忍殺×遊☆戯☆王 ディアベルスター・ザ・ブラックウィッチ   作:亜面瞳頭

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これまでのあらすじ

 悲惨な幼少期を経てニンジャへ、そして『罪宝狩り』へと成ったディアベルスター。過酷なる復讐の旅の途中、因縁あるならず者集団を退けた彼女の前に立ちはだかったのは、かつての家族の一人、リゼットだった。同じくニンジャとなり、そして今やディアベルゼと名乗る彼女の手により黒魔女は眠りに落ち、行きずりの相棒ポプルスを奪われたのであった。


アザミナ・オフェイレーテス

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――鮫!……鮫!ジェット……鮫!……コンボ……魔法で……!」暗雲立ち込める夜の街外れ、人気の無い道沿いを、ヤンク・メタルバンドの海賊放送ラジオ無線がノイズ混じりに叫び、寂寥感を引き立てる。

 

 この辺りは街の中心に比べれば人の往来は少なく、建物もまばらだ。だがその代わりとばかりに、重厚で巨大なコンクリートブロック造の建造物が1つ、軍事基地めいた様子で物々しく聳え立つ。さらにその周りを城塞めいて高い塀が取り囲む。「脱走・無断侵入はZAPします」「面会は受け付けません」堅く閉ざされた正面ゲートには無機質な看板の数々。何を隠そう監獄だった。

 

 建物周囲の空気は僅かに湿り気を帯び、鼻に感じるアシッドと金属の匂いが不快にこびりつく。じきに雨が降るのだ。地上に降る重金属酸性雨は、無対策では人体に極めて有害だ。それ故にマノホネ・ジョノウチは、普段であれば選ばない道を通って帰路を急いでいた。

 

「「「イヤッホーーーッ!!!」」」足早に急ぐ彼の背後より、3人組のヤンクが襲撃!その1人が手にするのは……タイヤ!「「「イイイイイイイヤッ!!!」」」「アッ!?」マノホネの上体に輪投げめいてタイヤを被せ拘束!「キキィィィィィ」興奮気味に奇声を張り上げ突き転がす!

 

「グワーッ!」「ヒヒヒーッ」「カネ!素子!全部いただけ!」「ヤメロー!ヤメロー!」「靴もだ!靴もいただく!」「ヒャホーーーイ!」「グワーッ!」無防備を晒したマノホネに一方的暴力と略奪!なんたる理不尽! だがブッダはおろか、彼らの遥か頭上、雨雲の向こうに隠れた月すら何も答えない。司法の象徴が間近にあれど、治安が終わっていることに関係は無い!

 

 地上も地下も、混沌と胡乱と貪婪に満ち溢れている点に変わりはない。ドングリ・コンペティション、所詮この世はどこまでもマッポーなのだ。それでは果たして、この要塞めいた監獄の内は、如何なケオスの程だろうか?

 

 

アザミナ・オフェイレーテス

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 WHAM!WHAM!「ウォォオーーーン!出せーーッ!俺を出せーーッ!」殺風景なコンクリート造の監房内に、悲愴な声が響く。鉄格子を喧しく揺らしているのはヨーカイめいた風貌の獣人だった。誰あろう、ケモノ・パンクス愚連隊『ゴブリンライダーズ』のオヤブン、ビッグヘッド・ガボンガである。

 

「うるせぇぞ新入り!」「グワーッ!」向かいの牢から食事配給オーボンが縦回転して飛来!オヤブンの顔面を強かに打つ!「えらいハリキリ・ボーイがやって来たじゃねえか!」「一丁前にバイオサイバネ入れてケモノ気取りか、エエッ?見てくれだけなら誰だってタフになれるわな!」「スッゾコラー!ここじゃアイサツにもなりゃしねえんだよ!」檻の向こうから収監者達が、動物園猛獣展示ゾーンめいて威圧的に嗤う。彼らの顔に彫られた線形のネオン・タトゥーが、罪人のマーカーめいて光っていた。

 

 ガボンガがニンジャであるとは露知らず、先達の罪人共はめいめいにオヤブンをナメている。実際彼はニンジャとして強者の位置にはない。カラテ練度も低く、中途半端にジツが発現しているだけの彼は、傍目には一介のケモノ・パンクスのヨタモノでしかないのだ。

 

