バラムはサクリアの手を軽く握ると、空に向かって呟いた。
その瞬間、周囲の空気が一変する。光が輪のように広がり、サクリアの視界は一瞬白に染まった。
そして次に見えたのは、青空の下、広がる緑の村――龍の村『スカイテール』だった。
石畳の道と、浮遊するように配置された大小の家々。空には翼を広げて飛ぶ龍人たちの姿も見える。まるで幻想のような風景に、サクリアは言葉を失った。
「バラム様ーっ!!」
誰かが叫ぶと、村のあちこちから人々――いや、龍人たちが一斉に駆けてきた。
「またお戻りになったんですね!」
「お体は大丈夫ですか!?」
「この間の魔獣族との件、聞きましたよ!」
笑顔で群がる龍人たちの中心に立つバラムは、軽く手を振りながらも穏やかな表情を崩さない。
その様子を見ていたサクリアは、ふと周囲の視線が自分に集まっていることに気づいた。
「えっ、え?」
「……あの子は……?」
「バラム様の隣にいるってことは……まさか!?」
ザワつく声が広がる中、バラムがにこやかに言った。
「この子は、私の“息子”だよ。名をサクリア・レインという」
「ええええっ!? バラム様にお子さんが!?」「はじめて見た!!」
一気に歓声が上がり、サクリアの周りにはさらに人が集まり始めた。中には手を振ってくる者や、泣きそうなほど喜んでいる者までいる。
「な、なんなんだよ……これ……」
戸惑いを隠せないサクリアの視線の先、群がる人々の間から、小さな影がひょっこりと覗いていた。
それは、年の頃ならサクリアと同じくらい。薄いピンク色の柔らかい髪に、白と淡いピンクの鱗が混ざった翼と尾を持つ、小さな龍人の女の子だった。
静かな目で、じっとこちらを見ている。まるでサクリアの姿を心に刻み込むかのように。
「……おーい、そこの子」
思わず声をかけると、女の子は少し驚いた顔をした。
「……わたし?」
「そう。君だよ。……名前、教えてくれないか?」
女の子は、少しの間もじもじしていたが、やがて小さく微笑んだ。
「……メアリ。メアリ・アイン」
「メアリか。いい名前だな」
サクリアが笑って言うと、メアリは恥ずかしそうにうつむきながらも、嬉しそうに口元を緩めた。
話していくうちに、メアリの表情は少しずつ明るくなり、二人はすぐに打ち解けていった。
「サクリアって、学校行くの?」
「……ああ、3年後にガルピア学校ってとこに行く予定だ。そっちは?」
「わたしもだよ! だったら……」
メアリは両手を胸の前で握りしめると、まっすぐにサクリアを見つめた。
「約束しよ? 3年後、ガルピア学校でまた会おうね!」
サクリアは少しだけ驚いたあと、笑みを浮かべてうなずいた。
「ああ、約束だ」
その約束が、後に二人を繋ぐ強い絆となっていくことを、
このときの彼らはまだ知らなかった――。