忍殺×遊☆戯☆王 ディアベルスター・ザ・ブラックウィッチ   作:亜面瞳頭

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テイルズ・オブ・ザ・ホワイトフォレスト

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 かつて、世界は紀元二千年を境に一変した。急速な発展の代償に、化石資源の枯渇よりも先にIP枯渇危機とY2Kが起こり、それに伴う暗黒メガコーポ主導の電子戦争が全てを狂わせた。重金属酸性雨、海洋汚染、EMPパルス、そして磁気嵐……。欲深い企業間の醜い争いの果て、論理・物理両面の破綻は世界を不可逆の混沌――マッポーの時代へと至らせた。

 

 この動乱の世紀末で世界が失ったものはあまりにも大きく、そして多い。旧世紀のプログラムやハードウェアに関する知識もその一つ。現在使われているUNIXの多くは、その大半が動作原理・構造不明のブラックボックスめいた過去の遺物。それらを根幹から扱える人々はコードロジストと呼ばれる。

 

 旧時代のプログラミング技術を知る彼らはその能力から、時にウィッチという蔑称で、畏敬あるいは異端の眼に晒されてきた。ハッカーが常人を凌駕するタイピング速度によってIRC空間での戦闘に長ける戦士であるのなら、コードロジストはハッキングで絶大な力を発揮するウィルスプログラム作製に長けた武器鍛冶に例えられる。この歪んだ科学社会、過去を知る者が少ない旧世界の遺物を扱えるというのは、それだけで伝承の魔女めいた扱いをされても不思議ではない。

 

 そうした背景から、コードロジストは人々からの排斥や暗黒メガコーポからの搾取を恐れ、ロービットマイン――UNIXハードウェアが不法投棄された電子の地下墓所――や旧企業のデータセンター、旧軍の対情報戦バンカーといった場所で密かに暮らすことが多い。個々の集団はカバルと呼ばれ、カバル間で秘密裏に連絡を取り合うことはあっても、外部と触れ合う事は皆無と言っていい。磁気嵐が晴れ、再び世界が繋がり始めた今も、多くのコードロジストにとっては自分達の暮らす場所こそが世界の全て。

 

――私にとっても、全てだった。

 

 

テイルズ・オブ・ザ・ホワイトフォレスト

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――ウェェェェェン……!」10年の昔……またあの頃を夢に見ている。思えばいつも泣いていた。「今度はどうしたの、アステーリャ?」「またサーバーにオバケでもいた?」「リゼが本破ったの……!アステーリャの本破ったの……!ひどいの……!」「マ?」「本当なの、リゼット?」「リゼ分かんなーい。知ーらなーい」私には姉さんが3人いた――年の離れたシルヴィルシア、そして同い年のリゼット。双子の姉のような彼女は嘘つきで、よく喧嘩をした。

 

「……騒がしい」「アッ、センセイ!」家族はもうひとり――ディアベル=センセイ。捨て子だった私達のコードロジストとしての師匠にして――母親代わりのひと。

 

「……インストラクションの時間だ」「ハーイ……」「……ただし――」「……?」「――私のラジオ・グリモア(注:旧世紀ラジオ雑誌。コードロジストがコーディングを覚えるための魔導書めいた品)を破った子には、その前に仕置きが必要かな」「エッ!?リゼ知らなーい!」「……前に教えただろう。『センセイは全てを見ている』と」「……だってアステーリャが遊んでくれないんだもん……!」「ウェェェェェン……!」「フェェェェェン……!」「……騒がしいのが増えた」

 

 私達のカバルは旧時代のメガコーポが遺したバンカーにあった。小さい町と思えるほど広く仄暗い地下に、白いサーバーやUNIX増設機器が立ち並ぶ空間。外ではここを『白き森』と呼んでいたらしい。時々外部から旧世紀の遺産を目当てにスカベンジャーやハック&スラッシュのヨタモノが来ても、外との関りを良しとしないセンセイや姉さん達が彼らを追い払っていた。コードロジストへの迷信めいた偏見を含んだ不理解も手伝って、いつしか『白き森にはいるべからず』『白き森には魔女がいる』といった話が流布されるようになった。