 それでも平時の彼であれば、この程度の檻、飴細工めいて簡単に捻じ曲げ、脱走するのは容易い程の膂力は出せるはずだった。だが、明らかにカラテ出力が落ちている。思い当たる原因と言えば、ここで目覚める前の最後の記憶。彼をここに送ったとみられる存在、打倒宿敵を果たす為に協力を取り付けた『白魔女』の力か。

 

「新入りよォー!隣のお友達も紹介してくれよォー!」「生っ白いぜ!」「そいつ女だ!フィヒーッ!」罪人達が品無く囃し立てる先、ガボンガの牢内で、大の字で寝そべるもう1人の姿があった。「ツラの良い豊満!ヤッター!」「見せろ!そいつとお前の前後を見せろ!」「誰か記録素子隠し持ってんだろ!?録画して看守に売りつけ――」

 

「――イヤーッ!」KRAAAASH!「「「アイエッ!?」」」叫びが、破砕音が、下卑た囚人達の笑いを切り裂く。オヤブンの監房の中、堅牢なコンクリート床にヒビを入れた拳の持ち主が、寝ぼけ眼で跳ね起き、向かいの下衆を睨んだ。

 

「「「アイエエエエエ……!」」」瞬間的なニューロンへの負荷を受けた悪漢共が集団パニックの後沈黙!尋常ならざるプレッシャーに中てられた何人かはその場で失禁の後に昏倒!ブザマ!

 

 彼女に悪意も害意も無かった。そも、この時点で自分が囚われの身である自覚すら無かった。だが、先程まで延々と見せられ続けていた忌まわしき記憶の悪夢が、憤懣が、瞬間的な無意識の暴力発散を、キリングオーラを齎していた。

 

「やっと起きやがったな――黒魔女」呆れた様子でガボンガが見やる先、未だ状況判断できかねている黒装束の女――ディアベルスター。「……ここは」「クソみてぇな所だぜ。センセイ――白魔女にハメられてな……俺とお前、仲良くお縄だよ」「……どのくらいだ」「丸1日寝てたぜお前……俺と仲良くな」

 

「……長く厭な夢だ」「俺からすりゃここも随分悪夢だけどな」「……だが久しぶりによく眠れた」「ヘッ、あれで本調子じゃなかったってのか。嫌ンなるぜ……!」

 

 ガボンガ達との地下埠頭での死闘の末、同じく白魔女――ディアベルゼの持つ『罪宝』の力により眠りに落ちたディアベルスター。だが、彼女の場合はそれまでの睡眠不足が解消された反動か、むしろニンジャ回復力による身体力ブーストが目覚ましく働いているようだった。なお、オヤブンの名誉のためにも、先のイクサは最終的に第三者介入につきノーコンテストであったと言っておこう!

 

「俺とお前でこうも違うかよ、黒魔女……」蜘蛛の巣めいて亀裂の走る床を見ながらガボンガがこぼす。「……魔女じゃない……私は……私は……センセイにはなれない……」牢の壁にもたれて座り込む『罪宝狩り』は力無く答えた。「ア……?」

 

 いつもの不敵なまでの不愛想はどこへやら、宿敵のしおらしい姿にオヤブンは動揺していた。目の前の女は、いつも自分達を蹂躙してきた憎き黒魔女なのか?そう思えるほどの奥ゆかしさが今の彼女にはあった。

 

 果たしてディアベルスターの心中にあるのは――センチメントだった。悪魔に全てを奪われたあの日から泣き別れだった家族の1人、リゼット。そんな彼女とようやく再会できたと思えば、騙し討ちに遭うような形で仇への手掛かりを奪われ、そしてここに送られた。怨敵に与しているとしか思えない彼女の行動は、散々にニューロンを苛んできた悪夢の回想と相まって、黒魔女の精神を残虐なる拷問めいて削っていたのだ。

 

 姉弟子達の無念を晴らし、そしてセンセイの仇を取り――家族を救う。それが『罪宝狩り』、そしてニンジャとして生きる自分の至上命題。センセイのような魔女に、大敵のような悪魔になってでもその務めを果たす、そう心に決めた。決めたはずなのに。

 

