忍殺×遊☆戯☆王 ディアベルスター・ザ・ブラックウィッチ   作:亜面瞳頭

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これまでのあらすじ

 遂に火蓋切られた魔女達と怨敵アザミナとの決戦。愛する家族を自らの復讐行に巻き込む覚悟決めた白魔女は、禁断の力にて悪魔を追い詰める。因縁持つならず者共も乱入し、混沌極まるイクサを魔女達は仇への断罪をもって制した……かに思われた。死すら超越した冒涜者は、その力にて黒魔女の魂へと茨を伸ばす……!


ディアベルスター・ヴェンジェンス:フェイズ2

贖罪薊01贖罪贖罪薊11贖罪薊01贖罪贖罪薊110薊贖罪贖罪薊贖罪贖罪贖罪010贖罪贖罪贖罪贖罪

 

「――忌々しき景色よ」

 

 電子的に圧縮された時の中、アザミナは白き森の中に佇んでいた。機械仕掛けの立ち並ぶ地下でない、黄金櫃めいて輝く立方の太陽が光差す、無限の地平に木々が生い茂るモノクロームの森の中に。空の輝きこそ違えど、ここはあの日の追憶に違いなかった。千年の記憶――かつてのドージョー……屈辱の……反逆の景色。

 

「ここでは未だこの姿か」オヒガンと電子の狭間に01再現された異空の内で、冒涜者の姿は一つ前の形態を取っていた。グリッチノイズちらつく、ヨウマの面影残すこのアヴァター……ソウルと外見情報の不一致を、森は半ば拒絶しているようだった。

 

「これも貴様の足掻きか……ヨウマ」内に沈めた不肖の魂は答えない。答えるはずもない。ここは確かに黒魔女のニューロンの奥底に映る情景――だが彼女が知るはずも無い景色。「我が雪辱の地が貴様の原点か。くだらん……」ディアベルの原風景を模したローカルコトダマの深奥へと、彼女の娘の魂奪い自我を葬らんと、冒涜の茨は生い茂る。

 

「……貴様もくだらんな――父祖よ。名ばかりの神が」歩む頭上、木々の天蓋に遮られた光は弱々しくも、千々の月日を暗がりにて甘んじ続けた冒涜者には眩く映る。差し込む木漏れ日の源――自転する黄金の墓標へ向けた誹りは、虚無的な恨みを孕んでいた。

 

 いつからか、咎人に茨の祝福を授けし刹那、この不可思議なる大遺物の輝きを精神の狭間に視るようになった。これぞ、かつて音に聞きしキンカク――開闢創造の父祖神、その死せる魂が眠りし棺。「今にその座も我が手に……せいぜい惰眠を貪るがいい」

 

 奪う者と奪われる者。皮肉にも平等に存在する両者。なれば、一度奪われた者には奪い返す道がある。奪うという権利が生まれる。奪い続ける道理がある。奪い続けることこそ世の絶頂であり続けること。奪い続けた先にあるものは――全ての頂点の座。冒涜者はそう定義する。

 

「――シルヴィ……ルシア……リゼ……?」歩み進めた先、仄暗い森の中を僅かな明かりと共に彷徨う白装束の幼子がいた。これもまた忌々しきもの……永遠たる祝福にまつろわぬ、裏切り者の忌まわしき娘。「……センセイ……?」

 

 縋るような眼でこちらを見上げるその様は、腹立たしい程に無垢だった。この童は言わば黒魔女の無意識領域の表れ、さしずめ頼り無き精神プロテクト、自我のファイアウォールか。それもこうなっては最早何も出来ぬ、只のイドの残滓。邪魔立てすることもあるまい。

 

「……哀れよの。見せかけの威で我らと同等を虚飾したとて……所詮はそのなりが貴様の本質――いつまでも師に縋ることしか出来ぬ……小さく弱き者。何とも虫唾の走る」

 

「……わたしは」侮蔑残してその横を通り過ぎようとした時、卑小なる者はやおら口を開いた。「わたしはあの日を忘れない」純真なる瞳の奥に、怒りを秘めていた。「……何だというのか」尚も意に介さず奥へ歩もうとした、その時だった。

 

「――私は」2人目の声――2人目。個人の精神に於いてあるまじき怪異。「……私は」3人目。気付けば眼前、依り代たるこの肉体と共に冒してやったはずの、とうに死したはずの少女達。「「お前を赦さない」」その眼も怒りに満ちていた。「……己が無力を恨め。貴様等は何一つ守れなんだ――」「「「私は」」」「「「私達は」」」4人……5人……10……20……倍々に増していく……!

 

「「「俺は」」」「「「俺達は」」」今や黒魔女の精神領域であるはずの森の方々に犇めくは、名も知らぬ――知る由も無い――魂達。過去に葬り、その後顧みる事の無かった弱者達の怨恨がアザミナを取り囲む。如何にして混線したか、リゼットに付き従いし定命共が童を庇い立てているか。

 

「「「決して忘れない……!」」」「「「決して赦さない……!」」」「「「ナンデ……!」」」「「「ニンジャナンデ……!」」」「「「ナンデ!」」」「「「ナンデ!」」」「「「ナンデ――」」」薊贖罪薊。「……負け犬共が。くどい」辟易と振るった茨が、鏖殺の跡が、白黒の淡色の森を赤黒く塗り潰した。

 

「「「ナンデェ……ニンジャァ……!」」」「「「呪われろ……!千にも……万にも……!」」」歩み続ける先、行く手行く手に現れる亡霊を再び殺める毎に、路は夥しい屍に飾られた。過去よりの積み重ねを、自らの罪に満ちた幾星霜の道程を視覚化されているようだった。「「「ナンデ……ナンデェ……!」」」殺しきれど、尚も怨嗟は止め処なく、尽きることの無い血溜まりから湧き続けた。罪、因果の巡りの、いずれ報復のあることを咎めるような怒りと嘆きだった。「……報いなど、只の一度も起きようか」

 

 恨み如何に燃やせど、これらは全て顧みる意味も無き過去、弱者にして敗者にすぎぬ。簒奪者が奪うものを気に掛けることなどあろうか。上位者は顧みぬゆえに上位者。それが原初から続く不文律であり、冒涜者の忌々しき経験則であった。

 

 屍山血河に埋もれる白き森、遂にその最奥へ、開かれた光の先へ邪悪の意思は根を伸ばす。やがて達する中枢をハブに、冒涜の茨は黒魔女の全てを覆い、奪い尽くすだろう。ソウル無き肉体に死など存在しない。終わりなどない。甘美なる永遠の隷属……愉悦……。

 

「……ヨウマよ。姑息極まる惨めな足掻き、苦労よの」中枢への入り口、儚い顔で立ちはだかるはかつての弟子。「全て遅きに失したがな」欺瞞の無い慈愛に満ちた眼の、愛憎の不快極まるその顔を、冒涜者は一瞥もせずに前へ進み、論理肉体の座標重ねた不肖の姿は、ホログラムめいて透過した。未だディアベルのソウルの本質はアザミナの支配下、黒魔女の内に宿るこれはその残滓、ただここにあるだけの幻影に等しい。

 

「我が門弟……貴様の千年は何とも無益であったことよ」かつてであればいざ知らず、自らが宿るその身を、精神を完全に掌握した今や、ヨウマはアザミナであり、アザミナはヨウマであった。ソウル馴染みし後も、肉体は煩わしくも檻めいて、森の外にて恣に動くことを縛ってきたが、そうした肉の枷も今日まで。晴れて真なる自由を取り戻す。

 

 悲願叶える前に、まずはさんざ煩わせてくれた羽虫共、如何に弄ぶか。差し当たってこの童はソウル奪いし後、屍を未だ屈せぬ姉の前で辱め、叛意を折ってやろうか。定命の獣共は半ば自我残してジョルリへ変え、互いに縊り合わせる様を愉しむか。「終ぞ貴様は何も為せなんだ」遂に冒涜の茨の意思は光の先へ、黒魔女の自我の中核へ――。「貴様も、貴様の娘共も……所詮は全て我が苗床――」

 

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「――バカな……行き止まりとは……!」魔女のニューロンの中枢は、四角い小部屋であった。アザミナが足を踏み入れたそこは、床が12のセグメントに仕切られた、古来よりシュギ・ジキと呼ばれるパターンであった。四方は壁であり、床と同様に、菱形あるいは眼を意匠した白黒の幾何学的紋様が無数に描かれ、その全てが冒涜者を見咎めていた。

 

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「――私01は10あの日を11忘れ01ない……!」

 

「……何故」背後からのダガー刺突を茨で阻みながら、アザミナは只今の論理襲撃を訝しんだ。「何故ここにいる」気付けば冒涜者の背後、みしり立つはニューロンの所有者の自我の表れ、幼きウィッチだったもの――怒りと報復の01纏う黒魔女。

 

「……ナンデだと」閉所の小部屋から一転、満天の星降る白木の森の中で、復讐者は変わらず毅然の眼で睨んだ。「ここは私の場所だ……!」自身が掌握したはずの周囲、自我の現れたる精神世界を再定義できるだけの意志――強靭なるエゴ――その証左たりえる、どこまでも不快な眼。

 

「お前に奪われたセンセイを、救えなかった姉さん達を、止められなかったリゼットを、罪を犯した自分の弱さを、決して忘れない……!ずっと忘れない……!忘れたことは無い……!」黄金立方体を月光代わりに星夜満ちる白き森にて、黒魔女は揺るがない。「これ以上涜させるか……!」

 

「……笑止」それでも尚、冒涜者は嘲る。ひとえに冒涜者ゆえに。多少の抗いを見せた者などこれまで幾千といた。全て冒してきた。「自らも救えぬ貴様が何を為せようか――」嘲るまま、ニューロン中に茨を更に張り巡らせ、強固に貼り付いた黒魔女の自我を冒し――貼り付いた……?

