燃え残った声は透き通り、青く澄み渡る空の下で答えを探す   作:爆死担当抹茶

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『試験』が始まる。



砂に塗れた学園

 

 

 体を覆う包帯から解放されたのは存外早く、一週間程しか経っていないが、それでも全力で運動しても問題無い程度には回復した。この再生速度も私の持つ神秘の力なのだろうか。ホシノには念の為もう少し休息を取った方が良いと言われたが、いつまでもお荷物になる訳にはいかない。私はホシノの所属する『対策委員会』の全員に挨拶と、何故全身があれほど傷付いていたのかを説明をした。

 

「地下の研究施設『アナトリア』で無人兵器と交戦……。なるほど、だから傷だらけだったんだね。それにしても地下の研究施設……行ってみようかな、そこを叩くと金になる、そんな予感がする。」

 

 狼のような耳の生えた銀髪の少女、シロコは私の話を聞いて、今度遊園地へと連れて行くと親に言い渡された子供のように目をキラキラと輝かせる。そこへ向かおうと考える目的は少々打算的で、欲深いものでもあるが、この学校に課せられた『借金』の額を考えれば仕方の無い事だろう。

 

 ……というのも、私が所属する事になったここ『アビドス高校』は、過去に何度も砂嵐の被害に遭い、それらの被害を食い止める為に多額の借金を背負わざるを得ない状況に陥ったのだとか。その額というのも凄まじいもので、額は9億6235万円。ルビコンとの貨幣価値のレートがどれくらいかは分からないが、このキヴォトスでこのくらいのお金があれば一生遊んで暮らせる程と聞いて、驚いたのは記憶に新しい。

 

「借りた金を、何故返す必要がある……!」

 

 借金と言われると、レイヴンとの初めてのミッションの時、停止した溶鉱炉の奥深くに隠れ住んでいた独立傭兵ノーザークを思い出す。企業の最新製品で固めた装備に実力が追いついていなかったのかあまり強くは無く、レイヴンは特に苦戦する様子も無く彼を撃破していた。このキヴォトスにノーザークみたいな様子のおかしい人は居ない事を願う。

 

 ……シロコもシロコで、クールな見た目に反してかなり変な事を言い、代表的なのは「ん、銀行を襲う」としょっちゅう言っている事だろうか。初めて見た時は思わず「様子のおかしい人です。」と言ってしまい、シロコの耳がしょんぼりと垂れていたのを思い出す。お金が絡むと(社会的な意味での)死人が増える、過去から未来まで変わらない事実だ。

 

「ちょっ、シロコ先輩!?エアがあれだけの傷を負った場所に行くとか正気なのっ!?」

 

 シロコの言葉を聞いていた猫耳の生えた黒髪ツインテールが特徴的な少女、セリカは大声を上げる。彼女は初めこそは私への態度は素っ気無いものであり、外様扱いそのものであったが、殊の外打ち解けるまでは早く、今では一番私の面倒を見てくれていたりする。ならば頼れるかと言われればそんな事も無く、時々詐欺紛いの情報に踊らされている。そんな様子の彼女を見る度に、私は溜息を付きたくなるのをなんとか抑えて苦笑いに徹するようにしている

 

「それ程に危険な場所にシロコ先輩を向かわせるなんて、私が許しません。エアさんをそこまで傷付ける程の無人兵器……私は考えるだけで身震いがします……。」

 

 怯えた様子を見せる、メガネを掛けた黒髪ボブのアヤネ。彼女の印象は、見た目から来る印象通りの真面目の一言に尽き、個性的なメンツの揃う対策委員会のまとめ役を担っている。学校の借金の状態の管理や、支出のメモ等もしている。面倒見も良く、私が怪我を治している時にも、毎日のように私のお見舞いに来てくれたり、緩んだ包帯を巻き直してくれたり。アヤネは私の口から次々と飛び出すキヴォトスについての質問にも逐一答えてくれた。

 

「まあ、それはまた今度という事にしましょう〜。それにエアちゃんを連れて来るのに必死であそこへ行く道ももう分かりませんからねぇ……。」

 