「……なんか知らねえけどな、いつものヤルキの眼はどこ行ったんだよ。ガキ向けめいてキレイな顔しやがって、紙芝居屋でもやるってか?」「ハ……」「チッ……真に受けてんなよな」ガボンガの軽口にも手応え無く返す。オヤブンにはいっそ腹立たしかった。

 

「……どうして寝首を掻かなかった。ずっと私を追っていたんだろ……今ならお前でもやれるぞ」どこかヤバレ・カバレに黒魔女は言った。「……今やっても意味が無ぇんだよ」どの口が、という言葉を呑み込み、再度床のヒビを見ながらオヤブンが答えた。

 

「悪党にもルールや矜持ってモンがあるんだよ。こんな所でお前にイサオシ挙げても何にもなりゃしねぇ……」虚勢ではあったが、同時に本音でもあった。「俺の……俺達の獲物は『罪宝狩り』――無慈悲でおっかねぇ黒魔女だ。シケたツラでメソメソしてるニボシじゃねぇ」「……」

 

「……お前にゃなんかやることあるんだろ。俺だってこんなとこでずっとヒマしてる場合じゃねえんだ」「……」「なあ……ここを出たいんだよ。お前はこんな牢屋ブチ破るのワケ無ぇだろ。だから……そこのクソッタレ共が起きて看守が嗅ぎつける前に……頼むぜ」あろうことか宿敵に頭を垂れ鼓舞するオヤブン!アウトローの美学である!だがその時!

 

 KRACK!KRACK!「何だ!?」2人の収監されていた房の北壁から破砕音!KRAAAASH!亀裂が広がりたちまち壁粉砕!「ヒーハー!ブルズアイ!」穴の中から現れたのは鼻先をサイバネドリル置換されたネズミめいた獣!そしてその後続から次々来たるは!「オヤブン!ご無事で!」「アッ!黒魔女もいるぞ!」「お前ら!」「俺達バッド・アス!」ゴブリンライダーズ!

 

「迎えに来たぜボスゥー……!あちこち探して1日掛かっちまったァー……!」「イピーッ!マッポのIRC見張ってて良かったぜ!」「黒魔女!ガボンガとネンゴロしてないでしょうねーッ!」オヤブンの下へ次々とゴブリン達が集う!弱小でもソンケイ確かなリーダーなのだ!

 

「でかしたぜお前ら!……黒魔女、俺は行くからな。こいつらとのし上がんなきゃいけねぇんだ」「……いい仲間だな」ディアベルスターが穏やかに返す。「そういうのやめろ。調子狂うぜ」相変わらずしおらしく、ともすれば素なのではないかと思える表情だった。

 

「しかし景気良く穴掘りしたな。外はどうなってる?」「……それなんですがオヤブン――」KADOOOM!「アイエッ!?」ブガー!ブガー!監獄に走る激震!アラートサイレンがけたたましく鳴る中、施設全体が激しく揺れる!檻の外の廊下モニタには「エマージェントな」の緊急表示!

 

 KABOOOM!KAZOOM!「ちょっとやめないか――アバーッ!」「「「アイエーエエエエ!」」」「「「アバババーッ!」」」激しい破壊の轟音と尋常ならざる断末魔の叫びが施設中から響き渡る!何が起きているのか!?

 

「「アーーーッ!」」続いて脱獄穴より半狂乱のゴブリン達が雪崩込む!「別働隊ィー……!残りの奴らはどうしたァー……?何があったァー……!?」「来る!アイツが来る!」KRAAASH!KADOOM!

 

贖罪薊薊贖罪薊贖罪薊薊贖罪薊薊贖罪薊贖罪贖罪薊薊薊贖罪贖罪贖罪贖罪薊贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊薊薊薊贖罪薊薊贖罪薊贖罪贖罪薊贖罪薊贖罪贖罪薊贖罪

 

「「「アババババーッ!?」」」向かいの牢屋中を突如埋め尽くす茨の海!壁床天井、牢の四方から生じた棘塗れで青緑のLANケーブルめいた超自然的蔦がショック状態だった罪人達を捕らえ!締め上げ!刺し!引き裂き!捩じ切り!惨たらしく鏖殺!たちまち格子向こうの収容セルは陰惨たるゴアに埋め尽くされる!

 

「「「アイエエッ!」」」「来た!」「追い付いてきた!」「ヤバイッテ!」ゴブリン達の間に広がる恐慌!だが!「落ち着け!」オヤブン不動!