 

「――何?」嘲りの破顔は、未曾有の事象に硬直した。「奪ってみろ……!私を……!私達を……!」果たしてディアベルスター……黒魔女のIPアドレス……赤紫に輝くそのソウル――不動!

 

「……ヨウマ……!どこまで我が生阻めば――」「センセイじゃない……!」黒魔女の精神を……茨が手中に収めたはずの自我を……ニューロンを……魂を不可侵に繋ぎ止める自我の表れ――クッツキの光!「私だ!」その輝きの奔流は、冒涜者をKICKするどころかむしろ呑み込まんと――!

 

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「――ヌ……ヌゥーッ……」「AAARGHHHHHHH……!ウ……ア゛ァ……AAAAARGHHHHHHHH……!」

 

 現実、電子的に圧縮されし数秒の膠着!冒涜LAN直結から間を置かず、茨は黒魔女の内からも芽吹き!ニューロンを涜されゆく彼女は悍ましきノイズを叫ぶ!

 

「何故そうまで無駄を足掻く……!」だが、果たしてアザミナがその麗顔に浮かべるは喜色であったか!?否!(((……決まってんでしょうが……!お前を滅ぼす為に……!)))妹の凌辱されゆく様を目の当たりにするディアベルゼの心は不可逆に折れていたか!?否!両者の視線は同一のモノに向けられていた!無論!宙にて冒涜に抗い続けるディアベルスターに!

 

「ヌゥッ……!」アザミナは論理世界での攻防における只今の異変に、狼狽を隠せずにいた。(((何故こ奴のソウルはまたも……!)))リゼットのニューロンの守りは理解出来る。雑多なるモータル共の魂が――忌々しくも――超多重防壁めいて彼女の本質を覆い守っている為だ。だがこれは……!(((この童に遺されたヨウマの守りなど既に無意味!では何故……!)))

 

 蘇りしあの日より遥かに力増し、まして全盛の身を取り戻しつつある薊のジツ!姉共が混ざっているのは認識できど、黒魔女のソウルは直に触れているも同然の状態!それでは何故!?何故動かせぬ!奪えぬ!

 

「アステーリャッ……!アンタが言った通り……!センセイが見てるのよ……!これ以上好き勝手させて良いワケ……!?」白魔女は妹の決死の様から自身を蝕む恐怖を振り払い、また鼓舞を返した。「グ……そうだぜ黒魔女……!お前はこんなクソッタレにいいようにされるタマかよ……!」「「「シマッテ……コーゼ……!」」」ゴブリン達も魔女達の足掻きを前にまた奮起する。

 

(((喚くな小虫共……だが何たる異な!)))アザミナは今やディアベルスターを放そうとも放せぬ!仮に傀儡へ堕とすことを捨て、この場で縊ろうとも黒魔女に這わせた蔦すら動かせぬ!身を縛る茨すらも、そして肉体と魂をも強固に繋ぎ留める――クッツキ・ジツ!超自然の力に縛り付けるは冒涜者ではなく!その実、黒魔女であった!

 

「AARGHHHHH……!10年……!10年お前を追ってきた……!」依然ディアベルスターの様相は冒涜の呪いに苛まれゆくがまま!だがその意志は決して潰えず!「貴様等の取るに足らぬ刻の足掻きなど知るか……!力も意志さえも受け売りの分際で何を為す……!くだらぬ感傷を――」「私も知るか……!」決して退かず!

 

「お前の千年なんて知るか!知るもんかッ!10年!私の10年ッ!私達の10年ッ!無駄なものかッ!無駄なもんかッ!」

 

 それは理性的とは程遠い、剥き出しのエゴ!稚児の喚きにすら等しい叫び――だが!これを確かなる自己の表れと言わず何と呼ぶ!然り!10年の艱難辛苦の旅路、無益なはずがあろうか!

 

(((――知っての通りヒデェ世の中だ。まずは生き残ることだけ考えな。そうすりゃどっかでジャックポット……!)))

 

 世界のあり様を教えてくれた盗掘屋はそう言っていた。然り!生を繋いできたのは今の為に!

 

(((――如何なソウルを宿せど、如何な志を果たさんとしても、支えるのは己自身だ。如何な道を歩もうと……オヌシの手綱を握るのはオヌシ自身なのだ)))

 

 かつて探偵を名乗る男はそう授けてくれた。然り!確固たる自己の下に歩んできたのは只この日の為に!

 

(((――私に代わって贖罪を――娘達の屈辱を晴らしてくれ。私を――師を止めてくれ)))

 

 全てはセンセイの遺志を継ぐ為に!愛する母に託されし悲願を果たさん為に!

 

「受け売りだと……!リゼットの覚悟が……!私の怒りが……!私達の心が……!誰かの物だと……!」

 

 全ては――!

 

「私がッ!私達が決めたからやるんだッ!」

 

 全ては己が意志を為さんが為に!

 

「AAAAAARGHHHHHHHH――アアァァァァーーッ……!」自我を保つ!

 

 ZANK!ZANKZANKZANK!KA-ZOOOM!「「「「「グワーッ!」」」」」黒魔女を中心に発せられる超自然の力場が、物理的圧力伴う01の表出が、アザミナ諸共に茨を、周囲を吹き飛ばす!「ロウオォーッ!」それに呼応するかのように、末妹の身に宿る自らの魂の呼び掛けに応えるかのように、黒獣と黒翼もまた01の黒風となって彼女の内へ融け消える!

 

 今こそディアベルより受け継ぎし力、その神髄を解き放て!クッツキの力とは単なる物理固着に非ず!その本質とは……存在情報の再定義!異なるIPを合一し!分かたれし物体を結合し!現実・電脳・オヒガンをも統合し!論理・物理を超越して繋ぐ――再創生の光!

 

0101110断罪10101110断罪101010断罪10101断罪010111断罪011101断罪0101断罪01

 

「ア゛ア゛アアァァァァァァァァァァァアアアア……!」

 

 ディアベルスターの内より溢れし止め処なき01は!姉達の魂を!身に蔓延る茨すらも取り込み!彼女の定義を書き換える!迸るクッツキの奔流が装束纏う躯体鎧って鉄黒の鱗鎧となり!頭部飾りて双角となり!四肢を覆い獣爪となり!背を突き破り大翼となり!靭尾となり!幽世の電子情報が物質化したその姿!まさに「……哀れな獣めいたなりよの!」――否!否否否!

 

 「ケモノじゃねェー……!」「ああ……ありゃ――」恐れよ!明日を捨てた黒の復讐鬼を!「アアァァァァーーッ……!」称えよ!冒涜の罪より世を、未来を繋ぐ――断罪の悪魔を!

 

「……」やがて黒緑と赤紫の織り成す01の渦が晴れた中心にて、化身したディアベルスターは静かに降り立ち、その姿に秘める揺るがぬ意思の表れ――断罪のカラテを構えていた。「……何たる醜き様」その眼に映すは無論、嘲りの冒涜者アザミナ。

 

(((……アステーリャ……)))妹であるはずの存在が放つ異様なるアトモスフィアに、ディアベルゼは後方にて視るに徹するを強いられた。(((あの子……姉さん達と一つに……?)))『罪宝』――尋常ならざる異能に歪みし魂をその身に降ろし、あまつさえそれと融合を果たすともなれば、如何な事態が起こるのか。数多の魂と共に生きる白魔女をもってしても、全くの未知数……!だが確実に言える事は――。

 

「どこまでもコシャクな童よ」目の前の反逆者の末子が発する異様な圧に、アザミナは歯噛みすると共にニューロン速度で冒涜リソースの再配分を実行していた。如何な手段で窮地抜けた腹積もりか知らぬが、依然此方の優位は、勝利は揺らがぬ……!『アレ』が健在な限り、彼奴らに勝機など万に一つも……!「惨めな足掻きの果てがそのザマか、何たる――」「私は」声と床に走るヒビを視界に置き去り、断罪者はアザミナの目の前から消えた。「お前を断つと言ったんだ……!」否、眼前に、零距離にいた。「イヤァーッ!」

 

(((あぁ――)))怨敵のワン・インチ距離に空中接近するディアベルスターに、自らの超自然の眼でもってしても残像焼き付く縮地に、ディアベルゼは確かなる前向きの昂りを感じていた。依然、妹の身に起きた委細は未知数。だが確実に言える事は――。(((――あの子が本当にキレると一番怖いのよねェ……!)))これにて冒涜の悪魔が滅びずにいられる可能性は、万に一つも無し!

