ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
<ヴェスペロ>を載せた<クランウェル>がACガレージに到着した。<クランウェル>の懸架フックから切り離され、格納庫内に機体を収容する。
任務を終え、傷一つなく帰還した<ヴェスペロ>だが、そのコクピット内にいるヴィラスはその事を全く喜ぶ素振りは無く、憮然とした表情を浮かべていた。
原因はヴィラスが昨日受けた依頼にあった。アライアンス本部からの依頼で、ムームの率いる組織が根城としていたマレス渓谷奥の浄水場跡を強襲する任務の依頼を受けて出撃をしていた。
今回の任務はヴィラスともうひとり、レイヴンのB・ビリーが参加。アライアンスとしてはここでムームたちを捕らえるなり、倒すなりして他の武装勢力に自分たちの力を見せつける狙いもある。その為、アライアンス本部所属のMT部隊も複数参加しての大規模な作戦となる予定だった。
だが、作戦開始直前になって参加予定のアライアンスのMT部隊から本部所属の別のAC部隊に参加部隊が急遽変更。そのせいで出撃時間が大幅に遅れてしまったことにより、ムームの組織が攻撃を察知する時間をまんまと与えてしまう事となった。
その結果、ムームとケルベロス=ガルムがいる本隊を逃がしてしまう事となり、抑えられたのは本隊が逃げる時間を稼ぐ為の捨て駒にされたチンピラ集団の乗るMTと改造重機だけであった。
ヴィラスたちが浄水場跡に辿り着いた時には既にもぬけの殻で、浄水場跡の壁には白いペンキで大きく「Goodbye! Stupid Dogs!(あばよ! お間抜けなワンちゃんたち!)」という殴り書きを残して彼らは去っていた。
当然のことながら任務はほぼ失敗といっていいだろう。だが、そこで終わりというわけではなかった。
急遽派遣されたアライアンスのAC部隊は本職のACパイロットが乗るACではなく、新米とMTから転換したての不慣れなパイロットで構成された練度の低い部隊。未熟な操縦しか出来ない彼らのフォローもする羽目となり、挙句の果てにはムームたちに逃げられた原因に派遣したAC部隊へのフォローが足りなかったレイヴンにも責任があるとアライアンスの指揮官が言い放ってきた。
この作戦は本部部隊肝煎りの作戦だった。AC部隊に急遽変えたのも戦場の華ともいえるACでならず者たちを成敗したという宣伝効果を見込んでの事だったのだろう。それがこんな形で終えてしまう事は後に責任問題になる。元はといえばこの大事な作戦前にそんな場当たり的な事をやらかした指揮官に責任はあるが、それを認めてしまえば自身の今後の進退に関わる事を知っていた指揮官は八つ当たり同然の罵声を浴びせてきたのだ。
ヴィラスもB・ビリーもこのアライアンス指揮官の言い草に怒りを通り越してばかばかしく感じてしまっていた。
MTと改造重機の撃破報酬は支払われるが、成功報酬の125,000コームは支払われないとのことだった。ムームたちを取り逃がしたのだから当然だろうと怒気を込めて言い放つ指揮官にルシーナも呆れていた。
『トーマス・アリド中佐っていうアライアンスの士官ね……今後の要注意人物かしら』
「俺としてはあの男とは二度と関わりたくない」
『同じく。あいつからの依頼がまたあれば俺は拒否させてもらうよ』
こうしてヴィラスとB・ビリーはそれぞれのガレージに向けて帰っていく。残ったのは面倒な相手に絡まれてしまったという後悔と疲労感だけであった。
整備ブースに<ヴェスペロ>を移動させてヴィラスは機体から降りる。損傷は殆どないが、次の出撃に備えての機体と装備の調整は必要だ。整備班から「今日は機体を壊さなかったな」と軽口を貰いながら機体を預けて宿舎に戻ろうとしたが、ふと足が止まる。
ヴィラスは<ヴェスペロ>の正面に位置するハンガーを見やった。空のハンガーだがそこには使用者のネームプレートが付けられている。それがちょうど外されているのが見えた。レイヴンのコキノ・ケラトが搭乗するAC<リノケロス>が駐機していた筈だ。
