちに振り返った。
「今の出来事は、他言無用だ。……これは、今後の“均衡”に関わるかもしれん。」
厳かな声に、生徒たちは無言で頷く。
「私は校長に報告に行く。サクリア、後は頼んだ。」
そう言ってバラムは再び空間の歪みの中に姿を消した。
取り残されたサクリアは、小さく呟いた。
「……普通の生徒として過ごせるんだろうか……俺」
その背中には、誰にも分からない孤独と、これからの運命への不安が、静かに広がっていた。