ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

16 / 62
第15話「White of Rhapsody」

 クリフ・オーランドはセントラル・アークのゲートから双眼鏡で中の様子を眺めていた。

 当初はACの後に続いて内部に侵入しようと考えたが、ACが動き回っているところを見て、やめておこうという判断に至った。ゲートから見てもうんざりする程ある瓦礫の山は独りで動くには不自由しそうで、なにより依頼主であるフライボーイがいるとはいえ、ACがうろついている状況で見つかれば自身の身に危険が及ぶ可能性が高い。

 クリフは彼らがここを立ち去るまで待つ事にした。そしてその判断が正しかったことを直ぐに知ることになる。

 突然、爆発音にACのブースター音など様々な音が入り混じった轟音が中から響いてくる。よく見ると多数のガードメカとACが交戦しているのが双眼鏡越しで遠くから見えた。もし侵入していたら巻き込まれていたかもしれない。クリフはホッと胸を撫でおろすと、万が一のことを考えてゲートから離れた所にある支柱の陰に車を移動させて身を隠した。

 暫くして轟音の競演がようやく鳴り止み、クリフはゲートに空いた穴から中を覗き込む。

 遠くからでも見えた大量のガードメカは姿を消していた。彼らのミッションは一段落をしたのだろう。あと少し待てば彼らは居なくなる。そう思い、水筒に口を付けた。

 と、視線を上げた時、南の方角。クリフがやってきた方からブースター音が遠くに聞こえ、クリフは双眼鏡をその方向へと向ける。

 双眼鏡でその姿を捉えた。ブースター炎の大きさと形からACだと直ぐに判る。そしてそのシルエットはクリフには見覚えがあった。──なんてこった、あいつは。

 一瞬のうちにそのACはクリフの上をパスしていった。天井から入り込んだのだろう、轟音が再び鳴り響く。

 ──十字架の天使

 戦場を狂乱に巻き込む白いACが自分の眼前に再び現れた。

 

 

    *     *     *

 

 『<ライブングスロース>のシグナル、ロスト。撃破された……』

 

 少し震えた様なルシーナの声。レーダー上の味方機のシンボルが1つ消失。反応が現れて2分弱。単機で現れて早々にACを1機撃破。決して良い状況とは言えない。

 

 『……マーフィのオペレーターからよ。敵機はACとの事。それとアークからの通信で任務内容更新。所属不明機の撃破を要請するって』

 「ACはレイヴンの機体か?」

 『不明。アークのデータベースに照合する機体ではないみたい』

 

 相手はACである事以外、正体は不明。そして単機。不気味さが更に増す。だが、敵である事ははっきりと分かった。ACはこちらを既にキャッチしているのだろう。レーダーではヴィラスたちがいるセントラル・アーク中央に向かって来ているのが確認できた。

 

 「詳細は実際に見なけりゃ分からないって事か」

 

 モニターにはルシーナが送ってきた<ライブングスロース>のカメラログの画像が表示される。撃破される直前<ライブングスロース>の頭部カメラが捉えたのは高速機動によって全体像がブレた白い中量二脚型ACの機影。

 

 『もしかしたら、噂になっている奴かもしれないな』

 

 同じく画像を確認したのだろうフライボーイが呼びかけて来た。

 

 「ジナイーダではないな。<ファシネイター>とは色が違う」

 『それとは別の機体だ。ここ最近、アライアンス、武装組織関係なく襲ってくるAC。機体カラーは白の二脚型は合っている。まあ、その手の奴はいくらでもいるが、こいつはどうかな』

 「早いところ合流しよう。4機掛かりで潰す。それが一番確実だ」

 『そうだな。だが、消耗していたとはいえ、マーフィを秒殺した奴だ。油断はしない方が良いぞ』

 「調査任務がこんな事になるなんて……弾薬は残っているか?」

 『問題は無い。それに、こういう事はレイヴンにとっては日常茶飯事だろ?』

 