 

 思えばセンセイは確かに魔女だった。常にどこか超然としていて、その雰囲気と姿に、人間離れした様子に――実際只の人間ではなかった――子ども心に恐ろしさも感じていた。秘密主義の多いコードロジストの中でも特に他者との関りが希薄で、私にとっての世界はセンセイのカバルだけが全てだった。それでもここには、温かみと優しさが確かにあった。私にはそれで十分なはずだった。十分であるべきだった。

 

「――『悪魔』。それは人を誑かし、その魂を抜き捨て従順な道具へと変える、この世の厄災そのものにして逃れられぬ不条理」

 

 センセイはことある毎に、この警句めいた言葉を私達に説いた。UNIXと無縁な神秘主義者のような語りを、私もリゼットもいつも不思議に思っていた。この言葉を口にするセンセイの眼はいつも真剣そのもので、決まってその後に何かを後悔するような、愁いに満ちた眼をしていた。

 

「センセイ、それって結局どういう意味ー?『ランサムウェアには実際気を付けましょう』?リゼ分かんなーい」「……真実を話すにはお前達はまだ幼すぎる。……だが来たる日までこれを忘れず、私と姉弟子達の――」「センセイ、そういえばさっき奥でこんなフロッピー拾ったの!持ってた人の名前かな?『ベルーカ・スケ――」「こちらに渡しなさい。すぐに」

 

 リゼットは物怖じしない性格だった。いつもバンカーの手つかずの区域まで行っては、先人が遺したのだろうパンチカードやメモリを片手に、嬉しそうな顔で戦利品を披露していた。彼女からすれば、いつまでも変わり映えのしない地下の暮らしの中で、少しでも刺激が欲しかったのだろう。

 

「アステーリャ、また天井見てる!そんなところ見ても何もないでしょ!」「……星ってどんなのかな……」「リゼつまんなーい」私と言えば彼女とは真反対で、いつも茫漠と上を見つめていた。物心ついた時には、この奇妙な家族と共にいた。そのため私は外の世界を知らず、また外に出ることも許されていなかったため、まだ見ぬ空へ漠然とした憧れがあった。

 

「でも今日はアステーリャもリゼと一緒に来るの!2人だともっとタノシイだから!」「引っ張らないでよぉ……」こんな私を疎ましく思うどころか――いっそ疎ましく思ってくれていた方が、どれ程良かったか――リゼットはいつも探索に私を誘って来た。傲慢なことに、後から思えば、この平穏の日々に私もどこか退屈を感じていた。そうして私はこの日、彼女に誘われるままに加担してしまった――全てのの始まりに。

 

「――ねぇ、そろそろ帰ろうよ……こんな遠くまで行って、センセイに怒られるよ……」「アハ!『センセイは全てを見ている』って?監視カメラでも使ってると思う?アハハハ!」嗚呼、私は何度この場面を見るのだろう。「……センセイは私を、姉さん達を、アステーリャを拾って育ててくれた。私はそれに応えたい。何かセンセイのためになるものを見つけて、センセイが喜ぶ顔を見たいの」

 

 リゼットは良くも悪くも内面の上下が激しい。それは自らの決めたエゴを貫くために、敢然と向かえる強さでもあった。だがこの時に、私はこの強気な姉弟子を引き倒してでも、引きずってでも3人のもとに戻るべきだったのだ。そうすれば……何もかも起きずに済んだのに。

 

「この間のフロッピーはセンセイ驚いてたけど嬉しい顔じゃなかったし――ア……」私達以外の生者が存在しない地下バンカーの最奥に、それはあった。サーバー機器が遺跡の環状列石のように置かれた、真白い綿埃が雪のように積もる開けた空間。その中心に、天井やサーバーから伸びる幾つものLANケーブルが、蔦のように絡み合っていた。薄暗い周囲とは対なすように、UNIXライトに照らされた蔦の収束する先には、果実が成るように――いつ見ても美しく悍ましい――真赤な色のフラッシュメモリがひとつ。