 ベージュのロングヘアーの少女、ノノミがおっとりとした口調でまとめる。彼女はその天真爛漫な様子からは想像出来ない程の怪力を有しており、大量のダンベルを買った袋を対策委員会の教室に持ち込んで来た時には己の目を疑った。まずそのようなダンベルを買う為の金がどこにあるのかが気になったが、どうやらノノミの持つゴールドカードによる決済によるものらしい。

 

 何故それ程の支出をしても問題無い、ゴールドカードを用いて借金を返済しないのかを聞いてみた事もあったが、曰く、ノノミは企業の令嬢だそうで、そのゴールドカードはその企業のものであり、それで借金を返済するという事はその企業へアビドス高校から借りを作る事になる。そうなるとそこから付け上がられてアビドスが支配されてしまうかもしれない。だからこそ、それを回避すべく、ゴールドカードには頼らないのだそうだ。

 

「……エアちゃんはもう私達対策委員会の一員だから、おじさんはそんな危険な場所に向かわせる気は無いけどねぇ〜……。」

 

 ピンクのロングヘアーに特徴的なアホ毛の生えた少女、ホシノは、眠そうな目を擦りながらそう言う。前に彼女がおじさんと言っていた件だが、それはあくまでも彼女の一人称であり、実際の年齢はセリカ曰く「ほぼ同年代っ!」との事。眠そうにしている理由は、彼女がよく昼寝をするからであり、対策委員会の皆で集まる直前まで、別の教室でこっそり寝ていたのだ。

 

「ん……貴重品とか、拾い集めればそれなりの金額になりそうだと思ったのに……残念。エアちゃんの持っている、パルスブレード?にアサルトライフル……それも、そこでの拾い物なんだよね?」

 

「はい。私がそこを探索していた時に手に入れたものです。切れ味は……。」

 

 席を立ち、テーブルの上にあったスチール製の空き缶を手に持ち、右腕を用いて垂直に投げ上げた所を、左手に装着したパルスブレードで一閃。スチール缶は真っ二つに割れて、そのまま真下への落下軌道へと入るのを、空いた右腕でキャッチすると、対策委員会の一同から拍手が上がる。

 

「わあ!正に必殺ぶった斬りっていう感じがしてカッコいいですね〜!エアちゃんのその可愛い見た目も合わさりギャップ萌えしちゃいます!」

 

 ノノミに褒められて、満更でも無い気分になる。可愛いと言われたのも、かっこいいと言われたのもこのキヴォトスに来てからが初めてである。もっともここに来る前までは実体を持たない波形だった私には、可愛いとも、かっこいいとも思う事は誰も出来なかったからだが。

 

「こほん、雑談はこれくらいにして……。これからアビドス高校対策委員会の定例会議を始めます!」

 

 アヤネが咳払いをして、定例会議の開始を宣言する。緩めの雰囲気の会議に私はこれに初めて参加するので、何が起こるのか、どのような案が出るのかという期待の気持ちが少しだけ逸る。

 

「今回の議題は借金についてです。というのも我が校は現在9億6235万円の借金を有しており、毎月の利息を払うだけでも精一杯といった状況です。これらを一気にとまでは言わずとも、せめて利息を払ってもある程度の余裕はあるくらいの収益は欲しい。という訳で皆様、何か案はありますでしょうか?」

 

「はいっ、はい!」

 

 元気な声で手を上げるセリカに一同の目線が向く。セリカは自信満々と言った様子で後ろに控えてあった紙袋を持ち、おもむろにその中身を取り出す。そこに入っていたのは、雑貨屋等を探せばならばどこにでも売ってそうなごく普通の、とてもありふれた壺だった。

 

「これは『風水役房』っていう、何でもこれを部屋の雰囲気に合うところに置けば理気の流れが変わって、己の望む運気……私達で言えば金運が上がるって言われて買ったの!しかも沢山飾ればもっと運気が上がるって!これを沢山買って沢山飾れば……。」

 

「すみません、私はそういった方面には疎いのですが……それは詐欺か何かなのでは?」

 

 私でも分かった、セリカがまた詐欺に騙されたのだと。何故これ程分かりやすい詐欺にさえ引っかかってしまうのか、そういった物に異常な程騙されやすい体質か何かなのだろうか……。いずれにせよ、私の指摘を受けたセリカは、

