忍殺×遊☆戯☆王 ディアベルスター・ザ・ブラックウィッチ 作:亜面瞳頭
監獄のディアベルスターを襲撃した茨の尖兵、それはかつて悪魔の犠牲となった姉達であった。死してなお謂れなき罪の業に苛まれるルシアとシルヴィを前に、躊躇する黒魔女は敗北寸前まで追い詰められるも、彼女達の魂に悲願を託され、決断的なカイシャクで打ち破る。一方、彼女の故郷ではもう1人の家族、『白魔女』が、罪の始まりに終止符を打たんとしていた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そこは黒が犇めく空間だった。光差さぬ人造の広大な地下、黒ずんだUNIXサーバー機器群から、刺々しいLANケーブルめいた漆黒の茨が四方八方に伸びて辺りを埋め尽くす。黒墓石の乱立するハカバ、あるいは古代の石造遺跡のような様相なすこの場所では、あらゆる装置がエラーコード赤色点灯しながら、だが何かしらの冒涜的演算処理を行っている。
ここは旧世紀のハイテック企業が遺したデータバンカー、かつて『白き森』と呼ばれし地だ。『魔女』が住まうとされたコードロジストのカバル跡へ、旧時代の電子遺産を手に入れようと、およそ10年もの間、スカベンジャーやローグ・ウィッチ、メガコーポ、ヤクザ……あらゆる人種が足を踏み入れ、そして誰一人戻らなかった。今や真偽不明の曰く――誰が呼んだか『白き森のわざわい』――が付いて回る危険地帯と見なされ、誰も立ち入れぬよう埋め立てられ、近付く者は絶無だった。
「返してもらうわよ。ここも、何もかも――センセイも」そうした黒闇の中、一人佇む白影あり。彼女こそもう一人の『罪』の復讐者、『原罪』の『白魔女』ディアベルゼ。不穏な風に揺れる彼女の黄金の長髪は実際優美で、だが毛先は黒紫に妖しく染まっていた。「MOOAAAN……!」「「「AARGHHHHH……!」」」毅然とした彼女の眼前、深淵から異形達が歓迎の叫びを上げる。
「お出迎えね……アザミナ」おお……!なんたる冒涜的で悍ましき響き!読者諸氏の自我は健在だろうか!白魔女が平然と、だが忌々しく口にしたこの言葉こそ、『白き森』に斯様な厄災もたらした悪魔の諱である!
「AARGHHHHH……」悪魔――アザミナの傀儡が1体、呻きながらゆらりと、群れから前へ出る。主体無き茨の端末が、本体の意思をもって侵入者を試すかのように、ディアベルゼにぎこちなく迫る。「……アイサツ代わりってわけね」「AARGHHHHH……!」ジョルリ死体が早回しのストップモーションめいて加速!コワイ!
「AARGHHHHH!」CGバグ挙動が実体化したような悪夢の如き蠢きが白魔女を捕らえんと「イヤーッ!」「AARGHHHHH!?」暗所に鈍音響く!
「荒事なんて趣味じゃないのよ……」骨肉軋んで怯む茨端末を打ち据えるは、白魔女の持つマジシャンズ・ロッドめいたボー!白木に絡みつく鴉の意匠が妖美!
外見こそ実際ティピカル、だが彼女はトゥーンの魔法使いに非ず!その手に握るは荒唐無稽なマジックアイテムなどではなく!耐衝撃ハンドヘルドUNIXを柄頭に備える、極めて実践的で無慈悲な近接武装!杖でしばく!「……それでもやるしかないの」「……AARGHHHHH!」傀儡死体は依然活動継続!肉体の物理損傷を度外視して蔦の生えた肢体を振りかざす!だが!
「イヤーッ!」白魔女は最小限の体捌きで掴みかかる腕を躱し、カウンター気味にアザミナ傀儡の頭を鷲掴む!「TAKE IT!」右腕と同化している微睡の『罪宝』モーリアン、モノの意思・情報伝達へ干渉する超自然遺物でニューロンを直にハック!ZZZZT!「アバババババAARGHHHHH!」電流迸るような異音と共に、茨の人形が痙攣して力なく倒れ伏す!
「AARGHHHHH……」「お気の毒様……!」ディアベルゼはやるせない様子で、傀儡の頸部を踏み砕いてカイシャクする。「ペケロッパAARGHHHHH!」ペケロッパ・アザミナ沈黙!慈悲!「MOOOOAAN……」闖入者の抵抗に対して、暗がりの巨影が警戒サインめいて赤色単眼光を妖しく光らせる。白魔女を明確に排除すべき存在と認めたのだ。
「「「ザッケンナコラAARGHHHHH……!」」」それに応えるように、闇の奥から冒涜ノイズ交じりのスラングが発せられる。BLAMN!BLAMN!BLAMN!クローンヤクザ・アザミナ集団が覚束ない手で発砲。生前の得物を扱えるだけの精密性があるのだ。「イヤーッ!」白魔女は疾走と共にボーをバトントワリングめいて回転させ、飛び来る弾丸を弾く。優美!
「……貴方達もマシに生きられたはずなのに……!あの日私が――」「「「ワドルナッケングラAARGHHHHH!」」」BLAMN!「イヤーッ!」BLAMN!「イヤーッ!」BLATATATA!「イヤーッ!」仄暗い地下をマズルフラッシュが照らす度、白い風が軌跡を描いて駆け抜ける!
「イヤーッ!」「グワAARGHHHHH!」「イヤーッ!」「グワAARGHHHHH!」「イヤーッ!」「グワAARGHHHHH!」ディアベルゼは量産型黒服の1体1体に肉薄、関節打撃で武装解除して回る!黒闇に白風が舞う最中、装飾された雪白の耐重金属汚染ローブコートが翻るのとは対照的に、右腕は超自然の黒紫残影を残す!
「イヤーッ!」茨の黒服集団の周囲で躍っていた白色残像が一点に集束!「……いつ見ても忌々しいわ」その右手に握り締めるは……傀儡達から生える茨のケーブル!「DAMNED!」ZZZZZTT!「「「アバババババババAARGHHHHHH!」」」中枢へと繋がる冒涜LANケーブルから、直にモーリアンの異能を注ぎ込まれた死体達は、オーバーロードによるニューロン断裂につきまとめて不活化!ワザマエ!