 

「……アステーリャ」「……リゼット」「「これ……」」((きっといいものにちがいない))「エ?」「ア……」「……ワカル!こんなにきれいなんだもん!」「……?う……うん!」「色も赤いしカワイイヤッター!センセイもこれならきっと喜ぶ!」どこかから聞こえた囁きを、破滅を齎す『罪宝』の悪魔の囁きを、私達は互いの言葉だと思い込んでしまった。

 

「早く戻ろ!今日はアステーリャもリゼと一緒にセンセイに渡すんだからね!」「ア、待ってよ……!」待て、リゼット。待ってくれ。行くな!それを戻してくれ!止めろ!止めてくれ私!ここが引き返せる最後の機会だったのに……私はこうしてあの日の後悔を、いつまでも目に焼き付けている。

 

「……随分遠くまで行っていたようだ」「エッ!?……エヘ!でもセンセイ、スゴイの拾ったの!」「今度は何を見つけたの?」「お姉ちゃん達にも見せてよ」「シルヴィとルシアには内緒!これはセンセイにあげるんだから!」やめろ、リゼット。やめろ!

 

「ハイコレ!リゼとアステーリャの2人で見つけたの!」「う……うん!センセイ、いつもありがとう……!」「……お前もついていくとは珍しいじゃないか。どれ、見せてもらおうか――」

「――?」「――センセイ?」「――ッ!」ああ、よせ、もう見たくない!もう醒めてくれ!嫌だ!お願いだ!皆すぐにそこから――!

 

「――逃げろ!」「エッ!?」「センセイ、どうしたんですか急に――」

 

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「ウ……ウゥ……!アァ……!」「……!?……あ、あぁッ!シ、シルヴィ!」「分かってるッ!」深紅のメモリ――悪魔がその身宿す『罪宝』は、ディアベル=センセイの手に渡った瞬間、その本性を表した。「「イヤーッ!」」黒く変色していくサーバーと呪いの遺物から生える、黒々として棘に塗れたLANケーブル――茨がセンセイの五体を覆うのと、姉弟子2人がその姿を変えてセンセイに殺到したのは、殆ど同時だった。でも、もう手遅れ。

 

((イヤーッ!))「「ンアーッ!」」センセイを覆い尽くした茨は、次にシルヴィとルシアを呑み込んだ。「アァ……!リゼット……!嫌だ……!アァァァ……!」「アステーリャ……!早く逃げて……ア……アァァ!」謂われない罪が、呪いが、2人を縛り、痛みと共に苛んでいく。……救えなかった後悔の景色。

 

 

((……礼を言うぞ無知蒙昧なるモータルよ……千年の深みより……我今こそ蘇らん……!))「ア……アァ……」私とリゼットは――もがく姉達を、ただ見ていることしか出来なかった。助けようともせず、逃げ出そうともせず、ただ無力だった。

 

((……成程。そこの小娘共は既に成っているか。せいぜい利用させてもらうぞ。無論、この愚かな我が高弟の肉体もな))

 

 やめろ。やめろ!もう嫌だ!どうして今日はまだ醒めない!どうして――!これが私の罪の、絶望の始まる瞬間。闇に染まっていく森の中で、悪魔は嘲笑しながら、悪意以外の何も込められていないような動作でセンセイの身体に、そのメモリを深々と突き刺した。

 

贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪

 

……あ……ざ……アザ……(アザミ)……ア……ザ……ミナ……贖罪(アザ)……()……()……

 

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贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪

 

「「アァァァァァァァァァァァーーーッ!ウァァァァァァァーーーーッ!」」耳を塞いでも、目を閉じても、姉達の悲鳴を、悲惨な光景を、そして心と脳裏に焼き付く悍ましい感覚を、忘れることは出来なかった。

 

