忍殺×遊☆戯☆王 ディアベルスター・ザ・ブラックウィッチ   作:亜面瞳頭

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これまでのあらすじ

 生き別れの家族、リゼットとの一瞬の邂逅の末、監獄にて目覚めたディアベルスター。精神的に揺れる彼女だったが、息つく暇無く仇敵の刺客達から襲撃を受ける。居合わせた因縁のならず者共と束の間の協力関係を築いた黒魔女は、事態収拾のため彼らに背を任せ、新たな襲撃者の下へと向かう。だが現れた凶手の姿は、彼女を更なるケオスへと誘うのであった。


ギルト・オブ・ザ・シンフルスポイル

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「AARGHHHHH……ドードーモー……ア贖罪ザ薊ミナ……ルシエラーゴ……AHAHAHA……!」

「AARGHHHHH……ドーモーモー……ア贖罪ザミ薊ナ……シルヴィア……WEEEP……!」

 

「――ドーモ……ディアベルスター……です……!」炎の向こうより現れた2体の異形を前に、ディアベルスターの時間感覚は泥濘に浸かった。雨粒が低速で身体に打ち付けるのを、加速するニューロンが末端から中枢まで悪寒に冷えていくのを、黒魔女は誤魔化し切れない動揺と共に感じていた。

 

「――ルシア……シルヴィ……」押し殺した声で確かめるように、かつての家族の名を、忘れられぬ姉2人の名を、不気味に唸り蠢く怪物達へと呼び掛ける。当然、目の前の存在は、黒魔女の知る2人とは似ても似つかぬ冒涜甚だしい姿である。

 

 だが彼女には分かるのだ。分かってしまうのだ。分かってしまったのだ。相対する脅威の素性が。自らと共に復讐の道程往く自我持つ『罪宝』、ルシエラシルウィア――本来の姿との乖離による彼女らの自我浸食を恐れて黒魔女が与えた仮名――他ならぬ姉2人のソウルが、茨の刺客達を前に、例を見ない程に震えていたために。

 

 悪魔は生命ある者の肉体から、その者をその者たらしめている本質――ソウルを抜き出し隷属させる。『罪宝』とは、肉体から抜き取られたソウルが物質化した成れ果てであり、副産物でしかない。それではソウル無き肉体は果たしてどうなるか――黒魔女と対峙している2つの巨影がその答えである。

 

「「AARGHHHHHHHHHHHH……!」」ソウル――肉体に割り当てられた本質情報、言うなればIP――と不正な手段で接続が切れた肉体は論理物理両面のエラーを起こし、歪み、ねじくれ、悍ましき様相へ変貌するのだ。これは言わば世界のバグめいた挙動であり、悪魔はそれを利用しているだけに過ぎない!

 

「AHAHAHAHA!」凝り固まっていた体感時間が、再び動きだした。茨の邪翼――先の嘲笑をアイサツと仮定するなら名はルシエラーゴ――が落ち行く雨滴を切り裂き飛び来たる!見た目以上の飛行性能!ハヤイ!

 

「AARGHHHHH!」高速が乗った、恐ろしく鋭利な爪の一撃が黒魔女を刈らんとする!「イ、イヤーッ……!」ディアベルスター、すんでの所で横臥回避!SLAAASH!横屈む彼女の上を恐爪が薙ぐ!アブナイ!だが反撃へ転じ、そのまま卍蹴りめいてカウンターを――できなかった。

 

「WEEEEEEEP!」続いて異形の三つ首――先の嘆きをアイサツとするなら名はシルヴィア――が追撃に掛かる!啜り泣くような音を発しながら見た目以上の軽快さで跳躍し迫る巨体!ハヤイ!

 

「AARGHHHHH……!」大質量が乗った、恐ろしく重厚なお手めいた掌打が黒魔女を叩き潰さんとする!「イ、イヤーッ……!」ディアベルスター、すんでの所で側方へ跳び込み前転回避!KRAAASH!彼女の元いた地面を重爪が砕く!アブナイ!だが反撃へ転じ、そのまま隙を見せた巨体にダガー斬撃のカウンターを――できなかった。

 

「AHAHAHAHA……!」軽快に跳び退くシルヴィアと入れ替わるように、空中で折り返し滑空するはルシエラーゴ!波状攻撃の第3波、黒魔女へ向かってキリモミ回転しながら突進し、同時にコウモリめいた鬼火を複数放つ!

