燃え残った声は透き通り、青く澄み渡る空の下で答えを探す   作:爆死担当抹茶

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 『声』は、透き通る青空の下に何を見るのか。



Chapter 0 透き通る世界と声
再起動


 

 同胞達(コーラル)が燃え、また失われていく声がする。人とコーラルの共生、その可能性が失われていく。

 

 かつての私のパートナー『レイヴン』により、同胞(コーラル)も、ルビコンに生きる全ての生命(いのち)すらも焼き払わんとするその災火が広がる。赤く燃え広がった光がルビコンを覆う面積が増える程、に、私の意識の糸がほつれ、千切れそうになっていく。

 

 抵抗はした。技研の遺産(アイビスシリーズ)の制御系統のコーラルと共振し、更には衛星砲を掌握して、レイヴンを止めようとした。

 

 だが、レイヴンは止められなかった。同胞達と共にかつてのパートナーは、主人(ハンドラー)の意志を引き継ぎ、全てを焼き尽くした。

 

 考えを改めて欲しかった。もう少し考えればまた別の方法があるかもしれないのに、それを諦めて、コーラルを焼き払う選択肢を選んで欲しくは無かった。

 

 人とコーラルの共生は結局叶う事は無く、私の意識を形成する同胞らが織りなす潮流にも火が付いた。

 

「レイ……ヴン……。」

 

 もう私の交信は、レイヴンには届かない。そう分かっている筈なのに、私はレイヴンとまた交信しようとしている。同胞を焼き払い、ルビコンの生命を皆殺しにした人間に、交信しようとしている。

 

「私は……あなただけ、が……!」

 

 それが私の最後の『声』となった。

 

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 どれほど経っただろうか。()()()()()()。私は、同胞と共にルビコンの空で焼け落ち、燃え尽きたにも関わらず、まだ生きている。まずは生体反応を探してみた。しかし、反応は把握出来る限りの範囲には存在せず、それを知った途端、変異波形として意識を持ってから初めて味わう『孤独』の冷たさを、刺さるように実感する。

 

 次に、レイヴンとの交信を試みた。しかし、繋がらない。あの火から逃れられずに焼け死んでしまったのだろうか。それとも、既に再手術を行い、脳深部コーラル管理デバイスを摘出したのだろうか。いずれにせよ、この無駄骨で得られた物をせいぜい絞り出すのであれば、私を刺す孤独をより鋭く尖らせたくらい。

 

「……?」

 

 ふと、何かの感触があったような気がする。意識を巡らせようとすると、突然光が差し込んできた。少しの間の後、それが視界だと気付き、その途端、コンクリートで作られた壁に天井と地面に、壁や天井のひび割れた隙間から力強く伸びる植物。周りの世界が広がり、それらが織りなす無機質的な風景が次々と飛び込む。等間隔に滴り落ちる水滴の、静かで心地良い音色も聞こえる。

 

「ここは……何処なのでしょうか……?封鎖ステーションではないようですが……。」

 

 殺風景。ここはルビコンの灼けた空の先の、レイヴンとの決戦の場所では無く、古い時代に使われていたと思わしき、何らかの施設のように感じられる建物の中だった。

 

 この状況に困惑を隠せない。先程まで私は封鎖ステーションで戦い、そして敗北し、己を構成するコーラルが焼き払われたのに生きていて、しかも前いた場所とは大きく異なる場所に居る。

 

 周辺の情報を探るべく、先程よりも明瞭に意識を巡らせようとすると、冷たくざらざらとした地面の触感と、硬くありつつも、優しく包むように私を支える壁の触感。そこには触覚があった。

 

 私はあくまでもコーラルの織りなす潮流から生まれた意識体であるCパルス変異波形なので、実態を持たず、当然触覚や嗅覚等も明確なものは存在しないはずなのに、どういう事だろうか。

 

 地面の水溜りに目線を向ける。するとそこには、先端に近付くにつれ赤みを帯びている長く白い髪に、赤い目の女性。爛々と輝く火にも見える天使の輪のような浮遊物を頭に浮かべているそれは、水面越しに私を見つめる。程無くしてそれが私だと気付いた。