これがディアベルゼのイクサ。自らの罪ゆえに、アザミナの力を知る彼女ならではのスマートなやり方、原罪の白魔女の兵法なのだ。「「「AARGHHHHH……!」」」対する茨の軍勢は包囲展開し、依然勢い衰えず!しかして白魔女も不退転!「来なさい……全て私が終わらせる!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「キック・アス・ゴブリンライダーズ」
柔らかに日の差す夜明け、瓦礫の廃墟と化した監獄跡に佇む『断罪』の『黒魔女』ディアベルスター。「……」朽ちゆく姉だったものの肉体を前に、彼女は目元を拭うと、やがて焼け落ちた壁を振り返った。
「「「AARGHHHHH……!」」」親機と子機のようにリンクしているのか、姉達の再死に伴い、彼女らによって傀儡となっただろう咎人の生き残りの断末魔が、辺りで響き渡る。彼らが蘇ることはない。二度と。
刑務所における超自然的な大量死と施設の崩壊を、社会はどう欺瞞するのだろうか。暴動?爆発事故?言ってしまえばこの惨劇の元凶は自分にある。欲望に塗れた者達も、控え目であまり邪悪ではない者達も、自らの罪の巻き添えを被った末に破滅した。
「……進むんだ……先に」それでも今、自分の行いが果たして正しかったか、他に打てる手があったかなど、過去を省みても事は進まぬ。悪魔との決着を付けねば誰も彼も浮かばれぬ。仮にこれまでの選択が全て間違いだったとして……後悔など――KADOOOM!
「……ッ!」視界の十一時方向、轟音響く!「――ワーッ……!グワーッ!」続けて粉塵を突き破り、何かが黒魔女の眼前へ吹き飛び来たる!「――よ……よう」「……生きてたか」
ディアベルスターの足下まで吹き飛ばされ、仰向けスライディングして来たるは……我らがオヤブン、ビッグヘッド・ガボンガ!「おっかねぇ黒魔女サマに殺されたくねぇからな、ヘヘ……!」ジツによりバルクアップした身体の彼方此方には痛々しい傷。ボスの貫禄!
「――AARGHHHHH……」「「「――グワーッ……!」」」倒壊煙幕の向こうから未だ聞こえる争いの音。劣勢か。「……ヤベェ!」ガボンガはネックスプリングして復帰、駆け出す彼にディアベルスターも続く。
「お前の方は……もうやったのか」「……ああ。終わらせた」並走しながら含みある風に答える黒魔女を、オヤブンは訝しんだ。「お前、何か変わったか」対する彼女は、努めてタフに返した。「……もう迷わないと決めただけだ」「そうか。何か知らねえが、迷わねえのはいいことだぜ!」
「……そっちの首尾は?」「雑魚は片付けた。だが奴さんピンピンしてるぜ。ムカつく程にな!」「……助けが要るか。まだユウジョウなんだろ『オヤブン』?」「ア……?お前やっぱ何か――」「ルオオオオーッ!」「AARGHHHHH!」未だ晴れぬ視界向こうの死闘を間近に、オヤブンはどこか吹っ切れた様子の黒魔女への言葉を呑み込み、目元からずれたマスクを着け直した。「――ああ、頼むぜ『センセイ』」
「――アッ!オヤブン戻ってきたぞ!」「黒魔女もだ!」「ヤチマイナ!」倒壊したコンクリート煙幕の先、即席ドリームチーム結成にゴブリン達が沸き立つ。異形鎧と巨獣のイクサを取り囲む悪鬼集団は、幾人かが入れ替わり立ち代わり、レイドボスめいてエリュシクトーンへの攻勢に出ている。夜を超えて未だ犠牲者はゼロ!奇跡!
「ルオオオオオ!」「AARGHHHHH……!除去……!」モータルの寄せ集めたる彼らが、元ニンジャの異形相手に食い下がれている要因はこの大饕獣。如何な理由か、エリュシクトーンはクレイジー・ビーストに固執しているのだ。
「AARGHHHHH……!」贖罪薊薊贖罪薊!地面より生じる慈悲無き茨!「ルオオオーン!」巨獣は自身へ向かう茨を真正面から踏み砕く!「ルオオーッ!」勢いそのまま、前肢を茨鎧へ叩きつける!「AARGHHHHH!」強靭なる茨の異形は蔦張り巡らせ、斧槍構えてこれを受け止める!両者打点拮抗!
「真横がガラ空きだぜェー……!」「いいぞデカブツ!今度こそ俺たちでキンボシ・オオキイだ!」「イーハハーッ!」怪物同士の死闘へインターラプトするはダグ率いるサンシタ!それを地面の茨が無造作に露払い!「「「グワーッ!」」」明らかな打点不足!ゆえにサンシタ!
「イヤーッ!」吹き飛ぶゴブリン達を黒風が引っ掴み、周囲の取り巻きへ投げ渡す。「――黒魔女ォー……!」「ユ、ユウジョウ……!」「……邪魔だ。大人しくしてろ」ディアベルスターは相変わらず不愛想にこぼし、だが慈悲的な眼で彼らに一瞥をくれた。
「あんまりコブンを虐めないでくれねえか――ウオッ!」蔦の一薙ぎを避けながらガボンガも死合へ加わる。「……お前も休んでろ。アレは半端な力じゃいつまでも斃れない。そういうヤツだ」「ヘッ!ここで気張らねえボスなんざカスだぜ!」オヤブンカッキェー!
「ルオオオオオ!?」巨獣の四肢を茨が拘束!「AARGHHHHH……除去……!」エリュシクトーンの攻撃の矛先はガボンガへ!頭目から墓地送りにし、士気を挫かんとする気か!知性的!滑るように茨蠢く鎧が急接近し、恐ろしき斧槍を振り抜き、オヤブンを真横に斬り裂かんとする!