 

「……イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」青火のミサイルをダガーで斬り払う!超自然の物体だろうと、カラテ込めた物理攻撃で対処可能!だが本命は迫り来る本体の突撃!対する黒魔女の選択は消極的ガード!反撃に出ないのは何故か!?尤も、これも瞬間的にカラテ高めれば十分受け止めることは――カラテが練れない。

 

「グワーッ!」真正面から突進を受けたディアベルスターが吹き飛ばされる。ウケミ。ウケミを。「ウウ……ッ!」どうにか後転と後ろ宙返り交えて後退り、体勢を立て直す。ダメージは蓄積すれど未だ健在。だが。贖罪薊贖罪薊薊贖罪

 

「……ッ!」「WEEEEP……!」着地した黒魔女の両の足を縛る茨の枷!地面から伸び彼女を拘束する蔦の先、泣き笑うシルヴィアの姿!「グ……ワーッ!」ディアベルスターを絡み取る強靭な茨が伸長し、逆バンジーめいて地面を起点に、彼女を振り回す!高くしなる蔦が、またも大地に向けて彼女を叩き付けんとする!だがジツを用いれば防御は――ジツが出せない。

 

 KRAAASH!「グワーッ!」再度地面へ、強かに打ち付けられるディアベルスター!「ガ……ア……!」肺の空気が吐き出され、痛みに喘ぐ。覚束ないウケミを貫く衝撃に、全身が悲鳴を上げる。黒魔女も半分は人ならざる身、常人の肉体強度では即死だっただろうダメージに、身体はどうにか耐えた。

 

「AHAHAHAHA……!」「WEEEEEP……」ディアベルスターに身体的不調もたらしている元凶は、紛れもなくこの異形達であった。如何な仕組みか、ルシエラ―ゴの火が触れた者の活力――カラテを奪い、シルヴィアの茨が縛る者の異能――ジツを無力化する。数の利のみならず戦略においても不利を強いる、これが茨の尖兵達のフーリンカザン!

 

「……グ……!」黒魔女は戦慄く身体を振り絞り、ダガー突き立て、縛る茨を斬り払った。憔悴した顔で立ち上がり、前方睨むその様は、だが傍目には虚勢でしかなかった。「「AARGHHHHH……!」」茨伸ばし追い討ちに掛かる双影!反撃!反撃を!ディアベルスター!「……イヤーッ!」躊躇しながらも遂に2体を迎撃せんと駆ける!だが!

 

「「……アス……テーリャ……」」

「AARGHHHHH……痛い……」

「AARGHHHHH……死にたくない……」

 

「……ッ!」恐ろしいノイズ交じりの無意味なうわ言、あるいはモージョーめいた言に、ディアベルスターは瞬間的にフラッシュバックし硬直!「「……AARGHHHHH!」」「……グワーッ!」蔦のダイレクトアタック成立!甚振るような茨鞭の一撃に、無防備の黒魔女がまたも吹き飛ばされ、もんどり打ち倒れる!

 

「――ない……」有害降雨が打ち付ける中、仰向けで地に伏せるディアベルスターは弱々しく嘆きを漏らした。腰元の外套が、首元の襟巻が、懐のフラッシュメモリが、彼女を気遣うように震えた。「――できない……」果たして彼女の心中満たすのは――再びのセンチメントだった。

 

 実際、異形の力によるデバフは確かに働いていた。茨の猛攻に防戦一方、ジツ・カラテ共に出力は低まる一方。だが、先ほどからディアベルスターが反撃していないのは、ひとえに彼女の意志なのだ。

 

 あの日始まった過酷なる旅、『罪宝』となった姉弟子達のソウルと共に進む先、怨敵を打倒し、センセイを救い――姉達の魂をあるべき形へ戻す。それが黒魔女の目的、たっての望み。

 

 無謀な願いだとは分かっていた。仮にあの悪魔を滅ぼしたところで、肉体に再び魂が戻る確証など何処にも無い。それでも縋れるものがなければ、既にポイント・オブ・ノーリターン、引き返せない状況に差し掛かっていた彼女の自我は限界だったのだ。そうして進退窮まる彼女に、かくして突き付けられた現実は、どこまでも無慈悲だった。