 

「お前ら追われてるのか?」「お、俺達クレイジー・ビーストを陽動にオヤブン助けようとしたんです!こんな監獄なんかぶっ壊しちまおうって……!」「でも急にアイツが――!」KRAAASH!「「「グワーーッ!」」」棘蔦と共に迫る何かがガボンガと黒魔女の牢の東壁を遂に破壊!果たして何が――!?

 

「――AARGHHHH……ドーモ……AARGHHHHHH……アザ贖罪ミ薊ナ……エリュシクトーン……AARGHHHHHHH……」

 

 壁の向こうより現れたのは戦士甲冑めいた異形!その中身は生身ではなく!悍ましくも人の輪郭を辛うじて真似た茨である!コワイ!そしてどこから発声しているのか分からぬジゴクめいた声色でアイサツ!なおコワイ!

 

「「「アイエエエエエーーッ!」」」ゴブリンライダー大危機!「お、お前の知り合いか黒魔女!?」「……知らん」ディアベルスターは率直に答えた。明らかな脅威を目の前に、普段のシリアスさが、彼女の中に幾分か戻ってきたようだった。

 

 確かに似たような姿の刺客とイクサを交えた覚えはあった。しかし、目の前の異形はニンジャではない。ソウルの存在、それ以前に生気を欠片も感じない。だがこの感覚、忘れもしない。対象が発する圧と悍ましい茨は、あの遺跡にいたフランベルジュとその眷属達のアトモスフィアと同じ。あの日出遭った罪と怨みの根源と同じ。紛れも無く――悪魔の手先。

 

「AARGHHHHH……」異形――先のアイサツらしき唸り曰く名はエリュシクトーン――の手の内で茨が増殖していく。ボーめいて硬く伸びる茨はやがて鉄となり、鉄は禍々しき斧槍となった。

 

「オォ……!」オヤブンは不動だった。それは不退転な気概ではなく、常識を超えた存在への、無意識の畏怖ゆえだった。だがオヤブンだけではない、この場にいた悪党の誰もが、目の前の異形に萎縮していた。常軌を逸した怪物を前に発狂に至らなかっただけでも奇跡である。

 

「AARGHHHHHH……除去……」だが当然、鎧めいた茨の怪異は動けない彼らにマッタなどくれはしない。見るも恐ろしい武装を生成したのも、この場の全員に対する明確な殺意の表れに他ならない。「「「ア……アァ……!」」」その尋常ならざる得物の切っ先を向けられるは……竦み上がった様子のサンシタ達!

 

「AARGHHHH……!」贖罪薊薊贖罪薊贖罪。不気味な唸りを上げた甲冑オバケの足下より、茨が蛇の大群めいて襲い掛かる!「……ッ!」「オ、オイ!避けろ――!」「……イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」ALAS!オヤブンの叫び虚しく、ゴブリン達は茨の餌食か!?――否!

 

 茨の着撃した壁の斜向かい、牢屋の鉄格子に固着されたサンシタ達!犠牲となるはずだった彼らを一纏めに縛っている超自然の赤紫の鎖、それの末端を握りしめたままエリュシクトーンを睨むは――!「――黒魔女!」「全員邪魔だ……!逃げろ……!」

 

 ワザマエ!ゴブリン達を蔦が覆い尽くそうとする刹那、ディアベルスターはインターラプトし、クッツキの鎖で彼らをカウガールめいて縛り上げ、勢いそのままに茨の射程外へ蹴り飛ばしたのだ。だが、代償もついた。

 

「オ、オイ!お前――」「早く行け……!」ゴブリンを庇ったディアベルスターの左半身を縛り侵蝕していく茨!床から彼女の身体へと生長している蔓はホログラムめいて透過しているように見える一方、その棘は物理的瑕疵をもって、彼女の内へ深々と突き刺さっている!何たる物理論理両面の性質併せ持つ超自然の物体か!