 確かにそうだな、とヴィラスは頷く。イレギュラーな対応は任務ではよくある事だ。今回は僚機がいる。対応さえ間違えなければすぐに終わらせられる筈。そう自分に言い聞かせた。

 2機はブースターを吹かし、入り口に向かう。だが、ガレージ中央付近までたどり着いた時だった。

 

 『天井の歪みが先程より大きくなっている……? ヴィラス、急いで。このままだとガレージの天井が──』

 

 ルシーナからの通信の直後、<ヴェスペロ>の音響センサーが異音を拾う。音声ベクトルは上部。ズズズ……という低く唸るような音。

 それがコンクリートの崩れる音だと気が付いた時にはガレージの天井が崩れ落ちる。コンクリートの塊が幾つも降り注ぎ、轟音と大量の粉塵が地下の空間を埋め尽くす。ヴィラスとフライボーイはブースト機動を駆使してそれから逃れようとした。

 ようやくそれが止む。ヴィラスは<ヴェスペロ>を隠し通路付近まで後退させて難を逃れることが出来た。

 どうやらガレージ中央の天井を中心に崩落したようだった。ヴィラスはルシーナに無事を伝えると機体のチェックを行う。フレーム構成パーツに大きな損傷が無い事を確認。だが、左背部のチェインガンに瓦礫が当たったらしく発射機構が損傷して使用不可と頭部コンピュータが伝えて来た。

 

 『無事かい? ヴィラス』とフライボーイの声がヘルメットに飛び込んでくる。『酷い崩落だ。危うく死にかけた』

 

 フライボーイも無事な様だった。声を聞いてヴィラスは安堵の溜息を漏らす。

 

 「俺は大丈夫だ。機体本体に損傷は無いが、チェインガンが使えなくなった。そっちも大丈夫そうだな」

 『ああ、機体に損傷はない。掠り傷一つ負わなかったのが不思議なくらいだ。私の方は入口付近の小さな瓦礫を取っ払えばすぐに地上に行けるが、君はどうだ?』

 「俺の方は後退したのが不味かった。中央の通路が塞がれてそっちに行くのは難しい」

 『出られそうなのか? 出来る事ならグレネードで吹っ飛ばしてやりたいが、この有様だと駄目そうだな』

 「瓦礫を除去して隣のブロックから脱出を試みる。先に行ってくれ」

 『了解した。無理そうだったら下手に動くなよ。二度手間が掛かるからな』

 

 「その時は頼むよ」とヴィラスはモニター一面に映る瓦礫の山を見ながら溜息交じりでフライボーイへ呼びかける。

 <スピットファイア>がレーダーレンジから離れていくのを確認。地上に出られたのだろう。

 

 『<シュバルツナーゲル>と<ハーデンパールト>が所属不明機に向かった模様。これで終わってくれれば良いけど……』

 

 ルシーナの祈るような声が聞こえる。任務中の不確定要素の乱入は珍しい事ではないが、こうも連続で起こると生還出来る確率は大きく乱される。それに応じて行動するレイヴンはともかく、戦況を見据えて指示を出すオペレーターにとってこの状況は難しい判断を下さなければならない。あまり歓迎できる状況ではないだろう。

 ヴィラスはモニターを見据えると、向かって右側のCブロックと呼ばれている方に繋がる通路が比較的瓦礫の量が少ないと判断した。自分も早く脱出しなければならない。早速、<ヴェスペロ>の手に持っていた武器を降ろしてマニピュレータで瓦礫の除去を始めた。

 

 

    *     *     *

 

 演習所地下から地上に向かうスタークスとG.o.L.d/79も所属不明ACの出現とそれにマーフィがやられたという報せを各オペレーターから聞かされていた。

 

 『オイオイ……マジかよ。もう、お宝探しどころじゃなくなったな』

 「何を今更。まだそんな事考えていたのかい?」

 