ネームプレートを片付けていた整備班の男性にヴィラスは声を掛けた。ヴィラスがよく知っている顔である。
「ウィルソン。コキノ・ケラトはどうした?」
「……ん? ああ、ヴィラスか。アイツ、任務中に撃破されて死亡だってさ。詳細はまだ分からないけれど、殺ったのはあのリム・ファイヤーって話は聞いたよ」
機械油がこびり付いた顔を向けて、ウィルソンと呼ばれた整備班の男はそう答えた。リム・ファイヤーか、とヴィラスはそのレイヴンが駆る重武装された四脚型AC<バレットライフ>の姿を思い出す。相手がレイヴンと判れば容赦なく弾丸の雨嵐を降り注がせるその様は狂犬と呼ばれる位に凶暴なレイヴンの機体だ。まだ戦場では相対していないが、個人的には出会いたくない相手である。
「あのリム・ファイヤーが相手じゃ、アイツには分が悪すぎたかもしれないな。<バレットライフ>対策にAC用の対弾アーマーの開発が急がれるってとこか」
ウィルソンは大げさに肩をすくめながら言った。確か、似た様な発想のMTがクレスト社で開発されて、実戦に配備されていた筈だ。ウィルソンの言う通り、そんな装備があればあのACの攻撃に耐えきれる可能性は出てくるだろう。
「アイツの猥談ジョークは中々面白かったんだけどな。あれ聞けなくなるのはな……ヴィラス、聞くか?」
空のハンガーを見上げてウィルソンは溜息を長々と吐いて呟いた。ここのハンガーは主にウィルソンのいる班が担当していた筈だった。顔には出していないが、ショックは少なからずあるだろうとヴィラスは思った。
「いや、今はいいよ。後で聞かせてもらうから」
ヴィラスは手を振ってやんわりと断った。色々な意味で疲れているこの状況で、それを聞く気には今は流石になれなかった。
「ウィルソン。大丈夫なのか?」
「……何がだ?」
「コキノ・ケラトの事だよ。あんたの班が機体整備担当していたんだろ?」
「アークにいた時にこれと同じ経験を何度もしているからな。もう慣れたよ。うちの班の若い奴がちょっとショックを受けていたみたいだが、俺にはそいつを励ましてやることくらいしか出来んよ」
「そうか……」
コキノ・ケラトとは共に出撃した事は無かったが、ガレージの整備ブースで何度か見掛けたことはあった。大体は整備班と談笑していたような記憶しかない。少しは言葉を交わせばよかったかと思いながらヴィラスもウィルソンと同じように空のハンガーを見上げた。このハンガーにはまた誰かレイヴンが来るのだろうか?
「アイツがストックしていたパーツ。まだ残っているから安値で買い取っておくか?」
ウィルソンが大きなスパナを外の方へ向けて話しかけた。スパナを向けた先には各レイヴンが機体に使用するパーツを保管してある倉庫がある。まだそこにはコキノ・ケラトが使用していたパーツが残っていた。
「……考えておく」
「他の奴も欲しいって話をしていたからな。早い者勝ちだぞ」
そう言ってウィルソンはポケットからパーツリストが記載された紙をヴィラスに渡すと、手に持っていたコキノ・ケラトのネームプレートをダストボックスに放り込んで喫煙ブースの方へ向かっていった。ダストボックスの底面にプラスチックのプレートが落ちて乾いた音が小さく響く。
ヴィラスは渡された紙を見つめた。<リノケロス>は確か四脚型を基本とした構成であった筈だとヴィラスは記憶していた。使われなくなったパーツはいずれ、中古パーツを取り扱う業者に引き取られるか、廃棄される。特攻兵器襲来後はパーツの調達も難しくなってきているから、使えそうな物があればこちらで買い取るのは悪い事ではない。先日発注したパーツはまだ届いていなかった。
「お帰りなさい。ヴィラス」
ルシーナが隣にやって来ていた。手にはいつも通り、タブレットとバスケットを持っている。いつも出迎えてくれる時の柔らかい表情だが、やはりヴィラスと同様にあのアライアンスの指揮官のせいだろう、少し疲労の色を見せていた。
「残念だったわね。今回の報酬は28,000コーム。無傷で終えられたのは良いけど……あのアライアンスの士官。疲れる相手だったわ」