 

「AARGHHHHH……痛い……AHAHAHA……!」

「AARGHHHHH……死にたくない……WEEEEEP……」

 

 目の前で悪意に満ちた音を発する異形共を野放しにはできない。ここで自らがこれらを斃さなくては、やがて何もかもが悪魔の傀儡に堕ちるだろう。

 

 ここで止めなくてはならないのだ。死した肉体に、もう一度死を迎えさせなくてはいけないのだ。――たとえそれが、愛する家族を手に掛けることになるとしても。だが――。「――できない……」

 

 いくら斃すべき悪魔の手先でも、いくら悪意と害意もって罪と禍振りまく存在でも、その基となった肉体はルシアとシルヴィ、紛れもなく姉達のものなのだ!それをこともあろうに彼女達の前で、その魂が還るべき身体を破壊しなくてはならないのだ!だが、そんな選択はディアベルスターには――。「――私には……できない……!」

 

 横たわる自身の側方、地面に転がるダガーに手が伸ばせない。積年の悲願を叶える為に、その悲願において救うべき者を犠牲にしなくてはならない。耐え難くも決して避けられぬ葛藤に、黒魔女は雁字搦めにロックされていた。

 

「WEEEEEP……」贖罪薊贖罪薊薊贖罪。「……ッ!」そして今や、周囲から生じた茨でもって、物理的にも囚われていた。「「ARGHHHHH……!」」そうして感傷に囚われ磔にされた復讐者を嘲笑うように、自我無き肉体は、悪意の操り人形は、容赦の無い責め苦で甚振った。

 

「AARGHHHHH!」打擲!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」刺突!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」緊縛!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」切削!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」打擲!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」緊縛!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」刺突!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」切削!「グワーッ!」

 

 無抵抗の黒魔女に襲い掛かる茨!茨!茨の嵐!塗炭の苦しみが!悪夢の痛みが!心身を蝕んでいく!締め上げる蔦が!突き刺さる棘が!装束を切り裂き!肉を削ぎ!骨を砕く!

 

「AARGHHHHH!」鞭打!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」擦過!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」圧迫!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」削剥!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」鞭打!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」圧迫!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」擦過!「グワーッ!」「AARGHHHHH!」削剥!「グワーッ!」

 

 本体の性根を感じる、生半には殺さぬあからさまな手加減!だがそれは真綿で首を絞めるが如く、確実で底無しの殺意と悪意!「「AARGHHHHH!」」またも茨鞭の打擲!「グワーッ!」右鎖骨が、右眼のオニめいたメンポが、無残に砕ける!

 

「ウ、ウウ――」明らかな黒魔女の生命の危機に、姉達は自身の解放を促す。全てを斬り裂く大翼鎌ルシエラに、何もかもを無力化して踏み砕き咬み潰す大狼シルウィア。強力無比な切り札たる『罪宝』の彼女達も、ディアベルスターがソフトウェア起動ドングルキーめいてメモリを直結せねば物理顕現できない。だが拷問に砕け散ったオメーンの下には――。

「――できるわけが……ない……!」未だ星に焦がれる少女の眼があった。

 

 『罪宝』の力をもってすれば、失ったカラテとジツを補うことはできるかもしれない。悪魔に墜ちた肉体を止めることも容易くできるかもしれない。だが、それが意味するところは、姉達自身に自らを殺させることと同義なのだ。

 

「AHAHAHA……!」そうして悲観的な、また致命的な躊躇に陥ったウィッチ――アステーリャに飛来する……青いコウモリ火!防御回避共に不可能!アブナイ!

 

 BOOM!「グワーッ!」異能の炎がまともに着弾!彼女を縛り上げる茨ごと燃え!倍化した痛みと共に青々と炎上する!ああ!ナムサン!「グワァーーッ!アァーーーッ!」何たる魔女裁判火刑めいて残虐なる画か!全身を焼き尽くさんとする鬼火に!超自然の炎熱と苦しみに!叫びながら決死のワーム・ムーブメントで抵抗する!その身に纏わりつく妖炎を、転げ回って地面に!融け剥がれ落ちる装束に!ウケミで移さんと足掻く!