 

 KRAAAASH!「――グワーッ!?」接近を認識出来た頃には、アザミナは喉笛を鷲掴まれ、後方の壁面に大亀裂と共に叩きつけられていた。ハヤイ――それだけで片付けられる事象ではない……!「グ、ゴボッ」白魔女の瞬間加速にも匹敵するこの速度……!「断つ!」「グワ――ッ!」自身より劣る体躯に見合わぬこの膂力……!何れも先の黒魔女のソレではない……! 

 

「――イヤーッ!」一握りに粉砕された首元を再生すると共に、冒涜者は虫でも忌々しく払うような動作で茨腕を薙ぐ。さながら有翼黒鱗の竜人と化した黒魔女は、大翼を盾めいて広げて受け、空中制動しながら後方に飛び退いた。

 

「……お前、本当に不死身か」先のルシエラによるカイシャクと同様に、確実な致命の手応えを感じていた黒魔女は訝しみ、確かめるように呟いた。どこか悦の含まれる声で。「……故に諦めよと何度言わせる?」「ハ、ハ!」双眼爛々と輝かせる彼女は、今や異様な昂りに満たされていた。「殺せるまで断ってやる」あの日、ソウル継ぎし時にも感じ得なかった危ういまでの全能感に!「イヤァーッ!」

 

(((最早そこなケダモノ以下よの!)))キリモミ回転飛来する断罪の突撃を辛うじて転移回避しながら、亜空でアザミナは舌打ちした。無駄を解さぬ童が為に、更に冒涜のリソースを回し、自らの力へ還元する他無し……!何たる煩わしき……!何たる「――イヤァーッ!」KBAMN!「ヌゥーッ!」「アハハッ!ゴブサタねェ!」黒魔女が解放されし今、白魔女もまた躊躇う事由無し!何たるヤンナルネ……!

 

 かくして贖罪のイクサ盤面に並び立つふたりのディアベル――断罪の悪魔白き魔女!数多の遺志を継ぎ!意思を繋ぎ!巨悪討たんとするふたりの意志は!絆は!クッツキの力が如く離れ得ぬ!決して壊せぬ!

 

「イヤァーッ!」ディアベルスターは生じた翼巧みに、縦横無尽の飛翔カラテ振るう!断罪のアクマヘンゲの力、とくと見よ!「終に見てくれも羽虫よの……!」アザミナは自身の周囲で茨繁茂させてファランクスめいた単独防護陣形!「DAMNED!」それを諸共焼き払うは白魔女の光!「グワーッ……!」本体は耐えた!森に満つ冒涜のリソースその身に循環させ……迎撃せんと!朽ちた茨の攻性防壁の向こうより飛び来る断罪者を!

 

「イヤーッ!」「イヤァーッ!」ディアベルスターは速度纏って凶爪閃かせ、殆ど無造作に茨を引き裂き――アザミナの躯体をも刻む!「グワーッ!」今や彼女は圧倒的不可抗力を人型にした、暴力概念の物理顕現存在……!文字通りの破壊の権化……!

 

「イヤアァーーッ!」怯む冒涜の聖体へ、すかさず空中で大翼広げた肩口から背中に掛けて、01纏う推力で叩きつける!暗黒カラテ体術、断罪のボディチェック!「グワーッ!」KRAAASH!アザミナをまたも壁に吹き飛ばし戦闘破壊!

 

「……ズガタッキェー!」反撃のアザミナ、再生すると古の叫びと共に異空転移接近!「貴様は!」断罪者の着地隙へ鋭く茨振るい!「無欠に非ず!」腕ケジメ!薊!「グワーッ……!」だがアザミナは部位破壊の感触を訝しんだ。「異な……!」どこか認識と齟齬がある。

 

 茨の鉄線が縦薙いで0コンマ2秒、ディアベルスターの無惨切断されし左腕断面から迸る鮮血は、溢れ出た端から赤紫の光伴う髄液へ変わり、超自然の鎖となって腕と身体を繋ぎ……瞬く間に固着させた。滴り滲み出る01とクッツキが切断腕を完全に接合させると、断罪の悪魔は愉悦交じりの挑発を双眸に、茨の悪魔へ向けた。「断ってみろ……!」「ほざけコワッパ!」

 

 最早取り繕うこともなく、アザミナは激情露わに茨奮わせた。自らの優位性は依然失われておらぬ!だが何故この身が断たれる!?何故……童は致命の返報に怯まない!?

 

 聖なる薊花が齎す冒涜の加護、致命傷の痛みを相対する者に移す呪い!尋常の状況では既に幾度と死を迎えている冒涜者の体感ダメージを、魔女は先よりその身に受けている!物理的損傷が無くとも、痛みはニューロンを駆け巡る確かな信号となって襲い来る!常人ではショック死も必然!それではディアベルスターは、果たして!

 

(((――痛い……!ああ痛い……!痛い痛い痛いッ……!)))薊の呪いは、実際彼女を内側から蝕んでいた。それに加え、アクマヘンゲの身体は禁断の融合に伴う反動にも苦しめられていた。ソウルを、全身をバラバラに砕かんばかりの激痛が、カラテ振るう度に、茨聖者を殺す度に彼女を苛む……!(((……だから何だッ!)))然り!何するものぞ!虐げられし『彼ら』の苦悶、姉達の艱苦、そしてセンセイの悲哀の程に比べれば……!

 

「イヤアァーーッ!」KBAMN!ZZZZZZTT!「グワーッ!」「ンアァーーッ!」一方ディアベルゼもまた、ジツの出力増して力揮い、呪いの返報の痛みに、身に纏う『彼ら』の怨嗟に、その身を灼かれゆく……!「リゼット……奸童めがッ……!」「アーハハハッ……!妹が必死コイてんのに……!お姉ちゃん頑張りませんは通らないのよォッ……!」だが笑っていた!

 

 然り!笑え!笑うのだ!魔女達よ!ようやく報われようとしているのだ!自らの!姉達の!センセイ達の報いが!今果たされんとしているのだ!故に不退を貫き!不敵に嗤うのだ!

 

「――AAAARGHHHHHHH……!」その時彼女らの後方より、黒魔女変化衝撃から復帰したエリュシクトーンがインターラプトせんと「――テメエの相手は」「ルオオオオオーーッ!」「俺らだろうがッ!」「AARGHHHHHHーーッ!」そこに更にインターラプトするは我らがオヤブン、ビッグヘッド・ガボンガ!そして大饕獣クレイジー・ビースト!

 

 「イヤァーッ!」「イヤァーッ!」「イヤーッ!」「ヒャッキ!」「ルオオーッ!」「AARGHHHHH!」白き森にて繰り広げられる悲願のイクサ、バトルフェイズは遂に佳境に突入す!

 

「――お、俺らはどうしやしょう!」「加勢に行くか!?」サーバー筐体の影より壮絶なる決死の攻防を傍観に徹するはゴブリン達!魔女達が、オヤブンが、各々に死力尽くす様に、クラッタとブーンもまた逸っていた。「もう足手纏いだァー……見届けろォー……それが俺らの役目だァー……」「オニイサンそうは言っても――ア」

 

 彼らが身を隠す著大UNIX、すでに演算機能は死したそれに、何故か増設されたるは旧世紀高音質スピーカー。「ア……アッ、そうだBGMしよう!」「ノリのいいヤツ掛けるか!」SNAP!ミアンダ鞭打!「「グワーッ!」」「このスゴイ・バカ共!」「「スンマセン!」」

 

 KA-DOOM!「「アイエッ!」」そこに吹き飛び来たるは「――チィッ」ディアベルスター。「……おい」「アイエッ……!」断罪の概念を鎧ったようなジゴクめいた風貌の黒魔女は、ウケミするなり悪鬼達に一瞥くれると凄絶な笑み浮かべて「アガるヤツにしてくれ」だがクラッタの予期していた返答とは裏腹に、実に穏やかに返した。「……ヨロコンデー!」ゴブリン随一のトラックメイカーはすかさずサーバーに端子直結、ジャックイン!

 

 ゴ……ギギゴギガガガギゴガガガ……ギャギャドギャギャドドギャギャ!ギャギャドギャギャドドギャギャ!錆び付いたようなローディングの後、金切り声めいたノイズをイントロに、暗澹の森で攻撃的リフ轟く!

 

「……ハ、ハ、ハ!」新進気鋭のアンタイセイ・パンクのキラーチューン!それは陰鬱なるイクサを否応にも奮い立たせるBGMにして!「いいぞ……気に入ったッ!」永遠の支配謳う上位者の不遜に中指を立てる反逆者達の勝鬨!「「ブチアゲローッ!」」昂揚と共に駆けた黒風を、悪鬼達も高テンションで反抗的ハンドサインと共に見送る!

 

「耳障りな!」「ンー煩い!趣味じゃないわねこういうの」その曲の走りは魔女達の復讐の逆転劇の高まりが如く……!「でも……いいじゃないッ!」彼女らの鼓動の昂りが如く……!「「イヤァーッ!」」ハイヴォルテージ!

 

 今ここにゴブリン並びに、そして読者諸氏も大いに昂った!目の当たりにせよ!神代よりの因果の果て!運命の決闘にして真なるニンジャのイクサを!