 

「なっ……。そ、そんな……!今日だけじゃなくて明日のお昼代も抜いてまで買ったのに……!」

 

 と、耳を垂れて物凄く悲しそうな顔をしていた。やはり溜息の一つや二つを付きたくなるが、何とか我慢して苦笑いを繕う。

 

「とりあえず、セリカちゃんを騙した詐欺師には後でちょ〜っと『商談』をするとして……私もひとつ案を考えてみたんだー。」

 

 いつになく目を開き、大真面目も大真面目といった様子のホシノを見て、一同にどよめきが走る。ホシノが真面目な雰囲気を醸し出すのは珍しい事だからだそうだ。

 

「それはねぇー……他の学校へカチコミに行くのさ!例えばどこかのマンモス校の中等部の学生の校舎まで言って、そこの今期卒業予定の生徒らに、来年度はアビドスに入らないかと何人かに『提案』をするんだ〜。そうすればアビドス高校の人数は来年から……。」

 

「『提案』というのは恫喝に近い形の押し切りのことでしょうか……?それをしてしまうと色々と問題になる気がします。」

 

 先程の『商談』といい、今回の『提案』といい、口から出す言葉がいちいち物騒だ。ホシノはだらんとした雰囲気からは想像も出来ない程血の気の多い人なのかもしれない。それはそれとして苦言を呈すと、ホシノは「そっかあ〜。」と、拒否されるのを分かりきっていたようにそう口から零す。駄目だと分かっているのであればもう少し真面目な事を考えるべきな気がする。

 

「ん、それなら……『あの手段』しかないね。それは……。」

 

「シロコ先輩、銀行強盗は犯罪です、駄目ですっ!」

 

 シロコが満を辞してといった様子で口を開くが、勿論『あの手段』の中身は知れている。シロコが続きを言おうとしたその時、アヤネによる静止が入る。これ程早く指摘されるとは、もはや一種の信頼のようなものにさえ感じてくる。

 

「それであれば、スクールアイドルはどうでしょう!セリカちゃんとアヤネちゃんのコンビでアイドルになって貰えば、アイドル界の一番星を目指せるはずです!」

 

「ノノミ先輩いっつもそれ言ってるよね!私達はアイドルなんてなる気は一切無いからっ!」

 

 ……この人達は真面目に会議をするつもりは無いのだろうか。いや、全員大真面目と言った雰囲気を醸し出してはいるのだが……『真面目にふざける』というものなのだろうか?それはともかく、実は私にも案がある。傷を治している間にあれこれ考えていたものだ。

 

「私からも提案があります。私はこの一週間、傷を治している間にどのように借金を返済していくのかを、何度も考えた事がありました。」

 

「来たばっかりのエアさんにまで考えて貰う事になるなんて……ちょっと申し訳無いですね……」

 

 私だって傷だらけの所を助けて貰ったのだ、せめてこういった場での提案くらいはやらなければ。

 

「私の考えた案、それは……傭兵稼業です。企業や民間を問わず、様々な依頼を受ける、完全成功報酬制の『独立傭兵』として私がキヴォトスで活動する。初めはばら撒き依頼からこなしていく事になりますが、名前を売っていけば名指しの依頼が入る。そうなってくれば、より高い報酬が望めるでしょう。」

 

 私が全て話し終えると、一同に驚きが混じった沈黙が伝播する。私の口から出てきた言葉が意外なものだったのかもしれない。だが私は徹頭徹尾、至って真面目に思いついたつもりの案だった。その沈黙を破ったのはホシノであり、その顔は先程とはまた違う、普段のホシノからはいよいよ想像出来ない、まるで別人のように『真面目』な顔だった。

 

「……駄目だよ、エアちゃん。君は傭兵稼業ってそう簡単に言うけど、それはそんなに楽な道じゃないんだよ?明日生きて帰ってくる保証も無くて、裏切りや騙し討ちなんて当然の、そんな危険な世界に私の後輩を向かわせてまで借金を返したいとは思わない。そもそも何で傭兵なんかになろうとするのさ。」

 

「それは、私の……。」

 

 ──友人。

 

