龍神の息子として龍生を紡ぐ   作:ラン乱

5 / 20
夢現の声と、目覚めの刃

スカイテールの村を、バラムと並んで歩く。

 

 サクリアの視線は周囲を見渡すも、どこか落ち着かない表情を浮かべていた。

 村人たちは微笑み、時に声をかけてくれる。それは温かな歓迎のはずだったが――

 

 (……まだ、慣れねぇな)

 

 視線を向けられるたび、心臓が跳ねた。人の目が、どうにも気になってしまう。

 

 そんなサクリアの様子を感じ取ったのか、バラムがふと尋ねる。

 

 「サクリア。村の子たちと、友達にはなれそうかい?」

 

 その問いに、サクリアは少しの間黙り込んだ後、はにかんだ笑みを浮かべた。

 

 「……んー。多分、そんなにいないかな。人付き合い、得意じゃないし」

 

 その言葉と裏腹に、メアリと交わした約束が頭をよぎる。ほんの少し、胸の奥が温かくなるような気がした。

 

 バラムはそんなサクリアの様子を優しく見守りながら、そっと肩に手を置く。

 

 「サクリアなら、大丈夫だよ。きっと、いい仲間と出会える」

 

 その言葉は不思議なほど心に染みて、サクリアは小さくうなずいた。

 

 夕方、ふたりはスカイテールから屋敷へ戻り、夕食を済ませた。

 江戸時代を思わせる土鍋で炊かれた白いご飯と、根菜の味噌煮込み。素朴ながら、どこか懐かしい味わいだった。

 

 夜、布団に包まりながらサクリアは思う。

 

 (……俺、変わったよな。身体も、名前も……生きる場所も)

 

 戸惑いながらも、胸にあるのは小さな希望。新しい生活が、ほんの少しだけ楽しみにもなっていた。

 

 ――眠りに落ちる。

 

 白い空間。

 何もない、真っ白な世界にサクリアは立っていた。

 

 「……ここは?」

 

 不意に、天から重く、のしかかるような声が降り注ぐ。

 

 『――コイツが、例の……』

 

 「っ! 誰だ!?」

 

 返事はなく、ただ声が続く。

 

 『……ふむ。これは……驚いた。まさかここまでとはな』

 

 「……ここ、夢じゃないだろ」

 

 『察しがいいな。そうだ、ここは夢ではない。意識の層を超えた、深層の領域……お前の魂の根源に近い場所だ』

 

 どこか得体の知れない存在。声だけなのに、圧倒的な威圧感があった。

 

 『“魂の器”……こいつのものは、どれほどか……』

 

 次の瞬間、空気が震える。

 

 『――!? ……これは……想像以上だ。こいつなら、或いは……』

 

 その言葉の意味を問いかける間もなく、目の前に黒い渦が生まれた。

 

 渦の中から、古びた装飾をまとった短剣がゆっくりと現れる。

 

 刃は小さくとも、鋭さと重厚さを兼ね備えた異質な存在。どこか懐かしく、同時に凶々しさを感じる――“古の武具”。

 

 『……コイツなら、きっと……』

 

 その言葉を最後に、声は途絶えた。

 

 「……おい! おいっ! 聞こえてるか!?」

 

 返事はない。白い空間も、声も、すべてが音もなく崩れていく――。

 

 「……はっ!」

 

 目を開けると、いつもの天井だった。朝の光が差し込み、鳥の声が聞こえる。

 

 「……夢、じゃなかった……よな」

 

 額には汗が滲み、鼓動が高鳴っていた。

 

 ただひとつ、気になるのは――

 

 あの短剣の感触が、まだ右手に残っているような気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。