 

「ア……ウ……シル……ヴィ……ルシ……ア……!」姉達の物理的依り代までもが焼失していく中、彼女達の本質たる『罪宝』だけは守らんとその手の内に握る。「AHAHAHAHA……!」「WEEEEEP……!」その様を見た救うべき肉体達が、ブザマを嘲笑うような悦楽的にも聞こえる音を発した。あるいはそれは、遠隔にいる悪魔本体の嘲りでもあっただろうか。

 

「――ア……アア……」既に満身創痍だった。雨によって、そして装束を身代わりに辛うじて焼死を免れたウィッチの身体は、だが黒の下に隠れていた白肌を、殆ど露わにしていた。肢体の彼方此方が折れ、血を流し、焼けくすみ、重金属酸性雨に爛れゆく。冷たく重く、身じろぎ一つできなかった。痛みに肉体が屈したためでもあった。だが動けぬ理由の大部分は、心折れたゆえだった。

 

「「AARGHHHHH……!」」贖罪薊贖罪薊薊贖罪。最早大往生するウィッチへ、またも茨は伸び縛る。「……ッ!……!」無抵抗の魔女を括る蔦のアーチ、絞首刑台めいた棘の塊が悍ましく生い茂っていく。その光景は無慈悲ながら、宗教画の如く神秘的ですらあった。

 

贖罪薊贖罪贖罪贖罪薊贖罪贖罪薊薊贖罪贖罪薊贖罪薊贖罪贖罪薊贖罪贖罪贖罪薊贖罪贖罪贖罪贖罪

 

「AHAHAHAHA……!」そこへ飛び来たるルシエラーゴ、蹴爪振り乱しカイシャクを迫る!ああ、最早オタッシャ、これがフィニッシャーか。遂に訪れた最期、爆発四散すら許さぬ、悲惨極まる死が、永遠の苦痛に満ちた隷属の始まりが、遂に彼女を収穫しようと――SHIIIING

 

01薊贖罪贖罪贖罪薊01贖罪薊10薊贖罪贖罪薊贖罪薊01贖罪薊贖罪贖罪11薊贖罪贖罪贖罪贖罪01

 

「……AARGHHHHH!?」「……ッ」黒雨を、満ちる死の空気を、黒翼が斬り裂く。01に枯れゆく処刑台の手前、凶爪と拮抗するは焼け残った外套の一部、大翼鎌の刃。「……ルシエラ――ルシア……?」茨の枷を断たれ、地に落ちたウィッチは訝しんだ。既に抵抗の意思などなかった。如何に姉は解き放たれたのか?「WEEEEEP……!」ただならぬ事態を受け、確実なカイシャクに踏み切らんとシルヴィアも接近!だが!

 

「GRRRRRRRR……!」「AARGHHHH……!?」突如周囲の煤が集まるように黒狼が現れ威嚇!「……ア……ア……」これもひとりでだった。冷たい夜更けの雨の中、アステーリャの手の内にあった、焼け残った超自然のメモリは、生体端子を介さず、彼女の意思を介さず、融け合うように彼女の内に消えていった。

 

「ロウオオーーーン!」「「AARGHHHHH……!」」大黒狼が威圧的に咆哮し、元肉体に突進!同等かそれ以上の体格差による重量が乗ったチャージ反撃に、流石の茨の眷属も怯み後退った。

 

「……シルウィア――シルヴィ……?」震えるような眼で、縋るようにアステーリャは大狼を見上げた。「GRRRRR……」姉は物悲しく唸り、緑色に光る眼より赤い落涙を一筋流した。刃から翼へと戻ったもう1人の姉もまた、寄り添い抱きしめるように妹を包んだ。

 

01010111110101010101010101010110111010110101010101010101111010101

 

「ア……」再び空気が粘性帯びたように時が凝り、彼女達を01が取り巻いていく。黒雨降りしきる夜はいつの間にか、あの日見た真白い木々の聳える空間へ変わっていた。真四角の黄金輝く空の下、師無き森の中、アステーリャを慈愛的に、だが哀しくも決断を迫るような眼で見やる2人がいた。「……姉……さん……」

 