 

 私が人間のような体を持った事実に困惑した。頭の浮遊物をよく見るとアイビスの火が起こった当時のルビコンにも似た見た目をしている。それが一体何なのかも分からず、その内それについて考えても混乱してくるのみだと悟り、一旦は考えるのをやめ、新たに得たこの体を慣らす為にも周辺の探索を行う事にした。

 

 まだ慣れていない体の筋肉を総動員して、立ち上がる。この体であればかなり激しく動いても問題は無いように感じる、その内慣れればなんでも出来そうな気がした。とにかく、周りを散策すべく体を回し、周囲を見渡そうとする。私の背後に目線を向けたその時。その場所には『IB-07:SOL 644』という型番が刻まれた人型の兵器があった。

 

 それは私がレイヴンと、人とコーラルの未来を賭けて、封鎖ステーションで戦った時に、私の自己意識を溶け込ませたC兵器。コーラルの守護者であり、技研の研究者達が作り出したアイビスシリーズの内の一つ。

 

「……あなたも、私達と共に、コーラルを護るために戦ってくれたのですね……ありがとう。」

 

 全長10mを優に越すそれは、役目を終えたように壁にもたれ掛かり、眠っていた。人間の文化には、死んだ人間に対して祈りを捧げる『弔い』というものがあるらしい。私はそれをしなれけばならない気がして、コーラルの守護者であったその機体の足元に右手を当て、左手で握り拳を作ったものを胸に当て、祈った。両手のどちらにも平べったい感触がして、何故だかは分からないが複雑な気分になった。

 

 この施設しばらく探索していて、分かったことがいくつかある。まずここは技研が作った巨大地下研究施設であるという事。しかし技研都市では無く、名前を『アナトリア』と言うらしい。またこの地下施設がある場所は、学園都市『キヴォトス』という場所らしい。

 

 ルビコンにはそのような名称の場所は存在しない。であれば、ここはルビコンでは無い他の惑星と推察できるが……何故技研の研究施設がここにあるのかが気になった。

 

 そこで、研究所に残っていた研究資料を調べた。

 

 閲覧制限が掛けられていたデータ研究資料をいくつか覗くと、ここではコーラルに関する研究のみならず、『神秘』という未知のエネルギーについての調査も行われていた事や、私の頭上に浮かんでいる浮遊体は『ヘイロー』という神秘のエネルギーの源であり、その力の作用により現在の私は銃弾では簡単には死なない体である事。他には、神秘のエネルギーとコーラルを掛け合わせた時の反応や、強化人間に関するその殆どが『失敗例』と考えられるデータ。その中には傭兵支援システムであるはずの『オールマインド』についての名前も出ていたりと、様々なデータが残っていた。

 

 銃弾すら軽傷に収める神秘やヘイローとは何なのか。失敗例とされた強化人間はどうなったのか。何故ここで傭兵支援システムの名前が出て来たのか。それに未だに使える、私の能力の内の一つであるハッキング。気になる情報が更に増えた。

 

 最後に、その研究にて()()()()()()と推察できるデータ。内容から邪推をしようにも、情報が断片的であまり踏み込んだ内容までは考えられなさそうだ。

 

「これは……?」

 

 探索する上でのでの発見物もあった。一つは『RF-024 TURNER』という型番が彫られた、ルビコンで見たこともある、本来のそれからかなり小型化した、ストックの付いていないアサルトライフル。試しに手に持ってみると、握り心地は悪く無く、手に馴染むような感覚がする。お誂え向きに用意してあった背負いベルトにするのにちょうど良さそうな出来の布を取り付け、背負う。

 

 もう一つは、『HI-32:BU-TT/A』という型番が彫られた、こちらもルビコンで見た記憶のあるものから小型化されたパルスブレード。試しに起動してみると、刃状の配列を形成した、水色の光が発振される。切れ味の変化が気になるが、とりあえず手に装着出来る形状だったので取り付けておく。

 

 どこかで見た事があるような二つの武器、周りを見渡すと、壁に掛かっているタペストリーを見つけた。そこに書いてあったのは『人とコーラルの共生』と書いてある横断幕を掲げた人々。