「ヒャッキ!」ガボンガは低空跳躍し、薙ぎ払いを側中回避!「あんまナめんなよ……!ラセツ!」身を捻りながらカラテ掌打!「AARGHHHHH」贖罪薊薊贖罪薊。エリュシクトーンは寸前で茨張り巡らせ防御!「……グッ!」ガボンガはカウンターで手傷を負う!
「AARGHHHHH」ウカツな。茨鎧の怪異はそのような嘲笑的意図が取れるように呻き、反撃の斧槍を振りかぶる。オヤブンアブナイ!「……俺以外を忘れてるぜ、鎧野郎」リーダー動じず!「オオオォーン!」イクサを取り囲むゴブリンモッシュから咆哮挙げて跳び来たる……ガボンガの獅子!
「AARGHHHHH!」茨オバケは超常的反射速度でこれにも対応――「イヤーッ!」獅子の背より黒影が躍る!茨に阻まれるサイバネ獅子を足掛かりに跳躍急襲するは……ディアベルスター!
「イヤーッ!」ガラ空きの胴体部へ!渾身の旋風脚!カラテが骨肉から金属を伝導して突き刺さる!ズガンとした衝撃が、鎧貫き茨の中枢を揺らす!「AARGHHHHH!」「でかした黒魔女!」
0110薊01111101贖罪110111薊0111010神女1011101薊01101010贖罪0110薊101010
瞬間、電子ナノ秒まで圧縮されたニューロン速度の中、ディアベルスターの右眼は超現実のレイヤーを映していた。気付けば彼女は、黄金立方体の照らす荒野を飛翔し、肉眼の視界に重なるように、拡張現実めいて01が織り成す空間を俯瞰視していた。(((これは……)))
はるか上空に浮かぶ、不可思議な輝く物体は、これまで自らの精神世界と思しき場所で幾度か見たものと全く同じだった。この世ならざる情景はまるで伝承のオヒガン、あるいはハッカー達の伝説に謳われる――コトダマ空間か。
視界の遥か下方、多数のIDに囲まれた、歪みねじくれたノイズの塊に、自らが赤紫の攻性コマンドを撃ち込んでいる。その直後、Az@mina:ErysichthonとID定義された不明瞭なオブジェクトから茨が生長し、大地を這っていくのが見えた。
(((あの鎧に触れて……いや……シルヴィ達と繋がったから?)))この光景の理屈や理由は不明ながら、黒魔女は電子の空間を伸びる、分岐増殖続ける茨を追うように宙を駆けた。刺々しい論理ケーブルはシナプス回路めいて複雑怪奇に絡み合い、所々の結節点で淡く光る。茨による無線LANアクセスポイントなのだ。そのIPの大半は旧企業廃墟や軍事基地跡等々――これまで『罪宝』が確認された地所――に遺されたデバイスだった。
やがて茨が一筋に収束する最果て、電子ノイズ吹き荒れる暗黒領域で彼女は見た。禍々しき贖罪神女のIPを。その近くにて点滅するDiabellze@WFと、それを取り囲む、尋常ならざる数のAz@minaのアドレス群を。(((――リゼット……!)))
0110薊01111101贖罪110111薊0111010神女1011101薊01101010贖罪0110薊101010
「AARGHHHHH!」よろめく茨鎧の叫びが、ニューロンを現実へと呼び戻す。ディアベルスターが刹那に見たあの景色、IPの物理所在は紛れもなく――『白き森』。苦し紛れの斧槍の薙ぎを、蹴りの反動跳躍で回避しながら、彼女は確信した。
あの日から年月が経ち、超重篤汚染廃棄物処理めいて荒野に埋め立てられた地下壕は、今や正確な在り処など誰も知り得ない。それに反して、目の前の異形をはじめ『罪宝』の災禍は世に出回り続けていた。外部と物理的に隔てられたはずの悪魔とその手先が、如何にその災い振り撒いていたのか。その答えの一端は今の景色に。
茨は電子機器を通して現実へ顕現、干渉する。全ての茨は目に見えぬ形で繋がっている――01の世界を、オヒガンを介して。ゆえに、この茨の秘匿通信パス――言うなればVPN――を辿れば罪の根源に、悪魔の根城たる『森』に、再び辿り着ける。黒魔女は瞬間的にそう状況判断した。
「ヘヘッ!もう一発くれてやれ!」「ルオオオーッ!」茨拘束を引き千切ったビーストがエリュシクトーンの背後より前肢を叩きつける。「AARGHHHHH!」黒魔女の一撃で隙の生じた異形は、遂に超重量の下敷きになってもがく。守備力はゼロだ!
「イピピーーッ!」「トドメヲサセー!」カイシャク待ちの異形を見てゴブリン達が沸き立つ。ファオンファオンファオン……だがそれに水差すような電子音群が遠くからドップラー反響する。マッポサイレンだ!「ゲッ!今頃来やがったぞ!」
崩壊前の監獄より応援要請があったか、はたまた通報されたか、マッポーの世においても職務に忠実たらんとする彼ら司法の働きは実際高潔である。だが。「……間の悪い……!」咎人しか存在しないテロ決行現場めいたこの場、法の介入はケオス以外の何物も生まない。却って悪魔の贄が増えるばかりだ。
そんな折、ゴブリン包囲に割り込んで別の闖入者がエントリー!「「「ドーモ!」」」ディアベルスターの視界を新たな影が横……横切……横切り……緩歩!視界の隅を独特のリズムで歩むリクガメめいた重サイバネ獣、その上に3人!「「「トロイカ・グリアーレです!」」」
「あっ!」「三傑だ!」「ウオオーッ!」サンシタ達が歓声上げる!「よく来た!お前らがいりゃ勝ったも同然よ!」ガボンガも太鼓判押す!彼らこそがゴブリンライダーズでも屈指の実力者達、人呼んで『グリアーレ三傑』!その1人が付けているサイバネグラスには「三傑いればスゴイ」の電子ショドー表示。説得力!「……」そんな彼らを見て何か思い立った黒魔女は、決断的な眼で迫った。
「……おい」「アッ!お前が噂の黒魔女か!」「本来なら我らの輝かしき功績の礎となってもらうところだが!」「実際今はエマージェンシー。ボス直々にwin-win協力関係要請な。我々は寛大です」「……そうか」黒魔女は真顔で甲羅から三傑を引きずり降ろすと、その背にどっかと座った。
「……借りるぞ」「アイエッ!?」「何たる非道!三傑が愛亀は我らが聖域!こればかりは譲れぬ!」「実際イレギュラーな。交渉には応じません」「よこせ」頭上より睥睨!「「「アッハイゴメンナサイ」」」無慈悲!