溜息交じりにルシーナは今回の収支報告をタブレットの画面に表示させて見せた。あの指揮官と一番やり取りをしていたのはルシーナだ。煩い声を張り上げ続けていた彼と四苦八苦しながら対応していたのだからヴィラスは彼女に同情した。ある意味自分よりも疲弊しているだろう。
「そっちもご苦労様だったな。疲れただろ?」
「……そうね。ああいう人間もいる事は大いに勉強になったわ」
そう言いながら2人はガレージ上階へのエレベータに一緒に入る。ヴィラスは宿舎に、ルシーナはオペレータールームに戻るためだ。
「コキノ・ケラトの事、聞いていたの?」
「ああ、戦死って聞いた」
ルシーナも多分少し聞いていたのだろう。ヴィラスは先程のやり取りを話した。
「さっき、彼の担当していたクレアから私も聞いたの。彼女、こういった事は慣れているみたい。淡々としていた」
「そうか、ウィルソンも同じ事を言っていたな。長い事やっていれば何度もある事なんだろう」
「そうなのね……」
ルシーナは顔を俯けた。まだ、新人である彼女はそういった経験はまだ無い。なるとしたら自分になってしまうのだろうなとヴィラスはふと思った。もちろん、そんな事は絶対になるつもり無い。
「でも、ウィルソンは寂しそうにしていた。アイツの猥談ジョークが聞けなくなるって、確か……」
そこでヴィラスは止めた。顔を合わせたルシーナの顔が固まっていた気がしたからだ。「やってしまったか」と少し焦ってしまったが、気が付くとルシーナは少し笑っていた。
「クレアも同じこと言っていたわ。結構面白いジョークを任務中に飛ばすって。2人は仲良かったのかもね……」
エレベータが上階に着く。ガレージの外に出ると、午後の日差しに照らされる。時計の針は丁度15時を指していた。「まだまだ暑くなりそうだな」とヴィラスはパイロットスーツの胸元を緩くして呟いた。
「ヴィラス、この後は空いているよね」
唐突にルシーナが聞いてきた。確かに出撃予定は今のところもう入れていない。「何かあるのか」とヴィラスは聞き返す。
「今日、補給物資がガレージに届いたの。野菜も幾つか物資の中に入っていたわ。ほら、ずっと前にアライアンスが旧キサラギの農業プラントを数か所再稼働させたという報道が前にあったでしょ。多分、それで採れたものじゃない?」
「野菜か……」
それを聞いてヴィラスは空腹を覚えた。冷凍保存された野菜はあるが、新鮮な野菜はここ最近食べていなかった。そんなものがこのガレージに来るという事は食糧事情も少しは改善傾向にあるという事だろう。
だが、ひとつ疑問が浮かぶ。
「でも、誰が送ってきた? 整備班がこの間メーカーに武器と弾薬の発注をしたのは知っているが……」
「アークよ。頼んではいないけど、補充部品と弾薬のコンテナと一緒に来たの」
「どういうつもりだ。今更……」
「他の共有ガレージにも同様のコンテナが届いているって話よ。これからもアークの為に頑張って働いてくれっていう労いのプレゼントってことじゃない? 私とか他のスタッフにもそんな感じのメッセージが端末に送られてきたから多分、ヴィラスの端末にも届いているんじゃないの」
「勝手に送ってきてそれか。復活したとはいえ、アークは一度機能を失ったから、俺たちはもうアーク所属じゃない筈だ」
ヴィラスは呆れた表情を浮かべた。
「こっちはそうだとしても、向こうはそんなつもりは無さそうよ」
ルシーナはそう言ってタブレット端末を操作すると画面を見せて来た。そこには新たなレイヴンズアークの登録IDを割り振られたヴィラスの情報とその担当オペレーターとして登録されたルシーナの情報が表示されていた。
「これも当然私たちだけじゃない。生存が確認され、アライアンスとか武装組織に所属している事を明言していないレイヴンは皆こうなっている筈よ」
アークはここまでやるのか。ルシーナも呆れ顔というべきか観念したというべきか複雑な表情をヴィラスに向けていた。
「紐付きになるつもりは無いが、こうなってはどうしようもないって事か」