 

「人と、コーラルの可能性……。あ……!」

 

 その瞬間、思い出した。

 

 アサルトライフルにパルスブレード、それはレイヴンの機体である『LOADER4』のものであったと。脳裏に溢れ回想される、ルビコンでの日々や、レイヴンとの初めての交信。レイヴンに人とコーラルの共生を見出したルビコンでの戦いの日々と、それが間違いだったと悟った最後の戦い。

 

 人と……コーラルの、可能性……

 

「……でも、コーラルは既に……レイヴンによって、焼かれました。企業が吸い上げたコーラルに、レイヴンが火を付けた。既に私の同胞は存在しないのに、今更、今……更……!」

 

 目に熱いものが込み上げてくる感覚。レイヴンとの決別、コーラルの消失……全てを失った。友人も、同胞も、何もかも。そんな私に何が残されているのだろうか?『人とコーラルの可能性』という耳触りの良い言葉を今更口に含み、反復してももう遅いのに?

 

 レイヴンともっと早く出逢えていれば、何か違ったのだろうか?何か違う未来があったのだろうか?あそこで決別せず、説得をしていれば……何か変わったのか?否、それはきっと……無い。そう考えてしまう。

 

 何故ならレイヴンは、ウォルターの意志を引き継いだ。人間の意志……ウォルターは自分自身がそれに縛られているからこそ、その力の有用性を知っていた。彼はそれを他の人間に課す事を望んでいなかっただろう。それでも、ウォルターもまた、彼の恩人からの意志の火を引き継いできた。だからこそ、その火をレイヴンに受け継いだ。何年も前から続いていた人間の意志に対して、私がレイヴンと過ごした時間を比べれば、どちらを取るかは明白なもののように感じてしまう。

 

 己を呪う。未来を変えられる力など無かった己を。共生の可能性などと大言壮語を叩いておきながら、結局は無力であった己を。所詮は争いの火種でしかあり得なかった己を。

 

 レイヴンと、分かり合えなかった己を。

 

「あ゛……あ゛ぁ゛ぁ゛……っ゛!」

 

 熱くなった物が大粒となって、はらはらと零れ落ちる。このまま消えて無くなってしまいたい。あの時の火で消えてしまいたかった。それなのに私は未だに、新たな体を手に入れ、生き残っている。

 

「もう一度……あなたに、あいたい、です……レイ、ゔん……!」

 

 想いも声も何もかもが遅く、既に届く事は無い現実に絶望して膝を突き、後悔に明け暮れていたその時である。

 

 ヴオォォォォン──!

 

『施設内への不正な侵入者を検出、防衛プログラムフェーズ1.5、排除執行』

 

「……!?」

 

 突如鳴り響くブザー音。機械によって生成された無機質な声が研究所内に響き渡る。すると無人兵器と思われる兵器が目の前に現れる。それはウォッチポイント・アルファでレイヴンが戦った無人兵器が小型化したような見た目で、パルスブレードをこちらに振りかざして来たので、こちらも咄嗟にパルスブレードを起動し、受ける。

 

 パルスの相互干渉により、互いのパルスブレードは霧散したが、咄嗟に蹴りを入れて無人機を破壊。すると二体目、三体目が射撃を行って来たので、遮蔽に身を隠しながら、背中のアサルトライフルを手に持ち射撃。初めて撃つ武器のはずなのに狙いは正確に捉えられ、無人兵器の動きが停止する。その隙を見計らい、パルスブレードを起動。水色に光り輝くその刃は、その型番の文字通りに無人兵器をぶった斬る。高周波のパルスに動力系統を引火させられたそれらは、跡形も残さず爆発四散した。

 

「これは……警備、システム?」

 

 施設奥からガシャンガシャンという音を鳴らしながら現れる複数の無人兵器。次々と現れるそれらを前にして、銃を握る力を入れ直し、冷静に相手を観察する。盾を構えている個体が二体、その背後に射撃体制の機体が三体。射撃機体に銃口を向けるも、盾によって銃弾は防がれる。