 そう言い掛けて口を閉じる。何故ならば、レイヴンが本当に私の友人なのか、決別してしまった今ではもう友人などでは無く互いの事を敵として見做しているのではないかと、自分の心のどこか奥深くで疑ってしまっているからだ。

 

 レイヴンはルビコンという星系を焼き払った。同胞達の命を燃やし尽くした。人とコーラルの共生の道を自ら断ったのだ。そんな人間は果たして私にとっての『友人』なのだろうか。私の想いは一方的なもので、本当はレイヴンから見た私は都合の良い存在、それ以上でもそれ以下でも無かったのかもしれない。

 

「……知り合いが。私の知り合いがそうやって稼いでいたからです。私が出会った頃には、その人は既に名が売れた傭兵でした。その人が最後の仕事を終えた後の今となってはどうしているかは分かりませんが……。」

 

「そうなんだ。で、それが何か問題?それにエアちゃん、表情が凄く悲しそうだよ。その人と何があったのかなんて、私には分からない。だけど、だからこそ、エアちゃんにそんな危険な事をさせたくは無い。正直会議って言っても緩いもんだからねー、真面目に考えてくれたんだろうし、それ程危険な世界に身を投じようとするその蛮勇は認めるけど……通らないよ、それはね。」

 

「ですが……!」

 

 はっきりとNOと言われてしまうが、それでも食い下がる。緩かった雰囲気はどこへやら、教室の空気に緊張が走る。各々の不安と心配が入り混じった表情が、その空気を殊更に醸成させる。ホシノが今までに無く真面目だからだろう。

 

「……ホシノ先輩、言って聞かせるだけじゃ駄目かもしれない。昔の私がよく先輩に挑んだ時みたいに、ああするしかないのかも。」

 

 重い空気の中、ホシノの次に口を開いたのはシロコだった。不安の入り混じった表情は相変わらずで、そこにはどこかホシノの様子を探るような、しかし口に出した事の重みを理解しているような、そんな表情だった。

 

 その提言を受けるホシノの表情は固く、僅かな躊躇を孕む。私の選択を尊重しつつも、それでも相容れないと言わんばかりの表情。それは、決別の時に私がレイヴンに抱いた感情と、似たようでまた違うものだった。

 

「……そうだね。それじゃあ、エアちゃん。君の中で抱いている意志があるように、私にも抱く意志がある。だからさ、そのどちらが強いのか勝負しよっか。」

 

 

 

 ────────

 

 

 

 互いの信念がぶつかる戦いの場に選ばれたのは、砂に塗れた学園の校庭であった。

 

「……それでは、これからエアさんと、ホシノ先輩の勝負を……始めます。ルールは至極単純、どちらかが降参するか、戦闘不能になるまで戦う、それだけですが……。戦闘不能と判断された後に攻撃するような行為は勿論禁止です。また、手榴弾や閃光弾等の使用は禁止されています。ホシノ先輩だと盾とショットガン。エアさんだとパルスブレードとアサルトライフル。それ以外の持ち込みは一切を禁じられています。」

 

 ルールについての説明を始めたアヤネの口調からはどこか躊躇いが感じられ、重く息苦しいもののように感じる。その説明を聞いていたホシノと私も、周りで立ち会いを行う皆も、揃って表情は固い。

 

「……最初に言っておくけど、手加減は出来ないよ。」

 

「それはこちらもです、ホシノ。」

 

「……もういいでしょ、言葉なんて既に意味をなさないし。」

 

「……それでは、両者とも位置について下さい。」

 

 戦いへの緊張から来るアドレナリンが脳に満ち、視界がより鮮明になり、感覚が拡張されたような気がするこの感覚。壮絶な戦いが予想されるにも関わらず感じてくる高揚感は、冷たく刺すような空気とは対称的に私の体に熱いものを覚えさせる。互いの得物の安全装置を外す微かな音でさえもが、鮮明に脳に響き渡る。

 

「では……始め!」

 

 火蓋を切って落とすアヤネの開始の声が、青く澄み渡る空の下に響く瞬間。互いに飛び立ち、私はアサルトライフルを四発、しかしホシノは小柄な体躯を生かしてこれを避ける。ホシノが至近距離まで近づいたので足に力を込め、蹴りを入れるがホシノはこれをその体躯に見合わぬ鋼鉄の盾で受ける。