 彼女達の心中を満たすのは――怒りだった。センセイを奪った悪魔への怒り。悪魔の手に墜ち、いいように扱われる自らのブザマへの怒り。そして何より、他ならぬ自らの肉体が、大切な妹を傷付けることへの怒り。それらは決して許せない、耐え難い苦しみにして哀しみだった。

 

「……ア、アア」刹那、繋がったソウルで、ニューロンで、アステーリャは姉達の苦悩を、望みを、そして覚悟を理解した。2人はとうに決めていた。自らの行く末を、遺された妹が進むべき道を。『罪宝』となった身で自発的に繋がったのも、彼女にそれらを伝えたいがために。

 

――お願い。

 

「ア、ウ、ウウ――」

 

――全て終わらせて。

 

「――ウアア゛ア゛アアアアーーーーーッ!」憤怒、悲哀、悔恨、そして決意――様々な意味持つ叫びが、激情の発露が、01のモノクロ奔流を立ち昇らせる。理路整然とした01が、オヒガンめいたノイズと混ざりあい、森の白は黒へと染まり、その全てが叫びの中心へと向かっていく。

 

0101110罪101断010罪101110罪10101罪0101断001罪010101罪0111010断101罪01

 

「アアアァァァァ……!」宙を舞う煤けた装束の切れ端が、降り注ぐ雨中の重金属粒子が、焼き削がれた肉片が、翼鎌が、黒獣が、周囲の黒という黒が、地に横たわる白磁に集束していく。「ウ、ア……アァ……!」魔女の肢体に纏わり付いて、傷を、骨肉を埋め、白を覆い尽くし染め上げていく黒は、新たな輪郭となり、新たな装束となった。「ア……あ……」流れる鮮血は、焼け爛れた右眼を覆うように集まり固結すると、やがて鬼面となった。

 

0101110断罪10101110断罪101010断罪10101断罪010111断罪011101断罪0101断罪01

 

「……許してくれ」再び装束纏った復讐者――黒魔女はゆらりと、だが毅然と立ち上がった。雨に濡れたその表情は、先ほどまでの星見の少女のそれではない。「……もう迷わない」最早揺るがぬゼンめいた境地の中で、彼女のオメーン奥の眼――断罪者の眼はREBOOTコマンドサインの如く、超自然の緑色光を放っていた。

 

「……ドーモ」

 

 このアイサツは精神安定の為のルーチンなどではない。「……2人とも――」改めて『罪宝狩り』として。『黒魔女』として。そして――。「――私が終わらせる」悪魔を弑するニンジャとして、自己を貫く決意の、覚悟の表れだった。

 

「ディアベルスターです」

 

「AHAHAHAHA!」死地より尋常ならざる蘇り遂げた黒魔女へ、コウモリめいた茨の異形がまたも飛来!降りゆく雨滴を切り裂き飛び来たる!相変わらず見た目以上の飛行性能!ハヤイ!

 

「AARGHHHHH……痛い……AARGHHHHH……!」高速が乗った、恐ろしく鋭利な爪の一撃が黒魔女を刈らんとする!「……イヤーッ!」対するディアベルスターは滑らかに抜重して横臥回避!SLAAASH!横屈む彼女の上を恐爪が薙ぐ!デジャブ!だが此度!卍蹴りめいたカウンターが!「イヤーッ!」上方をすれ違う横腹に躊躇無く突き刺さる!「AARGHHHHH!」

 

「WEEEEEEEP!」空中でよろめき飛び退る傀儡と入れ替わるように、続いて三つ首の異形が援護に掛かる!相も変わらず啜り泣くような音を発し、見た目にそぐわぬ軽快さで巨体が跳躍して迫る!ハヤイ!

 

「AARGHHHHH……死にたくない……AARGHHHHH……!」大質量が乗った、恐ろしく重厚なお手めいた掌打が黒魔女を叩き潰さんとする!「イヤーッ!」ディアベルスター、ジツでダガーを手繰り寄せ、紙一重でスウェー回避!KRAAASH!彼女の至近の地面を重爪が砕く!デジャブ!?だがやはり!僅かに硬直した巨体をダガー斬撃のカウンターで!「イヤーッ!」躊躇いなく斬る!「AARGHHHHH!」

 

「「AARGHHHHH……!」」傷から茨とノイズ迸らせながら距離取る異形を、断罪の黒魔女は真正面から視界に捉え続けていた。「……私が終わらせる」それはまさしく『罪宝狩り』、冷徹に獲物を断ち狩る者の眼!最早慈悲は無い!