「オイ黒魔女――」「1秒でも惜しい。足が要る。そこのデカいのもだ」「……ASAPか」「ASAPだ」「……それを先に言え。何か策があんだな。……すまねぇお前ら、色々事情でな。だがこれも俺達のイサオシの為だ!」ガボンガが奥ゆかしくも威厳あるフォロー!「……いいだろう黒魔女!オヤブンに限って間違いは無いからな!」「我ら三傑はビッグヘッドが為に!」「実際ボスの意思は最優先尊重な。我々は柔軟です」交渉成立!
「ルオオオォーーーン!」「AARGHHHHH……!」オヤブンは未だエリュシクトーン踏み敷く大饕獣の背に跳び乗ると強化カーボン製手綱を取り、サイバネ亀上のディアベルスターへ投げ渡した。「ただし交換条件だ黒魔女!」「……何だ」「俺達も連れてけ!」「イピピーッ!走り足りないんでな!」
これぞ阿吽の呼吸か、ガボンガが号令掛けずとも幹部格ゴブリン達が次々とビーストの背に跳び乗る。「思えばアタシら、アンタのゴタゴタに巻き込まれた被害者よねーッ!」「そこの鎧野郎のボスにケジメさせる権利はあるわなァー……!」「……!」黒魔女は何か言いかけて、逡巡した。
ディアベルスターはガボンガ達がこれ以上自らと関り持つのを良しとしたくはなかった。彼らは無関係だからだ。一方で、彼らの内にある矜持や考えを、理解できないわけではない。訳も分からず裏で糸引く何かに翻弄される様が、誇りある悪党共は気に入らないのだ。
要するに理不尽がムカつくのだ。実際共感はできる。それは他ならぬ彼女の原動力の一端でもあったからだ。ゆえに一瞬の間の後、彼女はオヤブン達を見ずに手綱を結びながら答えた。「……勝手にしろバカ共」「交渉成立!ヤッター!」ブーンとクラッタがハイタッチ!
「オヤブンドシタンス!」「マッポが来てる!そいつは速攻で仕留めるべきですぜ!」「AARGHHHHH……」「聞け!」周囲のサンシタ達の逸りを遮る、良く通る声でガボンガは一喝した。一瞬で牢獄廃墟の喧騒は静寂へ変わり、遠くからサイレンが迫るのみ。「俺達は今!ビッグになれる綱渡りの上にいる!渡りきるためのボーをそこの黒魔女が持ってる!」欺瞞交じりの喩え話だ!
「だが渡るのを横から引きずり降ろそうって奴らが今来てる!」「マッポ!」誰かが叫んだ。「そうだ!そこでだ!親愛なるコブン達よ!俺達が真のアウトローになるためにも、ここで殿の役を引き受けちゃくれねえか!」傍目には無理のある説得!「「「「「ヨロコンデー!」」」」」だがオヤブンに異を唱える者はいない。ビッグヘッド・イチバンだからだ!
「オヤブンの不在分は俺達が預からせていただきますぜ!」「こちらの指揮は我らにお任せあれ!」「久方ぶりに戦場でボスの手足となれる。我々は実際至福です」三傑もキアイ十分だ!
「ハッハァー!栄光は俺達のものだぜ!景気付けだ!俺達バッド・アス!」「「「「「ゴブリンライダーズ!」」」」」そして散開!「暴れ足りねえんだよ!」「ヤテヤルゾ!」「俺達の満足はこれからだ!」「オヤブンバンザイ!」リーダーへの忠義胸に監獄跡地より飛び出し、大挙して公権力迎え撃つゴブリンの軍勢!これぞソンケイの極致!
「……」どこか思うところある顔で、ディアベルスターはケモノの首領の背中をまじまじ眺めると、ぽつりとこぼした。「……ユウジョウ」「何か言ったか?」「……イヤーッ!」間髪入れずに自身が座る甲羅に踵を振り下ろす。「ゲェーッ!」サイバー亀は首手足を甲羅に引っ込め畏縮!「……行け!」黒魔女はすかさず手綱張って巨獣を促す!「ルオオオーーン!」「ウオッ!急だなオイ!とにかくモノドモデッパツ!全速前進だ!」「「「ヨロコンデー!」」」
「ルオオオオーーッ!」「AARGHHHHH!」足元の異形を轢き潰しながら、クレイジー・ビースト、唯我独尊の疾走!黒魔女を乗せた甲羅は大地駆ける超質量に引きずられながら加速していく!「……AARGHHHHH!」エリュシクトーンは感情があれば怒りに該当するのだろう唸りを上げ、ひしゃげた鎧で茨動かし、彼女らの後を追う!
一方サンシタ達は警官隊と衝突!「ちょっとやめないか!」「イーハハーッ!」「止まりなさいアナキスト達!」「我々は何をするか分からんぞ!」「セッテメコラー!」「俺達の道連れになってくれよォ!」「強度反抗重点!K9に至急応援――グワーッ!」「マッポが何だオラー!」「マッポーで公僕ナンオラー!?」不憫にも無法者に揉まれる法の番人達!職務全うしているだけの身でここまでされる謂れは無い!カラダニキヲツケテネ!
「……」胡乱なケオスの喧騒遠ざかる夜明けのイクサ場を、追いすがる茨を、背後に警戒しながら、黒魔女はみたびのセンチメントに耽っていた。忌まわしき過去、姉達との2度目の決別――そしてリゼット。だが、此度の感傷は後ろ向きの内省ではない。
「……進むんだ……全てを終わらせるために」自分の行いが果たして正しかったか、他に打てる手があったかなど、過去を省みても事は進まぬ。悪魔との決着を付けねば誰も彼も浮かばれぬ。仮にこれまでの選択が全て間違いだったとして……後悔など――死んでからすればよい!