 緊迫した状況にも関わらず能天気さが伺えたG.o.L.d/79の言葉にスタークスは少し呆れた声を上げる。

 

 『ガードメカとドンパチやって弾薬使ったうえに機体も損傷。お陰で折角の報酬が更に減っちまうんだ。余計な出費の埋め合わせに少しでも足しになるようなもんは持って帰りたいだろ』

 「足しになるようなもんが今いるじゃないか。このACの撃破報酬に期待しよう」

 

 スタークスたちにも既に所属不明ACの画像は送られていた。どれ程の力を持っているかはまだ分からない。だが、ACであれば撃破報酬は安くは無い筈だ。

 

 『幾ら貰えるんだが分からねぇが、まぁこっちの方がレイヴンらしいな。報酬を上乗せしてふんだくってやろう』

 

 <シュバルツナーゲル>と<ハーデンパールト>の2機は演習所地下への侵入に使用した竪穴を使って地上へと戻る。

 地上に出ると、2機は反応が出ている方角へ向かう。暫くして機影が見えた。報告の通り、白い二脚型AC。

 ロックオン警告。高出力レーザーの特徴的な発射音と同時に前方から青い閃光が飛んでくるのが見える。<シュバルツナーゲル>はブースト機動でそれを横に回避。続けざまにもう一発飛んできたが、<ハーデンパールト>を狙ったものらしい。<ハーデンパールト>もそれをブースト機動で回避するのがスタークスに見えた。更にもう一発。今度はビルの陰に飛び込んで逃れる。

 数秒の間を置いてスタークスはフットペダルを踏み込み、機体を跳び上がらせる。ほぼ同時のタイミングで反対側のビルに隠れていた<ハーデンパールト>も上昇。<シュバルツナーゲル>のモニターには正面方向から右腕に<WH04HL-KRSW>を構えて向かって来る白いACの姿がハッキリと捉えた。

 他に装備しているのは左腕には<WL-MOONLIGHT>。肩部エクステンションには追加装甲が装備されているが、スタークスが見たことの無い形状をしている。新型らしい。背部は何も装備されていないシンプルな構成だ。

 両腕に破壊力の高い武器を装備させた機体。装甲が薄い軽量級の<シュバルツナーゲル>で正面からやり合うのは不利だろう。機動力で振り回して蜂の一刺しで決める。スタークスはそう考えた。場合によっては火力のある<ハーデンパールト>に攻撃を任せるのも手だ。

 

 「攻撃は各々のタイミングに任せる。誤射に注意を。フライボーイたちがまだ来れないけど、ボクたちでやろう」

 『了解だ。しかしあのAC……良いパーツ使っていやがる。それに新型も付けているな。なるべく綺麗に壊してやりてぇが……』

 「ボクは不器用だ。そんな真似は出来ないぞ」

 『お互い様だな。幸運に期待しよう』

 

 スタークスはブースト機動で距離を詰めさせて射程内に白いACを捉えるとトリガーを引く。愛機の右腕に装備されたマシンガン<WR04M-PIXIE2>から弾丸が放たれる。

 白いACは後退して回避。それを見越して<シュバルツナーゲル>は崩壊しかけたビルの屋上を踏み込んで跳躍。更に追撃を掛ける。白いACがブースト機動で道路を縫うように退避。そこに<ハーデンパールト>が更に高く跳び上がり、上空からトップアタックを仕掛ける。

 <ハーデンパールト>が背部のミサイルをエクステンションの連動ミサイルと共に発射。山なりと直線的な軌道が入り混じったミサイルが白いAC目掛けて飛んでいく。白いACのコア<CR-C84O/UL>のミサイル迎撃装置が起動。迎撃装置のレーザーがミサイルを数発撃墜。残りのミサイルは左右のブースト機動で建物に上手くぶつけて逃れる。直撃を受けた建物が音を立てて崩れていった。