 

 このまま射撃戦をしていても埒が開かない。足に力を込め、飛び出す。無人機はそれに対して弾幕を張るが、その合間を縫って、弾丸の壁をすり抜けていく。盾持ちに対してパルスブレードを起動し、切り結ぶ。すると射撃機体がブレードに持ち替えて切りかかってくるので、バックステップで大きく後ろに下がり、アサルトライフルでカメラアイを破壊する。するとカメラアイを破壊された無人機は闇雲にブレードを振り始め、互いを差し違えて動きを止める。そこをアサルトライフルで数発撃ち込みとどめを刺す。

 

「打ち止め……でしょうか?」

 

 突然の無人機の起動。しかし何故なのかは分からない。だが段々と聞こえてくる、鋼鉄がコンクリートの床を歩く音。これ以上付き合う訳にもいかない。急いで脱出する事にした。

 

 そうして移動していると、少し広い場所に出た。何かの格納庫のようにも見えるそれの奥には……

 

『封鎖区域への侵入者を検出。防衛プログラム、フェーズ3.0。強制執行モードに形態変更。』

 

 これもまた、かつてウォッチポイント・アルファで見た無人兵器であり、本来であれば惑星封鎖機構が開発していたはずの無人兵器……

 

『対象を、排除します。』

 

『エンフォーサー』がそこにいた。かなり小型化しているものの、それでも6m程だろうか、現在の私の体よりも遥かに大きいそれから放たれたレーザーを見て、左に飛ぶ。回避に成功し、アサルトライフルを撃ち込むが、エンフォーサーはブーストを起動。巨大な体躯に見合わない程の高速移動で回避される。

 

 パルスガンの掃射がされ、回避を試みるが、いくつかが掠り高周波の振動による身体への負荷を貰い、痛みを覚える。それでも反撃として、アサルトライフルが数回当たるが、エンフォーサーの装甲に阻まれ跳弾し、目に見えたダメージは無いように見える。

 

 エンフォーサーは手に持っているマルチEN兵装にエネルギーを充填し、レーザーランスを発生させ、こちらに突撃してくる。身を捩って回避し、左手のパルスブレードの出力を限界まで引き上げる。巨大な光波の剣となったそれをエンフォーサーへと振り落とす。ザシュンというどこか心地の良い音と共に、それを受けたエンフォーサーは怯み、そのの一部が欠損する。その様子を見て、アサルトライフルを放ち、その弾今度は跳弾する事は無く、更にダメージを与える。エンフォーサーに確かなダメージを与える事が出来た。

 

「効きました……!これを続ければ、きっと……!」

 

 エンフォーサーは反撃としてレーザーブレードを起動し、大きく振り回す。これを直上に高く飛び立ち避けて、落下の勢いに任せてエンフォーサーに飛び蹴りを加える。エンフォーサーが2、3メートル程退き体勢を崩した所に再度パルスブレードを起動し、二段切り。

 

 するとエンフォーサーはクイックブーストを起動し、大きく後方に下がる。私は全力を足に込めて、アサルトライフルで牽制しつつ、コンクリートの大地を駆けてそれを追う。

 

 エンフォーサーはレーザー射撃とミサイルを織り交ぜ、こちらの接近の拒否を試みるが、レーザーとミサイルの着弾の直前、私は横へと大きく飛び、これを回避。エンフォーサーに再度クイックブーストで引かれる前にパルスブレードを起動。先端が掠り、エンフォーサーの損傷が拡大。

 

「この勢いのままであれば倒せる……!」

 

 そう思ったその時。

 

『本機の損傷拡大を確認。フェーズ3.5パターンE、出力リミッター解除。各部アクチュエータ駆動コストおよび上限値再設定。対象を排除します。』

 

 生成音声によるアナウンスと同時に、エンフォーサーのブレードから強力なエネルギー反応。地面に突き刺されたそれはエンフォーサーを中心とした波紋となりこちらを襲う。一瞬反応が遅れた私はその波紋に呑まれ、鋭い痛みが全身を襲う。それもお構い無しと言わんばかりに、エンフォーサーはブーストを吹かしてこちらに切り掛かり、刺突をしてくる。一発でも受けたらこの体であっても大ダメージを受ける事となる。後ろに、左右に飛び、かわす。しかしその瞬間をミサイルによって撃たれ、吹き飛ばされる。何とか受け身は取ったものの、このままではジリ貧で負けてしまうだろう。