 

 反撃のショットガンを反射的に回避。ギリギリで間に合いはするものの、回避方向には既にホシノが盾を向けて突撃していて、シールドバッシュによって体制を崩されそうになるが、踏み止まる。追撃で放たれたショットガンはパルスブレードを大きく振る事で叩き落とす。

 

「へえ……それを喰らって踏み止まるとは、案外やるね。」

 

「これでも、戦った経験はあるので……!」

 

 そう言いながらも、ホシノの猛攻は止まらない。三発目の散弾がこちらに向かって来るのを確認して避けようとするものの、面で制圧を行うこれを回避するのは困難であり、数発の鉛玉が左腕を掠り、一瞬の痺れを感じる。これ以上流れを取らせまいと、再度突撃してくるホシノに向けてアサルトライフルを五発放つ。今度は動きをある程度予測して放ち、内二発が命中するものの、ホシノはお構い無しと言わんばかりに動きを止めずに向かって来る。

 

 ショットガンがまた一発、二発と放たれるのを、今度はホシノの腕の動きを見て回避し、アサルトライフルのマガジンに残る九発の弾丸を後ろに引きながら全弾発射。殆どは盾に阻まれるか、避けられる。詰め寄って来た所をパルスブレードで横一文字に切り裂くが、ホシノはこれを高く跳躍して回避、背後を取られる。

 

「それじゃあ、これでもう終わりかなっ……!?」

 

 しかし、攻撃の手段を、反撃の手段を失った訳では無い。体の中心に神秘のエネルギーを集中させると、私の体が大きく光り輝き始める。アサルトアーマーのような球状の爆風が解き放たれ、反応が遅れたホシノをその奔流に巻き込む。干渉により動けなくなった所を追撃のパルスブレードで切り込み、確実なダメージを与える。

 

「ぐっ……!それ、受けるとビリビリして動けなくなるね……パルスブレードも中々痛いし……。」

 

「まだまだ私の攻撃は止まりません!」

 

 リロードが完了したアサルトライフルの射撃。盾を大きく構えたホシノの前ではやはり阻まれてしまうが、それでも着実な負荷を与える結果になるだろう。反撃の隙を与えない為にも、こういったお茶を濁すような射撃も必要だ。

 

 ホシノは不意のアサルトアーマーを警戒しているのか、あまり踏み入った位置にまで接近して来なくなったが、それでもホシノの技量による正確な射撃とショットガンの面制圧力が合わさり、こちらも無視出来ないダメージを受け始める。

 

 今度はこちらがアサルトライフルを撃ちながら接近。パルスブレードを起動して切りかかろうとするのを見て、ホシノは回避に移ろうとする。そこをブレードを停止、さらにもう一歩踏み込んで斬り伏せる。ギリギリで盾で受けられはしたものの、かなりの負荷を与えたので、盾に向かって蹴りを入れ、ホシノの盾を、それを持つ腕ごと弾き飛ばす。そこにアサルトライフルを撃ち込み、更にダメージを与える。反撃のショットガンも勿論回避する。

 

 ホシノは大きく距離を取り、ショットガンのリロードに入る。その隙を許さないようにするべく、好機だと思い、一気に距離を詰め寄り、再び己の中の神秘を集わせ、アサルトアーマー。今度は反応が間に合ったのか、すんでの所で避けられる。一瞬動けなくなった所をショットガンの直撃が襲う。

 

「がっ……!」

 

「対策委員会の委員長は戦闘もそこそこやる、舐められたら困るんだよっ!」

 

 追撃で入れられた蹴りで大きく吹き飛ばされ、大きく体制を崩してしまう。ホシノが詰め寄って来るのを見てアサルトライフル発射。しかし足元がふらつき狙いが外れる。ホシノが再三放つショットガンも、何とか回避し、被弾することになりそうな鉛玉はパルスブレードで防ぎ、展開した勢いでやぶれかぶれの一閃。当たるはずも無く、ホシノはこれを盾で防ぎ、至近距離での散弾を私に撃ち込む。その絶大な衝撃に大きく吹き飛ばされ、赤みを取れずに地面を転がり、口に血が滲み眩暈に襲われる。