「そうね……けど、やり方が強引過ぎる。黙って受け入れるしかないけど……あ、そうだ。話を戻すね。送られてきた野菜だけど、特にジャガイモが多いの。よかったら皮むき手伝って」
「分かった。食事が済んだら、調理場に行く」
ヴィラスはそう返答してルシーナからサンドイッチとビスケット、そしてコーヒー入りのポッドが入ったバスケットを受け取り、宿舎に戻る。妙に鬱屈してしまった気持ちを晴らすにはその作業はちょうど良さそうだった。料理が下手な自分が唯一、ルシーナに出来る手伝いでもある。
* * *
曇天を突き進むAC用双発輸送機。そのカーゴには2機のACが出撃の時を待っていた。
紺色の逆関節型AC。ヴィラスの<ヴェスペロ>。そしてもう1機は白と赤のカラーリングの中量二脚型のAC。レイヴンのシャーリーンが搭乗する<リンガベル>だ。
今回の任務はバーテックスからの依頼で、アバクス平原に新たに建設されたアライアンス前線基地の奪取。ヴィラスとシャーリーンの任務は基地の防衛部隊を殲滅することだった。
早かったな、とヴィラスは今回の任務内容を聞いた時の第一印象だった。かつてアークに対してクーデターを仕掛けたジャック・Oが率いるバーテックスが早速アークを仲介しての依頼を送ってきている。
ジャック・Oが組織の行動をどこまで一任しているかどうかは不明だが、敵対を明言しているアライアンスと違って敵対関係になりかねない中立レイヴンやアークにはまだ直接手出しはしていない様だ。これから自分たちにとって利用価値のある存在であるかどうかの品定めをされている。ヴィラスにはそんな気がした。
コクピットの中でヴィラスは出撃前の最終チェックとして、機体各部と各システムのセルフテストプログラムを走らせていた。
今回は先日の戦闘でコア<C03-HELIOS>が損傷してしまったので、同じオーバードブースト搭載型コアの<CR-C84O/UL>に代えている。ラジエータも修理が間に合わなかったので代用の物だ。久々に使うのでチェックも慎重に行わなければならない。
メインモニター、コクピット内電子機器、レーダー、各種センサー、通信装置、FCS、ジェネレータ、ラジエータ、ブースター、各関節のモーター、各ハードポイントへの信号確認、コントロールスティック及びトリガーのレスポンスなど、これら全てのチェックが通らなければならない。完璧な状態で無い機体では任務は遂行できない。機体を積み込む前にもチェックは行っているが、出撃前にも行うのはレイヴンにとってごく当たり前の事であった。隣で待機している<リンガベル>のコクピットにいるシャーリーンも同様に機体の最終チェックを行っている。
セルフテストプログラムの結果は全て正常。出撃前の確認はこれで完了。起動キーをアイドルから始動に切り替えるとジェネレータが唸りを上げる。それと共にコクピットの各パネルに光が灯り、コクピットハッチが閉じる。モニターは格納庫を映し出し、いつでも動かせるようになった。ヘルメットを装着したところで輸送機のパイロットから通信が入ってきた。
『間もなく当機は目標ポイントに到達する。準備はいいか?』
「こちらヴィラス。出撃準備は整った」
『シャーリーンだ。準備はもう整っている』
『了解した。これよりハッチを開放する』
パイロットからの通信が切れると、カーゴ奥のハッチが開き、曇天の空が広がる。上空の気流が格納庫内に流れ込む中、両機体は開放されたハッチの淵に立つ。
『ハッチ解放確認。降下準備完了。健闘を祈る』
パイロットのその言葉と同時に2機のACは地上に向けて降下を開始した。
90秒足らずで<ヴェスペロ>と<リンガベル>は高高度から地上に降り立った。着地時に一番負担が掛かる脚部の各関節も特に異常は見えない。<ヴェスペロ>の前方に着地した<リンガベル>も異常は見受け無さそうであった。
『こちらはシャーリーン。機体各部に異常なし。そちらは?』
「大丈夫だ。こちらも各部異常は無い」
『基地の守備部隊の無力化をお願い。今、展開されている部隊のデータを送るわ』