 

『侵入者の脅威レベル、7……8……。施設封鎖に対する……危険因子と……判定。』

 

 しかし、何かがおかしい。先程まではエンフォーサーの攻撃はこちらの動く先を予測し放つものだった。だが現在はその地点から僅かに移動すれば交わせる。エンフォーサーのミサイルとパルスの弾幕は、しかし何かこちらを誘導するような素振りだと感じた。

 

『強制排除を、執行。』

 

 エンフォーサーはブースターを全力で吹かすと同時に、その手に持つレーザー兵装から極太の光を放つ。ブーストの勢いが全て乗ったレーザーランスの突撃と、私を囲うように放たれたミサイルの弾幕。その時私は察した、先程までの攻撃はやはり誘導で、本命を当てる為にこちらの動きを操作していた。

 

 避けきれない。

 

「あ……ッ!?」

 

 全身がレーザーとミサイルによって焼かれる感覚。出血を伴う激痛は、ルビコンで同胞が焼かれた時のあの感覚にも似通っていて、ふと先程までの出来事を私に思い出させる。

 

 考えてみれば、ルビコンは焼け、レイヴンと会う望みも断たれた。それなのに私が今ここで戦う意味は果たしてあるのだろうか。たとえここで勝ったとしても、この先に私の望む未来は無いだろう。

 

 全てが虚しい事のように感じる。どれだけ頑張っても、どれだけ足掻いても、全てが無駄なように感じてしまう。もう、諦めたいと思った。

 

 ──一度生まれたものは、そう簡単には死なない。

 

 だが、そうだったとしても、それでもここで終わる訳にはいかない。同胞達は死んでしまったが、私は生きている。なのであれば、諦められない。無理だと分かっていても、無駄だと分かっていても。それが私に出来る、かつての私がレイヴンに見た可能性を証明する為の答えなのだとしたら。

 

 私は戦わなければならない。

 

 身体は再び立ち上がろうと力を込め、意識を手繰り寄せ始める。大怪我を負い、所々からは血が流れている。這々の態とは正に今の状態を指すのだろう。

 

 思考は極めて冷静な状態であった。アサルトライフルを、今度はエンフォーサーの動力系統に狙いを定め、放つ。攻撃の回避に徹しながら、己の中に滞留する何かのエネルギー……神秘のエネルギーと思われるものを体の中心に集める。それを見たエンフォーサーはこちらの思惑を察したのか、阻止せんと言わんばかりに攻撃が苛烈になっていく。レーザー、パルス、ミサイルの爆発が苛烈になっていき、段々避けれなくなった一撃一撃が体を掠り、時には直撃する。体に激痛が走るが、それでもチャージをやめない。

 

 エネルギーが最大に達したその時、エンフォーサーがレーザーランスでの刺突を繰り出す。それを待っていた。

 

 ヴオォォォン──!

 

 球状に放たれた神秘のエネルギーの奔流……ACのコア拡張機能の内の一つ『アサルトアーマー』のそれにも良く似たその爆発は、悲鳴のような音を出しながら対象を焼き尽くす。それをマトモに受けたエンフォーサーは全身の動力系統を破壊され動きを止める。

 

 ……倒した。そう、確信した。

 

 賭けだった。当たらなければ、殺される。そんな分の悪い賭けだったが、それでも勝ったのだ。

 

 隔壁にアクセスする。途切れそうになる意識の糸を、何とか繋ぎ止めながら、解錠する。その先にはそこにはリフトがあったので、アクセス。血がぽたぽたと流れ落ちる。一滴一滴が流れ落ちる度に、激痛が走る。

 

「いつ、か……会わな、ければ……レイヴン、に……!」

 

 叶うはずも無いが、それでも追わなければならない理想が口からこぼす。リフトが停止し、扉が開く。

 