 建物の崩壊によって舞い上がった粉塵は白いACの姿を一時的に隠す。正確な位置が掴めず、2機のFCSがロックを一瞬だけ解除。その次の瞬間、舞い上がる粉塵を突き破ってレーザーが飛んできた。不意に飛んできたレーザーに対応が遅れ、<ハーデンパールト>はコア付近に被弾。防御スクリーンである程度軽減出来たとはいえ、高出力レーザーの威力は侮れない。<ハーデンパールト>の金色の装甲が細かく散る。

 

 『流石カラサワ(WH04HL-KRSW)。火力だけは上等か』

 

 G.o.L.d/79がそう言いながら乗機を飛翔させて後退する白いACを追いかける。<ハーデンパールト>の両腕のレーザーキャノン<WA-01-LEO>からレーザーを発射。スタークスも上空から再度マシンガンを発射。マシンガンの弾は命中したが防御スクリーンに弾丸が弾ける独特の音が響き、手応えは無い。

 <シュバルツナーゲル>は手近なビルの屋上に着地。マシンガンのマガジンを交換。多数のガードメカを相手にしたおかげで残りのマガジンは少なくなっている。無駄弾は迂闊に撃てない。

 何が目的なのか。とスタークスは遠く映る白いACの影を見ながら思う。調査する意味があまり無かったと言えるセントラル・アークの調査。そしてまだ生きていた保安システム。制御装置を破壊したタイミングでの襲撃に直前の<クランウェル>隊の通信途絶。単なる戦場荒らしにしては手際が良すぎる。何か意図を持って現れたと勘ぐってしまう。

 もちろん証拠は無い。だが、偶然にしては出来過ぎている気がするというのがレイヴンとしての勘だった。調査任務だけで88,000コームというリターンが大きい様に思えたこの任務。もう少しアークの意図を汲み取っておくべきだったとスタークスは悔やんだ。

 

 「ボクもまだまだだな……もう少し準備しておくべきだった。これではナーに怒られるよ」

 

 かつて受けた強化手術の影響で表情筋が少しこわばって上手く表情を出せないが、恐らく苦笑いを浮かべただろう。もし、”彼女”ならもっと慎重にやっていた。スタークスはそう思った。アークからの依頼だと少し安心してしまったのは自分自身の油断である。

 

 『依頼主が誰であろうとも身構えておくことだ。たとえ信頼している相手でもそれは変わらない。敵意は平静の背後で常に潜んでいる』

 

 スタークスが師と仰ぐレイヴン”イツァム・ナー”の教えのひとつであった。

 一度呼吸を整えて、スタークスはフットペダルを踏み込む。<シュバルツナーゲル>は再び跳躍。味方の居る方へ向かう。丁度<ハーデンパールト>が背部のラージロケットを放ったらしい。だが、命中せず周辺の建造物に着弾。轟音を立てて崩れていく。その合間を縫って白いACが動いているのが見えた。

 再び<ハーデンパールト>がミサイルを発射。白いACが回避行動を取る間に<シュバルツナーゲル>が側面に位置を取って一気に強襲。射程内に入るとすかさずマシンガンを発射。同時にコア<CR-C98E2>のイクシードオービットを起動。白いACの頭上を旋回するように撃ち続ける。

 白いACは数発被弾しながらも射線を逃れるために左右に滑らせて回避行動を取る。動きが少し緩くなった瞬間、白いACの背後に回った<ハーデンパールト>がレーザーキャノンを発射。

 レーザーが白いACのコア背面に直撃したと思った瞬間、白いACはその場で素早く90度右旋回。右肩部の追加装甲にレーザーを当てさせて直撃を避けた。白いACは旋回の勢いをそのままに独楽の様に機体を回転させると、地上に降りた<シュバルツナーゲル>を正面に捉えてレーザーライフルを発射。スタークスは咄嗟に機体を右に滑らせてレーザーを左肩の装甲を掠らせながらも回避。同時に左腕に装備したグレネードライフル<CR-WL95G>を構えて発射する。