 

「……ッ!」黒魔女は痛みと共に不快な感覚に食いしばった。それは『罪宝』を使用した時や、あの悪夢の際にも感じるもの。肉体ではなく、さらに内側の、自己の本質たらしめているものを直に弄られているような不愉快さだった。

 

「黒魔女……俺達を――!?」「早く行けと言ったんだ……!足手まといだバカ共――!」ジツの鎖を解きながら、黒魔女がゴブリン達へ叫ぶ。所詮、奴らは下らぬ因縁の小悪党共、彼女に殺す理由など無い。そして目の前で死なれる理由も無い。だが何より、これ以上理不尽なる悪魔の暴虐に曝されるのは――。「――私だけでいい……!」

 

「……AARGHHHHHH……除去……AARGHHHH……!」エリュシクトーンが標的をディアベルスターへと変え、コマ送りめいた動きで足下の蔦を動かし迫る。決まりきったエラーコード音声めいて抑揚無く音を発するその挙動は、プログラムあるいは機械的に、外部刺激に反応しているだけのようだった。

 

 相対する黒魔女、今や囚われの身につき自慢の得物も虎の子たる『罪宝』も手元に無く、頼りは己がカラテのみ。何が相手だろうと、ニンジャたる自身の在り方の本質はカラテのみ。カラテあるのみ。だがそれすらも――。

 

「――チィッ……!」身体の違和感にディアベルスターが悪態つく。半身が茨に絡め取られ、満足に動かせないのだ。「AARGHHHH……除去……AARGHHHH……」

 

 今や彼女の眼前へと迫る茨の怪物は、処刑執行人めいて緩慢な動きで斧槍を振りかぶる。予測される攻撃軌跡上には動けない黒魔女の首元。図らずも生前の意趣返しか?

 

「……ア!?やべェ!動け!動けーッ!」危機的状況下、オヤブンが自他への鼓舞のためか叫ぶ。だが未だ不動!「駄目だボスゥー……!俺達も縛られてるゥー……!」

 

 特攻隊長ダグの言葉通り、既にエリュシクトーンの茨は監房内の全員へと伸び、ディアベルスターへの刎頸を、魔女裁判公開処刑めいて拘束したゴブリン達へ見せつけんとしていた。「……ア……!アァーッ……!」そこへ突如サンシタの一人が向かいの牢へ向かって絶叫!果たしてこれ以上に何を見たのか!?

 

贖罪薊薊贖罪薊贖罪薊薊贖罪薊薊贖罪薊贖罪贖罪薊薊薊贖罪贖罪贖罪贖罪薊贖罪贖罪贖罪贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊薊薊薊贖罪薊薊贖罪薊贖罪贖罪薊贖罪薊贖罪贖罪薊贖罪

 

 サンシタの視線の先、罪の茨の犠牲となった罪人たちの亡骸、それらからエリュシクトーンと同様の茨が生じていく!惨たらしく解体された死体すらも縫い紡ぐように、超自然のLANケーブルがのたうつと、やがて生命活動を既に止めたはずの肉体は平然と起き上がり――!「「「――AARGHHHHHH……」」」禍々しき唸りを上げる悪魔の端末となった!「オイオイオイ……!」ナムサン!なんたる酸鼻極まる光景か!「コイツにヤられたら俺達までああなるってのかァー……!」

 

 これが悪魔の手に堕ちるということなのだ。理不尽に死を迎えた先、死してなお肉体を弄ばれ、ジョルリめいて操られる傀儡となって、死よりも恐ろしい冒涜に永遠と苛まれるのだ。それは当然ニンジャとて――これより茨甲冑の先兵に首を刎ねられんとしている黒魔女とて――例外ではない。

 

「黒魔女ーッ!」「イピーッ!ヤルキ入れろーッ!」「ヤメロー!ヤメロー!」「AARGHHHH……AARGHHHH……」「……ッ!」けたたましいアラートと共にゴブリン達が叫ぶ中、迫りくる歪な殺意を前にニューロンが加速する。泥めいて鈍化した時の中、ディアベルスターは確信していた。やはりこれは生きていない。

 

 異形の身体の内に、肉体の持っていた意思は介在していない。人形の操り糸のような、ニューラルネットワークめいた超自然の茨、その遥か先にいるだろう本体の、底無しの悪意だけがそこにある。そして自らも、そうした悪意に満ちる傀儡へと、これから変えられるのか。

 

「AARGHHHH……!」ハイスピードカメラめいて低速の時の中で、茨の処刑人は黒魔女目掛けて断頭斧を横に薙いでいく。ゆっくりと、だが確実な不可避の死が彼女のワン・インチ距離――それよりも先に、凝った時間を貫く超質量が、側方より執行者へ到達した。