 

『死せど死なず!死せど不滅!死せど意思死なず!』

 

 KBAMN!ディアベルゼは怨光更に纏いて回転跳躍!「イヤァーッ!イヤァーッ!イヤァーッ!」アザミナ本体を多段蹴りして宙を昇る!冒涜の主はブロッキングに転移織り交ぜてこれを防御!「イヤーッ!」白魔女の上昇蹴撃の最高地点にて触腕の包囲を――そこに断罪!

 

『死せど不滅!死せど死なず!!死せど魂不滅!』

 

「イヤァーッ!」ディアベルスターは上方から城塞バリスタめいた空対地トビゲリ襲撃!断罪の破魔矢が聖者僭称者を貫き破壊!「グワーッ!」

 

『死せど死せど!死せど死せど!死せど意志は続く!』

 

「……幾ら調子付いた所で何が変わる!」薊贖罪薊!泣き別れの胴を繋ぎ茨急速再生!薊蘇生!だが零距離眼前!「決まってんでしょ!お前が滅ぶッ!」白魔女の黒紫奇手!「イヤァーッ!」額の邪眼へ摘出チョップ突き!「グワーッ!」「DAM!」さらにそこから脳髄、茨の中枢へ直に放つモーリアンの光!「NED!」ニューロン破壊!「グワァーッ!」「ンアァーッ!」冒涜のダメージ反射――無論退かず!

 

『死せど死せど!死せど死せど!死せど遺志は継ぐ!』

 

「童蒙ッ!」眼球と焼き切れた中枢部茨を増殖再生!聖者蘇生!「アハッ!ゴメンナサイねェ!誰かさんの所為で反抗期なんて無かったのよ……ねェッ!」白魔女を捕縛せんと周囲より狂い茂る茨を嘲笑うように、多段加速しながらムーンサルト離脱!「イヤァーッ!」入れ替わるようにインターラプト、蔦断ち割りながら地を駆け迫るは黒き断罪者!

 

「イヤーッ!」アザミナは茨スリケンにて牽制しながら虚空へ飛んで距離を取る――能わず!ディアベルスターは被弾ものともせず真正面より吶喊!突き刺さった茨星すら取り込み破壊のカラテへ換える!

 

「来るか這い虫!」冒涜者は過剰増殖させた腕部茨で真横薙ぎ!圧倒的リーチと質量の千条鞭打が超速で迫る!飛び道具とは訳が違う飽和面攻撃、強靭に物言わせて突破は困難!しかしてコンマ1秒!「イヤァーッ!」断罪者は地を這うほどの前傾低姿勢で初撃を回避!さらに床についた手先を軸に、下半身を捻って上下逆さの回転撃!再びメイアルーア・ジ・コンパッソのカウンターか!?だが宙の冒涜者は20フィート先!未だ波状攻撃も持続――SHIIING

 

「――グワーッ!」返す腕の咄嗟の防御空しく、冒涜者の頭部は顎上から切断!魔女の身では持ち得なかった第三の腕、蹴り脚と共に振るわれた竜めいた強靭なる悪魔の尾が、茨乱れ打つ空を超音速で切り裂き、遠心伸長して断罪斬首!

 

「――AAARGHHHHHH……!」だが果たして、切断された頭部すらも、また断面から茨が生じて元の様相へ再生していく……!死者蘇生――元より死せず!何たる悍ましくも無欠の謂れに欺瞞無き超越者の力か……!

 

『死せど死せど!死せど死せど!死せど生は繋ぐ!』

 

「アーハ!随分柄の悪いお友達が出来たのね!」苛烈なるアンタイの叫びの中、断罪者と白魔女は一瞬の交錯!「後で紹介してやる。笑えるバカ共だ」「……時にアレ、何か作戦は?頭飛ばしたのに生えてきてるわよ。ムカつく……!」「不死身なワケあるか。死ぬまで殺してやるだけだ」「アハ、どの道終わらせないと私達がオシマイだものね」何たる向こう見ず……だがノーフューチャーなれど未来が為の不退転姿勢!彼女らは横並びにユウジョウ交わすと再び有色の風となって駆ける!「「イヤァーッ……!」」

 

「――黒魔女達が押してるかァー……!?」「で、でもアイツ何やっても生きてますぜ!」一方、観戦に徹するゴブリン達の隠れる廃サーバー、最早ジュークボックス以外の機能を為さないそれの増設モニタには、この施設において謎めいた冒涜的演算が未だ完全停止していないことを意味する進捗バーの描画が、ごく緩慢に、だが確実に行われていた。94.9%……94.9……94.9……95.0%……!「アイエッ!また増えた!」

 

「どっかにまだ生きてる機械があんだ!やっぱ俺らで――」「イディオット!もうアタシらの出しゃばれる次元じゃないんだよ!」言い知れぬ焦燥感に駆られるブーンを制止しながら、ミアンダもまた、名状しがたいざわめきを感じていた。仮に100%を迎えた先、果たして何が起きるのか?分からなくとも、それが確実に破滅と呼べる何かの引き金になるだろう事だけは、否応にも予感できていた。最早信じる他はない。魔女達を、そして――。(((――ガボンガ……)))祈るように、彼女は親愛なるオヤブンのイクサへ目を向けた。

 

「――ルオオオーーッ!」「AAARGHHHHHHHーーッ……!」古遺跡略奪破壊跡めいてサーバー群が無残に転がる地下の一角、茨の海の最中で茨傀儡とデスマッチに挑むは巨獣と悪鬼首領!さながら冒涜の有機的非人道兵器マキビシが如き様相の地面を踏み砕き、獣はかつての肉体へ迫る!「ヒャッキ!」その背よりガボンガは高く跳躍、エリュシクトーンへ正面突撃する巨獣と同時にトップアタックを仕掛ける!「ラセツ!」

 

「AAARGHHHHHH……!」斧槍構えて超重量突撃を受け止める茨怪異はガボンガの上方強襲を認めるも即座反撃に移れず!敵に虻蜂取らず(注:通常の意)を強いる確かな戦術!オヤブン聡明――だが敵もまた然るもの……!

 

「除去ッ……!」傀儡より溢るるアザミナの冒涜エンハンスの光、それが茨と接触するクレイジー・ビーストにも移り……!「ル……オ……オォーッ……!」巨獣はエリュシクトーン目掛けてアサルト落下してきた眼前のガボンガを、何故か前脚撃で打ち飛ばした!「グワーッ!?」「オヤブンッ!」生前のアイトーンも授けられていた、一時的なニューロン支配により他者を使役する力!

 

 KA-DOOOM!「グ……クソ……!」森の遠方へ除去されたガボンガは、もんどり打ちながら吹き飛び(負傷すれど非凡なるニンジャ耐久力が物を言った)、やがて仰向けで深紅の果実実る大樹を下から見上げていた。……樹ではない。それは環状列石めいたサーバー集合体を超自然LANケーブル――茨が守るように幾重にも覆った、人工・自然が混然一体となった冒涜的オブジェクト。そして果実とは……茨から芽吹くように形成された、歪んだ形状の情報素子――『罪宝』。(((キナ臭エモンだと思っちゃいたが……アイツが生み出してたのか?)))

 

 察するに魔女達が指示していたデバイス破壊工作は、全てあの怪異めいた存在のジツの妨げの為。彼には理屈など見当も付かないが、この空間、そして茨で繋がる全ての機器が、あの異形ニンジャの力の根幹を成しているということか。だが何故、この機器だけ他のサーバーからも隔絶するように、ここまで厳重に縛られている?稼働、と言うよりも生きているが如く胎動しているその有機的異様物体に、ガボンガがさらなる異を覚えたのはこの直後であった。

 

「――イヤァーッ!」「グワーッ!」

 

 彼方から聞こえてきた、恐ろしくも決断的なシャウトに遅れて断末魔のノイズが響いたその時、冒涜の樹に生る実の一つは突如その色を失い、萎び枯れて、やがて落ちた。「アア……?」

 

「――ルオォーッ!」「AARGHHHHH……!」KRAAASH!

 

 続いて他方から聞こえてきた、怪物達の呪詛とサーバー破壊の音が重たく轟いた瞬間、数多の実が立ちどころに枯れ落ちた。「オイオイ……どうなってんだ……」それに気付けばガボンガの周囲、彼らのこれまでの足掻きの有意を証明するかのように、無数に散逸する超自然の情報素子。「……ハッハァー!」瞬間、彼のニューロンは確実な勝機の直感に励起した。恐ろしき理不尽――最早恐怖に非ず!

 

「魔女共ッ!」誇り高きアウトローの頭目は跳び起き、森の深みより確信を、終生の好敵手の勝利が為の値千金の気付きを、声高に叫んだ。「そいつ不死身なんかじゃねえ!クソみてぇな回数コンティニューしてるだけ……だ――」瞬間、ガボンガは体感時間の鈍化を、死の予兆を認識した。振り向くと共に過熱したニューロンが視界速度を加速させ、後方に現れた気配を――基幹サーバーの茨から殺意と共に彼の背後に顕現せし、冒涜者を認めた。……ついてきたのだ。

 

(((オイオイ……お前この距離も飛べるのかよ――)))「見てくれのみならず耳煩わしき獣……貴様から――」KBAMN!(((――白魔女!)))「――ヘェ……!イイこと聞いたわッ!」更にその後ろ、目鼻からの流血と共に燐光爆ぜさせ超速機動して来たるディアベルゼを認めた。ついてきたのだ!