輸送機のパイロットに代わり、ルシーナから通信が入る。同時に両機体のサブディスプレイに幾つかのMTと戦闘車両の画像が表示された。
『本部部隊の標準的な編成か。2機だけであれば対応可能な範囲といったところか』
『バーテックスからの情報では、戦術部隊から派遣されてきたレイヴンのACもこの基地に移送されている可能性があるので気を付けて』
「ACもいる可能性もあるのか」
『先日、<サンダイルフェザー>、<ZANBA>、<ブラストソウル>、<アイ・ウィッシュ>が戦術部隊の駐屯基地から動いたという情報があるわ』
『戦術部隊のACであれば、多少手を焼きそうだな』
「ランカークラスがいる。出来れば当たりたくは無いが。そうは言っていられないか……」
ヴィラスはそう言ってフットペダルを踏み込み、基地に向けて<ヴェスペロ>を発進させた。それに続くように<リンガベル>もブースターを吹かし発進する。
《メインシステム 戦闘モード 起動します》
メインコンピュータが火器管制のロックの解除を告げる。既にモニターの先に映されるアライアンスの基地からは警報が鳴り、MTの影が複数動いていたのが見えた。
<ヴェスペロ>と<リンガベル>は機体を加速させて、基地に近づく。一気に基地へ強襲。その後、二手に分かれて各個敵を撃破し、守備部隊を完全沈黙させる。単純であるが、たった2機だけで真正面からではACとはいえ流石に難しい。ルシーナからの情報では守備部隊は相当な数であることも考えるとこれが一番有効である。
ヴィラスはレーダーとモニターを交互に凝視する。12時方向に輝点が3つ。そしてモニターには<リンガベル>が敵へ向かってミサイルを発射しているのが映し出されていた。
『敵勢力との交戦を確認。施設の被害は最小限に抑えてね』
「了解」
ブースターを切り、3機の<MT09E-OWL>が<ヴェスペロ>に向かってきた。それを確認したヴィラスは<ヴェスペロ>の右腕に装備された<WR05L-SHADE>を構えさせた。レーダーにはノイズが混じってきている。ECMカウンターの数値が上昇していくのが確認できた。<MT09E-OWL>に搭載されたECM発生器が作動している証拠だ。
ヴィラスはすかさず、前方から接近してきた<MT09E-OWL>の1機に照準を合わせる。まだ頭部コンピュータで対処できる範囲の濃度だったのでロックが可能だった。ロックオンマーカーの色が黄色から赤色になると同時にトリガーを引いた。
<ヴェスペロ>の右腕のレーザーライフルから赤い閃光が一直線に<MT09E-OWL>へ放たれる。MTパイロットはレーザーに気付き、回避を試みたが、レーザーは<MT09E-OWL>の左足を破壊した。機体に装備してある武器の射程ギリギリまで高速で接近していた<MT09E-OWL>はバランスを崩して転倒、そのまま前方に激しい音を立てながら地面に転がった。<ヴェスペロ>は前方から勢いよく転がってきた<MT09E-OWL>の残骸をジャンプでかわすと、次のターゲットに照準を合わせた。
再び、レーザーライフルから赤い閃光が数発放たれると、<MT09E-OWL>の胴体へ直撃。そこから炎があがった瞬間、<MT09E-OWL>は爆発した。爆発の余波を避けるように最後の一機が施設内部に逃げ込もうとするが、ヴィラスはそれを見逃がさなかった。
武器を背部のミサイルランチャー<CR-WBW89M>に切り替えると、後退していた<MT09E-OWL>へロックオン。予め起動させていた連動ミサイルの<CR-E84RM2>と同時に発射。8発のミサイルがMTを包み込むように襲い掛かり、その直後大きな火球が咲いた。
<リンガベル>も<CR-MT98G>とのファーストコンタクトを右肩に装備されているミサイルで撃破すると。その横に付いていた<CR-MT85B>に右腕のマシンガン<WR04M-PIXIE2>の弾を数発浴びせた。マシンガンの弾丸は<CR-MT85B>の装甲を幾つもの穴を穿ち、そのまま沈黙。そして残っていた<CR-MT85M>へ向けて加速して急接近。左腕のレーザーブレード<WL14LB-ELF2>を発動。MTの右腕を切断。更に踏み込んで、もう一撃加えてMTの胴体を切断した。