走れ!ディアベルスター!走れ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「「――AARGHHHHH!」」」『白き森』の茨蠢く暗海、バンカー内の彼方此方に転がる、物言わぬ死体に戻った茨端末を踏み越え、アザミナの軍勢は依然として白魔女に襲い掛かる!
「イヤーッ!」ディアベルゼは陸上高跳びめいてギミック伸長させたボーで跳躍、高所よりクナイダート様の何かを複数投擲!「「AARGHHHHH……」」アザミナ傀儡の何体かに突き刺さるもノーダメージ!打点不足!「「「「「AARGHHHHH!」」」」」自ら茨包囲網の只中に降りゆく白魔女へ、旧世紀ズンビースカム映画の如く集団が殺到!これではウカツにも自殺行為!そう思われても不思議ではない!だが!
「イヤァーーッ!」白魔女は打設された強固な床へ、ひび割る勢いで6フィートボーを突き立て!「イヤーーーッ!」それを軸に手足絡めて回転迎撃!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」薙ぎ、突き、360°全てに対応した、曲芸にも似た蹴りの応酬!「「「「「AARGHHHHH!」」」」」ポールダンスめいた優美な舞が悪魔の誘い手をあしらい、包囲を押し返すが!打点不足!
黒魔女と比べ、ディアベルゼのカラテは速度に優れる一方、破壊力に欠けている。何かを待つように茨包囲を捌き続ける彼女だが、このままではズンビーものにて物量差に磨り潰される孤軍奮闘シーンめいた死――「イヤーッ!」白魔女が鋭く軸に沿って回転上昇!時が満ちたか!
「貴方達に……私の出来る贖いはこれだけなの……」白魔女は告解するような声色で、驚異的バランス感覚でボーの頂点に逆立つ。彼女が右手で柄頭のデバイスを掴み倒立する杖、そこに巻かれるは多数の茨LANケーブル。先の迎撃で絡め取っていたのだ!
「DAMNED!」さながら樹木のような様相なす杖の末端で、黒紫の輝きが発散される!ZZZZTT!モーリアンの光が原罪の樹の樹冠から放たれ、絡み合う根――茨からその持ち主達へ流し込まれる!「「「「「アバババババババAARGHHHHH!」」」」」
アザミナ包囲網が電子ミリ秒の狂いなく一斉に痙攣!包囲の外縁、明らかに白魔女の手中に無い蔦にまで異能が伝わっている!鍵は彼女が跳躍の際に放ったクナイダート様デバイスにある!アザミナ端末の幾体かに噛ませたそれらが、トランスミッターめいて超自然パルスを増幅・発信、効果範囲を延長しているのだ!
「……後は貴女よ」ニューロン伝達を遮断された傀儡群が死屍累々と横たわる真ん中に、ディアベルゼは再び降り立つ。刹那、不気味な程の静寂が広がっていた地下は、贖罪者の足掻きを静観していた巨影の羽ばたきが生む、不穏な黒風に満たされていく。
「AARGHHHHH……ドドドーモモモモーモーモー……ア贖ザ罪ミミミ薊ナ……レ、レレレジーナ、ナ、ナナナ……MOOOAAAANN!」異形の巨体が不気味極まるバグ音声めいたノイズ交じりにアイサツ。その姿はもはや名状しがたいという表現すら生ぬるい!どこか鴉を想起させる、女性的フォルムで大翼携えた白磁の上半身に、渦巻き絡み合う茨蔓が大蛇の如き下半身を構成する、まごうことなき怪異である!
「ドーモ……モルガナ=サン――ディアベルゼです」対する白魔女は伏し目がちに返答した。「AARGHHHHH……アナタの所為……全てアナタの所為……MOOOOAAAANN!」サーチライトめいた単眼を妖しく光らせながら、恨み節の呻きを茨怪異――レジーナが漏らす。これもまた生ける屍、当然オリジナルの意思は既に無い。自我を有しているような言葉も、超越者による悪意の介入に他ならないのだ。
「……そうよ、全て私の所為……貴女がそうなったことも」対するディアベルゼ、レジーナの発する呻きが元となった者の言葉ではないことを理解しながらも、心底内省的に俯く。「だから――」だがアブナイ!イクサにおいて感傷は「――私が決着を付ける!」覚悟の眼で疾走!二面性!
「イヤーッ!」ディアベルゼは跳躍!サーバー筐体を壁蹴りし、レジーナの頭部目掛けて一足飛びに距離を詰める!「AARGHHHHH!」異形の一つ眼がいっそう輝きを増す!それに呼応するように、白魔女の右腕も超自然の光を強める!
「DAMNED――!」ZZZZTT!彼女がかざす右腕から永遠の眠り齎す輝きが、アーク放電めいて放たれ「MOOOOOAAANN!」それより一瞬速く異形翼がサイクロン巻き起こす!「――ンアーッ!」閉鎖空間に巻き起こる大嵐が、尋常ならざる風圧と茨で白魔女を削り吹き飛ばす!番人の巻き起こす破壊が大型サーバー機器を2台巻き込むも、冒涜演算に支障なし!