 

「イヤァーッ!」KKBBAAMMNN!!心身への反動など顧みず、宿す怨嗟の凄まじき多重加速解放!「グワーッ……!」ジャベリンめいて投擲されし蒼白黒紫の光纏うボーに邪悪が貫かれたその時、冒涜の情報素子はまた一つ落ち、ただ枯れた。「あらホント!」「ハッハァー!ビンゴだぜ……!」確かな糸口掴みし魔女に殿任せ、ガボンガは再び傀儡との決戦へ連続側転離脱!オヤブン慧眼!

 

「醜き獣めが……!」胴の風穴を塞ぎながら、冒涜の悪魔は恨めし気に貌歪ませた。果たしてその不快感情の矛先は、取るに足りぬ者共の足掻きに対してのみだっただろうか。「随分焦っちゃって!正解ってことでいいのよねェ!?」ジツ反動に血涙溢れる白魔女の、非現実を見通す眼が映す先、亜空介して茨の回線で冒涜の躯体が繋がる根源こそ、この電子墓標……白き森のわざわいの端緒となった最奥部基幹サーバー。かくしてアザミナの不死の仕掛けを、遂に彼女は看破した。冒涜のムテキ齎す加護は、それ単体では自らの死の際に相手にも苦痛を返すのみの、痛み分けの効果しか持たぬ。それでは如何に――。

 

 アザミナがヨウマ・ニンジャの肉体を我が物としたあの日以来、だがその身体が『森』を出る事は一度も叶わなかった。それこそがヨウマの遺した最後の安全弁……この閉鎖的地下空間を自らの精神世界――ローカルコトダマと同一定義し、自身の肉体・ソウルIP所在を固定する奇跡にも等しき業。全てはかつての師を、わざわいの茨の根源を決して世界に解き放たない為に。……だが、冒涜の簒奪者はそれを偽りの不死、そして真の無欠齎す為の苗床へと作り変えた。

 

 ヨウマの魂と繋がる旧世紀遺物サーバー、そこから茨を通して随時行われる自己定義情報の転送と、周囲サーバーへのバックアップ保存――ヨウマの遺せし01電脳の技と自らのオヒガンの業混合させた超自然リソース――新たな肉体の再定義演算と平行して行われていたそれこそが、冒涜聖者を不滅たらしめる盤石の根深き絡繰り。10の年月掛け、かつての肉体を再構築するまでの間の、盤根錯節の茨の計。……だが、その種は、今割れた。

 

「貴様等如きに……!我が聖阻むこと能わず……!」「アハッ!今更退けないわよねェ!」メインサーバー庇うように更に茨で覆い、なお優位に振る舞わんとするアザミナの転移交えた触腕の薙ぎ打ちに、白魔女は怨嗟爆光で滞空し、蹴り単打応酬で応え、制する!「グワーッ!」「全部枯れた後も同じクチ利けるのかしらッ!?」

 

 事態の好転を感じつつも、一方でディアベルゼは内心の焦りをキャリブレートすることに努めた。95.9%……95.9……95.9……95.9……96.0%……。主要サーバーの破壊は間に合うまい。悪魔にとって真に肝要な力の心臓部が故、執拗なまでに茨で防護されている。であれば出力先を絶ち続ける。その生が立ち枯れるまで、未だ続く冒涜の演算が終わりを迎えるまでに、悪魔の存在を、有限の生を全て終わらせる。

 

 明確さの増したシンプルな勝利への展開は、だが彼女の絶対の勝機を保証しない。(((――もう私の問題じゃないわね)))……だが然り、もう独りの為のイクサではないのだ。(((絶対にセンセイ達の……あの子の為に……終わらせてみせる!)))愛する者の未来が為に……!

 

「リゼット……!ジョルリ如きが主に刃向かう道理……何処にあろう!」相対するアザミナは、サーバー稼働に必要最低限のリソース残して、自らを苛む虫を封殺する為に力解き放つ。薊贖罪薊薊贖罪薊……!嗚呼……!茨のたうつ城壁の如き大海嘯が、一切の慈悲無く白魔女を冒涜に呑み込まんと迫る!古来より生きるニンジャの力とは、底が見えて尚、何と深く昏いのか――KKBBAAMMNN!!

 

「当然ッ!誰もお前のオモチャじゃないからよッ!」果たして黒紫の鴉羽舞う中で、彼女は極光迸らせ、不退!元より退く道理があろうか!「DAMNED!」解き放つ死霊の多重爆撃は遂に明確な輪郭を形作り!「ROAAAAAARR!」大竜の如き実体となって荒れ狂う茨の大海を爆ぜ貫く!「グワァーーッ!」「――ッ!アァアアアーーッ!」脳髄に灼き付く痛みの反動……振り払う!

 

「……否ッ!」爆散した茨津波の枯死残骸が舞う最中、炭化死体めいた黒く萎びた躯体を脱皮めいて突き破り、アザミナ再誕!『死せど不滅!死せど死なず!』「貴様等なぞ我が生の慰み物に過ぎぬわッ!」「あらそう!ところで私だけ見てていいのかしら!?」未だ悪意の呵々叫ぶ冒涜者に、ディアベルゼもまた叫び返した!是あるかな、下方!「――イィィィィ……!」白魔女は独りにあらず!これは魔女達――ふたりのイクサ也!

 

 追い来たディアベルスターは力込めて地を踏み砕くと身を沈め――これは……!「……イヤアァーーッ!」解き放たれた縦回転が鋭利に急加速上昇!伝説のカラテ蹴り――サマーソルトキック!「――ヌァーッ!」黒緑の円弧旋風脚が咄嗟に瞬間転移防御した茨腕を割り裂く!本体は異空へ逃れてダイレクトアタックには至らず――初撃は!

 

「イヤアァーーッ!」断罪の旋回蹴撃は更に回る!衰えぬ回転撃の二連目、蹴り足に続いて大気焼き斬る極超音速の尾の一撃が、再現出した宙のアザミナを追撃!SHIIIIING!「グワーッ!」腕を再生させる暇を与えず本体を、その後方の壁天井をも縦一文字に裁断!ダンザイ!

 

「……我が身の無窮/揺らぐものか!」アザミナの縦に裂けた五体は、しかし茨生じさせ、断面を繋ぎ塞ぐ!「貴様等が幾度断とうと!」薊贖罪薊!反撃に棘蔦繁茂させるも、断罪者!「イィィィ……!」依然エリアルコンボ継続!縦回転跳躍の最高点で超速下方逆回転!ギロチンめいた尾の一閃が!断罪の踵落としが!反聖者の脳天から下方の床に至るまで全てを!「イヤアァーーッ!」KRAAAAASH!「グワァーッ!」フンサイ!

 

「……無益!無足!無駄ァ!」爆ぜたアザミナの躯体は、骸より茨の萌芽生じて、新たなアザミナとして還り咲く!『死せど死なず!死せど不滅!』冒涜のリインカーネイション!「貴き我が生!脅かせるものか!フォホホホホホホホ!」聖なる邪荊は不滅!オヒガンのリソース尽きぬ限り!「そうね!限りある命だものねッ!でも貴女のは大切にしなくていいわよねェ!?」「何度でも断ってやる……何度でもッ!」断ち続けるのみ――枯れ果てるまで!「「イヤァーッ……!」」96.9%……96.9……96.9……96.9……97.0%……!

 

「――ルオォーーッ!」「AARGHHHHHHーーッ!」他方、終局迎えんとするはガボンガ背に乗せたクレイジー・ビースト――アイトーンとエリュシクトーンの決戦!「AAARGHHHH!」茨傀儡は押し合い制し、斧槍にて巨獣の前脚を落とさんと横薙ぐ!「跳べッ!」「ルオオォォッ……!」ガボンガの指示より速く、獣はバックジャンプするも、体力衰えた身の跳躍は遅れ、腹を撫で斬られた。確実な負傷……!「グッ……しんどいか……!?いい加減アイツも倒れやがれってんだ……!」非常の魂宿せど、生命である以上消耗避けられぬ巨獣に対して、傀儡は無尽蔵の活力にて冒涜を振りまく!

 

「除去除去除去除去除去除去ォーー……!」薊贖罪薊薊贖罪……!巨獣を包囲するように四方八方に繁茂する茨の大塊は、悍ましい形状の銛を成して、追い込まれた獣を照準する。「クソ……俺よりも、お前がそろそろヤバイな」ガボンガは傀儡の腹積もりとしもべの限界を悟り、脳内で冷静なシミュレーションをシナプス速度で弾いた。

 

 追い立てられている。周りを囲む茨に対して、傀儡は本体への真正面方向だけはガラ空きに、あからさまなコース誘導を仕向けている。自らの手で、力で、この獣を斃すことに固執している。周囲の茨に串刺されてそのまま死を迎えるか、茨から逃れ続けた先に待つ本体のカイシャクを受け入れるか。知性というものがあるのか皆目分からないが、この異形は、合理的なまでに明確な悪意をもってこの獣、そしてガボンガを仕留めんとしているのだ。(((――お誂え向きの道が用意されてんだ。走らねえでどうするよ!)))だがオヤブン不動!