最初の交戦から僅か3分足らずで2つのMT小隊を撃破すると、そのままアライアンス基地内に2機は突入した。
『二手に分かれて攻めるぞ』
「了解」
ヴィラスはシャーリーンの呼びかけにそう答えると、機体を敵がいる方に向け、ブースターを吹かした。既に侵入を察知して、守備部隊が出動している。レーダーにも数機の反応を捕らえているのが判った。そして、目の前にはもう<CR-MT85M>が4機、マシンガンを構えて<ヴェスペロ>を待ち構えていた。
<ヴェスペロ>が加速をかけると同時に四機のMTは一斉にマシンガンの発砲を開始した。ACに比べて戦闘力が劣っているMTはACに対して数で一気に攻めるというのが常套的な手段だ。何十、何百もの弾丸が一斉に<ヴェスペロ>に襲いかかる。
ヴィラスは機体を後退させ、近くの建物の陰に隠れた。何発か被弾したが、気にするほどのダメージでは無い。
「……一気に叩く」
ヴィラスはレーダーで敵の位置を確認すると、フットペダルを踏み込んだ。逆関節型の脚部<LR04-GAZELLE>の高い跳躍力で一気に建物の陰から機体を飛び上がらせてMTの頭上に位置を取り、レーザーライフルをMTの集団へ発射する。
閃光がMTの集団に1発、2発と落ち、2機のMTの頭部がレーザーで焼ける。MTパイロット達は一斉に<ヴェスペロ>を囲むように機体を後退させ、再度<ヴェスペロ>へマシンガンを放った。
「……そこだな」
MT部隊の十字砲火をわずかに擦らせながらも、ヴィラスは目の前にいたMTへ照準を合わせ、右腕のレーザーライフルと一緒に左腕のデュアルレーザーライフル<WL15L-GRIFFON>を一射する。
MTは回避する間もなく胴体に2つのレーザーが直撃し、爆散。<ヴェスペロ>はその後、ブースト機動で近くにいた敵の側面に回り込むと、レーザーライフルを至近距離でMTの胴体へ発射して撃破。
残り1機となってしまったMTは逃げるように後退を始めた。集団で攻めるのならまだしも、たった1機のMTでACへ挑むのは自殺行為という事は理解している。しかし、スピードもACに劣っている<CR-MT85M>ではすぐに追いつかれてしまう。
目の前に立ちはだかったACの姿にMTパイロットは戦慄を覚えたが、断末魔を叫ぶことなくレーザーの光に包まれ、機体と共に爆散した。
「損傷率1パーセント未満……問題無いな」
コンソールパネルに表示された数値を見ながらヴィラスは「ふう」と一息ついた。
「動きは良いな。だが、そんなことで後れは取らないぞ」
シャーリーンはそう言いながら、<MT09ROE-OWL>に弾丸を叩きつける。弾はMTの頭部カメラを破壊し、右肩を関節部分からもぎ取り、右腕のロケットランチャーが地面に落ちる。その横には無惨にも破壊されてしまった数機のMTと装甲車の残骸。
攻撃力と目を失ってしまった<MT09ROE-OWL>はよろよろと機体をふらつかせながらも残った左腕のライフルを<リンガベル>に向け発砲するが、シャーリーンの駆る<リンガベル>の機動についていく事が出来ず、弾は一向に当たらない。
「悪いが、これで終わりにさせてもらおう」
シャーリーンは機体を後退しようとしているMTへ接近させ、トリガーを引く。右腕のマシンガンが発射され、中枢であるコクピットを破壊した。主を失った機体は後ろへ崩れる様にゆっくりと倒れ、そのまま動かなくなった。
<リンガベル>のメイン兵装をミサイルランチャーに切り替えて、機体を反転させると右へ跳ぶとリンガベル>がいた場所にライフル弾が飛んでいく。
シャーリーンはフッと一息吐いてフットペダルを踏む。ブースターを吹かし、前進させると、正面に対峙していたMTに対して照準を向けた。また一発弾が飛んできたが、もう一度機体を右へ跳ばせて回避。