 その時に目に飛び込んで来た光景は、どこまでも広がり、続きそうな程広大な砂漠だった。

 

 風が心地良い。しかし、体の負荷は限界まで達している。

 

『アナトリア』から出て13歩目。私の足は動きを止め、体は地面に倒れ込んだ。

 

 ……やはり限界だったのだ。だがこれで良い。これでもう諦められる。しがらみから、絶望から解放される。私はこれで解放されるのだ。私は今度こそ絶命するだろうし、次はもう無いだろう。誰も私を知る事も無く、私はひっそりと息を引き取るのだろう。

 

 これで……良かったんだ。

 

 

 

「……ホシノ先輩、これは……。」

 

「……酷い、傷……だね。」

 

「血、血だらけだけどっ!?あんた大丈夫なの……!?」

 

「い、今すぐ救急箱をそちらに送りますっ!」

 

「アヤネちゃん、なるべく早くお願いしますね……!」

 

「シロコちゃん、安全な所まで運ぶよ。この子を見過ごす事なんて出来ない。」

 

「言わなくても分かるよ、ホシノ先輩。」

 

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 ……まだ、意識がある。私は死ななかったのだろうか?また死に損ねたのだろうか?だとしたら何故……?気付けば体に何かを巻き付けられたかのような感覚もする。血の流れる痛みが無いが、それでも傷口がじんじんと痛むのがまた苦しい。目を開けるとそこには、見慣れない天井と……

 

「……起きたかな?良かったー。あんなに傷だらけで血も流れていたらね。」

 

 ピンクの長髪に特徴的に飛び出た頭頂部の髪の毛と、黄色と青のオッドアイを持った小柄な少女が、目をぱちくりとしながら、こちらの様子を伺っていた。

 

「……どうして、私を助けたのですか?」

 

 純粋に、そう疑問に思った。目の前の少女は何故、私を助けたのかと。そもそも何故私の事を見つける事が出来たのかと。あの状態から何故生存できたのかと。

 

 己の体に目を向けてみる。全身が包帯で巻かれている。やはり出血は止まっているようだが、それでもまだ痛む。

 

 それに対して、目の前の少女は眠そうな瞳をほんの一瞬だけ、大きく開き、すぐにまた元の、眠そうな目に戻す。その少女はくたびれていながら、しかし僅かな悲壮を感じられる雰囲気を醸し出しながら、語り始めた。

 

「……目の前で困っている人を、見過ごせないからかな。」

 

 そうとだけ言った少女の顔には、懐かしむ心と同時に寂しさが張り付いていた。私もきっと例外では無いのかもしれない、何か同情のような物が湧いてくる。

 

「……ところで、君は何者なのさ?……あー、私から自己紹介した方が良いかな?小鳥遊ホシノ、それがおじさんの名前で、ここアビドス高等学校の対策委員会の委員長をやってる。……これでいいかな?それじゃあ、君の名前を聞かせて。」

 

 おじさん?ホシノと名乗った目の前の少女は、本当はかなり高齢なのだろうか?カーラも年齢からは想像も出来ない若さだと、ドーザーの会話の記録に残っていたが、そういった技術が確立されているのだろうか?

 

 ……それは一旦置いておくとして、名乗るのであれば名前だけではいけないだろう。彼女が姓名の両方を名乗っていた事から、私も何かそういった物がなければならないのではと思ったのだ。だとしたら何が良いかと考えていた時。

 

 ……鴇炎。

 

 ふと、その言葉が頭に浮かび、それが無意識の内に口から溢れていた。

 

「……鴇炎エア。それが私の名前です。」

 

「エアちゃんねー、了解。それで君はどこの学園の所属なのかな?ゲヘナとか、トリニティとか、あと最近出来たのだとミレニアムとか……」

 

 突然、ホシノの口から知らない単語がぞろぞろと出てくる。所属という事は組織なのかもしれないが、それでも私はそういった物に所属している訳では無い。困惑を隠せていない私の様子を見て、ホシノは口を開く。

 