 白いACはそれをサイドステップで躱すとオーバードブーストを起動。2機の射程圏内から逃れていく。白いACの右肩に付けられていた追加装甲の残骸だけが残された。

 

 『直撃させるつもりが……あの野郎、何て動きをしやがる……』

 

 G.o.L.d/79が驚いた様な声を上げる。スタークスも同様の感情が出ていた。

 即席とはいえ、最高のタイミングでの挟撃を行った筈だが、白いACはそれを上回る動きでダメージを最小限に留めて逃れた。

 卓越した技量による戦闘機動。これは偶然の動きでは無い事はここまでのコンタクトで思い知らされた。間違いなくランカークラスの力を持つAC乗りだ。

 

 『たった1機なのに……クソッ……抑えきれねぇなんて、コイツは一体何なんだ?!』

 「……”9のエンブレム”……」

 

 激しく動揺するG.o.L.d/79をよそにスタークスの脳裏にあるACの話が過ぎった。それはスタークスが参加していたプログラム参加者の間で出てきていた噂話。

 果てしなく続く演習プログラム。そのプログラムを最高成績で全てこなし、参加しているアリーナの頂点に立ったレイヴンのみが会う事を許されるという深紅のAC。左肩に「9」を象ったエンブレムを付けたその機体は圧倒的な戦闘力で出会った者を無慈悲に粉砕していくという。イツァム・ナーもいつか相見える事を望むと微かに漏らしていたのを思い出す。

 だが、あくまでも噂話だ。似た様な話はいくらでもある戦場の都市伝説。目の前にいる機体はその噂話に出てくる機体とは似ても似つかない。それでも思い出してしまうのはあの高度な戦闘機動を目の当たりにしてしまったからだろう。話に出てくる機体は中量二脚型らしく。目の前に現れた機体も同様。ただ、一点違うのは深紅の機体と純白の機体。

 

 「余計なことを……忘れるんだ」

 

 非現実的な話を一瞬信じ込んでしまいそうになるが、スタークスは唇をひと噛みすると正面を見据えた。そんな話に縋っている場合ではない、これが現実だと受け止める。

 上空を飛ぶ白いACが再びこちらに向かって来るのが見えた。途中でブースターを切ったのか、地上に降下。建物の合間を縫ってこちらに向かって来るつもりらしい。スタークスとG.o.L.d/79は機体に武器を構えさせると、迎撃態勢を整えて向かう。

 突然、レーダーディスプレイにノイズが走り、表示が消えた。頭部レーダーの故障ではない。ECMカウンターの数値が上昇していくのがパネル上に示されている。

 あの機体からだ。ECMメーカーも積んでいたのか、とスタークスはECMカウンターを睨みつけながら思った。数値は既に先程検出された数値の3倍にまで上がっている。これではレーダーでの探知はおろか、通信も碌に出来ない。

 スタークスは機体を一旦後退させる。ECMの効力範囲からは離れた方が良い。だが、相当数ばら撒いたのか、強力なモノを使っているかは分からないがカウンター上の数値の減少は微々たるもの。AC用にしては性能が自機で使用しているモノと比べて強力だ。これも新型の可能性がある。

 これ以上後退すれば<ハーデンパールト>と離れて孤立状態になってしまう。そうなれば向こうの思うツボだろう。ビルの陰に潜って武装の現状確認を行う。マシンガンのマガジンは残り3つ。グレネードライフルは7発。インサイドのECMメーカーは残り1基。イクシードオービットは20発。正面から行けば2、3コンタクト程で全て使い切ってしまう弾数。1発たりとも無駄には出来ない。