一気にMTとの距離を詰め射程範囲に敵影を捕らえる。敵MTは狙撃に特化した機体<CR-MT83RS>だった。次弾の装填する為に機体の動きが止まっている。ロックオンマーカーが赤に変わり、トリガーを引くと四発のミサイルが敵MTを左右から挟みこむように飛んでいき、動きの止まっていた<CR-MT83RS>は避ける事が出来ず胴体付近に直撃。機体は爆発を起こした。
「そう簡単にやらせる程、甘くは無い」
シャーリーンは静かにそう呟いた。彼女の視線の先にはモニターに映る3機編成の<MT10-BAT>の機影。シャーリーンは武器の残弾数を確認。まだ余裕がある事を確認した瞬間、<MT10-BAT>の編隊に向けて機体を飛び出させた。
* * *
ハンガー内が慌しい空気に包まれている中、愛機<ZANBA>のコクピット内で出撃の時を待っていたTATARAはモニターからハンガーの様子を眺めていた。
敵機が侵入してきた事は5分前から分かっていた。しかし、未だに出撃できないのはガレージに攻撃を受けてしまったからだ。幸いにも自機には損傷は無く、動くことは出来るが、先に外に出ていたMTと装甲車が敵の攻撃を受けて入り口を塞ぐ様に倒れてしまい、現在それの除去作業に追われている。
ヘルメットからは管制室からの情報が引っ切り無しに入ってくる。だが、入ってくるのは守備部隊の小隊が一つ全滅という情報のみ。相手がレイヴンの駆るACなら仕方が無いが、多少は出撃できるまでの時間を稼いでもらわなければいけない。
『第6小隊が全滅。第4小隊はE8ブロックへ回れ!』
──またか。そう思っている内にまたひとつMT小隊全滅の報せ。これで5つの小隊が全滅。情報ではAC2機だけと聞いたが、かなり押されている。相手方の機体性能はもちろんだが、腕も悪くなさそうだとTATARAは入ってきた情報を基に分析していた。
『おい、いつまで待たせる気だ。ガレージ前に堕ちるなんて間抜けやらかしやがって。出られねぇだろうが』
開いていた通信チャンネルに男性の苛立った様な声が入ってくる。<ZANBA>の隣で待機している僚機の<ブラストソウル>のパイロットで同僚である戦術部隊所属のレイヴン、ヘヴィ・ガルドがそう口にしていた。
残っている小隊はあと3つ。このままでは部隊の全滅。管制室の制圧も考えられる。このガレージだって再び攻撃を受けることになればただでは済まされないだろう。動けない状態で撃破されるなんて言うのは他のレイヴンから笑い草にされる。
『除去作業に当たっている作業員。そこをどけ』
これ以上ここで足止めされている訳にもいかない。TATARAは外部スピーカーから作業員に呼び掛けると、機体を動かして動かなくなっていたガレージの扉をレーザーブレードで抉じ開けて、外にあった装甲車とMTの残骸をACのマニピュレーターを使って除去した。
『始めからこうすりゃよかったか。これで動ける。出るぞ、ガルド』
ヘヴィ・ガルドにそう呼び掛けるとガレージから機体を出した。ちょうどその時、コクピットのモニターには<MT10-BAT>が1機、煙と炎を上げて墜落しようとしている様子が映されていた。その直後、第4小隊が全滅したという通信が管制室から入ってきた。
* * *
『新たに熱源反応。ACが2機こちらに接近してくるわ』
ヴィラスのヘルメットにルシーナの声が飛び込んできた後、間を置かずに弾丸が前方から飛んでくるのが見えた。機体をいったん後退させるとすぐにコア<CR-C84O/UL>のオーバードブーストを起動した。敵機から距離を離して攻撃を回避する。
「来たか」
『気を付けて、敵は戦術部隊所属のレイヴン、TATARAのAC<ZANBA>。元ランカーよ。もう1機も同じ戦術部隊所属レイヴン、ヘヴィ・ガルドのAC<ブラストソウル>』
ヴィラスはモニターを見つめた。モニターからはACが2機、自分たちの方へ向かっているのが目視できた。シャーリーンも合流し、これでACが2対2の構図になった。
白と黒のツートンカラーの軽量二脚型AC<ZANBA>。そして、灰系統の迷彩塗装をしたタンク型AC<ブラストソウル>。