「痛い……!痛いよぉ……!助けて……アァァァ……!」「やだ……!死にたくない……死にたく……ウァァァァ……!」周囲の機器が煙を吐き、倒壊していく中、施設中に張り巡らされた茨がセンセイだった身体に向かって収束していくのを、姉2人が罪の茨に蝕まれていくのを、私は相変わらず見ている事しか出来なかった。

 

「フェェェェェェェェェ……!フェェェェェェェェェン……!」リゼットは泣いていた。どうすることも出来ない不条理を前にして、ごく自然な反応だった。その隣の私は――渇いていた。

 

「……ア……アァ……ア、アー……」やがてセンセイを覆っていた茨が花開くと、悪魔はその麗しく忌々しい貌で「……フォホホホホホホ!」無力な贄を嘲笑った。「久方振りの……念願の我が身!快なる哉!」やめろ……その姿で……その身体で……そんな顔をするな。私達のセンセイを――母を返してくれ。

 

「ドーモ――否、貴様らの如き定命者に我が名を告げる価値無し。元より今をもって永遠を、我が手足となりて苛まれる道具如きに、何を名乗る必要があろうか、のう?」

 

「ア……ァァ……ァ……」「アァ……もう痛くない……痛くな……」悪魔が見やった先、縛り付けられたシルヴィとルシアは、ついに何も喋らなくなった。糸の切れた人形のように、ついに動かなくなった。「小娘共のソウルはこれで戻れぬ。童蒙共よ。つまらぬ生を、せいぜい我がために使うがいい。罪に怯え仕えるがいい」

 

 次は私とリゼットの番。「フェェェェェェェェェ……!」蔦に巻かれて泣き叫ぶ姉の隣、私の身体にも絡みつく茨が鋭く突き刺さる。いつもであれば泣き喚いていただろう私の内には、ただ人間的死の実感と――怒りがあった。絶望はしていた。後悔もしていた。だが何よりも先に、一瞬で全てを奪った理不尽への、そんな理不尽に何も出来ない無力な自分への――怒りがあった。

 

「シルヴィ……!ルシア……!アステーリャ……!……ディアベル=センセイ!痛いよぉ……!怖いよぉ……!」「フォホホホホホホホホホホ!」「……ナンデ」ナンデ。何で私達はここにいる?何でこんな目に遭っている?ナンデ――。((――お前達に非は無い))

 

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「――グワーッ!?」悪魔が怯み苦しむ中で、時は凝り、私の周囲の全ては鈍化していった。世界が私を残してどこかに行ってしまったような――いや、私が世界を01で切り離していた。ここにいるのは私と――センセイだけだ。

 

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 気付けば黒々としていたサーバールームは、真白い木々が聳える森に変わり、頭上を覆う枝葉の先の天井に――果ては無かった。初めて見上げた空に浮かぶのは、黄金に輝く真四角の月。「……ゴキゲンヨ。そしてオハヨ――」「ディアベル=センセイ――」「――ヨウマ・ニンジャです」

 

「……ここは現実ではない。実在するが、まともに知覚は出来ない場所だ」「天国……?」「……その認識も間違いではない。だが、詳しく説明している程の暇も無い」「わたしは死んじゃったの……?姉さん達も……リゼットも……?」「……お前とリゼットはまだ引き返せる……だがあの子の肉体までは守り切れなかった……全て私の責任だ」

 

 違うんだ、センセイ。こうなったのは私が弱かったからだ。リゼットを引き留められるだけの心が、強さがなかったからだ。

 

「……古くからここに封じていたアレが、いつか目覚めることを私は予見していた。シルヴィとルシアには来たる日のために力を付けさせて……いずれはお前達にも伝えるつもりで……間に合わなかった。アレの――師の力を見誤った私の責任だ」

 

 違う。私の所為。満ち足りた平穏に満足せず、退屈を厭った私が身の程知らずだったから起きたこと。

 