 

「ルオオオオオオオーッ!」KRAAAAAAASH!「AARGHHHHH……!?」「「アイエッ!?」」大破し、もはや外部が丸見えとなった収容房北側の脱獄穴の先、そこから前肢をエリュシクトーンに叩きつけているのは――。「――陽動に行ってた奴らだ!」「オヤブンから離れろオバケめ!」「ルオオオオオ……!」別働隊の残りを率いていた爆音担当クラッタと彼らが駆る……大饕獣クレイジー・ビースト

 

 オヤブンゴウランガ!ケモノを率いる彼の不退転の覚悟が!確かなソンケイが!巡り巡って宿敵を死より救ったのだ!「ウォォーッ!」「マジで助かったぜお前ら!」「遅れてスンマセンオヤブン!コイツまだ動かすのにムラっ気ありまして!」「……懐いてるな」「ウフフ、アンタにキアイ入れられてから妙に大人しいのよ」

 

「AARGHHHHH……!」「アイエッ!そいつまだ生きてるぞ!」壁外より上体覗かせる大饕獣の前脚とひしゃげた檻の間で、エリュシクトーンがその身を痙攣させる。未だ活動停止する様子は見られないが、黒魔女達を縛り上げていた茨は、だが01分解されるように枯死していく。「ヤッター!動けるぞ!」

 

「黒魔女!」ビーストの背に乗るクラッタが、背負っていた荷をディアベルスターへと投げ渡す。「ここに来る途中で見つけたんだ。お前のだろ」それは彼女の象徴たる得物のダガー、ローグ・ウィッチ謹製の各種ソフトウェアに、そして2つの『罪宝』。装備も取り戻しカラテ十全。我らが『罪宝狩り』がここに蘇った!

 

「ハッハァー!どうだ黒魔女。俺達もやるもんだろ」「……恩に着る」「だからそういうのやめろ。調子狂うぜ……!」「アッ!黒魔女がなんか奥ゆかしいぞ!」「「「ウェー……!」」」サンシタ共がブーイング混じりの歓声を挙げる!ゆえに愛すべきサンシタ!

 

「しかしお前ら、随分派手にブチ壊してたな――」KADOOM!KAZOOM!「アイエッ!」「違うんですオヤブン!俺達やっと追い付いたところで!ここを襲ってるのはコイツだけじゃないんです!」

 

KABOOM!「「「アババーッ――!」」」「「「――AARGHHHHH……!」」」なおも続く破壊と爆発!それら轟音に混じる悲鳴とこの世ならざる狂声!増え続ける悪魔の傀儡は、既にこの監獄の生者よりも多いのだろう。

 

「……!」ディアベルスターは玉響、逡巡していた。傀儡を除けば目の前のエリュシクトーンに加えて最低もう1つ、対処すべき脅威が間近に居る。再び姿を消した姉――リゼットを追う上でも、そしてこれ以上の犠牲者を増やさないためにも、早急に片を付けねばならない。だが状況判断が「オイ。黒魔女――」

 

「――お前1人で抱える気だろ。この期に及んでそういうのウゼェんだよ」「……ッ!」緊張走る牢屋に通る声。それは僅かな迷いを、一切の躊躇いをも断ち切るような、傲岸不遜なまでのオヤブンの声!

 

「……コイツは俺達に任せろ。この場限りのユウジョウ!共同戦線といこうじゃねぇか!コブンがオタッシャしかけた上にお前にまで助けられちまった!なら俺が気張らねぇでどうするよ!」オヤブンカッキェー!なんたる敵同士であっても寛大で慈悲的であろうとするアウトローの矜持か!

