あれから二年――。
サクリアの魔力は着実に成長を遂げ、今ではその膨大な魔力量の八割までを自分の意志で制御できるようになっていた。
その目は以前より鋭く、しかしどこか穏やかさも備えた印象に変わっていた。体つきもややしっかりし、龍人の特有の翼や角にもどこか威厳のような雰囲気が滲んでいる。
そして、いよいよ明日から――。
サクリアはガルピア学校に通うことになっていた。
静かな朝。バラムの屋敷の中に、サクリアのやや呆れた声が響く。
「父さん……これ、何?」
彼の前には、丁寧に畳まれた学生服がずらりと並べられていた。色違い、デザイン違い、用途別に分けられたそれらは――全部で二十着。
「……多すぎるってば」
「学校生活は長いからな。日替わりで楽しめるようにと思ってね」
どこか得意げなバラムに、サクリアは頭を抱える。
「いや、ファッションショーでもする気? どう見てもこれは多いって」
「予備も入れて、少しずつ素材も違うんだ。春用、夏用、行事用、正装用、戦闘訓練用、そして――特別式典用」
「いや、最後のいらないだろ……そんなのあるかどうかもわからないし……」
苦笑しながらも、サクリアは一着一着に丁寧に施された刺繍や、動きやすい裁断にバラムの細やかな気配りを感じていた。
「……ありがとな、父さん。すげぇ、手間かかったろ?」
「私にとっては些細なことだよ。……お前が明日から一人で学校に通うって思うと、ちょっと寂しいくらいだ」
バラムの声が少しだけ寂しげに揺れた。
その目には、かつて23歳の人間だったとは思えぬほど、たくましくなった息子の姿が映っていた。
「……別に一生いなくなるわけじゃねぇし。終わったら帰るだろ。」
「ふふ、そうだな」
ふたりの間に流れる静かな時間。窓の外では風がそよぎ、明日への期待と少しの緊張を運んできていた。
サクリアは一着の学生服を手に取り、鏡の前で試しに合わせてみた。
「……似合ってるか?」
「もちろん。どの父親よりも、私が一番そう思っている」
その言葉に、サクリアはふっと笑った。
「明日、ちゃんと出発するから安心してて」
「うむ。だが、念のため言っておくぞ?」
バラムが少し真面目な顔に戻る。
「魔力の全開放は、まだ控えるように。学校では何があるか分からない。お前の力は……私以上だからな」
「わかってるよ。……“普通の生徒”として、な」
頷き合うふたり。
そして、サクリア・レインの新たな日々――
“ガルピア学校”での物語が、静かに始まろうとしていた。