惑星シルバーダでの生活が始まって、一か月が過ぎた。
バラムと共に過ごす日々は、静かで温かく、そして厳しかった。
朝は日の出とともに起き、龍人としての肉体を鍛え、夜には魔法制御の特訓。
サクリアはまだ全開放こそできないものの、魔力の二割までは自在に扱えるようになっていた。
「……もうちょいだな」
汗を拭いながら、小さく息を整えるサクリア。その姿を見たバラムは満足げに頷く。
「大したものだよ。わずか一か月で、ここまで制御できるとはな。普通なら一年はかかる」
「そうなのか?」
「普通ならね。けれど、サクリアは“普通”じゃない」
バラムの言葉に、サクリアはどこか複雑な表情を浮かべた。
昼過ぎ、鍛錬の合間に、バラムが小さな石座に腰を下ろして口を開く。
「サクリア。龍人族は、成長と共に“自身の本質”に見合った武具を生み出すことがある」
「……武具?」
「そう。剣、槍、杖、それらは本人の魂と魔力に根差したもの。自然と手に現れる」
バラムの言葉を聞いたサクリアは、ゆっくりと自分の手を見つめる。
「……なら、俺もできるかな。試してみても?」
「ああ。無理にやろうとせず、意識を澄ませて、流れに身を任せるんだ」
サクリアは静かに目を閉じる。
(……あのとき、夢の中で……)
脳裏に蘇るのは、あの白い空間。そして、空から響いた謎の声。
“魂の器”という言葉。目の前に現れた、あの黒き短剣――
(……俺に現れたのは、あのときの……)
感覚に集中すると、手にじわりと重みが乗る。
パチン――
乾いた音と共に、サクリアの右手に一振りの短剣が現れる。
それは黒銀の刃身に、赤黒い文様が走る不気味な装飾。見れば見るほど、ただの武具ではないと分かる。
「……これ、だ」
サクリアが呟いた瞬間――
「っ……!」
それを見たバラムが、血相を変えた。
「それを……どこで手に入れた!? 答えなさい、サクリア!」
滅多に感情をあらわにしないバラムが、激しく詰め寄ってくる。
サクリアはその剣を握ったまま、真剣な眼差しで口を開いた。
「一か月前――夢の中……いや、夢じゃなかった。白い空間で誰かの声が聞こえた。そいつが、“魂の器”とか、意味深なことを話してきて……そんとき、これが現れたんだ」
バラムは目を見開き、沈黙の後、重く口を開いた。
「……それは……間違いない。《アセン・ヴァイト》――失われし古の遺物……かつて“災いを呼ぶ刃”と恐れられた武具だ」
「アセン・ヴァイト……?」
バラムの声は、どこか震えていた。
「その名を知るのは……我ら龍神のみ。今や存在すら忘れ去られ、記録からも消されたはずの禁忌の遺物だ。それを、まさかお前が……」
バラムは考え込むように目を伏せると、静かに続けた。
「サクリア。これはお前の魂に呼応した武具だ……否、宿命の刃と言ってもいい。だが、あまりに強すぎる。それ故に……人前では、決して、使ってはならない」
その目は、父としてではなく、龍神としての厳しさを帯びていた。
サクリアは黙ってうなずき、短剣を意識から消すと、刃は手の中からすっと霧のように消えた。