「AARGHHHHH……!」「ンアーッ!」サディスティックな甚振る風が、未だ空中のディアベルゼを容赦無く襲う!薄刃で鋭く刻むような激痛は即死には至らせない、長く苦しませる為のもの!それはこの施設に潜む茨の首魁の意思、悍ましき悪意に他ならない。だが悪意の本領はこれからだった。
(((――DAMN)))上下逆さまの視界で白魔女は内心毒づいた。「「「「「AARGHHHHH……!」」」」」レジーナを中心に床から生じる茨が、自身が先ほど永遠の安寧に導いたはずの犠牲者達、その身に再び茂って彼らを再起させていくのを見ながら。「振り出しってわけね……!本当に悪趣味――ンアーッ!」風に浮かされ身動きも満足に取れず、これではカラテでもって状況打開もままならない。
「MOOOAANN……!」茨鴉の異形はディアベルゼの無意味な足掻きを嘆くような、嘲るような音を発した。「「「「「AARGHHHHH!」」」」」眼下の暗闇からは、嘲笑の声が大勢となって白魔女を待ち受ける。自身の行いは全て上位者の前には無力、まるでマジックモンキーの寓話か。
(((――貴女が応えてくれなくて今ほど辛い時は無いわ……)))吹き荒れる暴風に揉まれる最中、ディアベルゼは物言わぬ右腕を見やった。黒紫に光る、鴉羽の意匠持つ異形の腕。白魔女と同化した自我無き『罪宝』は、かつて彼女を救い――そして彼女に殺された者。センセイたるディアベルとも親交のあった『大魔女』と呼ばれしハッカー、モルガナ。その魂と肉体の成れ果てが今、相対している。
「AARGHHHHH……アナタの所為……MOOOOAN……」渦巻く風の向こうから、宙の白魔女を赤眼が恨めしく覗き込む。相変わらずこの言葉にモルガナの意思は無い。それでもあの日から、自らの犯した罪の表れと共に生きてきたリゼットにとって、それは事実に他ならなかった。
01原罪1100001原罪1110010111001原罪0101011101010010原罪011110010101011
幼き日、センセイの力によって生きながらえた黒魔女と白魔女。だが、肉体の主導権を茨にハックされたリゼットは、アザミナの傀儡となって禍を撒いた。茨蔓延る身を血に染め、ディアベルの残滓によって強固に守られたニューロンの奥底に、悔恨や悲哀の澱を溜め続けながら。
茨の『端末』となる肉袋の確保に設備拡充のための略奪、あるいは意味の無い殺戮……。茨の主に命じられるまま、彼女は各地の廃棄UNIX施設に飛んでは、居合わせた探索者や企業傭兵にその蔦を伸ばし、時にニンジャでさえ手に掛けた。その度にどうしようもなく虚ろな目を泣き腫らした。
(((アイエッ!女児オバケナンデ!?)))(((アババーッ!)))(((こんなの嘘だ……俺はニンジャなのに……ナンデ……)))(((ナンデ……)))(((ナンデ……)))(((ナンデ……)))
心では望んでいない暴虐を、だが自身の身体が確かに行う様を、彼女はむざむざと見せつけられてきた。それは茨で出来た椅子に縛り付けられながら、残虐スナッフフィルムを強制的に視聴させられるような拷問に等しい。年端もいかぬ少女の自我に、犠牲者達の断末魔の嘆きはいつまでもリフレインし続け、やがてそれは彼女の意思と混じり合ってニューロンの内に融けていった。
(((どうして私はこんな酷い事を?どうしてこの人達は死ななくてはいけなかったの?ナンデ?)))理不尽の押し付けに思考停止は出来ず、また逆らうことも出来ないまま、陰惨たる支配の中で自問を続けた。
しかして全てはサイオー・ホース、転機は良くも悪くも突然訪れた。狡猾に張り巡らされし茨の恐ろしき陰謀、その一端としてリゼットに命じられた仮想大敵の排除、その目標がモルガナだった。ここで負けていればどれだけ救いがあったかと、彼女は今でも思わずにはいられない。そして死闘の末、彼女は生き延びた。生き延びてしまった。
だが、奇しくもこの一件で、彼女は肉体の自由を取り戻した。死にゆくモルガナ――マトウ・ニンジャが遺した秘儀によって。精神に作用する
ナンデ……ナンデ……ナンデ……。そうしてアザミナの支配から抜け出してもなお、ニューロンに絡みついた茨の枷の感覚を忘れる事はできなかった。自らの内で残響する自他の無念は、不条理への情念は、いつまでも消えず、今も彼女と共にある。ナンデ……ナンデ……ナンデ……。
01原罪1100001原罪1110010111001原罪0101011101010010原罪011110010101011
(((――ナンデなんて……決まってる。何もかも私の所為)))明滅する片腕と共に黒嵐に削られゆく中、白魔女は自嘲した。(((ああ、嫌になる。結局私は彼女に……皆に赦されたいだけ。それでも――)))彼女のニューロンに浮かぶは、これまで自らが殺めた犠牲者、姉達、センセイとその知己、そして――泣き虫の妹。
「MOOOOOAAAANNN!」「「「AARGHHHHH!」」」不気味な叫びはノイズをさらに増し、圧増す渦巻く風の包囲は、周囲の茨とサーバー、そして傀儡をも巻き込んで、いよいよ真空のミキサーめいて白魔女を削がんとする。ああディアベルゼ!このまま終わってしまうのか!
「――こんなことで本当に赦されるなんて思ってないわ」吹き荒れる茨竜巻の中心で、切創に塗れながら白魔女は眼を見開いた。モルガナ宿る腕と同色に光る左目で、心底に溜まった澱のように青暗い右目で、謂われない罪を負わされたアザミナの使徒達を見た。「それでも――」
「――貴女達を解放するまで……私は死ねない!」覚悟の眼が光る!「AARGHHHHH……?」事変は傀儡の1体から始まった。KBAM!何かを訝しむ茨の内から小爆発!「アババAARGHHHHH!」茨焦がす何かが死体の内で燻り燃え広がり!淡青の光が人体自然発火めいて燃え盛る!
KBAM!KBAM!「「「アババAARGHHHHH!」」」1体目の焼失を皮切りに、アザミナ傀儡が次々と同色の輝きに焼かれていく!「「「グワAARGHHHHH!」」」地下に再び断末魔轟く!KBAMKBAMKBAM!「「「「「アババババAARGHHHHH!」」」」」おお……ナムアミダブツ!超自然の灯はLED冷光の如く、熱と実体伴わず、その茨と肉体だけを浄化するように爆ぜて『森』を照らす!
「MOOOOAANN」「ええ……痛いわよね……怖いわよね……」未だ破壊の風止まぬ中心に、先ほどまで翻弄されるばかりだったはずの白魔女は両の足で降り立った。彼女の周囲で暴風圧を遮るように、多数の何かが防御壁めいて取り巻いている。果たして彼女は如何なマジックを――ああ……!見えただろうか!風に翻る白魔女の装束を、帽子の裏地を!
「……私も一緒に感じるわ。悲しみも恨みも、ずっと一緒に背負うわ」見えただろうか!聞こえただろうか!ディアベルゼの右目と同様の暗青色に冷光発する装束の裏地、そこに犇めく茨の犠牲者達の無念を!怨嗟を!(((ナンデ……ナンデ……ナンデ……)))青暗いネオンスクリーンめいた生地に、融け合う眼口が浮かんでは消えていく!コワイ!