 

「「「AARGHHHHH!」」」そこへ監獄より大挙する咎人達!自らを縛る茨の源に呼ばれてか、はたまた生体を感知してか、2体の異形を守るように被冒涜者の群れが黒魔女に押し寄せる!「フゥーッ……!」迫る歪められし生命達を前に、ディアベルスターは呼吸吐き出し、駆けた。

 

 多くが元より罪人だったとて、彼らも姉達と同様、被害者でもある。ここまでされる謂れは無い。「……終わらせてみせる!」最早あるべき死を迎えさせることだけが救いなのだ。

 

「……イヤーッ!」血中を駆け巡る確かなカラテを腕に、握る得物に込め、ディアベルスターはダガーを投擲!その柄から手元に長く伸びるは……クッツキ・ジツの鎖!横回転する鎖付きブーメランめいた刃が茨人形群を取り巻くように、群れの外周を斬りつけ飛び回る!一周した刃が咎人の1人に食い込み固定!「「「AARGHHHHH……!」」」大挙する茨屍体が鎖で縛られ、スシ詰めに纏められて鈍足化!そこに鎖を手繰り駆け来たる……断罪の黒風!

 

「イヤァーッ!」SHIIIIIIING!黒魔女が物理顕現した翼鎌ルシエラの大刃で、死神の収穫めいて傀儡を一纏めに薙ぐ!「「「AARGHHHHH!」」」超自然斬撃を受けた蠢く死体達は、断面から01分解されて不活化のち朽滅!茨の守備盤面全破壊!朽ちた守備の向こう側へと加速して迫る!

 

「「AARGHHHHHHHHH!」」食い下がるは歪められし姉達の肉体!贖罪薊贖罪薊薊贖罪……!辺り一面を埋め尽くす茨の海!津波めいた棘蔦の飽和攻撃がなおも黒魔女を呑み込まんと迎撃!「イヤーッ!イヤァーッ!イヤァーーッ!」SHIIING!SHIIIING!SHIIIIING!ディアベルスター、怯む事なくルシエラを薙ぐ!草刈り鎌めいた死の01切断が易々と茨防壁を切り裂く!しかして未だ壁は厚い!「……イィィィ――!」黒魔女は翼鎌を振るいながら更に加速!瞬間的なカラテの増大と力みに両腕が縄めいて怒張!

 

「――イィィヤァーーッ!」ディアベルスターは回転斬撃の勢いそのままにルシエラを投擲!SHIIIIIIIIIIIIIIII――!斜め旋回する死の翼が!空間すら鋭く切り裂くような音と共に、迫る茨を海渡りの神話めいて断ち割ってゆく!茨が斬り開かれた先、死翼の回転飛行軌道上には……ルシエラーゴ!

 

「……AHAHAHAHAHA!」コウモリめいた異形は巧みな宙返りで回避!SHIIIIIIIIIIIIIIII――!飛び去る死の鎌は背後の夜闇に溶ける!不発か!「イヤーッ!」「AARGHHHHH!?」だが宙のルシエラーゴが怯む!急速な加重に飛行バランスが崩れている!よろめくルシアの元肉体、その片脚に絡み付く赤紫の鎖!それを手繰り辿るように茨波の中より跳び来る――ディアベルスター!先のデスサイズ投擲はブラフか!

 

「AARGHHHHH……!痛い……!AARGHHHHH……!」姿勢制御しながら飛行維持するルシエラーゴ!見苦しくも決死の足掻きを、だがまともに受ければ重傷となる爪の一撃を!既に至近距離の黒魔女へと振るう!「……イヤァーッ!イヤァーーッ!」炎が照らす暁闇の中でダガーが光る!甲高い金属音と共に凶器が拮抗!翼持たぬ黒魔女だが、カラテ打つ反動で未だ空中!なんたる古典物理無視!