 

「ルオオォ……!」「……お前チキンレースは初めてだよな」自らも死力尽きようという中、前方睨む巨獣の上でガボンガは不屈のアウトローたるを貫いた。「ケツに火付いてんだ、進むしかねえぞ。でもよ、俺はこんなとこでくたばる気なんざサラサラ無え。お前はどうだ!アァ?」「ルウゥゥゥ……!」「ハッハァー……!肯定と受け取っておくぜ!」

 

「AARGHHHHH……!」眼前の傀儡もまた、冒涜の力漲らせ、得物構えて沙汰を待っていた。獣達と傀儡が睨み合い、加速したニューロンの中で時間は泥めいて低速化した。実際にはコンマ数秒の膠着状態の中で、互いの繰り出すであろう手を幾筋ものコンボルートめいてシミュレートする。獣も傀儡も、これで決める算段なのだ。

 

「――ガボンガッ!」「オヤブンッ!」そうして両雄睨み合う最中、口火を切ったのは、遠くより地下の深み切り裂く悪鬼達の声援の叫び。「「「「ブッカマセー!」」」」一瞬の膠着に凝っていた死合の時が、再び動いた。

 

「――行け―ッ!」「ルオオオォォーーッ!」ガボンガの号令と共に、クレイジー・ビースト、唯我独尊の突撃!「AARGHHHHHH!」エリュシクトーンもまた茨を増殖!薊贖罪贖罪薊薊!真っ直ぐに突き進む巨獣を目掛けて、全方位より襲い掛かる冒涜のハープーン!ZOOM!KA-ZOOM!「ルオオオォォーーンッ!」巨獣はサイバネ増設されし機器から大火吹きながら、全てを出し尽くさんとひたすらに吶喊!茨掻い潜り元肉体へ終止符打たんと疾駆!疾駆!疾駆!

 

(((ハッハァー!澄んでるぜ――ア……?)))刹那、ガボンガは自身とビーストがスピードの向こうへ消える感覚を覚えた。加速する世界で見出せるという善悪を超えた揺るぎない境地、アウトローの伝説に謳われるそれか?鈍化する時の中でそう錯覚した彼の眼前には、実際、非現実的存在が――曖昧になった周囲の中、唯一色濃く光を放つ、鎧纏う人影が宙に佇んでいた。

 

(((……お前、コイツの中に居たのか?)))巨獣の内より出でたと思しき、謎めいたアブストラクトな鎧の輪郭は何も言わなかった。ただ、おそらく辟易としているのだろう顔を兜の奥に、彼方にて生と死繰り返す悪魔を見やり、やがてエリュシクトーンの方へ向き直ってオヤブンにサムズダウンした。やってしまえと言っているのだ。

 

「――AARGHHHHHHH!」電子コンマ01秒、眼前に迫る傀儡の呪詛の叫びがガボンガを現実へ引き戻した。「……よく分かんねえが、お前もクソに巻き込まれたクチってわけか」「ルオオォォーーッ!」先の魂の意思の有無などよそに、巨獣はただ咆え駆け「――気に入らねえな!」オヤブン一喝!「お前も一緒にヤんだよ!ムカついてんだろ!?」そうして遂に斧槍の射程距離圏内近く、彼は決死に構えた――理不尽を討つ為のカラテを!

 

「ルオオオォォーーッ!」かつての肉体へスタンピード特攻する獣はオーバートップギア!「ヒャッキ!」その背よりガボンガは高く跳躍、エリュシクトーンへ正面突撃する巨獣と同時にトップアタックを仕掛ける!「ラセツ!」

 

「AAARGHHHHHH……!」斧槍振りかぶり、超重量突撃を正面からとどめ刺さんとする茨怪異はガボンガの上方強襲を認めるも即座反撃に移れず――否、移らず!「除去ォォッ……!」傀儡より溢るるアザミナの冒涜エンハンスの光、それがクレイジー・ビーストにも移り……!「ル……オ……オォ……!」ナムサン!これでは先ほどの再現!ガボンガをフレンドリーファイアさせ、此度はアブハチトラズを得んとする算段か!「「オヤブンアブナイッ!」」

 

 だがコブンの悲哀空しく、巨獣はエリュシクトーン目掛けてアサルト落下してきた眼前のガボンガを「ルオーッ!」前脚撃で打ち飛ばした!「AARGHHHHH……」終わり。傀儡がその意図で嘲った瞬間、「イヤーッ!」水平カタパルト射出されたるケモノ首魁!その向かう先は当然――「AARGHHHHH!」――悪意の操り人形!

 

 先の被撃はその実、勝機の行動!再び巨獣が不条理なる力に苛まれるのを認めた刹那、我らがビッグヘッドはその打撃を自ら受けて足掛かりに加速跳躍!即席のセットプレーへと転じ、剥き出しの傀儡中枢屍体へ組み付き、獰猛なる跳躍掌打を叩き込んだ!

 

「テメエにゃ自分でキメるって意思が無え!魂が籠って無え!だからワンパターンなんだよ!」「AARGHHHHH……!」想像だにせぬ獣の一撃に怯む傀儡……そして今ほどの打撃は……ガボンガのヒサツ・ワザの起点であった!

 

「テンジョ!」「ルオオオォォーーッ!」オヤブンの号令めいたシャウトと共に、大饕獣はその脚止めることなく超質量をエリュシクトーンにぶつけ天井高く撥ね上げる!「AARGHHHHHッ!」「ウオォォーーッ!」茨振り乱す屍体と共に宙に飛ぶガボンガ!そのヨーカイヘンゲの身体は極限までパンプアップ……!「テンゲ!」すかさずヒサツシャウトと共に真上からカラテ打撃!「AARGHHHHHーーッ!」傀儡を地へ叩き落す――先にて二足立ちで待ち構えるは!「ルオオオォォオオッ!」アイトーン宿りし獣!

 

「ヒャッキ!」「ルオオオォォーーッ!」対空迎撃の掬い上げるようなビーストカラテ打撃が再度エリュシクトーンを打ち上げ――!(((あばよ。テメエの事は俺らが覚えといてやる)))「――ラセツ!」天より打ち砕く、ビッグヘッド・ガボンガのフィニッシュブロウが炸裂した!

 

テンジョ(天上)!」「テンゲ(天下)!」「ヒャッキ(百鬼)!」「ラセツ(羅刹)!」KRAAAAAAAASH!「AARGHHHHHHH……!」遂に訪れた永遠の憩い、コンクリートを破砕して地に落ちた傀儡は、もがくようにその屍を、蔦を振り動かすも、ついに萎び、朽ちていった。

 

 ゴウランガ……オヤブンゴウランガ……!かくしてアザミナの先兵、謂れ無き不条理と咎背負わされし最後の傀儡は、自由を尊び理不尽を憎む悪鬼に敗れ枯れ、永遠から解放された。因縁に決着付けし巨獣は満足したようにくずおれ、微睡んだ。……今はただ、コトダマに包まれてあれ……。

 

「ウオオォーーッ!」「俺達バッド・アス!」「「「「「ゴブリンライダーズッ!」」」」」「「「ビッグヘッド・イチバン!」」」頭目のイクサの終結目の当たりにした悪鬼達、そして読者諸氏は、キンボシへの歓喜をひと時叫んだ。……そして遂に、一連の悲劇に纏わる全ての因果の終わりを見届けるべく、しめやかに魔女達の決戦を見守った……!97.9%……97.9……97.9……97.9……98.0%……!

 

「――イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!……イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ」「グワーッ!」

 

 不快……不快……不快!不快不快不快不快不快不快不快不快不快!冒涜の悪魔――アザミナの胸中を満たすは、今やその二字のみだった。一向に刃向かい続ける二児共。不快。視界の後方、勝利の勝鬨上げる獣共。不快。その間近に枯れゆく傀儡の姿。虫共の露払いも出来なんだか。不快。最早自身を取り巻く全てが不快だった。

 

 自身の聖なる繁栄を盤石たらしむ生なる苗木――『森』を成していたサーバー群の大半は鉄屑と化し、1024まで確保できていた筈のバックアップも、その大半が無意味な01へ消えた。今や――信じられぬことに――残機残り僅か。……奪われている。絶頂が脅かされている。超越者たる自らが。他ならぬ定命の者共に……真のニンジャたるも知らぬ半端者共に!

 

「イヤーッ!」過剰再生に都度消耗するアザミナは、茨で打った。「グワーッ……イヤァーッ!」同じく消耗見えるディアベルスターはそれを受け、だが打ち返す。「グワーッ!」「イヤァーッ!」怯む隙へ、やはり憔悴隠せぬディアベルゼが飛び膝蹴り煌めかせた。「グワーッ!……イヤーッ!」冒涜者はまた返し、「ンアーッ……イヤァーッ!」魔女の子らもまた、「イヤァーッ!」退かずカラテ返す!「グワーッ!」

 

 追いすがるヨウマの稚児共……。愚かにも自らの宿した力の揺り戻しに、内より死につつある童共……何故折れぬ?何故死よりも恐ろしき苦しみに屈せぬ?諦めぬ?何故未だ立つ?未だ力湧かせられる?……何故斯様な者共に……我が苛まれる?