 損傷はまだ大きくはないが、ガードメカとやり合った際に受けた損傷を考えれば単独で正面からやり合うのは絶対に避けなければならない。

 モニターを見ると、スタークスと同様に捕捉できないであろう、左前方で<ハーデンパールト>がビルの上を跳びながら索敵している。金色の装甲が天井の穴から差す太陽光で煌めいていた。

 

 「見えるか?」

 

 スタークスは試しに呼び掛けてみるが、返って来るのはノイズ音だけ。ECMカウンターの数値は変わらないまま。

 遠くからブースト音が聞こえてくる。自機の位置からは見えなかったが、上から姿を捉えたのか<ハーデンパールト>がラージロケットを数発発射。更に続けざまにレーザーキャノンを発射。一際大きい爆発が起き、その周辺が大きく崩落した。

 手応えは? と、攻撃地点に視点を向ける。舞い上がった爆煙が思った以上に広がってよく見ることは出来ないが、機体の破片らしきものは見当たらない。煙が収まれば大方判りそうだが、恐らく撃破出来ていないとスタークスは予想した。

 その予想は直ぐに当たる。ブースト音が一瞬だけ聞こえた。敵機との距離は近い。しかしレーダーはまだ回復せず、正確な位置は掴めない。

 機体を移動させる。その場で留まっていれば攻撃を受ける確率の方が高い。<ハーデンパールト>と共同で叩くべきだと考えた。

 再びブースト音。音声のベクトルは自機正面。白いACが2ブロック先の道路を横切っていく。それを見たスタークスは追いかける。ECMの効果が落ちたのか、カウンターの数値が徐々に下がってきていた。

 攻撃を与えるチャンスか。ブロックを曲がり、マシンガンを構える。それと同時に自機の遥か前方でコンクリートの砕ける音が聞こえた。

 カメラをズーム。そこに外壁が剥がれ落ちたビルの中に入り、レーザーライフルを上に向けて構えた白いACの姿。クリアになっていくレーダー上のシンボルは味方機と敵機が重なっていた。銃口の向ける先にはビルの屋上に着地する<ハーデンパールト>の姿。G.o.L.d/79は自分の真下に敵機がいる事に恐らくまだ気付いていない。

 「逃げろ」とスタークスは叫ぼうとしたが、それを言い切る前に白いACから高出力レーザーが発射される方が早かった。レーザーは天井を次々と容易く突き破り、屋上に立っていた<ハーデンパールト>を下から貫いていった。

 脚部が破壊され、上半身だけになった<ハーデンパールト>にもう一撃加えられる。まるで小石の様に吹き飛ばされた<ハーデンパールト>のボディがビルから落ちていくのが見えた。コアの隙間から上がっている炎を見てG.o.L.d/79はもう生きてはいないとスタークスは悟った。完全にクリアになったレーダーディスプレイに残った反応は敵機のみ。そして遠くで爆発音。

 既に捕捉されている様だ。白いACがレーザーライフルを構えてこちらに向かって来る。スタークスは後退を選択。現在の機体状況では単機で勝てる可能性は低い。早急にフライボーイたちと合流しなければならない。

 一際甲高いブースト音が響く。白いACのオーバードブーストが起動。猛スピードで迫ってくる機影に恐怖よりも怒りに近い感情がこみ上げてくる。それは白いACに対するものでもあったが、弱気になりかけたスタークス自身への叱咤でもある。コントロールスティックをしっかりと握り直し、フットペダルを踏み込んで機体を後退させた。残り少ない弾丸。発射タイミングを考慮してトリガーを引く。

 弾丸は白いACを掠らせながらも直撃には至らない。それ程広い道路ではないが、オーバードブーストを掛けながらしっかりと射線を見極めて最低限の動きで回避する白いACの動きにスタークスは思わず感心する。

 だが、見惚れてはならない。<シュバルツナーゲル>の肩部エクステンションのエネルギー補助装置を作動。これでブースターの航続距離を延ばし、射程から逃れる。

 その時、レーダーレンジの端に味方機のシンボルが一点示された。それはこちらに向かって来る。

 