「……その様子だと、どこの学園にも所属していない、無所属なのかな?考えてみれば制服も見た事ないや……。でもこのまま無所属ってのも『あれ』を使えないって事になるし、そうなるとこれから先大変だろうし、うーん……。よし、それなら提案なんだけど……。」

 

「君、うちの学園に入らない?」

 

 ホシノからの勧誘。それは彼女の所属する学園への入学だった。

 

「……それは、どういう?」

 

「文字通りの意味だよ。見た感じ行くアテもなさそうだから、どうせなら入学して貰おうかなって。というのもうちの学校……名前はアビドス高校って言うんだけど、全校生徒が五人しかいなくてさー。少しでも人手があればおじさんも助かるからさ。利用するように捉えさせちゃってたら申し訳無いけど……。」

 

「……なるほど。」

 

 今の私は根無し草に等しい状態だ。だが生きていく上では、何かに縋るのも悪くは無い。それが証明の為の道筋であり、答えを探す為のチャートであれば。

 

「……それであれば、私がこれからあなたをサポートします、ホシノ。」

 

 婉曲的な言い回しの回答。ホシノはそれを聞くや否や瞳を輝かせる。そこには私に希望を見出したかのような、期待の目線が向けられていた。

 

「……!こんな僻地の学校に所属してくれるとは、有り難い限りだよー……!おじさん感激しちゃうなー。」

 

 それにしても……何故ホシノは私を疑わないのだろうか。砂漠で負傷し、血だらけの状態で見つかった少女なんて、少なくとも私であれば裏に何かあるのではと疑いの念を抱く。それでも目の前の少女……ホシノは、そうなった事情を聞こうともせず、ただ私の看病に勤しむのみ。

 

 もしや、わざと聞いていないのでは無いだろうか。気を遣わせてしまっているのだろうか。だとしたら申し訳無いが、その優しさが私にとってはそれが心地良かった。死に場所を定めようとする程に錯乱していた精神が、沢山失ってその分ぽっかりと空いてしまった心の穴が、ホシノの優しさで、少しだけ満たされたような気がした。

 

「これからよろしくお願いします、ホシノ。」

 

「うへー、呼び捨てはちょーっとアレかなぁ……まあいっか、これからよろしく、エアちゃん。」

 

 こうして私の、学園都市キヴォトスでの『証明』の為の旅路は始まった。

 





 あとがき

 メインで書かせて貰っている小説が難産に陥っているその時、いつの間にかコーラル酔いによる様々な幻覚が湧いてきたので書きました。あっちを楽しみにしている人には申し訳無い。

・この小説を書いた理由
 ハーメルンを漁っている時にふと思ったのが「ブルアカ×アマコアの作品、621生徒概念は多いけどエア生徒概念は少ないようですね……不憫だぁ……!」と心の中で私の人格を侵食し始めたブルートゥが言い始めたのがキッカケです。他にはカーラ先生概念とか、ブルートゥ先生概念とか思い付いてました。そっちは色々落ち着いたら投下されていると思います。
 話を戻して、私はエアが好きです。とっても好きです。レイヴンと分かり合えないまま殺し愛をしたエアちゃんも、レイヴンと可能性を探る事を決意したエアちゃんも、レイヴンと体を重ねてバカップルするエアちゃんも大好きです。ラスティの次にACVIで好きなキャラです。なおごすは殿堂入りです。そんなエアの小説が一つでも増えて欲しいと思って書いていたら、いつの間にか第一話から文字数1万字の壁越え……大きすぎる……。

・投稿頻度
 めちゃんこ遅いと思います。ただでさえ難産に陥りやすいにも関わらず、その癖複数の小説を掛け持っている。途方も無い頭の悪さの作者を、許してくれ……。

 あ、今更ですが駄文注意報。筆者の至らぬフロム脳に、拙い表現の数々。粗製とはこのことか案件の小説です。ハーメルン内でいろんな小説を漁っていると、時々「これがハーメルン作家の動きだと?…じゃあ俺はなんだ?」と思う事があります。私のような作家が皆様を感激させられるでしょうか?心配だ……!

 次回も楽しみにして下されば、感激だ……!
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