 

 奴ばらなど所詮紛い者に過ぎぬ……!我こそニンジャ!絶対強者たる簒奪者!奪われるなど!まして死など!「イヤァーッ!」「グワーッ!」……死など!「イヤァーッ!」「グワーッ!」……死など……!「イヤァーッ!」「グワーッ!」……死……な……ど……!「イヤァーッ!」「グワーッ!」死……!死……!

 

「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」「イヤァーッ!」「グワーッ!」

 

「「……イヤァーッ!」」「グワーッ!」……死……死『――死せど死せど!死せど死せど!死せど死せど!死せど死』(((――お前死ぬ為に生まれてきたんだよ)))「――AAAARGHHHHHHHHHH-------------ッ!」

 

 認められるはずもない現実に狂叫し、時が凝る中、ニューロンに声が混線した。渇いた世界で、弱者の生を否定し啜る、嘲りの声が。(((――ニンジャとは徒花のようなものです)))それに続き茨の中枢、その根元から呼び起こされた新たな声は、この世の何よりも慈しみに満ちていた。

 

(((ヨウマ――否……アレが目覚めるなど……)))そこから連鎖するように脳裏をよぎるは――大河流れる砂漠……豊穣の緑地……師の座すドージョー……それらを風塵へと滅ぼす原初の嵐……!圧倒的個……!不可抗力の破壊……!――全て自らの、原初の風景。

 

(((――何だ今のは)))電子アト秒、幾千年もの冒涜に穢し尽くした茨のニューロンは、ソーマトめいた始まりの過去を幻視していた。……過去?顧みるものなどあろうか。感傷などあろうものか――だが事実。只今の脳裏に、シナプスの集積回路が在りし日の記憶を描いたのは、否定しようのない事実であった。時に追憶とは、危機に及んだ状況の打開を図るが為に過去を呼び起こす生命の機能、それすなわち――。(((――私はここで滅ぶのか?)))

 

 伽藍堂の地下の暗がりは、不意に終わりを暗示する果てしない闇に感じられた。終わり――見苦しく足掻き続ける童共……否、自ら……の……?廻る罪は報いとなって、過去が今、因果を収穫に来た――否!否!否否否……!超越者に死などあるものか……!これが終わりなはずがあろうか……!漸くの始まりに過ぎぬ……!私が――我が輝ける生の道を歩むは今……!今より……!

 

「……虫と同じ所まで……落とされる気分はどうだ……」「貴女……本当なら何回死んでるのかしらね……?」最後に残された基幹サーバーの真上に苦し紛れに転移したアザミナへ、魔女達は無慈悲に問うた。「……世迷い事を……!我……聖アザミナ……!無欠なる薊……!死など……死など……!」「それが本当か……次で分からせてやる……」「次で128回目……貴女はどうなるのかしら……?」偽りの生命の樹に、果実はもう生らない。……残機ゼロ。

 

 だが慈悲無き言に反して、断罪刻みし復讐者達もまた虫の息だった。攻手構えど足取り重く、やっとの思いで息つく肩が上下し、666ターン目の決闘者めいて不動だった。……自明也……!復讐など……意志のみで生きられるならば定命の苦悩無し……!……ここで根絶やす……!

 

 神聖なる千年の悲願は……彼岸の彼方へ潰えたはずのいつかの望みは、直ぐ間近なのだ!全ては今……!今の為……!顧みるもの無き過去など捨てよ!幾星霜より依然変わり無く!死に体が2匹、何するものぞ!

 

「――イィィィィィ……」蕾の開花の逆再生めいて、冒涜者はその身と茨を捩じり凝縮させた。「「――ッ!」」薊贖罪薊薊贖罪薊贖罪薊……!身構える魔女達の背後より、逆巻く気流が、施設中の茨が、罪禍の薊の下へと収束していく。

 

 アザミナは原初に立ち返っていた。拘泥など要らぬ。傀儡など要らぬ。自ら以外は全て切り捨てよ!この身で放てる限りの冒涜を!終局のヒサツ・ワザを!「……イイイイイヤアアアアAAARGHHHHHHHHーーーッ!」解き放つ!薊贖罪薊薊贖罪贖罪薊贖罪贖罪薊!

 

「「……!」」理外の力渦巻く奔流に、ふたりは抗い――押し流された。「ンアアァーーーッ!」「グワアアァーーーッ!」放たれた終末の茨螺旋撃に、純粋な破壊の力へ転用された薊の冒涜に、魔女達は宙に巻き上げられ、罪の坩堝の中へ呑まれていった。

 

 ZGTOOOOOOM!冒涜者より立ち昇る茨の渦!大気巻き込む螺旋流は堅牢な施設天井をも貫き空穿つ!それは周囲全てを巻き込み拒絶し!破壊せしめんとする茨のスーパーセル……否!最早ブラック・ホールめいた盤面全破壊、さながら冒涜のフージン・ジツ!それは奇しくも冒涜者を冒涜者たらしめた在りし日の追憶――かつての師に砂漠の血染みと消える最期を齎した、王の嵐の似姿だった。

 

「「「「「グワーッ!」」」」」既に更地同然と化した地下空間、遠方よりイクサの行く末見守りし悪鬼達も、破滅の渦の起こりに吹き飛ばされた。勝鬨の音響放ち続けていた機器は異常な大気圧に損傷し沈黙、福音めいていた反逆の唄は、この世ならざるノイズに呑み込まれ消えていく……!

 

 死せど死せど……!死せど死……せど……死……せど……死――。

 

「イイイイヤアアアアアアアAARGHHHHHHHーーーッ!」アザミナは依然茨放ち続ける!薊薊贖罪薊贖罪贖罪薊贖罪薊薊贖罪薊!決して終わらぬ!虫共を磨り潰し塵と消えるまで!周囲の全てが滅ぶまで!

 

 おお……ゴウランガ……悍ましくも……!何たる恐ろしくもこれに至るまでの研鑽に畏敬すら覚えるジツ・カラテの極致――古代より紡がれしリアルニンジャのワザマエか!やはり世の摂理とはかくも無慈悲……!尋常ならざる力には、不条理には屈するほか無いと言うのか……!?

 

「――だから何だッ!」「今更……これくらいでッ!」復讐者は折れぬ!果たして破局の嵐の只中でなお、魔女達は不撓!妖光と勝機に燃ゆるその眼が見据えるはただ一つ――あまねく罪の源たる冒涜者!然り!明らかなる好機にして勝機也!悪魔の放った決死攻勢、これは確かに破滅齎す業前なれど規模ばかり!明らかに精彩欠きし逃げの一手!

 

「「イヤアアアァァーーーッ!」」贖罪へと!断罪へと!罪の終わりへと!廻る罪宝の禍へ終止符打たんとする白と黒は、罪禍の大渦の只中にて駆け飛ぶ!今こそ不退転のエゴを貫け!魔女達よ!

 

 98.9%……98.9……98.9……98.9……99.0%……!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――フゥン」遥か僻遠の地、暗黒の神殿の一室で、神代より蘇りしオヒガン神官は、レタスしがむ手を止め、極微細なエテルの揺らぎ――世界の彼方にて狂い咲く冒涜の茨の残滓を眼で追った。その黒々とした宝玉めいた人外的美肢体には、ヒトならざるジャッカルの頭があった。古代壁画から抜け出てきたような容姿は、それすなわち彼こそがその原形たる証明。

 

「……これはロウ・ワン――否、ウジャトの秘儀……だが歪んでいる」述懐的機微を含んだ呟きは、誰に聞かれることもなく大気へ溶けゆく。「よもやあの折の……いずれ来たる定め、我が狩りの儀式を苛む(つつが)となるか、それとも……」遠大なる権謀巡らす王たる魔術師は、コトダマの無限地平、茨の狂嵐渦巻く天に黄金輝く01の荒野を幻視すると、杯に注がれた水銀色の髄液を呷り、やがて虚空へ呼びかけた。

 

「名知らぬ者。汝、ウジャトを継ぐ者よ。我が帝国支配の(ロード)進むるは今にあらず。叶うならば、いずれ星辰巡りしその時まで、生き延びるがよい」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 薊薊贖罪薊贖罪贖罪薊薊!深淵が如き闇の中、ブレーザーと見紛う程の天を貫く垂直螺旋狂風!その周囲、爆ぜる瓦礫と棘蔦が衛星デブリめいて舞う様は冒涜の渦巻銀河の如し!正に生者必滅の業也!だが、その茨荒れ狂う最中でイン・ヤンめいた軌跡描き超速周回機動するはふたつの生――白黒の双子星!「「イイィィィィ……!」」その太極軌道はシンクロトロンめいて次第に加速しスパイラル収束……中心の暗黒領域にて茨解き放つ邪悪目掛け!