「……本当の私としての、最初で最後のインストラクションだ。生き延びろ。私の一部をお前とリゼットに渡す。今から私はお前達で、お前達は私だ」「……もうずっと、サヨナラ?」「……駄目なセンセイを許してくれ。私に代わって贖罪を――娘達の屈辱を晴らしてくれ。そしていつか私を――師を止めてくれ」

 

 それがディアベル=センセイの最後の言葉だった。儚くも温かな、包み込むような優しい微笑みを残して、センセイは私と共に01の世界から消えていった。木々が、地面が、空が、01に分解して消失していく中で、宙に輝く立方体だけが残った空間の中で、私の中の何かが形を変え、それと同時にセンセイが宿るのを感じた。

 

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「――おのれ!忌々しき不肖よ!ソウルのみとなってなお歯向かうか!」凝っていた時間が戻り、私の目の前に再び現実が現れた。センセイの身体で苦しむ悪魔を尻目に、このときの私は、茨に取り囲まれた自分を、不思議なほど客観視出来ていた。

 

「何故だ!何故モータルの童如きのソウル、未だ奪えんのだ!ヨウマよ!土壇場でそこな童に宿ったか!?いじましき努力――グワーッ!?」温かな力が、確かに流れている。私の中に、センセイがいる。応えてくれなくとも、確かにいる。だが私を私たらしめている何かも、確実に変化しているのを感じていた。

 

「ありえん!この肉体に貴様のソウルの本質が残置しているのを感じるぞ!童に渡ったのは力の欠片!半端者のモータル如きのソウルでは所詮何も――グワーッ!……まさか童のソウルをも書き換えたか!メンキョも無しに定命の者を我らの次元へ押し上げるとはなんたる無法!」

 

 ……ああ、そうだ。この瞬間、私はアステーリャであることをやめたんだ。理不尽と弱さを憎んで、罪を償うことを決めたんだ。成ると誓ったんだ。悪魔へ復讐するために、呪いに抗い耐え忍ぶ――ニンジャに。

 

「ええい!この身をモノにするのが先か!……童よ!忌々しくも貴様も我が同門となった!その身、我が手に堕ちるその日まで!せいぜい抗うがいい!フォホホホホホホ!」

 

 悪魔が、こと切れた2人の姉と放心するリゼットを茨で引き連れて、バンカーの奥、地下の深みに消えていくのを、私は静かに見送った。恐怖で竦んでいたわけではなかった。力を得ても、この時の身体ではアレに挑むにはまだ無力、その自覚があった。

 

『――『悪魔』。それは人を誑かし、その魂を抜き捨て従順な道具へと変える、この世の厄災そのものにして逃れられぬ不条理』

 

 センセイの言葉通りだ。アレはこの世の厄災にして不条理。人を人たらしめる何かを奪って、ゴミのように捨てる悪魔。「……シルヴィ?……ルシア?」姉達の身体が転がっていた場所に遺された、見慣れないフラッシュドライブ――『罪宝』が私には2人の本質だという確信があった。

 

 これがあの怪物のやり方。何もかもを恣に辱め、自らの独善のためにならないものは全て踏みにじる簒奪者。……ああ、そうだ。この時決めたんだ。私も同じように成ってやる。奪われた全てを、また奪うために。

 

 やがて私は2人と一緒に『森』を出た。小高い丘に隠されていたカバルの外、月の隠れた夜空には、私が恋焦がれていた星が、確かに瞬いていた。夜風に頬を撫でられながら、麓の街の光を呑み込むような空の輝きに包まれて、私は世界の外に出た。

 

 

「テイルズ・オブ・ザ・ホワイトフォレスト」終わり

「アザミナ・オフェイレーテス」に続く

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ライク・ザ・ディアベル」

 

「――ゲェェェーーーッ!」少女が暫し地上の夜光を見上げていたとき、頓狂な叫びが夜闇を切り裂いた。「……!」幼きウィッチが右を向いた先、携帯LEDボンボリを掲げた、LANケーブルめいた襟足が特徴的な、ゴリン・ボンズ・ヘアの男がそこにいた。

 