 『遅かったか。G.o.L.d/79もやられたんだな』

 

 フライボーイの声がスタークスのヘルメット内部に響く。久々に聞く味方の声に小さく安堵の息が漏れた。

 

 「彼は、残念だった。生き残れなかったよ」

 

 後方確認モニターの隅に<スピットファイア>の機影も小さいながらも確認できた。近づいてくる機影は1機だけだと気が付く。

 

 「ヴィラスはどうした?」

 『こっちはガレージの崩落に巻き込まれてね。私は運よく直ぐ抜けられたが、彼は今、脱出を図っている』

 「暫くは2機で対応するしかないか。気を付けろ、あのACは少し違う気がする」

 『噂に聞く白いACだっていうのは分かっている。さて、どれ程のものか見させてもらおうじゃないか』

 2機のレーダーには自機に向かって来る輝点。そしてモニターには白いACの姿が見えた。左右に別れて迎撃態勢に入る。

 

 「お互いの距離は保っておけ。敵機は強力なECMを装備している」

 『了解。孤立したら危険って事か』

 

 <スピットファイア>がグレネードを発射。ほぼ同じタイミングで白いACがレーザーを両機体に向けて1発ずつ発射。2機はそれを回避。白いACもグレネード弾を回避した。

 フライボーイはそれを見越していた。回避行動を取った白いACにもう一発撃つべく狙いを定める。トリガーを引く直前、照準マーカーが消失。攻撃を中止して直ぐに右背部のロケット砲<WB13RO-SPHINX>に切り替えて発射。3つの砲口からそれぞれロケット弾が放たれる。命中はしなかったが、敵機からの攻撃を逸らす事は成功した。再び放たれたレーザーは<スピットファイア>の右に大きく外れていった。

 スタークスはパネルを注視する。ECMカウンターが急上昇していくのを確認。また強力なECMが発生。既に通信が出来ない状況だ。白いACが自機に向けてレーザーライフルを構えているのを見て、マシンガンの弾をばら撒きながらブーストで後退。照準こそは出来ないが、牽制くらいにはなる。

 直後に衝撃、モニター右側が青白く照らされる。部位損傷パネルの右腕部が黄色く点灯。<シュバルツナーゲル>右肩の装甲が破損、右肩部関節にも損傷が発生したと頭部コンピュータが伝えてくる。避け切れなかったかと、スタークスは舌打ちした。

 機体をバックステップ。前方にレーザーが着弾。反撃に転じようとコントロールスティックを動かすも、<シュバルツナーゲル>の右腕の動きが鈍く、ふらついている。照準が出来てもこれでは真っ直ぐに撃てないだろう。

 ロックオン警告のアラートが不意に鳴る。視界内には再びレーザーライフルを構える白いACの姿。やられる、とスタークスは身構える。だが、白いACは右方向から飛んできたロケット弾に気付き、ブースト機動で横に回避。その隙に<シュバルツナーゲル>のブースターを全開にして後退。最後のECMメーカーを射出して追撃を遅らせる。

 

 『思っていたより手強そうなヤツだな』

 

 自機の真横に<スピットファイア>が着地した。至近距離なので通信が出来る。ヘルメットに響くフライボーイの声には余裕が無い。

 

 「済まない、助かった」

 『君の言う通り、コイツはただのACでは無さそうだ。あの機体のカラサワ、弄っているぞ。発射間隔が大幅に短縮されている』

 「と、すれば左腕のムーンライト(WL-MOONLIGHT)も何かしらの手は加えられているかもしれないね」

 『可能性はあるな。まあ、それを確かめる前に終わらせておきたいのが私の本音だ』

 「それは同感だよ」

 

 戦場に突如現れた白いAC。かつて二人のトップランカーからそれぞれ薫陶を受けた二人のレイヴンはこのACをどうやって斃すか頭の中で考えを巡らせていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。