 

「イィィィィィィィヤアアアアアAAAAARGHHHHHHHHHHHHーーーッ!!!」アザミナは遂に、サーバー防護に回していた茨すらも全て力に還元し、冒涜を極限まで放った!薊贖罪贖罪薊贖罪薊贖罪薊薊!茨渦の方々でアザミナが芽吹きて襲い来る!腋芽めいた実体群は意思無き分け身、されど本体の意志のままに全てを涜さんと蠢く!

 

「「イイイイィィィィィィ……イイイヤアアアァァァーーーーーーーーッ!」」薊の暴威更に増そうとも、果たして白黒魔女は怯まず退かず!オヒガンの怨嗟を!01の怒りを!身に溢れるソウルを推力に燃やし続け!螺旋の中で逆巻く反逆の白黒風となって茨を断ち!燃やし!抗い進む!言うまでもなく既に限界、ラストターン!次に繰り出す一撃がふたりの最終撃となろう!その次など無い!故に必ず決める!

 

「「「「「トドメヲサセェーーーッ!」」」」」悪鬼共が起死回生の呼び声、渦巻の彼方を貫く!謂れなき罪の路を歩んできた全ての魂が共に叫ぶ!やってしまえ!終わらせよ!

 

 99.5%……99.6……99.7……99.8……99.9%……!

 

 遂に罪禍の渦を抜けて冒涜の中心!その真中の基幹サーバーの直上にて座す冒涜者を捉え!対極より来たりし双星は合一し――!

 

「「イイイイイイイイヤアアアアアアァァァァーーーーーーーーーッ!」」

 

――邪悪を貫き交錯!

 

 今こそ罪を断て!ディアベルの子らよ!

 

「グワアアアアアアAAARGHHHHHHHHHHHHーーーーーーーッ……!」

 

 パワリオワAAAARGHHHHHHHHHHHHH!

 

 遂に冒涜UNIXの演算が終わったその刹那、茨の中枢にて核なす聖なる薊花――半ば物理実体得たレリックと化していた冒涜者のジツの精髄は、白魔女の吶喊に貫かれ、黒魔女の握り潰す凶爪の中、01に砕け散った。

 

 極烈風が凪ぎ、超自然LANケーブル群が朽滅し、邪悪の進捗100%達成通知音が森を満たす只中で、茨の躯体は魔女達のフィニッシャーに割れ爆ぜ、萎び枯れた。演算終了を報せる冒涜的UNIX電子ファンファーレは、終末を告げる喇叭は、ただ鳴り響くだけだった。

 

「……」「……」気付けば地面に未だ燻る白黒のバーンナウト痕描き、ふたりは物言わず静止していた。ザンシンなどではなく、死力尽くした果ての、否応なき沈黙だった。……静寂

が広大無辺の地下に満ちる。

 

「――ヤッタ……」そうして不意に訪れた静けさをやがて割ったのは、ゴブリンの誰かの、確かめるような呟きだった。「ヤッタ……?」「ヤッタ……!?」「ヤッタのか……!?」「ヤッタ……!」「ヤッタんだッ!」大団円を祝うように、誇り高き悪党達は魔女達の下へ駆け寄った。

 

「ヤッター!」「キンボシ・オオキイだッ!」「イピピピピピピーーッ!」「バンザーイ……!」「ウゥ……」死闘の果ての勝利分かち合う悪鬼達に囲まれる中、ディアベルスターは異形と化した肉体で膝ついたまま、意識手放すまいと努めた。人智超えし力の反動が、今にも彼女をどこか遠くへ誘おうとしていた。(((まだダメだ……ダメなんだ……耐えろ私……まだリゼットに――)))リゼット……リゼット。愛する姉の様子は――?

 

「――ア……アァ……!」

 

――その異様に、最初に異変に気付いたのは、他ならぬリゼットだった。

 

「エッ?」「どうした白魔女ォー……今だけはお前らが主役だぜェ――」「違う……!」光消えゆく身体を打ち震わせ、彼女は絞り出すように叫んだ。「捨てたのよ……!もう邪魔になったから……!もう用済みだから……!『アレ』は自分から出ていった……!」震える手で指差す先、遺された基幹サーバーの麓に転がる朽ちた異形――ディアベル=センセイの躯。

 

「……オイ、さっきのアイツ、ニンジャだったんだよな……?」次に白魔女の言葉の意味を理解したのはガボンガだった。「もうアイツは復活できねえハズだったんだろ……?さっきのがトドメだったんだろ……?なら……ナンデ死体が残ってんだ……!?」悪魔宿っていたディアベルの亡骸は萎び枯れた――萎び枯れた。凄まじきソウルの業背負わされしはずの身が死して……爆発四散していない。

 

 然り……!『アレ』は自らを……!自らの肉体であったものを……!自ら捨てたのだ……!……尤も、異変がこれだけで済めば、果たしてどれほど良かっただろうか……!

 

「――オイオイオイ……もう夜なのか……!?だがアレは……!」見上げるガボンガの視線の先、痛々しく大破崩落し、地表まで大穴に貫かれた地下施設天井から覗くは、地上の星々の光。だが、既に夜であるはずの景色は、天上から差す真昼間の如き光に貫かれ、煌々とした帯となって地下だった空間を照らす。大穴より光差す道の根源に幻視……否、実目視するは――黄金の立方体。「アイエッ……オヤブンにも見えてて……!?」「……幻覚じゃねぇんですかい……!?」ブーンとクラッタもまた、天の異光を認識していた。この世ならざる光投げ掛ける大遺物は、遥か無限の果てにも、はたまた手の届く至近に浮かんでいるようにも思えた。

 

 そして怪異は天上のみにあらず。気付けば光差す周囲はその様相を大きく変え、更地となった旧世紀サーバー施設跡地は、白黒の色彩の、半透明の妖しき木々が生い茂る森と化していた。「ゲ……!何よコレッ!?」「俺らは夢でも見てンのかァー……!?」訝しむダグとミアンダが、ホログラムめいて透過している白木に触れた。触れた!(さわ)れた!高密度トラフィックの集合体めいた、仮想のはずの立体に、触感があった……!フィール……!

 

 だが夢にあらず!ただ現にあらず!夢にして現なり!オヒガンの神秘領域が!01のコトダマ電脳空間が!そして現実が!位相異なる多世界のレイヤーが重なり!物理世界に顕現す!

 

「――ああ……嗚呼……」

 

――そうして混沌に満ちる地上を平定するが如く、破滅の終わりは天より現れた。

 

「待ち侘びし我が千年が今再び……遂にこの手に……!」

 

 それは聖人画――否、さらに古き時代の、壁画の神々めいて、薊あしらう輝白金の装束身に纏いて降臨した。

 

「アレは……!さっきのアイツなのか……!?だがあの姿――オイ、ミアンダ……?」「ア……アァ……!」現れた『ソレ』に、周囲の異様なる光景統べるかのように降誕せし存在に、ガボンガが狼狽隠せぬのに対し、悪鬼達はただ縋るような声を漏らして座り込んでいた。「オ、オイ黒魔女……!何なんだアレは……!」彼の不敵なる宿敵――黒魔女もまた、畏れを眼に浮かべて睥睨していた。「……センセイはアレを恐れていたんだ……!」

 

『――『悪魔』。それは人を誑かし、その魂を抜き捨て従順な道具へと変える、この世の厄災そのものにして逃れられぬ不条理』

 

 地より見上げるディアベルスターの、リゼットの、ゴブリン達の眼に映る『ソレ』は、だが果たして、『悪魔』と言う概念ではとても名状できぬ畏怖と――崇高なるものへの感情を否応にも引き出す威光を放つ存在であった。双角なす黄金の茨戴冠するその姿は……!無限遠の金の墓標より降り注ぐ光を背に、幻想の魔瞳を後光に背負うその様は……!

 

「ア……アァ……アステーリャ……こんなの……アァ……」

 

 その御姿――おお……おお……!何たる美しく恐ろしき……!何たる悍ましく貴き……!ああ……嗚呼……!何たる神々しき――!

 

「ドーモ――」

 

――贖罪(アザ)神女(ミナ)

 

「――アザミ・ニンジャです」

 

「ディアベルスター・ヴェンジェンス」終わり

最終話に続く

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

◇贖◇

 

罪宝ニンジャ名鑑#XXXXXX【アザミナ】

 

かつての『白き森』の惨劇そして過去から今なお巡る薊薊『罪宝』の禍の根源たる贖罪神女悪魔にしてアザミ・ニンジャ贖罪神女魂抜き出し贖罪肉体を隷属させる我が業こそ贖罪神女原罪を薊薊生死を贖罪超克した薊贖罪永遠の栄の在り方贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊薊贖罪神女薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊贖罪神女薊薊贖罪神女薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊薊贖罪神女薊贖罪神女薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊◆罪◆贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女薊贖罪神女贖罪薊贖罪神女薊贖罪神女贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女薊




薊贖罪神女薊贖罪神女贖え崇め薊薊贖罪神女贖罪神聖なる邪悪を薊薊贖罪神女薊薊贖罪神女薊贖罪神女贖罪神女薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女贖罪神女薊薊贖罪神女贖罪神女薊薊恨み抗え薊贖罪神女贖罪神女薊贖罪神女薊薊邪なる神聖に贖罪神女薊贖罪神女薊薊
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