 

「WEEEEEP……!」そこへ茨の巨獣が地面より跳躍インターラプト!ディアベルスターを引き摺り下ろさんと「――ロウオォォーーン!」『罪宝』シルウィアのインターラプト!空中に物理顕現した大黒狼の前足が茨狼を叩き落す!「AARGHHHHH!」

 

「GRRRRRRR!」地に伏せた元肉体にマウントしたシルウィアが、中央の獣人体に喰い付かんとする!「AARGHHHHHH!」茨三つ首――シルヴィアは左右の双頭と茨でもって決死の抵抗を図る!互いの異能を打ち消し合う力が働き、膠着!純粋な物理的暴力の押し合いへともつれ込む!「WEEEEP!」「GRRRRRRR!」ヘルハウンドめいた黒狼へ茨絡めながら、異形は体勢立て直そうと抗う!「ロウオォォォーーン!」だが裏切りの大狼も怯まず追撃!「AARGHHHHH……!死にたくない……!」

 

「WEEEEEP!」「GRRRRRRR!」巨獣同士が足元で争う一方で、ディアベルスターとルシエラーゴの空中ワン・インチ攻防は更に白熱――いや!既に均衡は破れつつある!「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」

 

ルシエラーゴは右蹴爪で「――イヤーッ!」「AARGHHHHH!」黒魔女がハヤイ!異形の胸部を前蹴りして反動跳躍!ルシエラーゴは左爪で「――イヤーッ!」「AARGHHHHH!」黒魔女がハヤイ!空中で身を捻り左肩に踵落とし!再度反動ステップ!ルシエラーゴは右爪「――イヤーッ!」「AARGHHHHH!」ハヤイ!ダガーが凶爪を砕き斬る!

 

「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」「イヤーッ!」「AARGHHHHH!」

 

 刃が!拳が!蹴り脚が!ディアベルスターの決断的カラテが!歪められた肉体に終止符を打たんと精度と速度を増していく!一度死した身とはいえ、愛する者を手に掛けるとは、耐え難く許されざる大罪!だが黒魔女に一切の躊躇は無い!ルシエラーゴに未だ意思が遺されていたとしたら、鬼気迫る覚悟に恐怖すらしていたことだろう!当然!茨の傀儡にそのような情緒など存在しない!どこまでも悪意に満ちている!

 

「AARGHHHHH……アス……テーリャ……!」最早意味をなさない虚無の呼び掛けを、無意味なノイズの入った音を漏らしながら、茨はなおも食い下がる!贖罪薊贖罪薊薊贖罪……!瞬間、ルシエラーゴの身から茨が更に生じ、ディアベルスターを空中拘束!「……ッ!」「AHAHAHAHA……痛い……痛い……AARGHHHHH……!」勝ち誇るように狂笑する屍体の周囲で青火が揺らめく!先の茨火刑をまたも執行するつもりか!黒魔女!アブナイ!

 

「……私が終わらせる。そう決めた」だが『罪宝狩り』不退!SHIIIIIIIII――!ルシエラーゴ――悪意のみが存在意義にして源たる茨人形には分からなかった。悲しくも決意に満ちた眼をした、断罪の復讐鬼の心中が。自らの素となった彼女たちの怒りが。そして気付けなかった。――IIIIIIIING!背後より迫っていた、かつてのルシアの本質に。

 

「AARGHHHHHHHHHHHH!?」ワザマエ。ディアベルスターに放たれたルシエラは、ブーメランめいた完璧な軌道で再び黒魔女へ飛び戻り、かつての本体の片翼を迷い無く切断!01断面からノイズと茨が漏れ、立ち消える。重篤な飛行能力の喪失に、二度と癒えぬ部位破壊損傷に、バランスを失った異形の肉体は地に墜ちていく。

 

「AARGHHHHH……!」空が白み始めていた。雨滴が勢いを無くし、地平の光が徐々に闇を灯していく中、仰向けで墜落する巨体に、枯死した拘束茨と共に、断罪者の黒影が落ちてきた。「……イヤァーッ!」「ロウオォォォーーーン!」KRAAAASH!「「AARGHHHHHHHHHHHHHH!」」悲哀の死闘の暁に、悍ましく痛々しい叫びが木霊する。ルシエラ――ルシアと共にディアベルスターがルシエラーゴを地に踏み付けるのと、シルウィア――シルヴィが自身の肉体を組み伏せるのは同時だった。