 

「……もう、分かったでしょ。エアちゃん、君は私には勝てない。でも私だって、せっかく傷が治った君をこれ以上傷付けたくない。だから……もう、こんなことはやめにしようよ。」

 

 目の前に近付き、ショットガンをこちらに向けながらも発射する事は無く、こちらに負けを認めるように言葉を投げかける。

 

「まだ、です……!」

 

「今どうこうしようとしたって、私と君の実力差は埋まらない。エアちゃん私で何が違うか、それは君は才能だけで戦っているのに対して、私は今まで自己研鑽に努めてきたっていうのもある。これは私の驕りでは無くて、事実だよ。そもそも今何故私と戦っているのかの背景を、君は考えているのかな?本当にアビドスの為なのか、それともさっき言っていた『知り合い』の受け売りなのか。それを君が表に出す覚悟を決めない限り、エアちゃんが私に勝てたりはしない。」

 

 ホシノの言葉が、胸に突き刺さる。

 

 背景。

 

 V.IVラスティも言っていたその言葉。それを聞いて、私はまだくらくらとする脳の思考を回す。

 

 私はアビドスへの恩返しの為と言った。そう自分に言い聞かせた。だがそれは偽りの目的でしか無く、本当は……

 

 レイヴンと、同じ目線に立ちたかった。

 

 レイヴンについての理解がしたかった。世界は違えど、かつてのあの人がそうしていたように、私も独立傭兵としての活動をしていけば、いつしかまた新たな視野が開けるかもしれない、そう思っていただけであり、アビドスの恩返しというのは、所詮は建前に過ぎなかった。

 

 それが、私の本当の『背景』だった。

 

「……私は、認められないよ。認めたくもない。だから、もう……『負けました』、その一言で全てが楽になるんだ。だからもう……やめて。こんなことは私もしたくないんだ。」

 

「です、が……!」

 

「ふざけないでっ!」

 

 まだ立ちあがろうとした私に向けられた散弾銃のトリガーが引かれ、それを避ける事もできずに、全ての散弾が体に命中する。再び地に倒れ伏した鋭い痛みが私の体を襲い、ショックにより意識が途切れそうになる。

 

「ホシノ先輩っ……!」

 

「理想なんて、どうせ叶わない……。諦めたらもう楽になれるだろうに、何で、何でまだ立ちあがろうとするの……!もう、私に、私自身の手で、大切なものを傷付けさせないで……!」

 

 その声は、今にも泣き出しそうな必死な訴えとなり、私の頭の中で響く。それは私の声と同じ、大切な人と別れてしまった者の声だった。ホシノにも背景があるのだろう。だからこそ、私を止めるのだろう。それでもなお、私は立ち上がる。

 

「あなたの、背景も……あなたの戦う理由も……。今なら分かります……ですが、あなたの意志と私の意志は相入れない。だからこそ……私の火は、止まらないし、止まらない!」

 

「どうして……っ!?」

 

 体中に残る神秘の流れを、余す事無く体に集中させる。私の背景、私の火。その全てを載せたアサルトアーマーは、先のそれよりもずっと強く、光り輝き……

 

 ヴオオォォォォン──!

 

 張り裂ける悲鳴のような音を立て、球状の爆発を起こす。不意の神秘の奔流をまともに受けたホシノは大きく吹き飛び、その動きが止まる。

 

「私の……背景を、私の火を……!」

 

 ここで終わらせたくは、無いから。

 

 ホシノは今、動けない状態だろう。アサルトライフルの銃口を向ける。引き金を引けば、勝てる。そう思い、引き金を……

 

 引けなかった。

 

 アサルトライフルは腕をするりと抜け落ち、銃が地面に落ちる重低音。突然全身の力が抜け、一歩も動けなくなる。どうやら、届かなかったようだ。私はなるがままに意識を手放さざるを得なかった。

 

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 再び目覚めたのは、見慣れた天井の下、感じ慣れたベッドの感覚の上。体を覆う包帯の面積は前よりは少ないものの、また大怪我を負ってここに来てしまった。