「……ア?ア、悪い、オバケかと。夜分にいきなりで驚いちまった。嬢ちゃん、今そこから出てきたのか」「……」「そこデータセンターだよな、昔のテック企業の。中、どうなってる?」「……」「……ア、いやいや、流石に横取りしようってわけじゃねえさ。見たとこ嬢ちゃんも同業者っぽいし、もしかしたら中にまだ値打ち物のなんかがあってジャックポット……なんてな?」

 

「……行かないほうがいい」「あ?……アー……その顔、なんかマジでヤバそうだな。やめとく」「……」「そういえば一人か?ワカル。俺も一匹狼が性に合ってるからな。ローグ・ウィッチってやつ――」「……」「……なんか事情か。いや……すまねえ」

 

 家族以外の人間。少女が外で会った初めての他人。同業者を名乗る、キモノの上にUNIXテックの数々を身に付けるボンズ頭の男。話に聞く外の世界の混沌と胡乱の程は、成程、目の前の男の出で立ちから察するに嘘ではないようだった。

 

「アー……その、何だ。俺、次のビズの為に換金したりギア仕入れないと。だから街に戻るけど……そこまでの道中で良けりゃ、一緒に来るか?いくら同類ったって、流石に嬢ちゃんくらいの子見かけて放っておくの、なんかに良くないだろ」

 

 同類。確かにこの男とアステーリャは同じだった。コードロジストであり、故こそ違うがカバルを捨て、野に下りひとり生きる、ローグ・ウィッチ。今の少女にとっての先達にして同類。そして――男が気付いているかはさておき――今やニンジャという点でも同類だった。「……」男の誘いに、少女は同意の意を込めて小さく頷いた。まずは知らねばならない。世界を。生きるために。復讐のために。

 

「ジャックポット!」口癖なのだろう大仰な喜びの表れと共に、男はアイサツした。「改めてドーモ、俺はジョウ――いやオッドジョブです。悪いが仕事柄の名前しか明かさないぜ」

 

「……アステ――」

 

 寸前で少女はその名を呑み込んだ。これは儀式なのだ。IPを割り当てるように、これからの自分を自分たらしめる自己を、貫き通すエゴを決める為の、疎かに出来ぬ通過儀礼なのだ。刹那の逡巡の後、夜空の下、彼女は自然と新たな名を紡いだ。

 

「……ドーモ――」

 

 眼下に広がる猥雑な文明の光を前に、天上の星が光差す道の中で、闇に身を投じるために、少女はここにかつての名を捨てた。生きねばならない。全てを奪い返すために。変わらねばならない。強くなるために。そしてそのために、成らねばならない。センセイのような――魔女に。仇よりも恐ろしい――悪魔に。

 

「――ディアベルスターです」

 

「ライク・ザ・ディアベル」終わり

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

◇罪◆

 

罪宝ニンジャ名鑑#XXXXXX【ディアベル】

 

コードロジスト・カバル『白き森』の担い手にしてまたの名をヨウマ・ニンジャ。

コトダマ空間やオヒガンを介してソウルへ干渉するジツを操り、それを活用・発展させる形で古からテックの時代をも生きてきた。

今やその身は悪魔の手中に堕ちている。

 

◆宝◇

 

 




読んでいただきアリガトゴザイマスドスエ!

 文章の忍殺エッセンス少な目でお送りした白き森のいいつたえ回です。自身のソウル分割付与+相手のソウルニンジャ化と、センセイが父祖のアヴァターくらいの無法をやらかしてますが、元ネタでも神人とか言われてるし大目に見て頂きたいです。
 途中に入れた文字列はPCなり大きい画面(スマッホは横向きでPC版表示)だとAA風画像が見られます。『罪』にまつわる幻想魔族のウジャト眼とザイバツ(罪罰)紋には何かしらの相関があるのでは?ボ訝
 最後の彼は、忍殺本編に出てくるローグ・ウィッチの偉大な\先輩/ということで特別出演してもらいました。ジャックポット!
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