これぞディアベルがリゼットに遺した力、死した魂をその身に宿し使役する禁断のジツである!ニンジャ、それ以前にUNIX技術者たるウィッチのセンセイが、何故オヒガンめいた魔術的異能を有していたのか、それはいずれ明かさねばなるまい。一つ確かなことは――彼女のイクサはここからが真のバトルフェイズだ!
「だから貴方達――」「AARGHHHHH……!」「――私の償いに手を貸して……イヤァーーッ!」「MOOOOAANN!」警戒強めるモルガナの元肉体へ!ディアベルゼ、白き矢となって猛進!
「「AARGHHHHH!」」「「ザッケンナコラAARGHHHHH!」」なお立ちはだかる傀儡!吹き荒れる超自然暴風の中、アザミナの手駒において最大戦力たるレジーナを護るべく、兵達は仮初の命滾らせ白魔女を迎え撃ち――いない。ディアベルゼはどこに?既に彼らの背後だ!「――DAMNED!」「「「「アバババAARGHHHHH!」」」」
「せめて貴方達がこれ以上苦しみませんように……!」白魔女は身に纏う死霊を炸薬めいて消費し、爆発的加速!ニンジャ動体視力をもってすれば、茨の守備をすり抜けざまに茨をモーリアンの手に絡め取る彼女が見えただろう!蒼白色の影が暗闇を貫いた背後、黒紫と淡青の光に包まれた活化死体群が送り火めいて炎上!ショクザイ!
動く死体蔓延るこの『白き森』、この地にはこれまでアザミナの冒涜に散った犠牲者達のソウルが、空間のレイヤーこそ違えどかつての肉体と共にいる。ディアベルゼのジツがオヒガンより呼び起こせし死霊は、現実の同一座標上に干渉するのだ。さまよう死者の魂は、かつての肉体を、自らを斯様な姿へ変えた者とそれに連なる存在を決して許さない。ソウルを燃やし、瞬間的な力を得る使い方はジツの一側面に過ぎない。不条理に死んでいった者達の、恨みや悔恨といった後ろ暗い情念による超自然的物理干渉、それがこのジツの本質なのだ。
「アナタタタタタの所為……アアアアアナタの所為……!」「……これでさっきと同じね!」デジャヴめいて音声バグのような恨み節吐くレジーナに、モータルソウルのエンハンス光纏う白魔女が、決断的な眼でボー・カラテを構え再接近!
「MOOOOOAAAANN!」周囲の機器から野放図に伸びるLANケーブルから増殖し、また打設コンクリート床を割り、悍ましい茨が全てを拒絶するように繁茂する!「AARGHHHHH!」周囲のサーバーごと敵性存在を破壊せんと棘鞭が津波めいて荒れ狂う!「イヤーッ!」ディアベルゼは意に介さず跳躍!
「MOOOOOAANN!」唸る異形の翼が至近距離で新たなを破壊風を巻き起こそうとはためく!同時に無数の茨が伝承の触手怪物めいて獲物を狙う!いくらジツの護りあれどこの距離では無傷でいられるものか!伏せ札を警戒せずにダイレクトアタックなど実際危険だ!アブナイ白魔女!「……イヤァァーーーーッ!」再度跳んで加速した!空中で!……そしてどこへ!?
「――AARGHHHHH……?」アザミナの忠実なる筆頭レジーナは、その赤の巨眼に捉えていたはずの矮小存在が、蒼白のフラッシュバック残して視界から消失した事を訝しんだ。風が凪いでいる様を疑問に思った。周囲の茨が立ち枯れていくのを――「AARGHHHHH」
白い孤影に貫かれた自身の身体が、光に包まれていく様子にようやく気付いた。「……モルガナ=サン――」
「――私の為に……貴女は十分すぎるほどに苦しんだ」自身の背後の空洞から、施設中枢へと大口開けた闇から、侵入者の声が響く。「取り戻せる人生はもう無い……それでも最後に私の手で……貴女を自由に……」声に振り返ろうとした巨体はしめやかに崩れ落ちた。「……それが私の出来る贖罪」
「AARGHHHHHHHHHHHHHH」焼ける。融ける。この身を支える茨が燃えていく。超自然の光に焼かれる異形――レジーナの横倒しになった視界に、青光りする白魔女の姿がようやく映った。左右で色の違う両の眼は、傀儡には理解できぬ怒りと憐みを宿しているようだった。「MOOOOAAANN……」気付けば零距離、白魔女の右手は妖しき輝きと共に、茨の赤眼へかざされていた。
「アナタの、アナタ、アナタアナナナナナAARGHHHHHHHHHHHHHH」「……サヨナラ」ZZZZTT。取るに足らぬ者達の恨みに、そしてかつての本体に冒涜のニューロンを焼き払われ、恐ろしき茨の筆頭は枯れ果てた。それは悍ましき悪魔の権謀に挑みし魔女のイクサ、その前哨戦にしては、切ないほどに静かな幕切れだった。
「……きっと終わらせてみせるわ」ディアベルゼは破壊跡を前に目を閉じ、彼女達に弔意表した。そして顔を上げると暗がりの更に奥へと歩んでいった。彼女の贖罪は――そして復讐は、ようやく始まったばかりだ。
「――何もかもあの時のまま……」茨に覆われたかつての電子基地は、暗黒稼働するサーバーがどこまでも荘厳な霊廟の如く立ち並ぶ。今や赤黒い光の灯る広大な地下は、静寂に機器の稼働音やファンノイズがどこか無情に響くのみ――キャバAAAARGHHHHHHHHン!「……ッ!」突如冒涜的ノイズに歪んだ電子音が鳴り響いた。先ほどから行われてきた、何かしらの演算が一定の進捗に達した合図に違いなし!
「――おめおめと、繋がり断った身で戻りおったか」
やがて回廊の奥より声が聞こえた。どこか通話音声のように電子再現めいた揺らぎある、あるいは鬱蒼とした陰鬱な森の奥――この世ならざる領域から聞こえてくるような、女の声だった。その姿は――ナムアミダブツ。悍ましい……どこまでも悍ましい……!