 

「……目覚めたみたいだね。」

 

 あの時と変わらない、ホシノの表情。背景を背負っている者特有の、硬い決意を抱いた表情。その口から、言葉が放たれる。その結果を、私は受け入れなければならない。私は敗北したのだ。ホシノの言う通り、もう諦めるしか無いのだろう。

 

 そう、思っていた。

 

「……エアちゃん。君の背景が、なんとなく分かったよ。まずは謝らせて欲しい。君の背景を否定した事、あの時の君が動けない状態になっていたにも関わらず、引き金を引いた事。でもそれを通して……分かったよ。君には背景がある。それなりの力はあるようだった。」

 

「……認めるよ、君の力を。今この瞬間から君は『リンクス』。『繋ぐ者』っていう意味の言葉で、傭兵という仕事をやっていく上でアビドスの未来を繋ぐ者っていう想いを込めて決めたんだ。本当の名前が知られると色々不味いだろうからね。君が寝ている間必死に考えてたんだ。」

 

 ……その口から出てきた言葉は、私の想像していたものとは違う。それは肯定であり、認定であり、許容であった。

 

 そして、繋ぐ者『リンクス』。これがキヴォトスでの、私の傭兵として活動していく上での識別名を言い渡された。それは初めて聞いたにも関わらず、何度も口から発したような、どこか聞き馴染みのある言葉のようにも感じられた。

 

「……どう、気に入った?」

 

「……はい、とても……気に入りました。」

 

 私の本懐はオペレーションではあるが、それでもこの体であれば、独立傭兵『リンクス』としても問題無くやっていける、そんな気がした。今ここに、私の新たな火が付いたのだ。

 

「良かった〜。ああそれからもう一つ、エアちゃんが傭兵として活動していく上で紹介したいアプリがあったんだ。スマホを出してくれるかな?」

 

 指示通りに、この前対策委員会の皆に渡された長方形の機械、スマートフォンを取り出す。色々と検索が出来たり、アプリを入れて機能を拡張したり出来るそれの電源を付けて、ホシノに渡す。

 

「……あ〜、やっぱり入ってなかったんだ。今から入れるアプリは結構便利でさー、武器や弾薬の売買をオンラインでしてくれたり、それの明細を自動で記録してくれたり……戦闘データの蓄積とかもしてくれる、とにかくスマホに入れておくべき『生徒支援システム』……」

 

「『オールマインド』って言うアプリさ。」

 

 






 あとがき

 ちょっとした日常会のつもりだったが、何だこの、訳の分からねぇ戦闘パートは……!?

・エアの強さ
 ホシノとまあまあ渡り合えるぐらい強いエア……アサルトアーマーというズルも含めてもなお少々強くしすぎた気もしますが……理由としては筆者が初見の火ルートでエアにクソ程煮湯を飲まされた記憶があまりにも鮮明に残っているのと、趣味アセンでエアに挑んだアナリシスでもこれまたクソ程煮湯を飲まされたのがこれまた印象深かったからですね。今ではWエツスライサーナハトマンでノーリペア撃破出来る程度には慣れましたが……。

・エアがオペレーターでは無い理由
 先生、これ以上でもこれ以下でも無い。シッテムの箱とかもチートクラスのハッキング能力に加えて戦闘支援と、エアが出来る事そのまま出来るのがね。アビドス内でもアヤネがそのポジションですし。

・本編開始について
 只今一生懸命考えております、もうしばらくお時間を……。この小説の大体の流れとかは既に頭の中に思い描いてはいるので、あとはそれを言語化するのみ。作者の少なめの脳ミソではその段階でどの表現を使うかとかでまたまた煮湯を飲む、だから難産に陥る。

・エアと先生の絡み
 エアの心にぽっかり空いた穴を、先生が埋めてあげて、それでエアが先生に依存気味になるルートか、やっぱりレイヴンが大好きだから先生の魔性の魅力に耐えてレイヴンへの愛を貫き通すかのどちらかを考えています。いずれにせよエアは重くなりますし曇ります。

 生徒支援システム『オールマインド』……一体何なのか。乞うご期待下さい。次回も読んでくだされば、感激だ……!
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