「忘れ物は、ないかい?」
支度を整えるサクリアに、バラムがいつもの穏やかな声で問いかけた。
「初日だし、特には。準備は万全だよ」
制服に身を包んだサクリアは、胸元を軽く正す。見慣れない新しい服に、まだ少しだけそわそわする。父であるバラムは、誇らしげに目を細めた。
「ガルピア学校までは、まっすぐ飛んで十分ほどだ。建物はかなり大きい。きっとすぐに分かる」
「わかった。じゃあ、行ってくる」
バラムに手を振り、サクリアは空へと跳び立った。
空を切る風が、肌に心地よい。久々の一人飛行だが、もう慣れたものだった。
しばらくして遠くに見えてきた建物に、サクリアの目が思わず見開かれる。
「……でけぇ……!」
目の前に現れたのは、まさに空中都市と見紛うほどの巨大な建造物だった。上空には無数の龍人たちが集まり、飛び交っている。
敷地は東京ドーム八個分……いや、それ以上かもしれない。飛行訓練場らしき空間も広大で、サクリアの視界が追いつかないほどだった。
そして、ひときわ高くそびえる校舎の中心塔は、地球で例えるならスカイツリーに匹敵する高さだ。
「ここが……学校?」
あまりのスケールに、サクリアは一瞬、言葉を失った。
そんな中、背後から聞き慣れた声が響く。
「サクリアーっ!!」
振り返ると、淡いピンクと白の鱗が輝く少女――メアリが元気よく空を駆けてくる姿が見えた。あれから2年、彼女も空中飛行を難なくこなしていた。
「久しぶり! いよいよだね!」
「……ああ、そっちも変わってないな。元気そうで何より」
二人は並んで着地し、ガルピア学校の正門をくぐる。中は外観以上に広く、精巧な魔法細工が施された扉や装飾がいたるところにあった。
やがて開会式が始まり、生徒たちは整列し始める。
壇上には教師らしき龍人たちが並び、落ち着いた声で進行が始まる。全てが順調に進み、このまま終わるかと思ったその時――
「それでは最後に、新入生代表として、龍神バラムの子、サクリア・レイン君。壇上へ」
「……は?」
会場がざわめく。教師の声に、サクリアは目を瞬かせた。
「ま、マジかよ……父さん、何も言ってなかったのに……!」
困惑と緊張を抱えながらも、サクリアはゆっくりと壇上に立ち、集まった無数の視線を受け止める。
「……えっと、今日からここガルピア学校で学ぶことになりました。サクリア・レインです。」
ひと息置き、続ける。
「皆と一緒に、たくさんのことを学んでいけたらと思ってます。よろしくお願いします」
拍手が湧き起こる。安堵と、ほんの少しの誇らしさが心に灯った。
式が終わると、サクリアは大きく息を吐き、心を落ち着かせた。
「……とんだ初日だな、まったく」
メアリが隣でくすくすと笑う。
「でも、ちゃんと挨拶できてたよ」
「……ありがとな」
後で父さんに問いただすか。