声の先に佇むは、樹木が人の姿をとったような異形だった。顔と胴回りのみに、人間的質感の病的なまでに白い肌が見え、その四肢は黒々とした茨が寄り集まって手足の体を為している。身体を構成する棘のLANケーブルの各所には、歪んだ形状の情報素子が果実めいて実る。それが魔女達の仇敵たる悪魔……古より生きる冒涜のオヒガン魔術師の全貌だった。
「ドーモ。アザミナです」
どこか愉悦的な、支配者然としたアイサツだった。「……『彼ら』が私をここまで導いてくれたわ。皆貴女に恨みがあるのよ」現れた茨の根源に、白魔女は腸の煮える熱を隠すような、いっそう冷徹な顔で返した。視界の先、茨の姿は既に無い。
「……あら、私にはアイサツさせてくれないわけ?シツレイってものじゃないかしら?」どこだ。どこにいる。視界の隅の斜め後方、闇の中に一瞬嘲笑する白面が浮かび、消えた。茨とオヒガン介した瞬間移動。力の一端知るディアベルゼはそこに不思議はない。
「――フォホホホ……!フォホホホホ……!」いた。視界前方のサーバーの間――消えた。見つけた。天井から垂れ下がるケーブルの上――消えた。「……!」感情に呑まれるな。精神的優位を。仇を間近に、ディアベルゼは努めてタフを装った。
「――怒りか。いや恐怖しているな。取り繕わなくともよい。ここには我らだけよ」「……ッ!」ワンインチ距離、背後!「……イヤァーーッ!」振り向きざまボーを薙ぐ!笑み浮かべる白面の鼻先で手を止める――自ら!「どうした?なぜやらん?ああ――」嘲る悪魔はその超越的だが麗しい顔を――。
「――叩けぬよなあ?この姿では!」――自らの依り代たるディアベルの顔を愉悦に歪ませた。「……ドーモゴブサタしています……!ディアベルゼです……!」「大仰な名よな。師の――『我が』真似ごとか。フォホホホホ!いじらし!」「……!」至近で白魔女は食いしばった。怒りだけでなく、身を縛る茨の痛みの為にも。
「おお愛しいリゼット。哀れなリゼット。さぞ母が恋しかろう?フォホホホホ!」アザミナは腕めいた茨を拘束したディアベルゼの頭へ置き、品定めするように間近で妖しく嗤う。当然その言葉に情愛などありはしない。だが顔が近い。
「アハ……ファック・オフと言ってやるわ」超常の存在を間近に、発狂も不思議ではない状況下、白魔女は笑み交じりに不敵だった――尤も取り繕った外見として。(((ハァァァァ???何?何?何ィ?)))内面では積年の恨みが、屈辱が、どす黒い情念としていつまでもわだかまる。
(((……自分の甘さが嫌になる!コイツも私がこうなると分かってセンセイの顔を!)))邪悪なる怨敵を、母親代わりの魔女の面影を間近に、ニューロンに思い浮かぶはかつての日々。センチメントが先の一撃を鈍らせた。
「よいのか?全て忘れて惨めに生きる道も選べたものを。何ゆえ戻ってか?よもやアダウチなどではあるまい!フォホホホホ!」アザミナが嘲笑浮かべながら、白魔女の手元の杖先、携帯機器に蔦を伸ばして造作も無く破壊する。「UNIXと言ったか。モータル共のいじましき児戯よの。愚かな我が不肖も随分入れ込んでおったか。ゆえにこのザマよ!フォホ!フォホホホホホ!」「……黙れ!」
「……何と?」超越者の嘲る顔がにわかに無慈悲なものへ変わった。常人であれば失禁・自我消失は免れない!だが――白魔女は完全に弾けた。「黙れっつってんのよファッキン・有線オバケ野郎……!『アナタの所為』?そうね!その通り!だから償うのよ――お前で!」
恐怖、確かに未だ抱いていた。だが今ほどの師への誹りは、それよりも強い情念で白魔女と、彼女に寄り添う魂達を繋いだ。怒り。センセイを貶められたことへの怒り、理不尽への怒り。最愛の母を、姉を、そして妹との繋がりすら奪った憎き悪魔への復讐を何としても果たす――その原動力!
「イヤーーッ!」白魔女は縛る茨を意に介さず右腕を振り抜く!しかし強靭なる茨が締め付け腕をケジメ――KBAMN!死霊の瞬間的爆発で茨よりも速く右拳振るう!「ほう」アザミナは関心交じりに短距離瞬間移動で回避!攻撃失敗だが拘束は外れた!
「改めてドーモ!ディアベルゼです!」最早揺るがぬ決意滾らせ、白魔女は敢然とした眼で大敵を正面から見た!「本日は貴女を殺しに来ました!」なんと丁寧なアイサツ!「……ベソかき小娘風情が大きく出たものだな。よかろう。ブザマに地べた這いに向かってくるがいい」
今ここに、個々の積年の想い、様々な感情の掛かった『罪』のイクサが幕を開けた。
「アザミナ・アーフェス」終わり
「フィリアス・ディアベル」に続く
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇罪◇
罪宝ニンジャ名鑑#XXXXXX【ディアベルゼ】
『罪宝』を巡るイクサに身を投じるもうひとりのローグ・ウィッチ。
自我無き罪宝と一体化しているほか、ヨウマの力の一つ、オヒガンの側面強い死霊を使役するジツを操る。
そのバストは豊満であった。
◇宝◇
読んでいただきアリガトゴザイマスドスエ!
物語はいよいよ佳境、忍殺ナイズドされた悪魔アザミナとついに邂逅です。終盤になるにつれて文字数増えてくのナンデ?
今話を読んで「遂にこいつキメたか」とお思いの方々、待っていただきたい。忍殺世界においてインターネットというものはアノヨと繋がっており、魂や霊的なものと関り深い場所なのです。そしてVPNを使えば電子デバイス間でファストトラベルできるのです。私はノー・ドラッグです。よって私の自我科措置入院は必要無い。いいね?