 

「AARGHHHHH……痛い……AARGHHHHH……」「AARGHHHHH……死にたくない……AARGHHHHH……」命乞いにも思えるようなノイズめいた嘆きを、地面に横たわる2つの巨体が漏らす。「GRRRRRRRRR」シルウィアがそれに答えるように慈悲無く唸った。最初から生きてなどいない。そこに本来宿るべき命が、異形の存在を否定していた。

 

「ア……ステ……AA……RGH……HHH……」「……」力なく唸る姉の肉体だったものを、ディアベルスターは努めて無感情に見下ろした。ルシエラを淡々と肩口に振り上げる黒魔女の姿は、彼女の屍の眼には死神めいて映るだろうか。だが、他ならぬ姉本人からすれば、紛れもなく慈悲に満ちていた。

 

「……サヨナラ」SHIIING。惜別、そして彼女らのアイサツの代弁と共に、黒魔女は頸部へのカイシャクを刈り取った。大狼の姉も、同時に自らの元肉体の中枢をしかと圧し潰した。かくして2体の異形は、再び物言わぬ死体へと戻り、周囲の茨と共に枯れ朽ちていった。

 

「ロウオォーーン……」勝者無きイクサの終わりを告げるような、シルウィアの遠吠えが崩壊した監獄要塞に虚しく響いた。それは悪魔に業背負わされし『罪宝』の咎人――黒魔女へのせめてもの慰め、あるいは自らの2度目の死への手向けか。

 

「……これでいい……良かったんだ……終わらせたんだ」ディアベルスターは静寂の中、ぽつりと言い聞かせるように呟いた。姉達も物言わぬまま、妹に寄り添い続けた。雨上がりの夜明け、束の間の柔らかな陽光に照らされる黒魔女の頬は、だが静かに濡れていた。

 

「ギルト・オブ・ザ・シンフルスポイル」終わり

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「アザミナ・ハマルティア」

 

 監獄より遥か遠方、丘陵に隠された旧時代のテック企業バンカー内部。かつて『白き森』と呼ばれしこの地は悪魔の領域と化し、今や重苦しく暗い、黒々とした茨の樹海に変わっていた。そんな場所を1人歩むは白ずくめの人影。「……遂に戻ってきた……ドーモ――」白装束に身を包む、古典的な魔法使いめいた尖り帽の女――。「――ディアベルゼです」

 

「返してもらうわよ。ここも、何もかも――センセイも」その端麗な顔に軽薄さなどどこにも無い。地下の底知れぬ闇を見据える眼は、『罪宝狩り』と同じ、慈悲無き簒奪者のそれだった。「「「AARGHHHHH……」」」その眼に悔恨宿す原罪の復讐者を、漆黒の茨が、異形のLANケーブルが、悪魔の傀儡が、群れなして歓待する。

 

「MOOAAAAAN……」傀儡達の蠢きの奥で、一際巨大な影が唸りを上げる。正体不明の異形が発する、UNIX走査ライトめいた赤色の単眼光が仄暗い地下をぼうと照らし、それに応えるように、白魔女の右手は超自然の紫色光に輝いた。「……見ていて姉さんたち……センセイ――」

 

「――私が終わらせるわ」

 

「アザミナ・ハマルティア」終わり

「アザミナ・アーフェス」に続く




読んでいただきアリガトゴザイマスドスエ!

 じゃあく極まる展開を乗り越え、黒魔女の覚悟が物悲しくもヒロイックな罪宝の咎人回です。ヴァリュアブルブック読んで「こんなのってないぞ……アザミナいい加減にしろよ……」と何度思ったことか。でもマーケティング的には大正解ですよ!
 アザミナ2体の能力描写については元ネタのカード効果の一部(数値ダウン&万能無効)を基にしました。また、姉弟子2人の罪宝化に伴う名前の変化について、本作品では忍殺本編のエーリアス=サンやナンシー=サンを参考に、本来の身体と大きく異なる姿による自我浸食を抑えるための措置としました。両作品ともつくづく親和性の高い描写や設定が多くて実際都合が良アバーッ!アッハイ作劇の妙です。
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