<ヴェスペロ>に向けて攻撃したのは<ブラストソウル>だった。機体両腕に装備しているマシンガン<CR-WH79M2>を構えているのが見える。
先制攻撃が失敗した事を悟ったのか、ヘヴィ・ガルドの舌打ちがヘルメット越しに聞こえていた。やはり、あっさりとはやらせてくれないなとTATARAはコクピットの中で軽く笑う。
ACという最強の機動兵器を駆ることで己の力を過信してしまい、悲惨な死に方をしたパイロットは幾らでもいる。それはACパイロットだけではなくレイヴンにも当てはまる。ACは決して万能ではない。それは彼自身が戦場で学んだ事だ。
『1機は逆関節のAC。もう1機は中量二脚型。中量二脚型は、確か……ああ、シャーリーンっていう奴のか』
<リンガベル>とは何度か戦闘した経験がある機体。戦い方はある程度分かるし、機動力も対処できる範囲内。だが、逆関節型のACに関しては交戦した事が無い。それでも、守備部隊を5分足らずで壊滅寸前まで追い込めた程だから並みのパイロットでは無い事はすぐに分かった。
『単独でやろうとするな。2機で仕留めるぞ。相手はやはり、バーテックスの雇ったレイヴンだ』
ヘヴィ・ガルドから少しの沈黙の後に「あいよ」と返事が返ってきた。声色から良い感じの興奮状態にあると容易に分かった。勇み足過ぎるのも問題だが、憶病過ぎれば敵からすればいい的になる。新米パイロットならまだしも、元々このレイヴンにはそんな心配は無用だったと思い返す。
『こいつらにも懸賞金が掛けられていたら懸賞金は殺ったもん勝ちだぞ。独り占めされても文句は言うなよ』
TATARAはそう付け加えて言うと、コンソールに目を見やる。足止めを食らった際に十分なチェックは出来ていた為、異常は見当たらない。弾薬を消費し、僅かながらも損傷をしている彼らと比べて優位な状況に立てている。後はどう戦って勝つかだ。
『2機とも俺が貰うかもしれんぞ。TATARA』
『別にそれでもいいぞ、ガルド。――まぁいいさ。あいつら俺たちが出てこられない間、好き勝手やってくれたんだ。悔悟憤発。帳尻位は合わせないとな』
動くことが出来なかった5分のロスは取り返す。元ランカーレイヴンとしてはそれ位の働きをして見せなければならない。TATARAは唇を一回り舐め、フットペダルを踏む力を強くした。彼の乗る軽量二脚型AC<ZANBA>がその名の通り、敵を切り裂く刃と言わんばかりと軽快に加速をする。それに続き、<ブラストソウル>も背部のグレネードキャノン<CR-WBW98G>を展開させて迫る。
それを迎え撃つべく、<ヴェスペロ>と<リンガベル>もブースターを吹かし、2機へ接近をする。
ほぼ同時のタイミングで<ヴェスペロ>と<ZANBA>の右腕が上がり、お互いの武器のトリガーが引かれた。レーザーとバズーカ弾が交差して両機の頭部脇を掠めていった。その一瞬後、2機は交錯する。
(久々だな。実戦ってやつは)
ここ最近は臨時の戦技教官として本部部隊の未熟なパイロット相手と模擬戦の繰り返しで、戦術部隊の隊員として戦場に出る事が少なかった自身の意識を刺激させるのには十分だった。自然と体が熱くなってくるのが分かる。強敵と戦うことの出来る高揚感が頭の中を支配していく。それが次第に冷たい感覚に変わり、どの武器を使っていくか、どこから攻めていくか、そしてどうやって敵を撃破するか。と冷静に判断していく。
久しくも感じるトリガーの重み。機体を反転させ、敵ACの姿を追う。直後にロックされたことを知らせる警告表示。レーダーに映された赤い点の方に向けるとレーザーライフルを構えている紺色のAC。咄嗟に横に逃げるとレーザーが機体脇を掠めて空気を熱していく。
「闘志満々。倒して見せるさ」
TATARAはそう口走り、オーバードブースト起動レバーを引く。ZANBA>のオーバードブーストブースターが展開、高出力のエネルギーが噴出して青いブースター炎を上げる。オーバードブーストの急加速から身体が締め付けられる感触も自身の昂った感情の前ではそれも快感に近いものであった。
戦場と化したアライアンス基地にACのブースターの咆哮が唸りを上げた。