スカイテールの村を、バラムと並んで歩く。
サクリアの視線は周囲を見渡すも、どこか落ち着かない表情を浮かべていた。
村人たちは微笑み、時に声をかけてくれる。それは温かな歓迎のはずだったが――
(……まだ、慣れねぇな)
視線を向けられるたび、心臓が跳ねた。人の目が、どうにも気になってしまう。
そんなサクリアの様子を感じ取ったのか、バラムがふと尋ねる。
「サクリア。村の子たちと、友達にはなれそうかい?」
その問いに、サクリアは少しの間黙り込んだ後、はにかんだ笑みを浮かべた。
「……んー。多分、そんなにいないかな。人付き合い、得意じゃないし」
その言葉と裏腹に、メアリと交わした約束が頭をよぎる。ほんの少し、胸の奥が温かくなるような気がした。
バラムはそんなサクリアの様子を優しく見守りながら、そっと肩に手を置く。
「サクリアなら、大丈夫だよ。きっと、いい仲間と出会える」
その言葉は不思議なほど心に染みて、サクリアは小さくうなずいた。
夕方、ふたりはスカイテールから屋敷へ戻り、夕食を済ませた。
江戸時代を思わせる土鍋で炊かれた白いご飯と、根菜の味噌煮込み。素朴ながら、どこか懐かしい味わいだった。
夜、布団に包まりながらサクリアは思う。
(……俺、変わったよな。身体も、名前も……生きる場所も)
戸惑いながらも、胸にあるのは小さな希望。新しい生活が、ほんの少しだけ楽しみにもなっていた。
――眠りに落ちる。
白い空間。
何もない、真っ白な世界にサクリアは立っていた。
「……ここは?」
不意に、天から重く、のしかかるような声が降り注ぐ。
『――コイツが、例の……』
「っ! 誰だ!?」
返事はなく、ただ声が続く。
『……ふむ。これは……驚いた。まさかここまでとはな』
「……ここ、夢じゃないだろ」
『察しがいいな。そうだ、ここは夢ではない。意識の層を超えた、深層の領域……お前の魂の根源に近い場所だ』
どこか得体の知れない存在。声だけなのに、圧倒的な威圧感があった。
『“魂の器”……こいつのものは、どれほどか……』
次の瞬間、空気が震える。
『――!? ……これは……想像以上だ。こいつなら、或いは……』
その言葉の意味を問いかける間もなく、目の前に黒い渦が生まれた。
渦の中から、古びた装飾をまとった短剣がゆっくりと現れる。
刃は小さくとも、鋭さと重厚さを兼ね備えた異質な存在。どこか懐かしく、同時に凶々しさを感じる――“古の武具”。
『……コイツなら、きっと……』
その言葉を最後に、声は途絶えた。
「……おい! おいっ! 聞こえてるか!?」
返事はない。白い空間も、声も、すべてが音もなく崩れていく――。
「……はっ!」
目を開けると、いつもの天井だった。朝の光が差し込み、鳥の声が聞こえる。
「……夢、じゃなかった……よな」
額には汗が滲み、鼓動が高鳴っていた。
ただひとつ、気になるのは――
あの短剣の感触が、まだ右手に残っているような気がした。