 

「……お前には無理だ」あくまで現実的に黒魔女は返した。「へッ、実際俺だけじゃ無理だわな。俺だけならな!」だがリーダー不動!「オヤブンと俺達合わせれば!1が実際100倍になって……タクサンだぜ!」「コイツもいるしな!」「ルオォーン……!」「AARGHHHHH……」

 

 未だ茨鎧を押さえ込む巨獣の傍ら、不敵に笑うゴブリン達。中には震えを誤魔化しているサンシタもいたが、彼らは単一では弱者である自覚をもって、群れとして強大なる個に挑まんとしているのだ。それが彼らとしての誇りでもあるのだろう。「……ハ……バカ共――」数秒の思索の後、不愛想で冷徹なる黒魔女は――ほんの一瞬、口の端を上げた。

 

「――死んだら殺す……イヤーッ!」不器用な激励を残して、ディアベルスターは巨獣の開けた大穴から壁外へと跳び出して行った。「イピピーッ!オタッシャデー!」「ハッハー!黒魔女サマからの有り難いお言葉だぜ!お前らキアイ入れろーッ!」「「「ヨロコンデー!」」」「俺達バッド・アス!」

 

「「「ゴブリンライダーズ――!」」」

 

 吹き抜ける空気を全身に受けながら、黒魔女は後にした牢の内から、明日をも知れぬアウトロー共の勝鬨が喧しく、だが次第に遠ざかっていくのを感じていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ディアベルスターの予見していた通り、監獄中がアビ・インフェルノ・ジゴクめいた様相をなしていた。雨の降る深夜の牢獄、その方々で上がる火の手と痛々しい破壊痕跡、そして超自然の茨に在り様を歪められた人々。抑圧と収容、規律と格差に満ち溢れていた司法の檻は、ある意味では今や何もかもが平等だった。

 

 囚人と看守の別無く、誰もが茨の鎖で、蔦の枷で、絶対で永遠なる服従と支配を強いられている。今やここでは、万人が咎人なのだ。

 

「「「AARGHHHHH……!」」」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「AARGHHHHH……!」」」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「「「AARGHHHHH……!」」」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

 

 迫る茨を切り裂き。掴み掛かる腕をへし折り。ぎこちなく走り寄る脚を砕き。カラテで、ジツで、大挙する憐れな肉人形を破壊する。『罪宝狩り』にできることは、もはや戻れぬ生命を、これ以上苦しませずに、また誰も苦しめないようにすることだけだった。モータルだった彼らの本質はどこへやら、やはり生気は皆無で、不気味だった。

 

 「イヤーッ!」「「「AARGHHHHH……!」」」そして何より、あまりにも物理的攻撃に手応えが無いのが不気味だった。多少のダメージでは怯みもせず、鋭く斬撃しても、その身には血の一滴も流れず、01めいたノイズが漏れ出るのみ。恐らく確かなカラテを込めて、再度肉体を破壊しない限り、彼らは永遠に蘇る。どこか漠然としながらも確信めいたものがあった。

 

「「「AARGHHHHH」」」倒壊した城壁めいた塀の中を進むディアベルスターに、立ち並ぶ炎の中より傀儡が群れなして襲い掛かる!炎上する身体を気にする素振りなどなく、生者たる黒魔女を仲間に迎え入れようと!その手を!蔦を伸ばす!

 

「……イヤーッ!」ディアベルスターは介錯めいた憐れみの眼でダガーを片手に、怯むこと無く走り寄り、茨の集団と交錯!「「「AARGHHHHH!」」」すれ違うコンマ数秒後、焦げた大気と鉄の匂いと共に、茨に塗れた五体群が封印されし者めいてケジメ分割!特殊勝利!

 

「どこまで弄べば気が済む……!」黒魔女は未だ姿見せぬ理不尽への、底無しの不気味さへの怒りを、沸々と湧き上がらせながら燃えゆく牢獄施設内を駆けていく。

 

 不気味なことと言えばもう1つあった。未知の襲撃者を相手に『罪宝』の力を借りようにも、『彼女達』からこれまで無かった怖れのような感情が伝わってきたのだ。それはディアベルスターへの警告のようでもあった。果たしてその意味を彼女が理解したのは、この直後だった。

 

「「AARGHHHHH……」」KRAAASH!贖罪薊贖罪薊薊贖罪。一際気味の悪いノイズ伴う唸りと共に、大量の茨がアスファルトを割り砕き現出!ディアベルスターの行く手を阻むように展開した罪のケーブルが彼女を捕らえんと群れで襲い掛かる!

 

「イヤーッ!」黒魔女はバックフリップで後方に回避!前方の炎の向こうに見えた襲撃者のシルエットを確認しつつ、壁を使ったトライアングルリープでさらに距離を――だが!「AHAHAHAHAHA!」侮蔑的な声がディアベルスターを嘲笑う!何処から?上だ!

 

 空中で天地反転した黒魔女の視界、上空の夜闇より、飛翔体が襲撃!コウモリめいた造形の鬼火とでも言うべき超自然の青い火が、降り注ぐ雨粒を蒸発させながら4連続で襲い掛かる!

 

「……ッ!」ディアベルスターは咄嗟にダガーを振るいこれを迎撃せんとする!「イヤーッ!」1発!「イヤーッ!」2発!「イヤーッ!」3発目!暫定1ターン3キル!4発目――ハヤイ!

 

 BOOM!「イヤーッ――グワーッ!」4発目がダガーの刃に触れるより一瞬早く炸裂!正面から被弾には至らなかったが、青い小爆発が空中のディアベルスターを弾き飛ばす!

 

「……ッ!」さらに空中で姿勢制御を試みる彼女の右踝を絡み取る……地面よりの茨!宙のディアベルスターを捕らえた蔦が最適角度で地面へ向け彼女を投射!ナムサン!このまま大地に叩き付けるつもりか!黒魔女はジツを用いて衝撃吸収に備え――。「イヤーッ――グワーッ!?」――ジツが出せなかった。

 

 KRAAAAASH!監獄壁外の地面が大規模破砕!その中心に叩き付けられるはディアベルスター、すわ潰死か!?「……グ……ウ……!」よろめきながらも身を起こす。ジツ無しでの咄嗟のウケミ、ダメージこそあれど致命は回避!「……来い!」脳内物質の急速分泌、そして怒りにより否応無しに高揚している黒魔女は、只今の被弾をものともせずに監獄内壁を睨んだ。

 

 「AARGHHHHH……」「AARGHHHHH……」降りしきる大粒の雨の中、ダガー構えるディアベルスターの視線の先、燃え盛る監獄内部より、2つの影が炎に逆光照らされながら現れる。2体。敵はエリュシクトーンの他に2体いた。「……ッ!」その姿は……おお……!宇宙的恐怖めいて悍ましい造形につき、あまり想像はせずに読み進めていただきたい!

 

「AARGHHHHH……ドードーモー……ア贖罪ザ薊ミナ……ルシエラーゴ……AHAHAHA……!」うち1体は先ほど上空よりミサイルめいて鬼火を放ったのだろう存在、コウモリに人間的容姿が混じり合ったような異形である!甲高く狂ったように笑いながら宙を舞うその身体の各所には……茨!

 

「AARGHHHHH……ドーモーモー……ア贖罪ザミ薊ナ……シルヴィア……WEEEP……!」もう1体は先の蔦を生じさせていただろう存在、4つ足付けて地面を踏みしめる、双頭の狼めいた巨獣――3つ目の頭もあった。だがそれは、どこか人間の上半身と獣が融合しているような歪なデザイン!中心ですすり泣く人型の手と、左右の双頭から生じているのは……やはり茨!

 

 ああ……ブッダ!何たる悪魔の先兵に相応しき冒涜的姿か!エリュシクトーン同様、これらもニンジャなどではない。悪魔の傀儡へと変えられた、哀れな死した肉体の成れ果て――。「――ドーモ……ディアベルスター……です……!」

 

 だが黒魔女は震える声でもアイサツせずにはいられなかった。それはイクサに臨むニンジャの絶対的儀礼ではなく、平時に行うプロトコルの一環という側面が強かった。そうしなければ、彼女はヘイキンテキ(注:平常心)を保てなかった。

 

「――ルシア……シルヴィ……」次第に雨脚強まる闇夜、2つの『罪宝』がどこか後ろめたく寄り添う中、黒魔女は去ってしまった2人の姉の名を、悲壮な面持ちで目の前の異形達に呼び掛けた。

 

「アザミナ・オフェイレーテス」終わり

「ギルト・オブ・ザ・シンフルスポイル」に続く




読んでいただきアリガトゴザイマスドスエ!

 ついに罪宝ストーリー最大の曇らせ場面に突入です。ヤンナルネ。このストーリー原案した人は殆どブッダな。でもここから怒涛の盛り上がりを見せるのも確かなのでシマッテコーゼ!
 ちなみに地の文=サンがやたらオヤブンの肩を持ちたがるのはCVがナレーション・ニンジャことゴブリン=サンだからです。
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